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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第3章 邂逅
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3-1.拮抗

『――次は、“グリソム・インポート”の資源統制準備法違反事件の続報です。

 惑星“テセウス”に本社を持つ“グリソム・インポート”社が、資源統制準備法への反対を表明するとして、レア・メタル“エフィニウム”を、連邦法に抵触する量およびルートで輸送しているこの事件。先ほど、空間警備隊が星系“カイロス”で、同社の輸送船“グリソム”ほか3隻を拿捕したと発表しました。

 これについて、“グリソム・インポート”側は、次のようにコメントしています。“資源統制は地球による支配的な物流・搾取を維持するための政策であり、――”……』


 ◇◇◇


 叫喚――。

 アルバート・テイラーの影武者であろう、スーツの男が割れた声を上げている。

 その手前、軽装甲スーツの男が、焦茶色の瞳を入り口――ジャックへと向けた。


「そいつは……!」


 銃声が一発、ジャックと影武者の声を断ち切った。影武者が床に転がる――その左胸から血が噴いた。

 傷痕の男――エリックが横へ跳んだ。ジャックの側へ弾を流し撃つ。

 ジャックも反対側へ床を蹴る――その先、足元に固い物音。

 反射的に音の主を蹴飛ばして、ジャックは更に跳んでいた。なりふり構わず、床へへばりつく。


 爆発――。


 ジャックが蹴飛ばした物は、手榴弾と知れた。衝撃波が駆け抜け、爆煙が視界を覆う。

 反撃に一連射を流し撃ち、ジャックは体勢を整える。


 そこへエリックが、別方向から現れた――至近。


 左の貫き手が飛んできた。反射的に右腕で受け流す。続いて右足がこちらの脚を払いにくる――ジャックはいなして、頭突きを一撃。相手がヘルメットをかぶり直しているのに、そこで気付いた。


 エリックはジャックの銃を掴む。ジャックも相手の右腕を掴み返した。ジャックが再び頭突き。更に頭突き。


 相手の体勢にわずかなほころび。ジャックは右手、SMG404の弾倉をリリースして手を放し、そのまま左膝を突き上げた。

 入った左膝を、エリックが掴む。ジャックと同様、彼もSMG595を手放していた。

 ジャックの身体が宙に浮きかける。


「くッ……!」


 咄嗟に右脚を相手の左脚、右手を相手のヘルメットに絡ませた。そのまま一瞬、動きが止まる。

 もろともに転倒――。

 互いに相手を組み敷こうと、横へ転がる。優位は定まらない。


 ◇


「こちら“チャーリィ”および“デルタ”、ミスタ・テイラーの部屋へ突入する!」

『こちら警備室、敵は催涙ガスを使用! 繰り返す、催涙ガスを使用!! ガス・マスクを着用せよ!』

「了解!」


 警備員たちは背後、消火栓へ踵を返した。簡易ガス・マスクを取り出して引き返す。


 ◇


 組み合った感触から、ジャックが気付いた。相手のヘルメット――気密が甘い。

 ジャックが腰へ手を伸ばす――その先にガス手榴弾HG47G。途端、エリックがジャックの上へ回った。


「ガス・マスク着用!」

 警備員の声が廊下から飛んできた。


 瞬間、相手の意識がわずかに逸れた。ジャックは左手、ガス手榴弾をベルトから引き抜く――ベルトにくくりつけた安全ピンの外れる、その感触。そのまま左手を放して相手のヘルメットをこじる。

 攻防が続く中、ジャックの側でHG47Gが催涙ガスを噴いた。エリックが眼を細める。


「突入ッ!」


 警備員の声。エリックがジャックを蹴り剥がす。

 ジャックは跳び起き、窓を目指した。

 窓に走って弾痕。ジャックは横跳びにデスクの陰へ。


〈畜生!〉


 腰のホルスタから拳銃――MP680ケルベロスを抜きつつ呟く、その間に窓の割れる音――エリックが脱出したものと窺えた。

 警備員の注意が逸れたであろうと見越して、ジャックはデスクから飛び出した。同時にガス手榴弾を投げつける。


「手榴弾!」

「構うな、効かん!」


 効かないのは百も承知、警備員たちの注意だけ引いて、ジャックは入り口、ドア脇の陰へ跳び込んだ。

 先頭、姿を見せかけた警備員の右手を掴み、ねじり上げて盾にする。

 警備員たちに動揺が兆した。機を逃さず見舞って10ミリ弾。


 1人目、2人目――最後、3人目がすかさず右へ転がった。弾丸が敵の頭上をかすめる。

 3人目からの反撃。銃弾は盾にした警備員のボディ・アーマに炸裂した。ジャックごとまとめて後ろへ吹き飛ぶ。


 ジャックはもんどり打って転がった。残った警備員へ眼を向ける。

 当の警備員が間を詰めた。銃撃は間に合わない――そこへ左足が蹴り込まれる。

 盾に取った警備員の身体を跳ねのけ、ジャックは右へ転がって足を避ける。両の脚を大きく振り回して相手を退がらせ、その勢いを利して身を起こす。


 今度はジャックが相手の懐へ飛び込んだ。


「!」


 相手の脚を右腕で受け流し、顎へと左の掌底を繰り出す。それがわずかにかわされた。

 勢いそのまま、頭突きを見舞う。怯みを見せたその隙に、ジャックは相手のガス・マスクをもぎ取った。

 相手の表情が後悔を経て悶絶のそれへと転落していく。その首筋へ銃把を見舞って、ジャックは3人目を片付けた。


「発見!」


 息をつく暇もなく、後続が押し寄せる。

 遠くパトカーのサイレンも聞こえてきた。


〈くそ……!〉


 ジャックはテイラーの部屋へ取って返すと、短機関銃を回収して窓を撃ち抜く。

 そのまま窓を破り、ジャックはその向こうへ跳んだ――海へと。


 ◇


『ゲスト・ハウスが襲撃を受けました』


 モニタの中から、秘書が緊張の面持ちで伝えた。アルバート・テイラーは寝間着姿のまま、勢い込んで問いをぶつけた。


「殺したか!?」

『いえ……』


 そこまで聞いて、テイラーはあからさまに舌を打った。秘書は恐縮してみせながら続ける。


『囮と警備員、合わせて3名が死亡、7名が負傷しました。現在、地元警察が現場検証を……』


 “サイモン・シティ”の外れ、普段の彼なら使わないような安アパートメント。彼が第一報を聞くまでに、ジャックが海に飛び込んでからたっぷり15分は経っていた。


「何のための警備だと思っとる!」

 思わず声が裏返る。

「ここまでやって、死人まで出して成果なしか!?」


『残念ながら……』


 予算がどうこうと口を挟まれなければ――とは、秘書は口に出さなかった。


「記録はどうした? 犯人の手がかりは!?」

『当時、警備システムはダウンしておりまして、その……』

「この役立たずが!!」


 一方的に、テイラーは通話を切った。同時に顔を曇らせ、ベッドに倒れ込む。


「くそッ、くそッ! くそッ!!」

 ひとしきり罵声を口に上らせた後、彼は今度は頭を抱えた。


「……ハドソンのヤツも当てにならん。身内も役に立たんときた」

 憂鬱な呟きを、テイラーは誰に向けるでもなく口にした。

「次はどうする? 次は……?」


 ◇


〈くそッ!〉


 黒い軽装甲スーツ姿のジャックは、小型水中スクータを抱えて波間を陸へ歩いていた。


 “サイモン・シティ”北郊外。テイラーのゲスト・ハウスから捜索の眼を逃れ、“サイモン・シティ”北西沖を大きく迂回した彼は、呼び寄せたフロート・バイク“ヒューイ”との合流地点へ足を向けている。


〈くそッ!〉

 もう何度目かも判然としない呪詛を、彼は口に上らせた。


〈運が良かったわね〉

 “キャス”が得意げな声を骨振動スピーカへ乗せた。

〈あの時私が警備システムをダウンさせてなきゃ、今頃あなた指名手配中よ〉


〈今そうなってない保証がどこにある〉

〈実際載ってないもの。手配者リストにも、テイラーんとこの記録にも〉


 “キャス”の声には確信の響き。


〈じゃ、近いうちになるってことか〉


 ジャックの声に安堵はない。“キャス”の言う通り、運が良かっただけに過ぎない。

 この事態を演出したのが誰であれ、いつでもジャックを指名手配犯に仕立て上げられる――そのことに何ら変わりはない。あの傷跡の男、あの顔一つ使いさえすれば。

 そこでジャックは思い至った――あの傷痕の顔が持つ、もう一つの意味。


〈……畜生! あの野郎、こっちの狙いまで全部見通してやがるってことか!〉


 ジャックがこれまで姿を隠していたこと、旧“ブレイド”中隊の生き残りを狙っていること――全て見通している人間がいなければ、この事態の説明はつかない。


 このままでは、いずれ相手の思惑に嵌まる。ジャックは天を仰いだ。


「時間がない……攻め切れるか!?」






著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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