19-17.過圧 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.
〈“ハンマ”中隊各員!〉オオシマ中尉がデータ・リンクへ、〈介入実行! 自律判断!!〉
フリゲート“オサナイ”戦闘指揮所、一角に映るチャンネル001にはヘンダーソン大佐、不敵な笑み。
〈連中、〉操作卓からギャラガー軍曹、〈こっち向きますかね?〉
〈連中の対処目標を〉オオシマ中尉はチャンネル001を凝視したまま、〈分散させる意味はある。ファームウェア書き換え! 続けて再起動! 見せ付けろ!!〉
〈これは――!?〉
第6艦隊電子戦艦“トーヴァルズ”、電子戦指揮所でクィネル大尉の視覚に違和。フリゲート“オサナイ”の艦内ネットワーク図、一部中継機の反応が鈍り――、
〈連中か!〉
警告音――。
『来たわ』“カロン”が残してテキスト、『ちょっと外すわよ』
2G加速中の揚陸ポッド“ジン・ポッド”、メイン・モニタにテキスト大書き――『受信:第3艦隊最優先コード』。
〈遅延は――あァくそ、〉操縦席のシンシアが小さく舌打ち。〈“放送”もかよ〉
シンシアの視界、チャンネル001がコマ落ちし――たまま動きを止めた。
〈敵が?〉後方、タロスからヒューイの声。
〈まァな〉肩越しにシンシア。〈毒の回りを遅らせ――いや待て“カロン”!〉
〈“放送”は――〉ヒューイから、疑念――がすぐ晴れる。〈――いや今のうちか〉
『そういうこと』その手前、視覚へテキスト――“カロン”。『いずれ必要になるんだから。耐G姿勢継続。ネットワーク再起動』
〈どこだ!?〉クィネル大尉が問いを飛ばす。〈敵は!?〉
“トーヴァルズ”電子戦指揮所、クィネル大尉の視覚で強調表示。“オサナイ”の艦内ネットワーク図、艦体前方に異常の赤。
〈レーザ通信機!〉オペレータの声が届く。〈B-1-1、C-1-1、E-1-2! 3基!!〉
〈大佐へ警告!〉全てを圧してカッスラー大佐。〈電子介入用意!!〉
〈ですが!〉オペレータから悲鳴。〈艦隊ネットワークが!!〉
〈管制中枢のパワーを突っ込め!!〉カッスラー大佐が打ち返す。〈大佐への警告を最優先! 次いで電子介入! かき回せ!!〉
「大佐!!」ハリス中佐から怒気。「そういう肚づもりを!!」
第6艦隊旗艦“ゴダード”、通信スタジオ。ハリス中佐が構えるライアット・ガンの照星は、変わらずケヴィン・ヘンダーソン大佐を見据える――が。
そのヘンダーソン大佐の双眸、鉄面皮を思わせる余裕の狭間に――負を思わせる光と熱。
「さて、」片頬だけに、ヘンダーソン大佐が笑みを乗せる。「『肚づもり』、か」
と、ヘンダーソン大佐の視覚へテキスト表示。『警告:“トーヴァルズ”より。“敵、第3艦隊最優先コードを上書き”』
笑みのない眼をモニタの一つ、シンシアの姿が欠けたチャンネル035へ。「実に、興味深い」
『バレたわ!』キースの視覚へテキスト――“キャス”が傍らのタロスから。『一部だけど最優先コード食らってる! 遅延対応!!』
視覚の端、フリゲート“オサナイ”の艦内ネットワーク図にも介入を示す橙が混じる。
《ネットワーク再起動、》キースが宙に打鍵、《“放送”は“ネクロマンサ000”経由》
『興味だと?』キースは怒りを声に含ませ、『つまり興味は信より優先ということか』
『せめてもの救いは』“キャス”が継いでテキスト、『ママが出てこないってことね。再起動開始!』
艦内ネットワーク図、中継機を表す輝点の過半が点滅開始。橙を呑む――青緑。
〈“オサナイ”レーザ通信機、捕捉!〉“トーヴァルズ”電子戦指揮所にオペレータの声。〈電子介入!!〉
モニタ上、“オサナイ”前方の赤が3点、明滅――する、その横。
”オサナイ”の艦内ネットワーク図が――、
一転。赤。警告音。続いて警戒色――、
〈電子介入!!〉オペレータの声が飛ぶ。
テキスト表示――『反応途絶』。
〈別口か!〉クィネル大尉が舌打ちを呑み込み、〈全ファームを!!〉
〈第3艦隊最優先コード――〉オペレータの声が刺さる。〈――通りません!!〉
「よく言う」宇宙空母“ゴダード”通信スタジオ、ヘンダーソン大佐が片頬を嘲笑に染める。「“放送”を盾にさえすれば、それが口実になるとでも?」
『“放送”をいいようにねじ曲げておいて、』チャンネル035、打ち返すキースが鼻を鳴らす。『勝手な都合で筋を語るな』
「馬脚を現したな」ヘンダーソン大佐の嘲笑が拡がる。「裏工作は進んだかね?」
『つまりその口は、』キースが戦闘用宇宙服越しに声を冷やして、『自ら工作を仕掛けている――と白状するわけだな』
『工作?』ヘンダーソン大佐は“放送”から眉に余裕を乗せて、『なるほど、自分たちの正当化に余念がないか』
そこでキースの視覚、艦内ネットワーク図に注記――『中継機復旧率:58%』。
『こちらを非難さえすれば、』キースの声が匂わせて刃。『自分を正当化できるとでも?』
『その言葉、』ヘンダーソン大佐が笑いを含む。『そっくりそのままお返ししよう』
『こちらは』キースは声を揺るがせもせず、『大佐の非を鳴らしているだけだ。他人の命運に手を出すな、とな』
中継機復旧率――61%。
『その“他人の命運”とやらを、』ヘンダーソン大佐は小首一つを傾げて、『操作しようとしているのは、どちらかな? 例えば、そう――』
ヘンダーソン大佐の目許を皮肉が飾る。『――軌道エレヴェータ、とか』
〈レーザ通信!〉“トーヴァルズ”電子戦指揮所へ、カッスラー大佐。〈目標変更! 軌道エレヴェータ“クライトン”管制室! こじ開けろ!!〉
「ヘンダーソン大佐!」ハリス中佐がライアット・ガンの照星越しに、「今度は民間人まで!?」
「ああ、」ヘンダーソン大佐から眼線の冷気。「その言葉は“K.H.”へ投げるがいい。“クライトン”を悪用しているのは、彼だ」
「あなたが言うの?」マリィがハリス中佐の背後から、「軌道エレヴェータも、救難信号も、宇宙艦隊も、何もかも利用してきて?」
「なに、」ヘンダーソン大佐は澄まし顔、「軌道エレヴェータの機能を、少し借りているに過ぎんよ――我々はな。だが“K.H.”は……」
『事実を曲げるな』キースが声を衝き入れる。『いよいよこちらの“放送”が邪魔になったか。大佐がどう語ろうと……』
と、そこで――。
『通信波!』“キャス”からテキスト。『発信元――“オーベルト”! 全方位通信! 暗号変換なし!!』
同時に視覚へ小さく通信ウィンドウがポップ・アップ。添えてテキスト、『第3艦隊旗艦“オーベルト”より:第3艦隊司令サルバトール・ラズロ少将』
『告げる!』新たな通信ウィンドウから、バスト・アップのラズロ少将が口を開く。『第3艦隊および第6艦隊各員へ! こちら第3艦隊司令サルバトール・ラズロ少将!!』
〈お出ましか〉ロジャーが視覚、“オーベルト”からの通信ウィンドウへ一言、〈“裏口”の心配は棚上げ、って判断かな〉
〈“裏口”って、〉“ネイ”から疑問。〈“キャサリン”の?〉
〈あいつ、“オーベルト”にも仕込んでやがったからな〉ロジャーが舌なめずり一つ、〈最優先コードは書き換わった、“キャサリン”は雲隠れ――なら今のうちって判断だろ〉
〈またか!〉カリョ少尉が、密かに歯を軋らせる。
“ゴダード”戦闘指揮所、陸戦指揮ブース。右手の指先を踊らせ半秒、眼を“放送”ウィンドウへ。
チャンネル001、通気口シャッタは視野の外。チャンネル035もまた同様。焦点はケヴィン・ヘンダーソン大佐――。
〈ボヌール上等兵、〉カリョ少尉は声をデータ・リンクへ。〈聞こえるか〉
「役者が増えましたな」軌道エレヴェータ“クライトン”管制室、ドレイファス軍曹が意地悪く笑む。「“K.H.”が上手く――」
そこで警告音――に合わせてメイン・スクリーンと視覚へウィンドウ。『レーザ通信:回線接続』、『発:第3艦隊旗艦“オーベルト”』。
「なるほど」ヘンダーソン大佐が片頬を吊り上げる。「第3艦隊司令のお出ましか」
“ゴダード”通信スタジオを見やる視覚、その一角。通信ウィンドウにバスト・アップ――第3艦隊司令サルバトール・ラズロ少将。
ヘンダーソン大佐は小さく鼻を鳴らして、「“惑星連邦”の走狗がよく吠える」
『ここに宣言する』ラズロ少将は通信ウィンドウから決然、『これより私は、サルバトール・ラズロ個人としてこの状況に介入する!』
「これを中継!?」管制室長席からバカラック大尉が身を乗り出す。「しかも星系全域にか!!」
「確かに」ドレイファス軍曹が操作卓へ予備入力、「第3艦隊旗艦ったって、自前の発信だけじゃ心許ないってもんですからね。ついでにハッタリも、ってわけですな。受けます?」
「許可!」即断、バカラック大尉。
「了解!」ドレイファス軍曹が確定操作、「配信局へ繋ぎます! チャンネル021!!」
〈通信良好〉“ゴダード”通信スタジオの通気筒、ほぼ闇一色の中にボヌール上等兵。
と、視覚へ展開――三次元マップ。
〈備えろ〉カリョ少尉の声が硬い。〈恐らく状況が流動する〉
『“走狗”か』キースが鼻を一つ鳴らして、『なら我欲に走る大佐は何者だ?』
視覚の隅に――『中継機復旧率:69%』。
『私は指導者だとも』チャンネル001、ヘンダーソン大佐にはむしろ余裕。『連邦の暴虐を正しく憂い、根を張り巡らせて時を待ち、そして機を見て旗を揚げた――これが指導者以外の何者だと?』
『他意はない』通信映像からラズロ少将が静かに、大きく頷く。『“惑星連邦”軍人としてではなく、宇宙に生きる一人の人間として、この言を伝えたい』
「今なら間に合うわ!」マリィが通信スタジオからヘンダーソン大佐へ。「あなたは跳躍ゲートを封鎖して、“惑星連邦”から独立を果たした――それで充分でしょ!?」
「いかにも、独立は成った」ヘンダーソン大佐が、ゆっくりとマリィへ頷きかけ――声を低める。「ゆえにこそ、未来に汚れは持ち込めん」
『これは命令ではない。宣言である』ラズロ少将の姿――が、増えた。通信ウィンドウ。衛星放送チャンネル021。『繰り返す、これは命令ではない! 宣言である!!』
〈索敵班!〉“シュタインベルク”戦闘指揮所、艦長席からデミル少佐。〈アクティヴ・サーチ、モールス発信! ラズロ司令の演説を中継!!〉
警告音――。
〈アクティヴ・サーチ!〉“トーヴァルズ”電子戦指揮所、鋭くオペレータ。〈“シュタインベルク”から連続……いや、これは!?〉
〈作業続行!〉一喝、カッスラー大佐。〈“サイモン”管制室へ侵入急げ!!〉
その視覚へ、言い終わる前に解析結果――アクティヴ・サーチの受信データ、時系列。長短と空白、組み合わせ――に付してテキスト表示、『推定:』――。
〈モールスです!〉叫んでオペレータが手元、キィボードに指を走らせる。
メイン・モニタへ、ウィンドウがまた一つ。アルファベットが一文字一文字、オペレータの打鍵に合わせて増えていき――、
カッスラー大佐の視覚、さらにテキスト――『【モールス信号】“オーベルト”広域通信およびチャンネル021と合致:サルバトール・ラズロ第3艦隊司令』。
〈考えたな〉ロジャーの声が悪く弾む。〈こっちも底意地の悪ィ話だ〉
視覚にラズロ少将の姿二つ、ロジャーがキースを横眼に言を継ぎ――かけたところで“ネイ”。〈保険、それも二系統――ってだけじゃなさそうね〉
〈たかが妨害波じゃ、〉ロジャーが片頬を歪ませてみせ、〈アクティヴ・サーチまで押さえ込めるわけはねェからな〉
出力に任せてノイズというノイズを打ち破り、敵からの反射波でその存在情報をもぎ取るのがアクティヴ・サーチの役どころ。その運用思想を前にしては、たかが通信波をかき乱す程度の妨害波など敵う道理は存在しない。
〈手前だけ耳塞いで、〉ロジャーが声を改める。〈周りで好き勝手――ってのも面白くねェだろう〉
〈で、〉“ネイ”が端的に、〈素直に根を上げるタマ?〉
ロジャーは視点をチャンネル001、ヘンダーソン大佐の不敵な顔へ。〈だったら苦労しねェわな〉
〈じゃ、〉“ネイ”の声が一段低く、〈別の手を?〉
〈だろうねェ〉ロジャーも鼻息一つ、〈“ネイ”、“オーベルト”へメッセージ。それから……〉
〈メッセージ受信!〉“オーベルト”総合戦闘指揮所でオペレータ。〈“オサナイ”からです!!〉
そこでメイン・モニタの一角へテキスト・メッセージ――『“オーベルト”へ。“オサナイ”艦内ネットワーク再起動中』。改行。『ロジャー・エドワーズより』。
ロジャーのメッセージはオブザーヴァ席に就くイリーナの視覚へも。と、そこへ――。
さらにテキスト、ただし別ウィンドウ。こちらはシステムから。長く、途切れず、言語にならず――イリーナの眼許、光に鋭利。
「ほう、」ヘンダーソン大佐が視覚、“シュタインベルク”が発するアクティヴ・サーチの復号文字列へ――眼を細める。「これで“トーヴァルズ”への干渉を封じたつもりか」
向き合うマリィが表情を冷やす。そこへンダーソン大佐が眼を向け、「なるほど。歴史は勝者が記せばいい、と――不都合な事実は葬り去るわけだな」
『相変わらずの屁理屈だな大佐!』キースの視界、“ジン・ポッド”の通信ウィンドウが開いてシンシア。『まんま手前のやり口じゃねェか!!』
『その通りだ』キースが同意を衝き入れる。『その責を他人に押し付けるのも』
視覚の隅に――『中継機復旧率:78%』。
『ケヴィン・ヘンダーソン大佐の作り出した断絶――』チャンネル021、ラズロ司少将が口火を切る。『――跳躍ゲートの封鎖、これの是非はひとまず置こう』
『独立の事実を、』チャンネル001、ヘンダーソン大佐が眼を細め、『その意義をねじ曲げる意図には――屈するわけにはいかんな』
中継機復旧率、上昇――84%。
『黙りやがれこの屁理屈屋!』シンシアの剣幕が突き刺さる。『手前に不都合だからってこっちに何しやがった!!』
中継機復旧率――89%。
『なるほど』ヘンダーソン大佐は苦笑一つ、『ラズロ司令の話さえも遮るか』
『問題はその後、』ラズロ少将が眉に厳しさを乗せ、『宇宙に生きる我々の良心を――踏みにじる、悪意の数々にある』
『聞く耳を持たないのは、』キースから冷えた声。『大佐が言えた義理ではないな』
中継機復旧率――95%。
『でも!』マリィの声が立ち――そこで。
ヘンダーソン大佐が立てて指一本。『第3艦隊司令は“宣言”と称した。聞く耳は持たんということだ』
中継機復旧――完了。
“キャス”からテキスト。『艦内ネットワーク掌握!』
即応、キースが宙に打鍵。《艦内に耐G警告、突撃用意》
と。
チャンネル001、ヘンダーソン大佐の口から、小さく――呟き。
『救難波を悪用した、ただそれだけの話ではない』ラズロ少将が重く続ける。『その動機は、果たして何か?』
『警報:耐G警告』
“キャス”からのテキスト、警戒色がキースの視覚へ――直後、“オサナイ”艦内が赤一色へ。
『聞く耳だ!?』シンシアの声が刺す。『手前のこと棚に上げて何ほざきやがる!!』
キースの視覚、チャンネル001。ヘンダーソン大佐は意にも介さず連ねて呟き。その様はさながら呪文のようで――。
『そいつは!』キースが声に鋭く力。
“放送”越し、ヘンダーソン大佐が眼を――キースへ。その瞳に鋭く、笑み。
《“キャス”!》キースが打鍵。
その視覚、艦内ネットワークに輝点が一つ。接弦ハッチD-4。至近。タグが小さく立ち上がり――『ジョナサン・フォーク軍曹』。
止まる。キースの指――が戦闘用宇宙服、その外部ポーチへ。中には携帯端末、フォーク軍曹から借りた筐体を掴み出す。その小型モニタへ眼――。
と。
そこへ。
哄笑――。
〈まさか!?〉ギャラガー軍曹が耳へと手。
甲高く――。
〈いつの間に!?〉オオシマ中尉が意識を艦内ネットワーク図へ。
鋭く――。
〈こいつァ!?〉ロジャーが艦内スピーカへ眼。
キースの手中、携帯端末にテキスト表示――『Too Bad(残念デシタ)』。
キースが歯噛み。〈“キャサリン”!!〉
(小計6462字)
(検討込み11237+605字)
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