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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第3章 邂逅
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3-2.追求

「変だな」


 エミリィ・マクファーソンは眉の根を寄せた。


〈確かに〉

 ナヴィゲータ“ウィル”が、エミリィに同意した。

〈動きがなさすぎる〉


 第2大陸“リュウ”は“大陸横断道”上、“ハミルトン・シティ”から“サイモン・シティ”を目指すフロート・カー・カエルム。天井知らずのチューン余地を持つという中級車の、その運転席。

 運転を自動制御に任せたエミリィは、車窓を流れる農業地帯に眼もくれず、“テイラー・インタープラネット”の動向に見入っている。


 アルバート・テイラーのゲスト・ハウス襲撃からおよそ半日、“テイラー・インタープラネット”の動揺があまりに小さい――それがエミリィの疑問の源にある。取締役の一人であるアルバート・テイラーが、しかも不慮の死を遂げたなら、一企業とはいえ情報収集にもっと熱心さが感じられて然るべきところだった。


「シナリオの内、ってことか……」


 エミリィが洩らして独り言。出来事が想定の範囲内なら、慌てる人間が少ない道理ではある。


〈まさか遺言がしっかりしていた、なんてことは……〉

 “ウィル”が冗談を口にする。


〈あれがそんな殊勝なタマかよ〉

 エミリィは応じてから、

〈他にテイラーが隠れるとすりゃどこか、だな。ヤツの動きからして“サイモン・シティ”から離れちゃいないはずだ。“ウィル”、食料のセンから追えないか?〉


〈1時間くれ〉


 ◇


「なかなかどうして、結構バレんものだな」

 フロート・ヴィークル・ストライダの運転席で、ロジャー・エドワーズは独りごちた。


 エミリィの後方、時間にしておよそ1時間。つかず離れずの間を置いて、ロジャーは彼女を尾けている。

 ロジャーの頼りになっているのは“トリプルA”が直々に“ウィル”へ仕込んだという監視プログラム、ただし送り出せるのは位置情報がせいぜい30分に1度、という代物でしかない。


〈見逃されてるだけだったりしてね〉

 “ネイ”は冷静に指摘してみせた。


〈かもな〉

 ロジャーはあっさり肯定してみせた。

〈だとしたら、誘われてるわけじゃねェか。ご期待に沿わなきゃいけないよな〉


〈――脳天気もここまで来ると才能かしらね〉


 ◇◇◇


 “イリーナ・ヴォルコワ私立探偵事務所”――その日4軒目の表札にはそうあった。

 ジーンズの上下を地味にまとったマリィ・ホワイトは、事務所のドアにノックをくれた――返事がない。

 アンナ・ローランドは、ドア・ノブに手をかけてみた。そのまま易々とドアが開く。


「今月の払いは……!」

 中から声が上がった。

「……と、と。失礼、徹夜明けでね」


 いかにもそれらしい短髪長身の女が、デスクの奥、机上の脚を降ろしながら会釈した。


「お客さん、ですかね?」

「……大丈夫?」


 アンナはマリィに思わず囁いた。これまで3軒、立て続けに断られてきた身としては、怪しい手合にぶつかる心配を抱き始めたとこしても無理はない。


 マリィは壁面、額縁に入れられた探偵免許の発行日を見やった。12年――少なくとも経験は浅くない、ように見えた。


「ええ、人探しを――ミスタ・“コロラド”の紹介で」


「どうぞ」

 情報屋兼口入れ屋の名を聞いたイリーナは、古ぼけたソファを示した。

「イリーナ・ヴォルコワです。伺いましょう。コーヒーでも?」

「いえ結構」

 いい加減カフェイン過剰を意識し始めた2人は、同時に言葉を返す。


 マリィはソファに腰をかけ、安い香りのコーヒーをすするイリーナ相手に依頼を伝えた。

 エリック・ヘイワードという人物を探して会いたい、ということ。手がかりは写真と、地球で受け取ったメッセージのみ、ということ。


「直接会いたいんです」


 マリィがそう締めくくる。


「で、失礼ですけど、ここが何軒目?」

「……4軒目です」


 マリィは落ち着かなげに、髪をかき上げた。


「道理で」

 イリーナは合点がいったように頷いた。

「こりゃ賞金稼ぎか企業傭兵か――だいたい呼ばれて出てくるような人種じゃありませんよ」


「そう言って断られました」

 マリィはテーブルに手をついた。

「だから、こちらから探しに行きます」


「なおさらでしょ」

 イリーナが肩をすくめる。

「ダウンタウンをうろつくことになりますよ。護衛が……ああ、それも依頼に込みってことですかね?」


 問う視線に、マリィが頷きを返した。

「その時は」


「うーん……」

 イリーナは頭を掻きつつ、すでに空いたカップを手に取り、眺め――あきらめてカップをテーブルへ戻す。

「まあ、まずは消息が掴めてからってことになります。お連れするかどうかはひとまず置いといて、とりあえず3日いただくってことで。手付金は……」


「じゃあ……!」

 マリィは身体を乗り出した。

「引き受けてくださるんですね!?」


「ええ、」

 イリーナは右手を差し出した。

「よろしく」


 ◇◇◇


 写真の男――エリック・ヘイワードは、鋭い眼を正面へ投げかけていた。

 傷痕の男――エリックは、写真と書類をテーブル上へ放り出した。


「これだけか」

「まだ、これからだ」


 ヘンダーソン大佐が、なだめるように右の掌を前に向けた。まずは軍歴と、入隊以前の略歴――今回、エリックに提供された情報はそれだけのものに過ぎない。


「家族関係、人間関係……記憶を取り戻すにも、いずれいい手がかりがあるだろう」

「ここには“戦死”とあるが?」


「死にかけていたところを救け出したわけでな」

 大佐は肩をすくめた。

 感謝されこそすれ、恨まれる筋合いではあるまいよ」


「じゃ、勝手に帰ってもいいわけか」

 焦茶色の瞳が、大佐を射た。


「恩を返せとは言わんがね。命を拾った分は、我々のために働いてもらってもバチは当たるまい? それに――」

 掌を、大佐は書類へ向けた。

「タダ働きというわけでもない」


 沈黙――。両者の視線がぶつかり合う。


「――予定外の邪魔が入った」


 向かい合う大佐の眉に、ほんのわずか曇りが乗った。エリックが続ける。


「練度のケタが違うヤツだ。獲物の取り合いになった」

 当時の現場、ジャックの腕を思い起こす。

「聞いていた話とだいぶ違うな」


「だが君はやってのけた。修正可能だったわけだ」


「修正したのは俺だ」

 焦茶色の瞳、視線が鋭さを増す。


「では次回の報酬に上積みしよう。約束する」


「――、」

 息を詰めて睨みを一つ、エリックは感情の折り合いどころを探すように呟いた。

「――いいだろう」


「結構だ」

 大佐は鷹揚に頷いて、

「で、次の仕事だが――」


 ◇


 次の夜。“メルカート”の麻薬取引に対し、再びの妨害が実行された。売買双方で死者4名、生存者はいなかった。


 ◇◇◇


「よ、今夜出てこない?」


 イリーナ・ヴォルコワは出がらしのコーヒーをすすりつつ、事務所から馴染みの情報屋ウラジミルに問うた。端末越しの通話に、相手はいつも通り音声だけで応答している。


『今日は妙に改まってやがるな』

 ウラジミルの声に、軽い不信。

『何の用だ? 夜逃げ先の相談か?』


「たまにゃおごってやるのも悪くないと思ってね」


『おいおいおい、どういう風の吹き回しだ?』

 情報屋は少しだけ呆れてみせた。

『思ってもないこと言ってると、そのうち舌が腐るぜ』


「じゃあ世の中腐った舌が溢れてるってことだね」

 イリーナは本題に入る。

「ちょいと面倒な人探し。あんたの力を借りたいのさ」


『おだてやがっても何も出ねェぞ』

「分かってるのは顔と服装だけ、あとは名前があるけど、どうせ偽名。やれる?」


『相変わらず無茶言いやがる』

 ぼやいて見せてから、ウラジミルは応じた。

『送れるデータは送ってよこせ。“バカルディ”一本プラスいつもの報酬な』


 ◇


〈ロジャー、ミスタ・ウラジミルからよ〉


 ストライダの車内、“ネイ”に伝えられたロジャーは、ウラジミルからの通信に応じた。


『ジャックのヤツを知らねェか?』

 相変わらずの映像なし、音声のみの通信で、ウラジミルは問うた。

『連絡がつかねェ』


「お互い様だ」

 ロジャーが素っ気なく応じた。

「何かあったのか?」


『人探しだとさ。賞金稼ぎ相手に物好きなこった』


「あいつを?」

 興味が乗らないわけはない。が、ロジャーは声を作った。

「珍しいな、どこのどいつだ?」


『おォい、人の飯のタネ横取りするなよ』


 小さく笑いつつ、ウラジミルは職業上の秘密を守った。ロジャーも敢えて追求はしない。


「見つけたら俺にも教えてくれ。ヤツにゃ貸しがある。こっちも見つけたら教えてやるよ」

『バカルディ1本』

「……俺が見つけたらマッカランおごらせるぞ、この野郎」

『冗談だよ、じゃあ連絡がついたら教えてくれ』


 ◇◇◇


『よぉ、俺だけどな』


 ウラジミルの元へ、“雑貨屋”サントスから連絡が入ったのは、その日の午後のことだった。


『何かあったか?』


 ウラジミルの問いに、サントスが笑いを交えて応える。


『何かも何も、お前ジャックのヤツ探してんだろ? ジョニィの緑1本で会わせてやってもいいぜ』

『いつだ?』


 ウラジミルは食いついた。


『今夜。ウチへ買い出しに来るそうだ。ジョニィ忘れんなよ』


 サントスは“サイモン・シティ”の衛星都市ともいうべき“カーク・シティ”に店を構えている。

 直後、ウラジミルからイリーナヘ、イリーナからマリィへ――情報が飛んだ。


 ◇


「今夜!?」

 マリィが声を上げた。


『そうです』

 イリーナが頷く。

『“カーク・シティ”ですから、ここから2時間もあれば』


 イリーナからの報せにあったのは、“サイモン・シティ”と近隣の生産拠点とを結ぶ、中継地とでも表すべき街の名だった。


「じゃ、今からなら……」

『ええ、間に合います、が……』

「お願いします。“が”、何か?」


『ご案内するのは、あんまり治安のいい所じゃありません』

 少々ばつの悪そうな声を、イリーナは口に乗せた。

『私1人で護衛できるのはお1人だけです。それでも?』


 マリィは、アンナと顔を見合わせた。


 ◇


「面が割れたか?」


 アントーニオ・バレージが、夕食後に現れた秘書へと問いを投げた。彼の視界――網膜に投影されている映像には、数日前に“メルカート”の麻薬取引を妨害したとされる人物が、小さく写り込んでいた。


「“マシューズ・ヴィレッジ”民家の監視映像からです。現場の映像ではありませんが、ヴィレッジの人間でも、取引の関係者でもない人物が写っています」


 秘書が応じて、端末を操る。バレージの視界にリストが浮かび上がる。


「容疑者のリストです。顔の特徴と職業から、10人まで絞り込みました」

「ようやくだな」

「現場の人間が全滅しております。むしろスタッフはよくやったかと」


 自分の責任でもないが、秘書は担当者をかばってみせた。


「いや、よくやった。敵が周到だということだ」

 応えるバレージの口調が苦い。

「単独犯ではないかもしれんな」


 秘書は頷き一つ、バレージの指示を待つ。


「この連中を押さえろ。賞金をかけても構わん」

 バレージは続けた。

「殺すなよ、黒幕を吐かせねばな」


「はい」


 頭を一つ下げて、秘書が下がる。バレージは、次の案件に頭を切り替えた。


 その時バレージの視界から流れた容疑者リストの中に、ジャック・マーフィの顔があった。






著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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