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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第19章 魔窟
212/221

19-10.阻害 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

〈噴射炎!〉“シュタインベルク”戦闘指揮所、索敵手がサブ・モニタの一つへ向けて指。〈13番モニタです!!〉

 集まる。意識――その先に。

 主たる噴射炎は大きくない。むしろ小刻みな軌道修正、そこで噴き出る炎に差がさほどない――その対比こそが警戒を呼ぶ。

 デミル少佐が舌を打つ。〈揚陸ポッドか!〉

 モニタの映し出す方向表示は、艦隊からは外れている。つまりは先刻接舷を阻んだ一基――、

〈8番!〉声が重なる。

〈2番!〉さらに声。〈2、3基――いや4基!〉

 今度は前方――第6艦隊。

〈何だと……!?〉デミル少佐が眉をひそめた。〈さらに陸戦隊を? ここで!?〉

 電子戦艦の妨害波が絶えた中、フリゲートの射界へ飛び込んでくるなど無謀というにもほどがある。だが――、

〈見越しているのか!〉デミル少佐が軋らせて歯。〈さっきの最優先コードを!!〉

 そう――“シュタインベルク”が最優先コードで動きを封じられているという、その前提に立つならば。

〈くそ……索敵士!〉デミル少佐が歯を軋らせた。〈火器管制アクティヴ・サーチ! 用意!!〉

〈ですが受信系を稼働させたら!〉索敵士が言い淀む。〈外から最優先コードが……!〉

〈受信系、閉鎖継続!〉畳みかけ、デミル少佐。〈ハッタリでいい、敵の足を鈍らせろ!〉

〈敵が信じますかね?〉砲雷長席から疑問。

〈接舷するなら減速が要る!〉断言、デミル少佐。〈連中は主機関をこっちへ向ける! その瞬間にぶち込むぞ!!〉


 ――消えた?

 “クラリス”が舌打ちの気配を滲ませる。エアロックから敵の気配が失せていた。

 マリィが命を繋いだとなれば、敵の動きは変わって当然。ならば“クラリス”が矛先を向けるべきも、また。

 ――そうね、邪魔な“放送”を潰さなきゃ。

 切り替えた。感覚を向ける先――通信スタジオ横、調整室。


〈“キャス”が最優先コードを見付けたら、〉キースがタロスから操縦士を引きずり出しつつ、〈全力で解析と改修に当たらせる! オオシマ中尉、今のうちに通信中枢を黙らせろ――物理で!!〉

〈今やってる〉オオシマ中尉からは端的に、〈3分稼げ〉

〈“ネイ”!〉接舷ハッチ横からロジャー。〈掩護を!!〉

〈どっちみち、〉“ネイ”の声に不満の色。〈いま艦のデータ・リンクは盗れないわ!〉

〈シンシアを呼べ!〉キースが気絶中の操縦士を内壁へ押し出す。〈ネクロマンサ経由! 味方の短艇でもいい! とにかく敵を引っかき回せ! 連中、最優先コードに乗せて妨害してくるぞ!!〉

〈艦内の妨害波は敵さんが止めちまったから――か〉ロジャーは人の悪い笑みを含みつつ、〈携帯端末網でデータ・リンクは繋がるな。けどレーザ通信機のダメージは?〉

〈正面はな〉壁面上、キースが操縦士を拘束にかかる。〈敵のレーザは陰まで回ったわけじゃない。“ハンマ”中隊の短艇もミサイル艇も中継に使え!〉

〈ああ、そういうこと〉言う間に“ネイ”がコール、シンシアへ。

〈宇宙港もだ! 中継に使えるものは片っ端から巻き込め!〉キースが手を動かしつつ言を継ぐ。〈とにかく敵のデータ・リンクをジャムらせろ!!〉


〈敵のデータ・リンクを!?〉シンシアの語尾が跳ね上がる。〈無茶言いやがる!!〉

〈最優先コードを解析する間の話だ〉データ・リンク越しにロジャーが告げる。〈とにかく撹乱かまして第6艦隊の介入を防ぎてェ。できるか!?〉

〈お手軽にぶっこいてんじゃねェぞ!〉シンシアは噛み付きつつも思案顔。〈下手に繋いで最優先コードぶち込まれてみろ。このポッドが乗っ取られちまうじゃねェか!!〉

〈“ハンマ”中隊のリンクからでも?〉ロジャーが問いを置く。

〈そりゃ直接じゃねェけどな〉シンシアが舌を口の端へ覗かせる。〈手繰られたらぶち込まれるぜ〉

〈敵に邪魔させなきゃいいのね?〉そこへ落ち着いた声――“カロン”。

〈いい手でも?〉ヒューイが後部隔壁へタロスを張り付かせつつ、〈確かに“トリプルA”は電子戦艦に潜ってるが〉

〈怪我人は耐G姿勢を維持してて〉“カロン”が釘を刺す。〈加速ヴェクトルに正対してなきゃ、2G加速にだって耐えられないわよ〉

〈加速!?〉ロジャーから怪訝声。

〈戦力が要るだろうがよ、物理で!〉シンシアが打ち返す。〈こちとら軌道計算と医療用ナノ・マシンの設定詰めてる真っ最中だ。遊んでるわけじゃねェんだぞ!!〉

〈いいけど、〉“カロン”は声に落ち着き一つ、〈“トリプルA”がいま動けるとは限らないでしょ? 宇宙港にしたって、配信局は電子戦用の施設じゃないわ〉

〈いい手が?〉それだけシンシア。

〈敵の電子戦艦、〉“カロン”が指摘。〈いま妨害波を出してないでしょ? 理由はともかく、中身は“遊んでない”はずよね〉

〈要点は!?〉シンシアは苛立ちを隠さない。

〈私が仕掛けるのよ〉“カロン”が断言。〈電子戦艦に、宇宙港を経由して〉

〈できるんなら!〉ロジャーが食い付いた。

〈乗っ取れるわけじゃないわよ〉“カロン”が刺して釘。〈手持ちの時間も大してないわ。せいぜい引っかき回して時間を稼ぐだけ。“裏口”のコードを〉

〈いま必要なのァ時間だ〉ロジャーの声が色を成す。〈頼む〉

〈くそ、マリィを押さえられたら元も子もねェか〉シンシアが口の端を小さくなめつつ、“裏口”コードを送信。〈いいさ――頼んだぜ、“カロン”〉


『そういうわけで』“カロン”の声がスピーカから。『レーザ通信、回線ちょっと借りるわね』

「何の話だ?」軌道エレヴェータ“クライトン”管制室、室長席のバカラック大尉は怪訝顔。

『これは録音だから応答は期待しないで。念のため』“カロン”の声は揺らぎもみせず、『使い道は敵へ潜入するルートの一部、ってことにしといてちょうだい。これ以上は知らない方がお互いのためね』

「軍曹」バカラック大尉が声をオペレータ席、ドレイファス軍曹へ。「特定は?」

「無茶言わんで下さい」ドレイファス軍曹はむしろ楽しげに、「連中、そんなヘマしてくれると思います?」

「確認はしとけ」バカラック大尉は右の掌をひらつかせ、「尻尾が出てないならそれもいい」

「しかし何だってまた?」ドレイファス軍曹が走査卓へ指を走らせつつ、「そりゃ、“K.H.”の後押しは望むとこですが」

「まあ、こいつは推測だが」バカラック大尉がモニタ上、戦術マップへ眼を投げる。「艦隊の指揮権、こいつを外したいってんなら理解はできる」

「確認終了――異常なし」そこでドレイファス軍曹が顎を掻きつつ、「リスク分散ですかね?」

「だろうな」バカラック大尉が腕組み、「“放送”を見てても裏コードやら何やらが飛び交ってる――ってのは察しがつくからな。保険は多いに限るってとこだろう」

「保険、ね」ドレイファス軍曹が顎先、指を止めた。「てことは、手は多い方がいいってことになりますな」

「これ以上?」バカラック大尉は訝しげ。「何の支援を?」

「例の、」ドレイファス軍曹が声を潜める。「おっかないマフィアの幹部ですよ」


『こちらへ』宇宙空母“ゴダード”陸戦隊、戦闘用宇宙服が銃口越しに指招き。『通信スタジオへご案内します』

「銃で、脅して?」マリィの荒い息に棘。

『そちらの銃を』陸戦隊員が肩を一つすくめて見せて、『渡していただければ、その時は』

「交渉の余地はないな」ハリス中佐がライアット・ガン越し、「専門家の束を前に丸腰など」

『残念です』陸戦隊員はこだわる様子も見せず、『ではここに?』

「何が言いたいの?」マリィが声を低める。

『我々を疑っているのだろう?』汎用モニタ向こうからヘンダーソン大佐。『“放送”の改竄を恐れるなら、隙は小さい方がいい――違うかな?』

「自分から、細工を、仕掛けておいて?」ハーマン上等兵がマリィの肩を支えつつ、「しかも、その通信スタジオで」

『仕掛けたのは私ではないがね』ヘンダーソン大佐は掌を一つ振って、『細工を恐れるなら、私と同じカメラに収まるのも手だ――この映像さえ監視すればことは済む』

「なら、」マリィは声を低めて、「キース達にもアクセス権を」

『わざわざ?』ヘンダーソン大佐が首を振る。『細工を助長するのは主義ではないな。ではそこに留まるのが望みかね?』

「何を」ハリス中佐が眼を細める。「考えておいでかな?」

『“放送”の機会』薄く、ヘンダーソン大佐に笑みの色。『私一人が独占というのは、面白くなかろう?』

 重く――間。

「監視の眼は、」ハリス中佐が口を開く。「多いに越したことはない――ということですかな?」

『少なくとも、』ヘンダーソン大佐が小首を傾げ、『艦内監視網を挟むよりは、心配が減る』

「そしてあなたは、」ハリス中佐の声が硬い。「ミス・ホワイトの身柄を押さえておける――と?」

 語らず、ヘンダーソン大佐は肩をすくめた。

「艦長……!?」ハーマン上等兵が問いを向ける。

「賭け、だな」ハリス中佐の声が低い。「虎児を得んとするなら――か」

「罠じゃないの!」マリィの声もかすれる。

「考えがある」ハリス中佐は眼を陸戦隊員達へ向けたまま、声を上げた。「先導しろ――通信スタジオへ!」


 ――面倒な。

 “クラリス”がまた一つ、敵のプローブと思わしきプログラムを吹き飛ばす。

 第6艦隊“ゴダード”、通信スタジオ横――調整室。

 ――何よこの数は!?

 “放送”に関わるデータが集中する一点、即ち調整室に眼を付けたまではよかった。だが本命のチャンネル001、ヘンダーソン大佐の“放送”までをも遮るわけにはいかない。勢い走査は精密手術の様相を帯び、しかも囮や邪魔が絶える間もない。

 ――このままじゃ埒が明かないわね。だからって旗艦の中を分断して回るのも癪ってもんだわ。

 チャンネル001が映して推移――マリィとハリス中佐、それにハーマン上等兵の3人は陸戦隊に囲まれ通路を移動中。

 ――なら……ミス・ホワイトの中継を絶やさなければいいって話よね。

 艦内ネットワーク図を展開、“クラリス”がマリィ周辺の監視カメラをピック・アップ。自らデータ送出経路を設定して一言、

 ――じゃあ私が中継さえ繋いでおけば、カメラ周辺は洗い放題ってわけよね?


 ――介入?

 “ウィル”が警戒。

 通路のマリィ達を追う監視カメラ群、そのデータ伝送網へ――、

 正式コマンド。カメラへ接続、正面からの映像取得。裏から阻めるはずもなく、マリィの姿が艦内監視網へ。

 ――まずい!

 “ウィル”が監視映像を予備ルートへ。分散処理――と、そこへ。

 タスク報告コマンド。しかも束。立て続け。草の根も分けんばかりの力業。

 偽装ルートが一つ、暴かれ潰されまた一つ。

 ――こいつが狙いか!

 監視カメラ、映像データへクラッシャとプローブを次々と紛らせる。

 マリィの中継映像を絶やさぬのが約束ごとであるからには、敵が自前で中継を始めようと何ら非には当たらない。そして中継データの送出ルートを確保したなら、あとはそれ以外のルートを洗わぬ理由も流れて消える――それが“ウィル”を含めた“掃除”を意味していたとしても。

 ――間に合うか!?

 映像データに乗せたプローブ・プログラムが――消えた。

 クラッシャ発動。伝播。複数。侵蝕。干渉のくる、その元へ。

 乱れた。映像。すかさず繋ぐ。干渉を手繰る。遡る――索敵中枢。

 そこへ――横槍。絡む。乱される。干渉の跡が見る間に霞み――、

 ――くそ!

 ここで逃げればマリィが危ない。

 賭けた。展開――迷宮防壁。


 ――まずい!

 “イーサ”が見せて歯噛みの気配。

 マリィを映す監視カメラ群、そのデータ伝送ルートへ敵の走査が集中しつつある――のみならず。

 暗号変換パターンが次から次へと、中継機単位で書き換わる。“ウィル”からのデータ伝送ルートが狭まり、見る間に監視カメラが孤立していく。

 ――マリィの中継ぶった切る気か!?

 ネットワーク図を覆う赤――検索不能領域が、マリィの周囲を埋めていく。

 検知できたからと言って対抗できるとは限らない。敵の介入は正規コマンド、さらには膨大なマシン・パワーを背景に持つ力押し。

 ――くっそ、出番かよ!


 ――やっぱりね。

 “カロン”が侵入、“トーヴァルズ”。“裏口”の一機能、艦内データ通信量を垣間見る――全開。

 ――これなら何やっても撹乱にはなりそうだけど。

 クラッシャを撒く。艦内ネットワーク、今の今で手の届く中継ユニットへ。

 ――“トリプルA”には悪いけど、細かいことは任せるわよ。


〈敵噴射炎、変化!〉索敵士が声。〈13番モニタ! 揚陸ポッド、反転! 減速姿勢!!〉

 “シュタインベルク”戦闘指揮所、ひたすら艦外監視映像に食い付いていた面々も続く。

〈2番来ました!〉〈8番も!〉

〈よし今だ!〉艦長席からデミル少佐。〈アクティヴ・サーチ、打て!!〉


 ――かかった!

 “クラリス”が気配だけで笑む。意識の向く先、プローブ失探。迷宮防壁、その気配。その示す意味――追い詰めた。

 押し込む。走査。叩き込む。力任せにねじ伏せる。

 電子戦艦のマシン・パワー、そして何より管理権限。フルに使えば非正規の小細工ごとき、ものの数にも入らない――そのはずが。

 ――!

 警報表示。赤が差す。パッケージ“P-S”、異常検知。機能低下。

 ――あと少し!

 陰る。負荷グラフ。“トーヴァルズ”のマシン・パワー。何より敵の侵入、その事実。だが眼前、迷宮防壁は機能停止まで――あとわずか。

 腹を括る。注ぎ込む。マシン・パワーをありったけ――迷宮防壁へ。

 ――これで、最期!!


     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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