表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第3章 邂逅
24/221

3-4.逃走

「何だと?」


 夜通し覚悟で“大陸横断道”を“サイモン・シティ”へ向かう車上、エミリィ・マクファーソンは思わず声を上げた。

 ジャック・マーフィの身柄に対し、“メルカート”が賞金をかけたのだという。


「なんであの野郎に賞金なんかがかかってんだ!?」


〈つい20分ほど前だ〉

 “ウィル”の声が情報を補う。

〈名目は“捜査協力要請”、ジャックを含めて10人が対象に上がってる〉


「あンの馬鹿、一体何やらかしやがった!?」

 エミリィの脳裏に1つ、引っかかるところがないでもない。

〈確か、元“ブレイド”ン中に、麻薬に首突っ込んだバカがいたよな?〉


〈当の本人はもう死んでる。こっちからは情報を流してないがね〉


〈別件のとばっちりか? ジャックのヤツが、勝手に情報を仕入れてやがったか?〉


〈あり得るな――ああ、ミスタ・“トロント”からコールだ〉


『よォ、知ってたか?』

 情報屋“トロント”が呑気な顔で、エミリィの視覚へ現れた。

『ジャックのヤツ、面倒なことになってるな』


「オレの知ったことかよ」

『おンや? ロジャーからはずいぶんご執心だって聞いたぜ』

「あの馬鹿の話、いちいち真に受けるんじゃねェよ!」


『ほおォ、こいつは面白ェ』

 “トロント”が映像の向こうで小さく噴いた。

『確かにこりゃおちょくり甲斐があるなァ』


「用はそれだけか、この出歯亀!」

『面白ェもん聞けたからな、土産やるよ。あの野郎、“カーク・シティ”で見つかったみたいだ。助けてやんな』


 一方的に“トロント”が通話を切る。


「……余計な世話だっての」


 エミリィは眉間に皺を寄せた。


 ◇


〈尾行が付いたわね〉

 “キャス”が告げた。

〈左後方、10メートル。カーキ色のコートの男〉


 ジャックの視覚へ、“キャス”が映像を重ねる。肩を並べたカップルとほろ酔いの3人組がバーのイルミネーションに浮かび上がる、その後ろ――中背、小太りのコート姿。

 

「前を見てろ」

 ジャックはマリィに釘を刺してから、

「“キャス”、尾行が始まったのは?」


〈3分前から。距離がずっと変わらないわ〉

「カーキのコートの男――引っかけるぞ」

「え……?」

「来い!」


 マリィの眼前で手招き一つ、ジャックは路地へと姿を消した。


「あ……!」


 半秒ほど遅れて状況を呑み込んだマリィが後を追う。その彼女を待ち受けたジャックが、マリィの身を壁へ押し付けて人差し指を口許にかざす。

「じっとしてろ」


 壁を背にしたマリィと、そこへのしかかるように立つジャック。女が男に言い寄られている図、に見えなくもない――その前に、マリィの胸で悪い脈が跳ねた。


「……!」

「(喋るな。声でバレるぞ)」


 悲鳴を上げかけたマリィの耳元でジャックが囁く。声紋で人物を特定される――彼の言葉をそう理解するどころか、マリィは悲鳴そのものを呑み下すのに必死の思いを費やした。

 手を振りほどく間にも、カーキ色のコートが壁際から覗いた。マリィが息を呑む。

 コートの主は果たして、路地に足を踏み入れた。その襟首を、ジャックは掴んで引き寄せる。


「……!」


 声を上げる暇も与えず、ジャックは男の口を押さえた。


「(動くな! 黙ってろ!)」


 声紋を検知できない囁き声で脅すと、ジャックは相手の懐へ左手を突っ込んだ。


「待っ……!!」


 言いさした男の、今度は喉元を押さえ込む。潰れたカエルのような声一つ、男は息を塞がれてただ喘いだ。

 ジャックは男の懐から携帯端末を探り出した。片手で器用にケーブルを繋ぐ。


〈はいビンゴ〉

 “キャス”が相手の端末を乗っ取り、宣言した。

〈こいつ、やっぱり私たちを追ってたわ〉


「(敵の展開は?)」

〈四方から仲間が来てる〉


 ジャックは舌打ちを一つ、男に当て身を食らわせた。悶絶した相手の端末を懐に、今度はマリィを手招きして路地を抜ける。


「“キャス”、地図を」


 敵の端末が“キャス”の支配下にあることを確認して、ジャックが周囲の地理を問う。“キャス”は彼の網膜へ地図を示して応えた。さらに“敵”の現在位置を探り、地図に重ねて表示する。


「地下鉄だ」


 ジャックは角を折れた。コミュータのテイル・ライトを背に、地下道へ降りる階段が見える。その向こうから、“敵”の一人が迫りつつあった。

 “キャス”が示す地図の中、奪った端末は元の位置に留まっていることになっている。至近の敵がその位置に到るまで、およそ1分というところ。


「敵だ。やり過ごす。ヤツを見るな。声を出すな」


 マリィに指示を投げると、ジャックは手を放した。そのままの速度で歩き続ける。

 マリィの網膜にも“アレックス”が同じ情報を描いていた。視界に“敵”の姿が浮かび上がる。黒い革ジャケットの、髪の短い、浅黒い肌の女。


 平静を装う、その難しさ――それを身に沁みて感じながら、マリィは歩調を保とうと努力した。

 女が地下道の入口を過ぎる。マリィの鼓動が耳に響く。

 残り数メートル。視線を“敵”へ向ける、その誘惑を必死の思いで撥ね退けながら、マリィはただ歩き続けた。

 女とすれ違う。

 相手が立ち止まった。マリィの心臓が跳ね上がる。


 ◇


『……待て、……の信号が……しない』

 革ジャケットの女は、足を止めた。

「何だって?」

『接しょ……じゃな……』

「何だよ、先週新調したヤツだぞ」

 女はジャケットの懐、携帯端末へ手を伸ばした。


 ◇


 革ジャケットの女の視線は周囲を巡りかけ――自らの懐へ落ちた。背筋に伝う汗を、マリィは感じた。そのまま地下道への階段を降りる。

 思わず、深く息をつく。歩調が緩みかけたところで、ジャックが再び手首を掴んだ。


「(油断するな)」


 ジャックに手を引かれて歩き続ける。後ろを振り返る、その衝動を辛うじてマリィは呑み下した。


 ◇


「この辺にしといてほしいぜ」

 “メルカート”の通信回線に手を出したエミリィは独りごちた。

「……心臓に悪い野郎だ」


 ◇


 革ジャケットの女が路地へ入った。

 路地の先、隣の通りへ抜けるところで、カーキ色のコートが眼に入る。女は歩を早めて歩み寄った。

 男は壁を背に伸びていた。女は舌打ち一つ、仲間への回線を開く。


「マルコがやられた! こっちの情報がヤツらにバレてる!」


 ◇


 奪った端末からの情報が途絶えた。構わず、ジャックは地下鉄の自動改札を抜けた。そのままプラットフォームへ足を向ける。


〈いいの? 逃げ道がなくなるでしょ〉

〈警備システムも1系統だけになる。ハックして俺達の映像をループさせろ。着替えて次で降りる〉


 滑り込んできた列車へ乗り込み、“キャス”の合図を待つ。


〈さっきの男、仲間に見付かったみたい〉


〈だろうな〉

 ジャックは見越した風で、

〈こっちの首尾は?〉


〈映像を記録中。発車してから10秒待って〉


 地下鉄が発車した。きっかり10秒、“キャス”から合図。


〈いいわ〉


 警備システム内、ジャックらの周辺に当たる情報だけが上書きされる。

 ジャックはコートと帽子を脱いでマリィに渡した。


「帽子をこっちへ。コートだけ着ろ」


 マリィがジャケットをコートに着替えると次の駅、他の降客に紛れてホームへ降りる。奪った端末は車内に残し、脱いだジャケットを手にそのまま地上へ。


「このまま北へ街を抜ける。“キャス”、渋滞がなくなる辺りに“ヒューイ”を呼べ」


 ◇


『2人を取り逃がしました』


 ストリートの元締めへ、革ジャケットの女から報告が入った。


「ドジめ!」

 元締めが吐き捨てる。

「まだ近くにいるはずだ。頭数回してしらみ潰しにしろ」


「連中の外見の最新データは?」

 オブザーヴァ役の情報屋が、報告してきた女に求める。

「そのマルコってヤツの記録があるはずだ」


『……端末を盗られました』

 マルコ本人の消え入りそうな声。

『カタギくさい女連れでした。亜麻色の髪で、身長は……』


「名前は!?」


 訊く元締めの横で、情報屋が“雑貨屋”に残ったメンデスらへ指示を飛ばす。


「ヤツの連れはカタギだって!? そういうことは早く言え! 名前は、特徴は!?」





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

No reproduction or republication without written permission.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ