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――きやがった!
“イーサ”が受信、映像データ。
第6艦隊旗艦“ゴダード”、その通信スタジオ横――調整室。そのネットワークの片隅、密かに細工を巡らせる。
映像、マリィの指先が示す先――弾痕。敵意の動かぬ証拠。ズーム。その流れをチャンネル001、合成映像へ流し込む。さらに“ウィル”から引き継いだ“裏口”を経てシンシアへ。
「気遣いってことですよ、シニョール・バレージ」ドレイファス軍曹がコマンド入力。「マシン・パワーは、あって邪魔にもならんでしょう」
軌道エレヴェータ“クライトン”管制室。ドレイファス軍曹の操作卓へ、宇宙港で稼働する“テルプシコレー・モジュール”から接続認証コード。
「転送、します!」ドレイファス軍曹の視覚、片隅でバレージへ繋がる通信ウィンドウに――表示。『転送確認』。
その視覚に浮かぶ“放送”ウィンドウ、チャンネル001に――変化。その一角、サブ・ウィンドウ。
「ん?」
ドレイファス軍曹が合わせて焦点、つい先刻までマリィの姿が――と思う間に映像がズーム。通気口、そのシャッタ――弾痕。9ミリ。
〈くそ!〉ほぼ闇一色の中、聴覚へ鋭く小声――歯軋りを交えてカリョ少尉。〈待機! ボヌール上等兵! 撃つな!!〉
第6艦隊旗艦“ゴダード”、通信スタジオ――の、その上辺に位置する通気口の、さらに中。
待機するボヌール上等兵の視覚から、三次元マップがかき消える。カリョ少尉の元でシミュレートされた通信スタジオ――その入り口へ向けていた9ミリの銃口を、ボヌール上等兵は心持ち上方へ。
〈あー、〉ボヌール上等兵は気まずい声をデータ・リンクへ。〈まァ気付かれちまっちゃ、仕方ありませんよねェ……〉
かき消える直前の三次元マップ上、マリィが指をボヌール上等兵へ向けていた。
〈“放送”に通気口シャッタと弾痕が映ってる〉カリョ少尉の声、その奥に抑え込まれた熱がある。〈手を変える。別命あるまで待機〉
『ケヴィン・ヘンダーソン大佐!』モニタ上のチャンネル035、シンシアから気炎。『手前この下衆野郎!!』
〈“シンディ”、〉“ゴダード”通信スタジオ、ハリス中佐が将星をヘンダーソン大佐に据えたまま、〈通気口の弾痕、ズーム映像をリピート。並行してミス・ホワイトの視点を中継〉
『どうあっても、』さらにチャンネル035、キースの声が一層冷える。『マリィに手を下すつもりか』
そこでチャンネル001、弾痕のズーム映像が縮小して斜め上、そのままリピート再生へ。空いたスペースに『LIVE』のロゴとマリィの視覚映像、通気口とそのシャッタ。
「押してますな、“K.H.”」ドレイファス軍曹の片頬に笑み。「この流れに乗っかれりゃ……」
『接続を確認』そこへバレージ。『ほう、正規ルートか』
続いて反応。“テルプシコレー・モジュール”の状態表示、輝点の群れが黄緑から緑へ――点滅加速、さらに常時点灯へ。その下へサブ・ネットワークのリストが――連なる。伸びる。緑の輝点。
「ミス・ホワイト、」ハリス中佐がそのまま声、「あなたの視覚を中継しています。眼を私とヘンダーソン大佐の方へ」
「“K.H.“はそういうことにしたい、と」ヘンダーソン大佐が片頬を釣り上げ、「つまり私を悪役に据えたい、というわけだな。この場で睨み合うのが望みかね?」
「大丈夫ですか?」視点そのまま、マリィがハリス中佐へ問いを投げる。
「次は、」ハリス中佐は低く、「こちらの中継が意味を持つはず」
『スカしてんじゃねェぞこの陰険詐欺師!』シンシアがチャンネル035から噛み付く。『手前のクソ所業を棚に上げんじゃねェ!!』
「ああそれから――」ヘンダーソン大佐は涼しい顔のまま眼を細め、「ハリス中佐は、その立ち位置が望みかな?」
“放送”映像、振り返ったマリィの視点、その向かう先。ハリス中佐の背――の向こうにヘンダーソン大佐、その冷笑。
『事実を曲げるな』キースから棘。『隙と見るなり細工に出るなら、手札は悪意の証だろうが』
「で、私を悪者に仕立てる、と」ヘンダーソン大佐が肩をすくめる。「悪意が見えるな。実に解りやすい」
『なるほど』バレージの声が緩んだ――とほぼ同時、ネットワーク図の居住区画で緑の網目が急拡張、呑み込んだ。『悪くない』
「感謝します」ドレイファス軍曹が言葉の向く先を変え、〈“ホリィ”、接続認証コードを発行。権限設定、最高位。対象ユーザ――〉
と、眼をチャンネル035へ。〈――“K.H.”〉
〈相も変わらずか〉オオシマ中尉が視覚、チャンネル001に映るヘンダーソン大佐の冷笑へ。〈舌ばかりよく回す〉
〈こちらデュラック軍曹、〉携帯端末ネットワーク越し、声に合わせて艦内ネットワーク図へタグが立つ。〈レーザ通信機B-1-1、ファームウェア書き換え用意よし〉
オオシマ中尉の視覚、艦外戦術マップの“オサナイ”から白く破線――が“シュタインベルク”へ。
〈そのまま待機〉オオシマ中尉が言を返して、〈命令に変更なし。合図を待て〉
〈こちらホンダ軍曹、〉艦内ネットワーク図、右舷前方にもタグ。〈レーザ通信機E-1-2、書き換え用意よし〉
戦術マップ上、破線が遠く“オーベルト”へ――向くが“オサナイ”自体の艦体に遮られる。赤く点滅。
〈艦体姿勢に留意〉オオシマ中尉がデータ・リンク越し、〈ファームウェア書き換え後、自律判断で対策ツールを送信〉
〈こちらナッタ軍曹、〉さらに左舷前方。〈レーザ通信機C-1-1、書き換え用意よし〉
さらに破線、こちらは“ダルトン”へ――ただしこちらも赤く点滅。
〈よし、〉オオシマ中尉が声を引き締め、〈後はヘインズ次第だ。各自注目、チャンネル035〉
キースの視覚、その一隅。チャンネル001。ヘンダーソン大佐が浮かべる冷笑、その斜め上へウィンドウ――『【受信】アクセス・コード:軌道エレヴェータ“クライトン”より』。
すかさず“キャス”からテキスト表示、『並列演算モジュールのアクセス権ね。規模は――へェ、宇宙港区画のプロセッサかき集めたみたい』
『“仕立てる”? 悪者に?』素知らぬ顔で鼻息一つ、キースが戦闘用宇宙服から声を低める。『掌を返す悪党そのものが、何を今さら――ケヴィン・ヘンダーソン大佐』
言う間にキースが打鍵、《使え、“キャス”》。
『凝りに凝った演出、』ヘンダーソン大佐が眼に光。『ご苦労なことだ。今この瞬間にも――小細工に余念がないようだな』
『言ってくれるわ』“キャス”からテキスト、『艦内プロセッサ、ダミィの介入かますわよ。合図して』
『責任の在り処を』キースの声がなお冷える。『すり替えるな、ケヴィン・ヘンダーソン大佐。そちらが始めた小細工だろうが』
そこでキースがさらに打鍵、《介入と同時に友軍全艦の回線開放、“ネクロマンサ000”、アクティヴ・ステルス同期権限》
『力業よね』“キャス”がテキストに皮肉を滲ませる。『友軍全艦、こっちから制圧してファームウェア書き換えるわ』
『堂々巡りというわけだ』ヘンダーソン大佐は笑みすら覗かせ、『正当性を欠いた悪あがき、ご苦労なことだな』
《セキュリティは?》キースが打鍵。
『あるでしょ、デカい囮が』“キャス”からテキスト。
同時に“キャス”がウィンドウの一つを明滅、表示に『“テルプシコレー・モジュール”:軌道エレヴェータ“クライトン”』。
『こんだけ並列処理でぶち込んでみなさいよ』“キャス”が続けてテキスト表示。『反応しなきゃただの木偶だわ』
『“正当性”が聞いて呆れる』キースは声に冷気を潜ませ、『マリィを操り人形にして、神の声でも気取るつもりか』
『実績なくして、』ヘンダーソン大佐の瞳に、鋭利。『何の正当性かね?』
《よし》宙に、キースが打鍵。《やれ、“キャス”》
『“実績”か』キースは鼻息一つ、『恥ずかしげもなくよく言える。救難信号を悪用し、勝手な都合で“事実”とやらをでっち上げ、』
“キャス”からテキスト、『ダミィ介入開始』。“オサナイ”のネットワーク図、中継機を表す輝点が現在位置から紫を帯び始め――、
そこでキースは声を低めて、『遂には同志までも使い捨てた、その“実績”で何を語るか』
『アクティヴ・ステルス同期権限ぶちかましたら、』“キャス”がテキスト、『ファームウェア書き換えて、デヴァイスを時間差で再起動――けどその間にバレたら厄介よ。時間稼いで!』
〈ツール起動!〉フォッケ中尉が声を上げる。〈周波数変調!!〉
電子戦艦“トーヴァルズ”送電中枢。操作卓の船務長、その視覚に展開した艦内ネットワーク図で――増えた。結節。送電中枢から電力線沿い、麻痺した中継機を無視して艦橋へ。戦闘指揮所へ。さらに文字列がポップ・アップ、『データ・リンク確立』。
〈戦闘指揮所へ!〉船務長が声を載せる。〈こちら船務長! 送電中枢、周波数変調を開始! 繰り返す、周波数変調を開始!!〉
視野が、晴れる――。
――通った!?
“トーヴァルズ”電子戦中枢、“クラリス”が意識を艦内ネットワークへ。
――電力線通信……でも中継機をスキップしてる!?
しかし他に可能性がないではない。
――送電の周波数を直接? そういうことなら!
電子戦中枢のクロック上昇、演算負荷をかち上げる。
――ネズミの小細工は、通用しないってことよね!?
警告音――。
〈始まった!〉ギャラガー軍曹から鋭く声。
“オサナイ”戦闘指揮所、メイン・モニタに警戒色。敵のセキュリティ・システムが表示をポップ・アップ――『【電子介入】』。
〈バレたか?〉オオシマ中尉が眉をひそめる。
〈いえ〉ギャラガー軍曹の視覚へウィンドウ、『敵・最優先コード展開中』。
見る間も与えずメイン・モニタが自動表示、『防壁展開』。その横、艦内ネットワーク図に赤い輝点が散発――から増殖、表示が警戒色へ。『異常検出:中継機』。
〈こっちもか〉ギャラガー軍曹から見ても、ネットワーク図上の赤、つまり電子介入の勢いは最優先コードに負けていない。〈“キンジィ”?〉
〈いえ、〉“キンジィ”が低く返す。〈まだアクティヴ・ステルスの同期権限が――“キャス”からメッセージ!〉
そこでギャラガー軍曹の視覚へテキスト、『陽動、電子介入を実行中』。
〈手を変えたな〉そこへオオシマ中尉。〈いずれ敵の眼を逸らして悪いことはない〉
ギャラガー軍曹が指を操作卓へ。モニタへ展開、中継機リスト、その詳細。
〈そういことか〉ギャラガー軍曹が舌なめずり、〈電子介入のタイミング、分散させてますね〉
〈“ハンマ”中隊各員、〉オオシマ中尉がデータ・リンクへ。〈ヘインズが陽動に入った。待機継続、だがすぐ来るぞ〉
〈電子介入!〉高く、鋭く、オペレータ。〈“オサナイ”に!〉
電子戦艦“トーヴァルズ”、電子戦指揮所。サブ・モニタに展開する艦隊ネットワーク図、その一角から警告表示がポップ・アップ――『検知:【電子介入】』、『検知箇所:“オサナイ”』。
〈“オサナイ”艦内から!?〉クィネル大尉が眉をひそめる。〈防壁パターン変更! スウィープ開始!!〉
〈いや、最優先コードを抜いて……中継機、を……?〉思案中のカッスラー大佐から低く声。〈……艦隊の外か!〉
眼を“放送”、チャンネル035へ。“K.H.”の鋭い眼――を映す“放送”波、その出どころは――軌道エレヴェータ“クライトン”。
〈手繰れ!〉鋭くカッスラー大佐。〈軌道エレヴェータ!!〉
〈くそ!〉クィネル大尉が歯噛み。〈コマンド送信! “オサナイ”のセキュリティへ!!〉
“トーヴァルズ”内部を襲う撹乱は、艦外への介入を許さない。せめても警戒の指示を下すがせいぜい、つまりは先手を打たれたことになる。
〈警告! “ゴダード”へ!〉カッスラー大佐が指示を継ぐ。〈ヘンダーソン大佐へ!!〉
ヘンダーソン大佐の視覚、チャンネル035のキースから鋭い眼――の、斜め上にテキスト表示。『検知:【電子介入】』、『検知箇所:“オサナイ”』。
皮肉を片頬に示して笑み、ヘンダーソン大佐が声に嘲弄。
「では訊くが――“K.H.”、」大佐は小さく首を振りつつ、「綺麗事で、そちらは何を築いたというのかな?」
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