19-19.乱流 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved
ふと――消えた。反応。中継機。それが一つ、三つ――、
――あはン。
跳ぶ。“キャサリン”。残して嘲弄。プローブ、クラッシャ、撒いて衝き――反応。捉える。”オサナイ”区画B-4、レーザ通信機、その手前。
――鬼ごっこのつもり? 自分の庭でもないのに?
途端、眼前、暗転――中継機。複数。
切り返す。“キャサリン”。かすめてクラッシャ。炸裂。なお気配。
――さて、ここで訊いてあげるけど。
“キャサリン”の声。同時。分散。
――どうして私が、ここで遊んでると思う?
〈さァて動き出した!〉ロジャーの視界、戦術マップが描く“オサナイ”艦内――“ハンマ”中隊が動きを示す。〈“キャサリン”のヤツ、黙って見てると思うか?〉
ハッチD-4横、キースは指を戦闘用宇宙服のポケットへ。〈まさか〉
〈だよな〉ロジャーは人の悪い笑み一つ、〈そいつは?〉
〈“キャス”のツール、〉キースの指が、ポケットから――データ・クリスタル。〈“レイモンド”で使ったヤツだ〉
〈ここで?〉ロジャーが首を小さく傾げる。〈一つで何か効くもんなのか?〉
〈いや、〉キースは軽く首を振りつつ、データ・クリスタルをハッチ横の端末へ。〈だが“キャサリン”は、このデータにまだ接触してない〉
黙考を半拍、ロジャーが半ばだけ頷いて、〈ま、確かに。けど“キャサリン”に何が?〉
〈注意は引ける〉キースの手元、データ・クリスタルを端末が呑む。
〈それから?〉ロジャーが声だけで促す。
端末のアクセス・ランプが――明滅。
〈今は“キャス”がいる〉さも当然とばかりにキース。〈“ハンマ”中隊も〉
〈だそうだ、“ネイ”〉ロジャーが舌なめずり一つ、〈こっちは介入を警戒。必要なら携帯端末ネットワークをパージする。やっこさん、キレなきゃいいけどな〉
――!
プローブ経由、“キャス”が感知。他ならぬ自身が組んだ、ツールの作動。ハッチD-4。
――キースもやってくれるじゃない。
当然、“キャサリン”もこれを感知する。ただしその挙動は未知のはず。
ハッチD-4近傍、艦内端末と中継機の挙動が――わずかに、変わる。
――無視は、できないはずよね。
“キャサリン”の出方を読む。クラッシャへ指示、しかも束。入力には“テルプシコレー・モジュール”を介した並列演算がものを言う。
うち2発をプローブに託して送り出す。区画D-4、レーザ通信機――ただしその後は見届けない。“キャサリン”に悟られる、その前に。
――せェ、の!
「さて、ミス・ホワイト」ヘンダーソン大佐の声が、組み伏せられたマリィの“頭上”から。「これでどうかね?」
眼を上げ――ようとして、しかしマリィの視界は届かない。
「何の、話?」マリィの声は強くはならず、ただしより鋭く棘を含む。「『これで』、私たちは用済みでしょ?」
「これは辛辣だ」ヘンダーソン大佐の声は苦く、ただしそれ以上の余裕を示す。「だが君自身の価値、これを過小に見積もるのは感心せんな」
「何を、」打ち返すマリィが思考の間を挟む。「今さら」
「君の価値は、」諭すようにヘンダーソン大佐。「何ら揺らいではおらんよ。変に状況を揺さぶらなければ」
「今度は……!」そこへハリス中佐の声――に苦悶の息。圧し潰される。
「状況としては、」強調、ヘンダーソン大佐。「そういう局面にある――ということだ」
「……そう」マリィは小さく、ただし確かに、「で、私の価値って?」
ヘンダーソン大佐から笑みの気配。「顔を上げたまえ」
組み伏せる圧がやや緩む――ただしそこまで。マリィは反応を探るように、ゆっくりと顔を、さらに眼を上げ――、
「……え?」
――さて、どこから来やがる?
“イーサ”はプローブを追加展開、意識を“ゴダード”艦内ネットワークへ。
この調整室は通信スタジオと並んで艦内ネットワーク図上でもほぼ中心、プローブとトラップの輝点が周囲に散る――が。
――まさか放置、って手じゃねェよな?
“キャサリン”はすでに第3艦隊の通信を分断している。ここまでの手口からして――、
――にしてもこっちの介入は邪魔、なはずだぜ。
意識をチャンネル001、その一角へ。ヘンダーソン大佐に対峙するマリィとハーマン上等兵、その前で――銃を構える、ハリス中佐。
“キャス”の知覚へ――信号。
クラッシャ炸裂。単独。区画D-4。プローブからの信号――が途絶える。
跳ぶ。“キャス”。置き土産、中継機の記憶領域にクラッシャ、時限式――が。
失せた。気配。無へ還った――などと確かめない。その暇もない。
――相変わらず!
囮を放つ。撒いたクラッシャを辿らせる。作動、時間差。クラッシャの群れが跳んでいく。
が。
――速い!
またプローブが逝く。さらに囮――とクラッシャの群れ。なお囮――と。
囮が失せた。最初の一つ。だがクラッシャ炸裂。中継機が黙る。停まる。立て続け。線から拡がり網へ――と。
また失せた。囮が複数。網に穴。クラッシャの作動が――クラッシャそのものが失せていく。
――間に合え!
〈こちら“クロー・エコー1”、〉リュサック軍曹がハッチ横、やや距離を置いて隔壁に張り付く。〈回転居住区後部入口、クリア。敵影なし。突入準備中〉
上下、ハッチを回り込んで戦闘用宇宙服――が、隔壁へ。取り付く。ハッチの縁へ輪状に爆薬を巡らせる。
〈こちら“クロー・アルファ1”、〉聴覚へシーモア軍曹。〈回転居住区前部入口、クリア。敵影なし。これより突入準備〉
〈“クロー・アルファ1”および“クロー・エコー1”へ、こちら“クロー・リーダ”〉キリシマ少尉の声が続く。〈敵は艦内ネットワークを掌握している。こちらの動きは筒抜けと思え。制圧速度を最優先。突入後は自律行動。さえずる暇を与えるな〉
観測信号――プローブから“キャス”へ。
最後の囮。その進路。変わる。編み上がりつつある包囲網、その向こう、レーザ通信機へ――、
消失。囮。網が面を成し損ね――、
――そこ!
断つ。電源。中継機。送電網ごと壁、牢。閉じ込める。
――ざまァ!!
プローブからの探知報告――なし。
が。
――よく動くわね。面白い手品だけど。
“キャサリン”の、それは気配。位置不明。
――手引きしてるの、誰?
脱兎。“キャス”が逃げを打――った先で通信エラー。弾かれる。
行方を転じ――た先でまたエラー、と気配。
――最優先コードをかわすのに、私の“裏口”を使ったところまでは……
と。
そこで。
“キャス”が視る。知覚が透けた。すかさず跳ぶ。制御が通る。
――これは!
違和――がマリィの意識に刺さる。
組み伏せられた床の先、低重力下で立つヘンダーソン大佐、の上半身。軍服、右腕、軽く掲げた手、に――。
拳大の、黒。それを鷲掴む、右手。手袋は裂け、皮膚も裂け、その隙間――から覗く、人工物。
ヘンダーソン大佐が、小首を傾げる。一拍、悠然とマリィへ口を開く。
「ああ、これかね?」大佐が右手、鷲掴む黒を軽く掲げて、「何の変哲もない、軟体衝撃弾――を受け止める手は、そう多くはないだろうな」
「義……手?」マリィの口から疑問が洩れる。
「そうだな」ヘンダーソン大佐は気負いも見せず、「こういうときには役に立つ」
「とんだ道化だわ」マリィの息が重い。「銃じゃ脅しにもならなかったってことね」
「このスタジオにしてみれば、」ヘンダーソン大佐が通信スタジオ、立ち並ぶ機器へ左の掌。「なかなかの脅威だがね」
「……何を、」低く、マリィが問う。「させるつもり?」
「させるも何も、」鷹揚に、ヘンダーソン大佐が小さく頷く。「君は最優先目標だからな。誰にとっても」
「……何の話?」
と――。
スタジオ内モニタ、広域通信。灯が戻る。映し出すのはバスト・アップ、芯を通すその表情。
『こちらサルバトール・ラズロ少将、』重く開く口から、強く硬い意志が覗く。『“惑星連邦”宇宙軍第3艦隊旗艦“オーベルト”より、再び発信する』
「来た!」バカラック大尉が拳に力。
軌道エレヴェータ“クライトン”管制室、メイン・モニタの一部がブラック・アウトから復帰する。
「“ホリィ”!」ドレイファス軍曹が操作卓に指を走らせる。「中継再開! チャンネル021と035!!」
視界の赤――から色が戻る。通常照明。
〈来た!〉ロジャーから快哉。
接舷ハッチ横、視界にラズロ少将が復帰した。『どうやらケヴィン・ヘンダーソン大佐には、』
〈広域通信、受信再開!〉聴覚へ“ネイ”。〈チャンネル021も!!〉
『私の話は、』通信映像の向こう、ラズロ少将が肩を軽くすくめる。『よほど都合が悪いらしい』
〈問題は次だ〉キースがハッチ横、端末のカメラを止めて眼をよこす。
『それもそのはず』淡然と、ラズロ少将が小さく頷く。『ヘンダーソン大佐は艦隊最優先コードを悪用して、“惑星連邦”市民の財産を私物化しているからだ。現に――』
チャンネル021、ラズロ少将が指招き――の先にウィンドウがポップ・アップ。表題は『第3艦隊データ通信ログ』、行ごとに項目を黒く塗り潰され――た中に。赤が差す、行。それが複数。
〈“キャサリン”なら〉キースが声を挟む。〈ここで仕込みを活かしてくるぞ〉
『――先ほども、』ラズロ少将が小さく首を振る。『大佐は第3艦隊の作戦行動を阻害した。この通り、記録にも残っている』
〈ちょっと待って〉“ネイ”の声が温度を失う。〈それって、“キャサリン”はこの“放送”を……?〉
『我々は、』ラズロ少将は眼を鋭く細め、『これに対抗するため――』
〈だろうさ〉低く、キース。〈そういうタイミングだ〉
そこへ、ラズロ少将の重い声。『――艦隊キラー・コードを発動した』
――キラー・コード!?
“キャス”が跳ぶ。“オサナイ”艦内ネットワークに支障なし。その背後――、
弾けた。クラッシャ。さらに束。プロセッサが飛び、記憶領域が荒れ、データがカオスへ還される。
――じゃ最優先コードはどっちも……!
知覚の先、“キャス”自身が中継機網をせき止めた『壁』――も、やはり消えている。
――それなら!
囮とプローブを撒く。進路変更、レーザ通信機へ。
――こっち!!
〈“ハンマ・ヘッド”へ!〉キリシマ少尉が声を鋭くデータ・リンクへ。〈こちら“クロー・ハンマ”!!〉
〈突入を許可する〉オオシマ中尉の応答も速い。〈自律行動許可! 敵の想定外を衝け!!〉
〈よし聞いたな!〉キリシマ少尉から檄。〈小隊内データ・リンク展開! 各班自律行動! 突入!!〉
〈動くか!〉ロジャーが舌なめずり。〈“ネイ”、監視カメラにアタック!!〉
〈待てエドワーズ!〉携帯端末データ・リンクから声が刺す。〈こちら“ハンマ・ヘッド”、“キャサリン”を警戒! 監視カメラは戦闘指揮所で引き受ける! “ハンマ・タップ”!!〉
〈“ハンマ・タップ”了解〉ギャラガー軍曹の声が続いて、〈監視映像を確認。口頭で“クロー・ハンマ”へ逐次伝達〉
「な……」呻き混じり、ハリス中佐――へ。
圧。床へ組み伏せられたハリス中佐、その関節が恫喝に軋る。
「……!」
“ゴダード”通信スタジオ、その床面。ハリス中佐の視覚は床面以外の何ものをも捉え得ず――同じく誰からも窺い得ない。そこに智の光が兆す。
〈……“シンディ”、〉ハリス中佐は呻き声に紛らせて、〈“中継”、を〉
その視覚、テキスト・ウィンドウへ“シンディ”。『了解。送信を試行――開始』
「そういうわけだ」ケヴィン・ヘンダーソン大佐が、マリィへ向けて肩をすくめる。「第3艦隊の最優先コードは、キラー・コードで無効化される」
“ゴダード”通信スタジオ、ヘンダーソン大佐の背後に大型モニタ、ラズロ少将のバスト・アップ。
『先にヘンダーソン大佐は、』ラズロ少将が厳かな顔で“放送”から。『公共の財産たる救難波を悪用した』
「だ、そうだよ、ミス・ホワイト」ヘンダーソン大佐は両の腕を軽く拡げて、「我々はただ生命を救うのに必死だっただけだが」
「あなたと一緒にしないで」マリィが吐き捨て、次いで皮肉を刺し入れる。「それより、言い訳はしなくていいの?」
『のみならず、』チャンネル021、ラズロ少将が事務的に断ずる。『宇宙艦隊の力をもまた、私利私欲のままに振るっている』
「いずれにせよ平行線として、だ」ヘンダーソン大佐は小首を一つ傾げて、「ここで重要なのは、キラー・コードの意味だ。今や“K.H.”にも――」
ヘンダーソン大佐が眼を細め――カミソリさながら。「――自ら艦を操る術はない」
マリィが思わず息を呑む。「……どういうこと?」
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