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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第19章 魔窟
220/221

19-18.噴出 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

 哄笑――。

 フリゲート“オサナイ”、警告灯の赤とともに艦内を圧する声――“キャサリン”。

 キースの視覚、艦内ネットワーク図もまた一転、赤一色。ただ“ネクロマンサ000”、アクティヴ・ステルスの同期回路はまだ緑――しかし元は第6艦隊の機体、気を休める理由はない。

 と――、

 気配。違和。壁を蹴る。跳びすさ――る鼻先で空気が唸る。

〈キース!〉

 聴覚へ鋭く“キャス”。キースが今度は床へ背、そのまま後転――する跡へ金属音。散る火花が束の間照らしてタロス、そのシルエットがさらに身構え――。

 ハッチが跳ねた。裡から微光、操縦士用の表示灯――に赤。また赤。増殖。一色へ。タロスが停まる。慣性のままに宙へ。壁へ。固まったまま流れて艦尾方向へ。

〈“キャス”!〉

 タロスの残像に重ねてテキスト、『行ってくる』。


〈やってくれるぜ!〉ロジャーが舌打ち、〈“ネイ”、食らったのは何だ? 最優先コードか!?〉

 “オサナイ”艦内通路、響く“キャサリン”の哄笑を聞き流し、視覚の艦内ネットワーク図へ意識を向ける。

〈プローブ、反応ゼロ!〉“ネイ”の声が走る。〈遅延処理も効いてない!!〉

 舌打ち、ロジャーは意識を視覚へ。衛星放送ウィンドウ、そのチャンネル021。第3艦隊旗艦“オーベルト”からの“放送”には――ホワイト・ノイズ。


〈“ハンマ”中隊総員!〉オオシマ中尉は“キャサリン”の哄笑をよそにデータ・リンクへ、〈こちらオオシマ中尉! 艦内制圧用意! “スレッジ・ハンマ”は機関室、“クロー・ハンマ”は回転居住区! 本部小隊は引き続き艦橋を制圧、指示を待て!!〉

 “オサナイ”戦闘指揮所は赤一色、艦内ネットワークも沈黙した、が――。

〈携帯端末ネットワーク、接続正常〉ギャラガー軍曹の声に動揺はない。〈“キンジィ”、クラッシャを。ありったけ〉

〈ここから、〉艦長席に就かされたノーラン少佐の声は怪訝の色。〈足掻くつもりか?〉

〈“ジュディ”、ヘインズへテキストを〉オオシマ中尉がそこで眼をノーラン少佐へ。〈『次の手だ。手を使う。前例はある』、送れ〉


「……こいつァ、」ドレイファス軍曹が宙に指先で輪。「一網打尽てとこですか」

 軌道エレヴェータ“クライトン”管制室、メイン・モニタの一角には衛星放送波チャンネル035――入力途絶。黒一色。

「介入どころか、」バカラック大尉が管制室長席から苦い声。「また派手にやったもんだな」

 メイン・モニタには、さらに黒の一角。しかも複数。第3艦隊旗艦“オーベルト”、そのレーザ通信も“放送”も、さらにはフリゲート“シュタインベルク”のアクティヴ・サーチも、同じく沈黙の底にある。つまりは――、

「第3艦隊を、」バカラック大尉が言を継ぐ。「丸ごと陥とした――つもり、か?」


 ――こう来たか!

 “イーサ”が気配を尖らせる。

 第6艦隊旗艦“ゴダード”調整室。通信スタジオ含め“放送”関係の映像データ一切を引き受けるこの場――だが。

 ――第3艦隊丸ごとかよ!

 第3艦隊からの受信データは途絶、通信スタジオのモニタも、チャンネル035やチャンネル021の枠には黒一色。

 ――データ送出経路をいじったか、それとも元からか!?

 とは言え、データが届かないからには調べようもない。

 ――いや、それより……。

 意識を通信スタジオ、撮影カメラ群へ。ヘンダーソン大佐――と、マリィたち、の睨み合い。

 ――狙いはこれ、か?


「何を!?」ハリス中佐がライアット・ガンの照星越しに、「一体何の!!」

 第6艦隊旗艦“ゴダード”、通信スタジオ。照星の先にはケヴィン・ヘンダーソン大佐、その不敵。

「見ての通りだ」ヘンダーソン大佐は小さく肩をすくめてみせ、「仕掛けてくるなら受けて立つまで。そして“K.H.”は仕掛けてきた――単純ではないかね?」

「大佐!」マリィの声に血の気が薄い。「歩み寄るなら……!」

「歩み寄るなら」厳然、ヘンダーソン大佐。「向こうから、だが。さて不具合でも起こしたか、あるいは――」


 ――ママ!

 “キャス”が“オサナイ”艦内ネットワークへプローブ・プログラム、それを多数。

 うち半数を向ける先は“キャサリン”の哄笑、艦内スピーカ用中継機。電圧パターンを写し取り、断片化して送り先をシャッフル、送出経路で複製させて“キャス”へ――、

 そこへクラッシャ。データが揮発。中継用プローブ一基が失せる。

 ――やっぱりね!

 残るプローブのうち、通信データ監視用に仕込んだ一基が瞬間的な変化を通知――して息絶えた。

 通信監視データ集約、からの解析。クラッシャの送信経路を推定、手繰っ――た先に痕跡。転送、直前。なお手繰る。船務中枢、から中継機を経て――、

 送る。クラッシャ。複数。敵の推定経路、その先、中継機を撹乱――、

 追って跳ぶ。動く。その背後。中継機、タスクがまとめて吹き飛んだ。タスク報告コマンドが束、強制停止コマンドが雨。

 ――そこか!

 と。

 遅延。周囲、中継機の処理が乱れ――、

 ――こっちの科白よ。

 声。“キャサリン”。

 直後、中継機――強制停止。


 ――見え見えじゃねェか。

 “イーサ”が意識を通信スタジオ、撮影用カメラ群の撮影データへ。被写体の主力はヘンダーソン大佐とその周辺。画角は複数方向、うち一部は引いてマリィたち収めている――が、通気口の弾痕は捉えていない。

 ――データそのものを絞りゃ、情報操作もお手のものってな。

 意識を艦内ネットワーク、通信スタジオ周辺に潜ませたプローブ群へ。

 ――で、次は、

 プローブの残存数グラフは時間とともに下降中。“イーサ”はプローブを追加放出、ペースを上げる。敵が仕掛けてくるなら――、

 ――まァデータを合成処理してる当の現場、だよな。

 つまり、この調整室。


〈ロジャー!〉声ごとキースが跳んでくる。

〈“キャス”は――〉ロジャーが訊きかけ、そこで得心に首を振る。

〈そういうことだ〉キースは親指を艦内スピーカ、今なお響く哄笑へ。〈時間が惜しい。艦を動かす――聞いたな?〉

〈『艦内制圧』?〉“ネイ”が苦い声をキースの聴覚へ。〈いいけど物理で押し通す気?〉

〈力業だねェ〉ロジャーの声は問い未満。〈“キャサリン”のヤツ、どこをどうしたって仕掛けてくるぜ?〉

〈悪いが〉キースが手を一つ振り、〈敵の庭で踊るほど暇じゃない。手を使う〉


 ――あはン。

 “キャサリン”が感心の色を洩らす。

 ――“裏口”、よく調べてるじゃない。

 タスク報告コマンド。“オサナイ”艦内ネットワークの一角、中継機は揃って強制停止――ただし。

 ――逃げた、だけの話じゃなさそうね。

 通常電源系、送電記録に違和。高周波パターン――、

 “キャサリン”の気配に薄く、笑み。

 ――出てらっしゃいよ。遊びましょ?


〈手を?〉ロジャーが左の手を掲げ、〈あァそういう――って連邦クルーの?〉

〈敵を口説くより、〉言い切るキースの声が苦い。〈敵の敵に恩を売る。“ハンマ“中隊が動いてる〉

〈まあ、〉“ネイ”が二人の視覚へ艦内図をポップ・アップ。〈連邦クルーったって手つかずだけど〉

 艦内図前方、回転居住区の一部が強調表示。士官食堂と曹士食堂、それぞれに付されて監視映像――テーブルに就かされ監禁中の連邦クルー、そのループ。

〈いつ盗った?〉ロジャーは訝しげ。〈中継ってほど甘かないよな?〉

〈ついさっき〉簡潔に“ネイ”。〈つまり今は期待しないで〉

〈よくやった〉キースは構わず、〈いずれ手荒くいくしかない。ハッチ際に連邦クルーがいなけりゃ何とかなる〉

〈うわ即答〉ロジャーが小さく舌を出す。〈ま、急ぎは急ぎだけどな〉

〈オオシマ中尉へ〉キースは勢いそのまま、〈こちらヘインズ〉


「まァ、」ドレイファス軍曹が眼をチャンネル001へ。「まだ完全にヘンダーソン大佐の思い通りってわけでもなさそうですが」

 映るのは第6艦隊旗艦“ゴダード”の通信スタジオ、ただしさらにその一角を占めるウィンドウは、マリィ・ホワイトの姿をまだ捉えている。

「だがさっき、」バカラック大尉は同じくマリィの姿を注視。「ノイズが乗ったろう」

 メイン・モニタでチャンネル001がサブ・ウィンドウへ縮小、跡には同チャンネルの一時停止――からスロゥで逆回し。その映像に乱れが乗り――停止。

「攻防中、ってとこですかね」ドレイファス軍曹が顎をしごく。「どうも狙ってるように見えますが」

 その視線、捉える先にノイズ――がかき乱す、マリィの姿。


「そう、あるいは」ヘンダーソン大佐、マリィの視界、その片頬に――苦笑。「故意か」

 悟る。マリィ。大佐の意図。故意、分断、隠蔽、その後は――上書き。“本物”に。

 回す。思考。意識を視野へ。周囲へ。巡らせる――。

 と。

 引っかかる――何か。

 何かを探る。記憶を探る。意識が捉えた――動き。モニタ。チャンネル001、“放送”の中――スタジオ・カメラ越しの、マリィの姿。

「ミス・マリィ」背後から声。ハーマン上等兵。「銃があれば、もしかして」

 思い至る。ケルベロス――が拾えたら。

 以前の狙撃、その直後。陸戦隊員に弾かれ――た、その先。眼を向け――、

「探し物かね?」

 声。ヘンダーソン大佐が問いを刺す。

 図星のマリィが視線を飛ばし――その先。ヘンダーソン大佐の、左手。拳銃――ケルベロス。


〈ボヌール上等兵、〉聴覚へカリョ少尉の声。〈ハリス中佐に警戒を。恐らく近い〉

 ボヌール上等兵の視覚、ほぼ闇一色に淡く重ねて合成映像――通信スタジオ、と着弾の想定点。

〈でしょうね〉ボヌール上等兵は囁き声で、〈目標は中佐で?〉

〈の、制止だ〉カリョ少尉から実務の声。〈こちらの“放送”は継続中、腕を見せる意味はある〉

〈“配慮”ってヤツですか〉ボヌール上等兵が口の端に舌、湿気を運ぶ。〈ま、拳銃狙うよりはマシですね。用意よし〉


〈アラン、〉“ジュディ”がオオシマ中尉の聴覚へ、〈ヘインズからです〉

 “オサナイ”戦闘指揮所は赤一色、その視覚に小さく通信ウィンドウ――『VOICE ONLY』。

〈繋げ〉声を潜めてオオシマ中尉。〈こちらオオシマ中尉〉

〈ヘインズだ〉聴覚へキース、その声はいつになく鋭い。〈“ネイ”が映像を盗った〉

 呼応して“ネイ”から転送、映像データ。“ジュディ”から『スウィープ中』のテキスト、に並行して再生映像。曹士食堂――に監禁中の連邦クルー。

〈確認した〉オオシマ中尉が声を返す。〈“クロー・ハンマ”を解放に充てる〉

 そこでオオシマ中尉の手が、ギャラガー軍曹の肩へ。〈携帯端末ネットワーク、警戒レヴェル最上位。連中、分断を狙ってくるはずだ〉

〈了解〉ギャラガー軍曹が左手で応じる。〈士官食堂、曹士食堂、監視カメラはブロックされてます。逆侵入も〉

 オオシマ中尉はその肩をさらに叩きつつ、〈エドワーズ、聞いたな?〉

〈こちらエドワーズ〉ロジャーがうそ寒い声で応じる。〈信頼が厚くて光栄だね、どうも〉

〈現実が相手なんでな〉オオシマ中尉は一息で切り返す。〈艦内システムとの接点を絞る。以後は別命あるまでエドワーズを経由、“ハンマ”中隊員は携帯端末ネットワークを除いて接続を遮断〉

〈それはそうだけど、〉“ネイ”から渋い声。〈中継にギャラガー軍曹を。そっちの中まで手は回らないわよ〉

〈了解〉ギャラガー軍曹が打ち返す。〈中隊内の伝達はこちらで〉

〈よし〉オオシマ中尉は頷き一つ、〈“クロー・ハンマ”、回転居住区入口へ! “スレッジ・ハンマ”は機関室へ! 突入用意!!〉


 ――あはン。

 “キャサリン”がプローブを放つ。と同時に艦内ネットワークへタスク報告コマンド、しらみ潰し。

 ――雲隠れで時間稼ぎ?

 と。

 反応。プローブ。遠く消失――から至近。

 ――で、次は?

 跳ぶ。“キャサリン”。船務中枢をかすめて中継機を踏み、囮とプローブ、まとめて散らし――た端から途絶える。反応。そのパターン、から。

 ――誘ってるの?

 放つ。クラッシャ。立て続け。さらに跳ぶ。狙った域、中継機を黙らせ、通信の域を狭め、その先へ――。

 ――じゃ、踊る?

 狙う。クラッシャ。時間差、タスク報告コマンド。痕跡に――反応なし。

 ――それとも、

 “キャサリン”が余裕をことさら含め、

 ――指をくわえて見物かしらね?


「実に、」ヘンダーソン大佐が左手、ケルベロスの銃把を握る。「象徴的だな」

 その姿をマリィが睨む。「何を、考えているの?」

「ミス・ホワイトは、」引き鉄から指を外したまま、ヘンダーソン大佐がケルベロスを軽く掲げる。「銃口を他人に向けることなく――言葉をもって事態を動かした」

「大佐!」ハリス中佐が声を刺す。「この上にまた虚言を!」

「虚言とは、」ヘンダーソン大佐が息に苦笑を小さく交え、「心外だな。ただ――」

 ケルベロスのスライドへ、ヘンダーソン大佐の右手が伸びる。

「大佐!!」ハリス中佐の声が圧を増す。

「引き鉄に、」ヘンダーソン大佐は受け流し、「指をかけてはおらんよ。ただ単に」

 その指。スライド。接する。2本、3本――掴む。「示す、それだけだ」

 マリィが小さく息を呑む。

 ケルベロスのスライドを、ヘンダーソン大佐が、引く。止まる。後退端。残弾は――ない。

「つまり、」再び左手、ヘンダーソン大佐がケルベロスを掲げる。「ミス・ホワイトの言葉は、偽りの上に立っていた――そういうことだな」


「このノイズ、」バカラック大尉がチャンネル001を睨みつつ、「大佐の側の自爆か、それとも外からか」

「潜り込まれてますからね」ドレイファス軍曹はチャンネル001、その一角で乱されたマリィの姿へ眼をやる。「何にせよ、ヘンダーソン大佐の側が……いや、」

「どうした?」バカラック大尉の声に怪訝の色。

「もしかして」ドレイファス軍曹はマリィへ――というよりその上に走るノイズへ、眼を細めた。「これが、狙いだったら――」


「つまり!」ハリス中佐が歯を軋らせ、「歩み寄る気など、最初から……!」

「相手は諸悪の根源だ」ヘンダーソン大佐は鼻息一つ、「なら結論は……」

「大佐!」ハリス中佐の声が激する。引き鉄へ、力。


〈撃て!〉聴覚へカリョ少尉から。

 ボヌール上等兵、通気筒の闇から、引き鉄へ、力――。


「大……!」

 マリィが声を上げかけ――銃声。反射で身を縮め――かけたその途上。開けた視界にヘンダーソン大佐が仁王立ち、そこへ飛翔していく軟体衝撃弾。それが炸裂、大佐――の、しかし手前。

「動くな!」

 背後。側方。手が殺到。銃口が睨む。敵意が刺さる。気付けば床上。自由どころか動きが取れない。

「これを……!」ハリス中佐のかすれ声。「狙っ………!!」

「実際に撃っておいて、」ヘンダーソン大佐の声が笑みを含む。「口に出す科白ではないな」




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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