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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第4章 潜行
27/221

4-2.交錯

「こいつか」

 アルバート・テイラーは独語した。


『今夜、“メルカート”が回した手配書です』


 テイラーのナヴィゲータ“アイリーン”が報せる。そこで示された手配書に、テイラーは見知った顔を見つけた。名はジャック・マーフィとある――が、いずれ偽名には違いない。


「そうか、こいつか! こいつなら……!」

 一人得心して、テイラーは部屋を歩き回った。

「こいつなら解る。警備が役に立つはずはない……しかし……」


 テイラーが足を停めた。


「やはり、」

 テイラーが机上の端末を見やった。

「この手しかないか……」


 ◇


『アントーニオ、ミスタ・テイラーからコールです』

 ナヴィゲータ“ビアンカ”が告げた。


 アントーニオ・バレージは、“カーク・シティ”の後始末に忙殺されている最中だった。答えている暇などない。


『例の手配書の男について、話があると』


 バレージは掌を持ち上げ、眼前の情報屋の口を止めた。その手で眉間を軽く掻く。マーフィの情報があるとするなら、今は何を置いても乗らなければならない。


「繋げ」

『ミスタ・バレージ、夜分に失礼』


 テイラーの声が耳に入る。


『今夜の手配書の男――マーフィといったか――、ヤツに関して話がある』

「伺いましょう」

 バレージの回答は簡潔を極めた


『ヤツが狙っているのは私だ。現に昨晩、私のゲスト・ハウスが襲われた』


「ほう、」

 バレージは眉をひそめてみせる。

「それは初耳ですな」


『詳しい話は後でもできる、そうだな?』

 テイラーが声を一段低める。

『ともかくも、私の身柄を保護して欲しい』


「急なお話で」


 確かに、依頼主たるテイラーが死ねば、その取引――と、そこに絡む利潤――が流れる道理ではある。


「では、こちらからお迎えに? いや、今のお話からすれば、直接お越しいただいたほうが安全ということになりますかな?」


 居場所を通話に乗せれば、暗殺者に気取られる――その可能性を、バレージは指摘してみせた。


『そういうことになるな』

 背後の気配を探るかのような、収まりの悪い声をテイラーは返す。

『今夜中にそちらへ伺おう。よろしく頼む』


 ◇


「待て」


 ジャックがマリィを制した。

 その顎先が示して農場の入り口。2人がやってきた方角に、ヘッド・ライトの気配が兆した。


「隠れろ」


 ジャックが側方、格納庫を親指で示す。マリィは浮かしかけた足を戻し、格納庫の入り口へ走った。ジャックも続く。

 ジャックのトレーラを灯りが捉えた。ヘッド・ライトは農場へ進入、格納庫横を目がけて動く。

 格納庫内、ジャックはケルベロスを抜いた。身振りでマリィを奥へ退がらせ、光源へと眼を凝らす。

 オフ・ロード型のフロート・ヴィークル・ストライダがライトの主だった。ライトをジャックのトレーラに向けたまま減速、格納庫に近付き、停まる。


 運転席から人影が現れた。銃を構え、格納庫へ走り寄る。

 入り口に張り付いたジャックが、左手ひとつで懐からフラッシュ・ライトを取り出した。息を潜めて待ち受ける――。


「動くな」


 半開きの入り口から、人影をジャックのライトが照らす。狙点と並べた光軸上、相手の姿が浮かび上がった。ほぼ同時、相手もフラッシュ・ライトとレーザ・サイトでジャックを捉える。


 相手――ロジャー・エドワーズは眉をひそめた。


「ジャック、お前か?」


 互いを認めて、2人が銃口を下げる。


「ロジャー、」

 ジャックは溜め息を交えて一言、

「随分と遠出だな」


「そりゃこっちの科白だ」

 ロジャーは苦い顔で食ってかかる。

「ようやく見付けたぜ。“不夜城”の約束、忘れたとは言わせねェぞ」


「済まんな」

 ジャックが肩をすくめた。

「巻き込みたくなかったんだ」


「――お仲間?」


 格納庫の奥、大型トラクタの陰から、マリィが顔を覗かせた。


「出るな!」「誰だ!?」


 ジャックの制止とロジャーの誰何、2人の声が同時に飛んだ。


「撃つな! 味方だ!」

 ジャックが背後へ右腕をかざす。ロジャーが銃口を下げる、その様を見届けて、

「……で、いいんだよな?」


「今んところはな――誰だ?」

「そうだな……客、ってとこか」


 動くに動けなくなったマリィを、ジャックは顎で示した。


「客ゥ?」

 ロジャーがあからさまに訝しむ。

「何の?」


「色々あってな、事情は後だ」


「事情ね」

 銃を収めるロジャーの声が呆れている。

「随分と派手にやったじゃねェか。“メルカート”からめでたく賞金がかかったぜ、お前さん方」


「知ってる。捕まえに来たのか?」

「約束のブツを拝みに、だ」


 とりあえず安全と見たマリィが、物陰から姿を現した。マリィの容姿を眼にしたロジャーが口笛を鳴らす。

 ロジャーが眼を細め、指鉄砲でジャックをつついた。


「いいとこお邪魔して悪いがな」

「違う」「違うわよ」


 ジャックとマリィの声が重なった。


「エミリィといい、この女といい、堅い顔してどこまで手の早い野郎だ」

 ロジャーには耳を貸す風もない。

「さあ見せろ、わざわざここまで追っかけてきたからにゃ、もう離さねェぞ」


「だから……!」


「物好きな野郎だ」

 マリィの抗議を聞き流し、ジャックが左手を上げる。

「見せるも何も、もうお前だって見たろうが。あの手配書そのままだ」


「“メルカート”に喧嘩売ってやがるのか?」


 ジャックはそのまま頷いてみせた。正確には喧嘩を売られた側だが、全くの勘違いというわけでもない。


「彼女には巻き添えを食わせたってわけだ」

 ジャックは親指をマリィに向けた。

「安全な所まで送って行く。そっちは?」


 ジャックは言下に潜ませて問い――ロジャーとエミリィ、2人の関係。


「……エミリィとは仕事で組んだことがあってな、」

 ロジャーは苦い顔を作ってみせた。

「あの日も眼ェつけてたんだが、お前さんのアパートメントで、あの通りだ」

 ロジャーは肩をすくめ、マリィへ顎をしゃくった。

「それより“安全”ってお前、どこまで送ってくつもりだ?」


「“ハミルトン・シティ”まで行けば何とかなるはずだ」

「何とかって、その後は?」


 ロジャーが噛み付いた。


「お前を巻き込む」

「は!?」


 ロジャーの表情がすっぽ抜ける。


「聞いておいてタダで済むと思うなよ」

 ジャックが人の悪い笑みを浮かべた。


「どうするつもりだってんだよ、え?」

 ロジャーが小首を傾げて問う。


「用のあるヤツは1人だけだ。エミリィの情報があるんでな、そいつをネタに考える」

 ジャックは天を指差した。

「あとは高飛びでもするさ」


「け、」

 ロジャーが肩をそびやかす。

「そんな気楽な問題かよ」


「お前みたいな壊し屋が味方につくからな」


「おだてたって何も出ねェぞ」

 ロジャーが人差し指を左右に振った。

「そうやってごまかすつもりだろ、ん?」


「あの手配書は本物だ」

 ジャックは真顔で、

「何なら付いて来るか? “メルカート”を向こうに回すハメになるぜ」


「そこまで野暮じゃねェよ」

 ロジャーがマリィへ視線を投げて、舌を出す。

「“アンバー・タウン”で落ち合おうぜ」


「断ったら?」

「売るぞ」


「――身も蓋もないな」

 ジャックが肩をすくめた。

「逆に、お前が俺たちを売らない保証は?」


 瞬間、ジャックの眼が凄味を帯びる。


「そりゃそうだ」

 ロジャーはあっさり肯定してみせた。

「なんだったら付いて行こうか?」


「そうか、そう考えると厄介だな」

 ロジャーが敵に回るとなれば、自分の位置を常に把握される方が面倒は増える。

「こうしよう。どっちみち、“ハミルトン・シティ”までは俺も身動きがとれない。“不夜城”に5日後、こいつでどうだ」


「ま、そういうことにしとくか」

 ロジャーが譲った。

「そん時までに、派手なプラン考えとけよ」


「そういうことにしとくさ」

 ジャックが背中越し、マリィを指で招いた。ロジャーが軽く口笛を吹いて、踵を返す。


「どうぞごゆっくり」

「ねえあの人、何か誤解して……」

「放っとけ」


 ジャックはマリィの抗議を封じて、トレーラへ足を向けた。




著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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