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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第3章 邂逅
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3-3.急転

 マリィ・ホワイトは地へ足を降ろした。背後、同乗してきたイリーナがコミュータを降りる。


 “雑貨屋”サントスの“店”は、外見を表すならジャンク・ヤードを背に抱える倉庫、という表現が的を射る。イリーナが説明する

「チューインガムからロケット砲まで扱ってます」との言葉に、半ば合点めいたものをマリィは感じた。


 サントスの指示でコミュータを停め、倉庫内の事務所へ足を運ぶ。倉庫内には確かに、食料品から武器弾薬までが箱詰めになって積み上げられていた。その間を縫って、中の事務所へ。


「ジャックのヤツァじき現れるはずだ。コーヒーでも飲んで待っててくれや。俺ァ仕事が残ってるんでね」


 サントスの言葉に、紅茶党の劣勢を重ねて実感したマリィだった。


 ◇


 サントスは端末越しに別件の手配を進めている。その背中を眺めることしばし、手持ち無沙汰のあまりに苦いインスタント・コーヒーを呑み下すこと3杯――。


 倉庫の入り口からクラクションの音が飛んできた。


 振り返ると、見るからに使い古しの小型トラックが、尾部から倉庫に進入しつつあった。運転席に人影が一つ。

 マリィは思わずサントスへ視線を投げる。


「ああ、ジャックのヤツがやってきたな」


 サントスが席を立って、トラックへ足を向けた。イリーナに促され、マリィがその後に続く。


「よォジャック、早かったな」

「ブツは?」


 開けたドアからジャックが問う。

 マリィには聞き慣れない声だった。声の主――ジャックへ眼を向ける。やや細めの顔立ち、鋭い眼、焦茶色の髪と瞳――彼女の記憶に残るエリック・ヘイワードの容貌が、そのままそこにあった。


「……エリック!」


 思わず、マリィは叫んでいた。

 マリィの深緑色の瞳が、焦茶色の瞳と視線を交えた。その瞳に表情が兆す――驚きか、その他の何物か、判然とする前にそれは消えた。

 マリィが思い出したように走り出す。


「サントス、」

 眼を外したジャックが口を開く。

「そこの2人は……」


「エリック・ヘイワード!!」

 ジャックに駆け寄ったマリィが、相手の視線に割って入った。

「私よ、忘れたの!?」


 焦茶色の瞳がマリィに向き直る。その瞳は、今度は表情を帯びていなかった。


「人違いだ」


「……え?」

 もう一度相手の顔を見直す。その眼、眉、輪郭――どこをどう見ても彼女の知るエリック・ヘイワードそのもの。声こそ違うが、それが容易に変えられることは彼女も知っている。

「どうして……」


「悪いな」


 マリィの疑問を切り捨てて、ジャックはマリィの横を通り過ぎた。


「そんな……」


 言いさしたマリィに、ジャックは構う素振りもない。サントスが控えめに問うた。


「あー……、もういいのか? 実は……」


「待って!」

 マリィはサントスの言葉を遮った。ジャックに追いすがる。

「エリック・ヘイワードよ! 絶対そう! 知らないなんてはずないわ!」


「知らないな」

 ジャックには取り付く島もない。その眼は頑なに表情を封じていた。


「そこら辺にしといてもらおうか!」

 あらぬ方から声が響いた。

「こっちにも用があるんでね!」


 裏口へ通じるドアから人影が一つ。入り口からも3人が中へと入り込む。

 4人とも拳銃を構えていた。グレンP86オフィサ。


「おいおいおい、話が違うぞ、メンデス!」

 裏口の男へ振り返りつつ、サントスが声を荒げる。

「ヤツを探してるたァ聞いたが、荒事とは聞いてねェ!!」


「1万ヘイズも賞金が出てりゃ、話も違ってくるだろうさ!」

 裏口の男――メンデスが叫び返した。


「どういうことだ?」

 ジャックは冷たく、サントスへ声を向けた。眼はメンデスと入り口の3人を視界に捉えている。


「おっと動くなよ、ジャック・マーフィ!」

 メンデスが遮った。

「賞金がかかってるのはお前だがな、動いたらそこの女ごとぶち抜くぞ!」


 ジャックは小さく肩をすくめて“雑貨屋”へ眼を向けた。

「で、サントス?」


「ウラジミルのヤツが、お前に連絡がつかんと言っとったから――」

 少しばかり気が引けたように、サントスは首を振った。

「――教えたんだ。止められてなかったんでな」


「賞金だって?」

 ジャックが訝しむ。


「賞金は“メルカート”からだ!」

 よく見えるように携帯端末を操作しながら、メンデスが答えを提供した。

「ついさっきの話だ。もうお前の居所はバレてるぜ。何やったか知らねェが、とっとと観念……」


「おいちょっと待ちなよ!」

 イリーナが声を上げる。

「彼女には手を出さない約束でしょうが!」


「約束……?」

 マリィが怪訝を問いに乗せた。遅れて悟る――知らないうちに、彼女の探している相手を売る話が成立していたのだ、と。


「いや……ついさっき、“メルカート”が彼に賞金をかけたんですよ。この辺りじゃ“メルカート”に逆らっちゃ生きてけやしないし」


 答えたイリーナにマリィが反発する。


「だからって……!」


「女の方も何か知ってやがるようだから、チクってやったぜ!」

 マリィの声をメンデスが遮った。

「大人しくしてたら……」


 皆まで言わせずジャックが跳んだ。


 マリィを右肩で突き飛ばし、もろともに倒れこむ。メンデスからの銃弾はマリィでなくジャックの左肩、防弾スーツに弾かれた。ジャックは転がりざまに抜いてケルベロス、入り口側へ4発。起き上がりつつ2発を続け、呆気に取られた3人の右肩を打ち抜いた。翻って銃口をメンデスへ据える。


「大人しくしてたら、何だって?」

 ジャックがメンデスへ向けて鋭い眼。


「手前、“メルカート”に楯突こうってのか?」

「さあな」


 言うと同時にケルベロスが咆えた――2発。メンデスの右肩から血煙が上がる。

 もんどり打って倒れたメンデスの手から、携帯端末をもぎ取る。“キャス”から伸ばしたケーブルを繋ぎ、ジャックはデータを吸い出させた。


「……厄介な」

 起き上がりかけたマリィへ眼を向け、ジャックは口を開いた。

「俺とあんた、2人でグルってことになってる。とっとと逃げないと面倒だ」

 状況を呑み込めないマリィへ、ジャックは言を継いだ。

「付いてこい。俺があんたを街から逃がす」


「ちょっと待ちなよ!」

 イリーナが抗議の声を上げた。

「彼女は私の……」


 ジャックが鋭い一瞥で、イリーナの言を封じた。


「““メルカート”には逆らえない”――あんたそう言ったよな」

 マリィに向けて顎をしゃくる。

「彼女も売るつもりか? 俺みたいに」


 マリィは今度こそ絶句した。そこへジャックが問いを投げる。


「役立たずのボディガードと、得体の知れない賞金稼ぎ――どっちを選ぶ? 時間はないぜ」


 生唾が喉を滑り降りる。が、躊躇している暇はない。

 立ち上がりざま、マリィは決然とジャックに向き直った。


「あなたよ――聞きたいことが山ほどあるわ」

「ジャック・マーフィだ。“ジャック”でいい――乗れ」


 ジャックがトラックを示した。


「マリィ・ホワイトよ。“マリィ”で結構」


 マリィは立ち尽くすイリーナへ一瞥をくれると、そのままトラックの助手席へ収まった。


 ◇


「マーフィが逃げた!」メンデスが、手下の携帯端末を奪って喚いた。「登録ナンバRSS732257、白いトラック! 女を連れて逃走中!」


 ◇


「こいつか」

 ジャックは呟いた。


 トラックの鼻先は“カーク・シティ”中心部へ向けてある。網膜にはメンデスの呼んだ“メルカート”の手の者、その現在位置が、地図に重ねられて映っていた。今のところはコミュータが1台。


〈メンデスとやらが呼んだ“お迎え”ね〉


 “キャス”が、メンデスの端末から吸い出したデータを付け加えた。乗員4人、いずれも武装。


「じきに追っ手がかかるな」


 マリィにも聞き取れるように、ジャックは標準言語を口に上らせた。


〈賭けにならないわね〉


「すぐに降りる」

 ジャックは隣のマリィへ言葉を向けた。

「見た目を変えるぞ」


「見た目?」


「その格好は敵に見られてる」

 ジャックは前を向いたまま、帽子に焦茶色の髪を押し込んだ。

「髪型、服装、顔……カメラやセンサに引っかかったら居場所がバレるぞ。今のうちに髪型だけでも変えておけ」


 ジャックがフライト・ジャケットを脱いだ。いきなりの展開に呆けかけてから、気を取り直したマリィは亜麻色の髪を結い上げた。ジャックは懐からサングラスを取り出す。


「他には?」

「帽子、コート、メガネ――降りたら適当に手に入れて、とにかく見た目を変える。街中を徒歩で突っ切るぞ」


 ジャックはマリィへ自分のジャケットを差し出した。受け取ったマリィが袖を通す。

 繁華街“ヤン・ストリート”に差しかかったところで、ジャックはトラックを停めた。マリィを降ろして、トラックの運転を自動に切り替える。そのままシティ南部を目指すよう設定し、さらにはメンデスの端末を座席へ放り出してから、ジャックもトラックを降りた。無人になったトラックが発車する。

 マリィの脇を抜けて、ジャックが先に立った。


「端末、いいの?」


 マリィがトラックの方向を指さした。


「どうせもう情報は取れんさ」

 半分だけ振り返ってジャックが答える。

「逆に追跡されるのがオチだ」


 手近な露店で帽子を、別の店でサングラスを買うと、ジャックはマリィに与えた。自身も新しいジャケットを手に入れる。


「この程度は気休めだ」

 ジャックはジャケットに袖を通しながら、

「カメラはごまかせても、探されたら人間には見分けられる。着替えながら行くぞ」


「訊きたいことが……」


「声がセンサに引っかかるぞ」

 遮ってジャックの声。

「急ぎじゃなきゃ後にしろ」





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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