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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第19章 魔窟
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19-12.圧縮 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

『で?』軌道エレヴェータ“クライトン”管制室へ、アントーニオ・バレージの声だけが届く。『こちらのマシン・パワーを貸せ、と?』

「ちょうどいいとこへ。シニョール・バレージ」ドレイファス軍曹が芝居がかった声を一つ。

『白々しい』バレージの声はあきれ半分。

「“K.H.”が電子戦で敵に対抗するんなら、」動じず、ドレイファス軍曹は眼をネットワーク図へ。「手持ちのマシン・パワーだけじゃ不足ってこともあるでしょう。ナヴィゲータが頑張るったってソフトウェアだけじゃ、ねェ?」

 閉鎖中の隔壁向こう、宇宙港区画の状況は今のところ見通せない。ネットワーク図もひたすら暗色、これをいきなり繋ぐのは楽観というにもほどがある。

『なら勝手にやればいい』バレージがはっきり鼻白む。

「こっちの手札は宇宙港区画のマシン・パワーですが」ドレイファス軍曹は構う気配さえ見せず、「ついさっきまで敵が制圧してたんで、余計なトラップが――まァ、あるでしょうな」

『ゴミの掃除を?』バレージの声に嫌悪が乗った。『私に?』

「今の手札は非力でしてね」そのままドレイファス軍曹が区画開放の準備を進める。「何せ合法がモットーなんで。トロいの我慢して見守る趣味は?」

『……見返りは?』苦く、バレージ。

「ヘンダーソン大佐の吠え面」ドレイファス軍曹の声に悪い笑み。「見たくありません?」


「ヘンダーソン大佐!」ハリス中佐が声を荒げる。「何を企んでおいでか!?」

 “放送”、チャンネル001の向こうからヘンダーソン大佐が眼を細める。『心外だな。私はミス・ホワイトの身を案じているとも。第一――、』

 そこで、ヘンダーソン大佐が小さく高速言語。応じてウィンドウ表示の一つが強調表示。静止画像、中に大書き――『【電子介入】』。

『私が介入を指示したとして、』ヘンダーソン大佐が指を組みつつ、『自らこんな宣伝を?』

『語るに落ちたな』チャンネル035からキースが吐き捨て、『では、それが文字だけのコケ威しだとでも?』

『“K.H.”の手の者が仕組んだのなら、』鼻先一つ、ヘンダーソン大佐が嗤う。『自作自演そのものではないかね?』

「その裏で!」ハリス中佐が声を挟む。「我々の周囲、この区画のネットワークを封鎖しようとしましたな――“シンディ”!」

『事実です』ハリス中佐の懐、携帯端末の貧弱なスピーカから合成音声――“シンディ”。『当該区画のネットワークには、先ほどから強力なプロテクトが展開されています。現にこうして、私も艦内監視網から閉め出されています――完全に』


 ――さあ出てきなさい!

 “クラリス”はパッケージ“P-S”、その通信データ量と演算負荷のグラフを――跳ね上げる。突撃。まずは“放送”データ終端、送信アンテナ。“放送”データにマリィの姿。

 ――でないと、彼女がどうなるかしらね!

 “トーヴァルズ”艦内、データ回線。手繰る。マリィの姿。合成の跡。遡る。

 ――次!

 通信データ、チャンネル001。欺瞞を見抜く。暴く。合成跡を――発見。マーク。上流へ。

 ――次!

 そこで――ノイズ。パッケージ“P-S”の通信データ量がなお上がる。飽和。滞る。

 ――来たわね!

 パッケージ“P-S”、電子戦中枢からの演算結果にゴミ・データ。それが束。介入。敵意。その中に――、

 違和。ゴミ・データに意図の跡。ファイル名。共通項。文字列――“Charonカロン”。

 ――なめた真似を!

 転進。“クラリス”。パッケージ“P-S”の通信経路へ。

 ――逃がさない!


 バレージが、鼻を一つ鳴らした。『マシン・パワーを確保するのはいいが、どこへ届けるつもりだ?』

「“K.H.”の陣営へ」軌道エレヴェータ“クライトン”管制室、モニタの一角へドレイファス軍曹が指――今は無音でシンシアの姿を映すチャンネル035。「使いどころは、連中が一番心得てるでしょうよ。まあチャンネル001に介入したいってのは間違いないでしょうけど」

『直通の回線が?』バレージが回線網を軽くサーチ、『ああこれか――“ハンマ”中隊の?』

「そういうこと」ドレイファス軍曹から、人の悪い笑み。「帯域をありったけ解放します。ちょっとは助けになるんじゃありませんかね」


『これは失礼した』ヘンダーソン大佐は掌を見せつつ、『つまり、これまでは艦内監視網に侵入され放題だったということだな――“K.H.”の工作を許した、我々の落ち度というわけだ』

『“落ち度”?』キースがはっきり眉をひそめる。

『そう。つまり、』ヘンダーソン大佐の眼が嗤う。『“K.H.”と、その一党が、“放送”データを、加工し続けてきた――その証拠というわけだよ』

「言うに事欠いて!」ハリス中佐が声を上げた。

『何も私は、』ヘンダーソン大佐が大きく肩をすくめてみせる。『嘘やごまかしを口にしているわけではないよ』

「ハリス中佐」マリィが声を中佐へ寄せる。「先を急ぎましょう。キース達の負担を少しでも」

『外部からの電子介入を遮断して、』ヘンダーソン大佐が指を折る。『さらに“放送”すべき真実を守って――というわけだ』

 ハリス中佐が頷きをマリィへ示した。指招きを一つ残して床を蹴る。

『さて、』ヘンダーソン大佐が、頬に大きく、笑みを刻む。『これのどこに、一体どれほどの――咎があるのかね?』


 電子戦艦“トーヴァルズ”、基幹ネットワーク上。溢れるゴミ・データを“クラリス”が拾う。洗う。そのヘッダに――、

 ――送信元が?

 複数拾ったゴミ・データのサンプルでは、送信元の記録が一致しない。つまり――ただ動き回ってゴミ・データをばらまいているわけでは、ない。

 ――細工を?

 中継拠点。“クラリス”が取り付く。吸い出す。全量。ゴミ・データ。

 洗う。ヘッダ。送信元情報、その内容を――マッピング、艦内ネットワーク図へ輝点。2つ、3つ、どころではない。10を超え、100をも置き去り――、

 ――全部!?

 艦内ネットワーク図を、輝点が埋める。つまり相手は艦内の通信デヴァイス、ほぼことごとくを敵が制圧したか、さもなくば――、

 ――偽装、か。厄介ね。

 これほどの量のゴミ・データを生成し、なおかつ送信元を偽って送り出せるということは――相応のマシン・パワーを用いなければ実現できる芸当ではない。対する“クラリス”には正規権限、ただしパッケージ“P-S”を封じられたとあっては、しらみ潰しも現実的ではない。

 ――せめて通信帯域が……、

 気付く――帯域が圧迫されて、困る理由。パッケージ“P-S”、マシン・パワーの遠隔供給――ならば。

 ――なら、私が?

 “クラリス”が電子戦中枢へ乗り込めば、マシン・パワーを直に使える。ここは電子戦艦“トーヴァルズ”そのもの、マシン・パワーを遠隔供給する必要は――ない。

 進路を転じる。“クラリス”は電子戦中枢へ。


『その手で事実をねじ曲げておいて?』キースが眉をひそめた――チャンネル035。『“真実”が聞いてあきれるな』

「まあ、“外部からの介入を遮断”てのは」バカラック大尉がチャンネル001、ヘンダーソン大佐のバスト・アップへ鼻息を向けた。「要はミス・ホワイトの中継映像を都合よく加工しようって魂胆なわけだ――外部の眼を塞いだところで」

『“加工”とやらが気に食わないようだが、』当のチャンネル001、ヘンダーソン大佐には嘲笑の色。『その手で“事実”とやらを捏造しているのは――どこの、誰かな?』

「で、」ドレイファス軍曹は苦い顔で、「裏じゃまた火の手が上がってんでしょう? 指くわえて見てる義理はまあ、ありませんやね」


〈要請コード受信!〉オペレータが鋭く声。〈“クラリス”からです!〉

 “トーヴァルズ”電子戦指揮所、中央モニタ。ネットワーク図上、電子戦中枢にタグが立つ――『接続要請:直接』。

〈出向いてきたか〉電子戦チーフ席、クィネル大尉が指を鳴らす。〈いい判断だ。通信量がこれじゃな〉

 艦内ネットワーク図に重なるグラフ、各所の通信データ量――がほぼ天井。これではパッケージ“P-S”も何もない。

〈許可する〉背後、カッスラー大佐から即断。〈好き放題を敵に許すな〉

〈は〉クィネル大尉が承認コードを入力――完了、電子戦中枢が“クラリス”へ受諾信号。〈さあ“クラリス”、ぶちのめせ!〉


「火の手、か」顎を掻きつつバカラック大尉。「まあ連中、電子戦の一つも仕掛けてないってわけじゃあるまいが。なら“K.H.”がいま欲しいのは、何だ?」

「そりゃ、」ドレイファス軍曹がチャンネル001、マリィの中継映像へ眼を投げ、「マシン・パワーでしょう」

「かも知れんが、」バカラック大尉が掌を上げる。「こっちの手持ちを考えてもみろ。バカっ速いプロセッサがあるわけでもない」

『“捏造”、か』キースが鼻息一つ、『嘘と事実を都合よく使い分けておいてよく言う。それとも“キャサリン”が何か弱味でも?』

『弱味、とはまた興味深い』嘲りが、ヘンダーソン大佐の声に覗く。『天に唾を吐く時は、己の身を振り返ることもないと言うが』


 電子戦中枢、承認コード――受領。

 “クラリス”は“トーヴァルズ”の電子戦中枢へ。

 ――接続!

 マシン・パワーが伝わる。演算速度がかち上がる。艦内ネットワークのトラフィック、プロセッサ群の負荷状況、視える。感じる。手が届く。

 ネットワークにはゴミ・データ、中継機を飽和に追い込むデータ量。それが留まる気配も見せず溢れ出る。

 選ぶ。中継機。結節点――の一つ。中規模。アクセス。管理権限、最上位。

 ――見てなさいよ。暴き出してやるわ!


「つまり、」ドレイファス軍曹から苦く舌。「力になれない? こっちのマシン・パワーじゃ?」

「まあ待て、スピード勝負のゴリ押し局面じゃ――って話なだけだ」バカラック大尉が掌をかざす。「側面支援ができないとは決まってない。こっちの強みは何だ?」


 タスク報告コマンド。“クラリス”が打つ。最上位。まずは艦内基幹ネットワーク、中継機のプロセッサ負荷とその内訳――に、違和。

 タスクごとの負荷、その合計――がプロセッサ負荷に及ばない。つまり――、

 ――盗人猛々しい。

 その意味するところは裏タスク。しかしここまで欲をかいたら、隠れるも何もありはしない。

 ――なりふり構ってない、ってとこかしら?

 ログを洗う。まずは直近1時間を指定しスクロール――と、そこで。

 ブラック・アウト――。

 ――!?

 視えない。どころか無反応。違和を覚えて意識を引――こうとして。

 また闇。なお闇。さらに闇。増殖。拡がる。覆われる。

 艦内ネットワーク、反応ゼロ――全方位。

 ――遮断、された……!?


〈何!?〉クィネル大尉が声を尖らせた。

 電子戦指揮所の中央モニタ、ネットワーク図に黒く穴。その位置、電子戦中枢――に。

 警報――。

 反応途絶、演算異常、エラー発生、それが束。

〈ネットワークが――?〉オペレータが声のトーンを跳ね上げた。〈――中継機が!?〉


『と、いうところで出てこないというのも妙な話だな』キースの声に挑発の針。『ヘンダーソン大佐、“キャサリン”は本当に――そちらの味方か?』

「並列演算能力でしょう」ドレイファス軍曹が操作卓に指を走らせつつ、「宇宙港区画丸ごと味方に付けようってんです。分散処理ならそこらの艦艇にも……」

 ネットワーク図、タスク・リストに並べてプロセッサ数をポップ・アップ、万単位。

「てことはだ、」バカラック大尉が傾げて小首。「並列演算に向いてるのは?」

「解析?」眼を細めつつドレイファス軍曹。

『“味方”とは妙な言葉を』ヘンダーソン大佐が口の端、片方だけを吊り上げた。『“キャサリン”は“サラディン・ファイル”を解析し、真実を告げているに過ぎんよ。つまりは公正かつ中立――余計な色を付けねば物事を見られなくなったかね?』


「公正? 中立ですって?」“ゴダード”艦内通路、マリィが奥歯で毒を噛み潰す。「相変わらずの減らず口ね」

「その反感、」先を行くハリス中佐の声も表情を殺しているとは言いがたい。「これから直に向けるとするさ――だな?」

 ハリス中佐が声を前――通信スタジオ入口、ハッチを挟んで守備中の戦闘用宇宙服へ。視線の先で戦闘用宇宙服が傾げて小首、軽装甲ヘルメットの下から問い――をハリス中佐のさらに前、先導する陸戦隊員へ。

『ヘンダーソン大佐の指示だ』ハリス中佐の眼前、陸戦隊員が一つ手を振り、『取り次ぎを』

 守備の戦闘用宇宙服が頷き一つ、データ・リンクへ声を乗せた。『ヘンダーソン大佐。ミス・ホワイトとハリス中佐他1名、到着しました』




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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