19-2.排出 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.
『実績、か』キースに苦笑――あからさま。
フリゲート“オサナイ”、B-5区画。封鎖を意味して赤色灯。
『“サラディン・ファイル”を公開してなきゃ、』さらに言を重ねてキース。『その“独立”も今頃どうなってたろうな』
『大佐とタメ張ってるつもりか?』疑わしげにツァイユー上等兵。
『“前提”だ』キースに断言。『そっちに言葉を合わせるならな』
『ああそうかい』ツァイユー上等兵に皮肉の声。『あんたがいなきゃ、大佐の独立もあり得ねェってわけか』
『話が早いな』キースの声はあくまで涼しい。『邪魔さえしてくれなきゃいい。俺達はさっさと出て行く』
『どうやって?』ツァイユー上等兵に軽く嘲笑。
『隔壁の向こうに味方がいる』キースは歯牙にもかけぬ風で、『連絡を取るさ』
『隔壁の?』フォーク軍曹が親指を向けて艦首側。
『陸戦隊だ』ロジャーから指一本。『一斉に取り付いたから制圧ァ時間の問題だぜ』
『なら、手が……ある』フォーク軍曹が掲げて右手。『救難ポッドとの通信が。“放送”の受信に使っているヤツが』
『通信手段は?』ガードナー少佐が問いを投げる。
『救難ポッドの遠隔制御機構を』応じてフォーク軍曹。『ポッド格納スペースの制御盤から直接』
『今も?』キースが問いを衝き入れる。『大佐側は対空レーザでスウィープをかけたはずだ。下手すりゃ撃墜、良くても発信機は死んでる可能性が高い』
そこで肩越し、フォーク軍曹が投げて問い。『ミス・ホワイトの“放送”は!?』
『受信中!』やや離れてナガラ兵長。
『放出から時間が経ってる』フォーク軍曹がキースへ声。『スウィープのエリアからはもう離脱していたと考えていいだろう』
キースがフォーク軍曹へ頷きかけて、〈案内してくれ。それから補助電源に要員を〉
『電源に?』ガードナー少佐が訝しむ。
『えげつねェ話だ』ロジャーの笑みが硬さを帯びた。『ま、無駄骨に終わるのを祈るとするさ』
唸る――振動、重い音。
「排気ポンプが!?」ハリス中佐が背後へ眼。「まさか――“キャサリン”か!?」
『“キャサリン”が!?』中佐の背後、陸戦隊にも怪訝声。
「止めろ!」声を荒げてハリス中佐。「貴官ら、ミス・ホワイトを死なせる気か!?」
一拍の――間。
「もういい!」ハリス中佐が動く。「貴官ら二度と大義を語るな!!」
跳び付いた。エアロック。制御端末、非常停止スイッチ――、
止まらない――。
「電子戦担当!」一喝、ハリス中佐。「正気なら止めろ!!」
跳ねるように動いた陸戦隊員が――一人。
〈好きにしろ、“キャサリン”〉オオシマ中尉が“ハンマ”中隊へ指3本。〈カウント3!〉
〈あら無視?〉“キャサリン”に苦笑。〈随分と甘く見られたものね〉
〈貴様は物理に干渉できん〉受け流してオオシマ中尉。〈下手を打てば艦橋の連中を巻き込むぞ。せいぜい大人しくしているんだな――3!〉
〈人質のつもり?〉
〈つもりどころか人質だ――2!〉オオシマ中尉の声が低い。〈ただし貴様を相手取るとは限らん――今!!〉
エアロック内部、マリィはハッチへ跳び付いた。
耳が鳴る。目眩が襲う。吐き気が胸郭をせり上がる。
ハッチを叩く。叩く。叩く――間にも息苦しさが募り出す。
ハッチ横、操作端末を一瞥。見る間に気圧の表示が下がり――、
輪状の火薬が“オサナイ”艦橋ハッチ脇、保護殻の2箇所を灼き抜く。耐熱性に優れる保護殻と言えど、成型炸薬の衝撃にまでは耐えられない。
〈!?〉
“キャサリン”の不意を衝いて“ハンマ”中隊が保護殻内部へ閃光衝撃手榴弾。内部から銃撃――それが束。
同時にオオシマ中尉の聴覚へノイズ――無視。
起爆――。
閃光。爆音。衝撃波。本能を衝く警戒感が、判断力に飽和を招く。
〈突入!〉
号令一下、“ハンマ”中隊が艦橋へ滑り入る。身体に刻んだ反応速度で銃を手にした標的を選ぶ。そのまま一撃、軟体衝撃弾で打ち倒す。
発見――一撃。掩護――一撃。前進――一撃。立ち直る隙を与えず、なおかつ標的を違えもせずに、陸戦小隊を“ハンマ”中隊は制圧してのけた。
〈随分な真似してくれるじゃない〉不機嫌に“キャサリン”。〈あなた達、ナヴィゲータを見捨て……〉
構わず、オオシマ中尉は艦長席、その陰へ。
〈艦長?〉
答えも待たずに腰のホルスタからP45コマンドー。
〈“ハンマ”中隊、オオシマ中尉だ。艦に投降勧告を〉
〈悪党ね〉“キャサリン”は苦笑一つ、〈じゃ、いいものを見せてあげる〉
艦橋のメイン・モニタが切り替わる。簡素な表示を大映し、ただし赤字と警戒色。強制減圧中、現在――0.85気圧。
「貴官!」ハリス中佐が傍ら、陸戦隊員へ。「電子戦の経験は!?」
『いえ、』陸戦隊員が携帯端末からケーブル、『自分は突撃担当で。電子戦担当は小隊長と』
「指揮所か!?」鋭くハリス中佐。「呼べ!!」
〈カリョ少尉!〉ケーブルを端末に繋ぐ陸戦隊員に高速言語。〈ミス・ホワイトを!!〉
息が上がる。視界が暗くなる。腕の力が萎えていく。
マリィはハッチにただすがる。
吸えども吸えども息が足りない。頭痛が増し、吐き気が胸を満たし、悪寒が背筋を這い上がる。
再びハッチ横の端末へ眼。
気圧表示の変動が――止まっていた。0.80気圧。
〈カリョ少尉!!〉データ・リンク越し、エアロック脇から再び声。〈ミス・ホワイトを!!〉
〈自業自得だ〉一蹴してカリョ少尉。〈こちらが止める義理はない〉
〈ですが!〉声が食い下がる。〈これが“放送”に乗ったら!?〉
〈乗せなければいい〉一言、カリョ少尉が斬って捨てる。〈そこで粘る方がむしろ危険だ〉
〈ならば、〉声に嫌悪の色。〈敵に回しますか? ――宇宙船乗りを、しかも全員〉
〈それは、〉カリョ少尉が声を低める。〈脅しのつもりか?〉
〈忠告ですよ〉声に意地。〈ヘンダーソン大佐を守るための〉
〈では仕方ない〉鼻息一つ、カリョ少尉。
〈では……!〉
〈貴様とハリス中佐を〉カリョ少尉が冷たく告げる。〈拘束する〉
〈“Qグレーダ”!〉強襲揚陸艦“ウィリアムズ”、揚陸戦闘指揮所に揚陸ポッドからの報告が相次ぐ。
〈こちら“キリマンジャロ・イタリアン”、出撃用意よし!〉〈こちら“コロンビア・フレンチ”、出撃用意よし!〉
〈命令を待つな!〉陸戦大隊長ゲイツ中佐が打ち返す。〈出撃――即時!!〉
〈了解!〉弾かれたように応答。〈“キリマンジャロ・イタリアン”、出撃!!〉
〈“キャス”、〉キースが高速言語に切り替えて、〈データ・リンクを再構築。チャンネルC095〉
“オサナイ”B-5区画。空になった救難ポッド格納スペース、その手前。
〈あ、〉“キャス”に苦い声。〈ちょっとヤバそうね、見える?〉
キースの視界にウィンドウがポップ・アップ、“ハンマ”中隊のデータ・リンクにホワイト・ノイズただ一色。
〈やられた?〉ロジャーに怪訝声。〈“ハンマ”中隊が?〉
〈“キャス”、〉わずかに考えてキース。〈艦のデータ・リンクへ潜れ。艦橋の状況を〉
〈やってるわ〉
“キャス”が示して艦内ネットワーク図、艦首側のレーザ通信機から優先的に重心部――艦橋ブロックへ緑が伸びる。
〈監視映像、取れたわ〉
と――。
〈端末画面?〉ギャラガー軍曹に怪訝声。
〈エアロックのね〉言い添えて“キャサリン”。〈場所は“ゴダード”某所、中身はお察し〉
〈聞こえんな〉一蹴、オオシマ中尉。〈艦長、艦橋内の映像と音声を公開。今すぐ〉
〈短気は損気よ〉“キャサリン”はことさら大きく構えて、〈“K.H.”は何て言うかしら?〉
オオシマ中尉がコマンドーから起こして撃鉄。〈艦長?〉
〈交渉はしない主義ってわけ?〉“キャサリン”にも動じた風はない。〈また解りやすいこと〉
〈拒否したら〉艦長席の陰からノーラン少佐。〈殺すつもりかね?〉
〈殺さない理由が?〉冷たくオオシマ中尉。〈誰も見ていないなら好き放題だ。違いますかな?〉
〈私を殺したところで、〉ノーラン少佐が片頬を歪めて、〈エアロックの中身とは釣り合うまい?〉
〈ロジャー!〉キースが艦橋の監視映像を注視、〈“ネイ”を! “キャス”じゃ間に合わん!!〉
〈決めるのは私だ〉即断、オオシマ中尉。〈何か勘違いしているようだが?〉
銃口の先、ノーラン少佐の眼が揺らぐ。
〈無茶苦茶ね〉“キャサリン”に苦笑。〈あなた、“K.H.”に殺されるわよ?〉
〈馬鹿馬鹿しい〉鼻で笑ってオオシマ中尉。〈ヤツが怖くてここにいるとでも?〉
〈じゃ、どうしてここに?〉“キャサリン”。
〈決まっている〉オオシマ中尉が片頬を釣り上げ、〈己の大義を貫くためだ〉
〈エアロックの中身を放り出して?〉“キャサリン”の声が皮肉に歪む。
〈甘いな〉オオシマ中尉に嘲弄の色。〈需要と供給を掴みもせずに、取り引きが成立するとでも?〉
〈あらそう、〉“キャサリン”が鼻白む。〈じゃ、甘い判断とやらを見せてあげる〉
そしてメイン・モニタ、気圧表示が――消えた。
〈やったか!?〉ロジャーの視界、監視映像が途絶した。
ネットワーク図に次々とタグ、制圧の緑を押し拡げて“キャス”は通信中枢へ。
〈“キャス”!〉キースに問い。〈あの気圧データ、手繰れるか!?〉
〈今やってるわよ!〉“キャス”に棘。〈ママの張ったリンクだからね、きっついトラップ覚悟して!!〉
〈あら、〉と、そこへ。〈よく解ってるじゃない〉
歯軋り。キース。抜いて銃口、P45コマンドー。〈“キャサリン”!〉
〈シンシア!〉シンシアの聴覚へ“ネイ”の声。〈マリィを!!〉
シンシアとヒューイを乗せた揚陸ポッドは第6艦隊へ向かって加速を終了したところ、一方で電子介入も継続している。
今しもシンシアの視界、電子マップ上では“ウィル”が解析作業を進めている。“トリプルA”のもたらした裏コードと揚陸ポッドのファームウェア、両面から第6艦隊の“裏口”を解析中。
〈“ウィル”!〉シンシアの声に色。〈先行!!〉
〈引き受けた!〉“ウィル”の気配が消える。
シンシアは続けて“放送”へ、〈“トリプルA”! リンクを!!〉
『思い切ったね』即応、“トリプルA”。
〈時間がねェ!〉シンシアが打ち返す。〈今の“ウィル”じゃ“キャサリン”にゃ勝てねェ、“イーサ”を呼んでくれ――早く!!〉
頭上に再び、音――。
見上げるマリィが唇を噛む。排気ポンプの作動音。
「くそ!」ハーマン上等兵が腰のツール・ボックスを開けていた。
眼を転じる。操作端末に表示――0.75気圧。
「見ているんでしょう!?」マリィが端末へ声。「“キャサリン”!!」
突入。“ウィル”。“ゴダード”へ。
シンシアの揚陸ポッドで解析した“裏口”、それを駆使して抜け穴へ。
打ち込む。プローブ。極小の探査プログラム。罠の兆候、悪意の痕跡、その配置。
時間はない。肚をくくる。プローブの一つに突入命令、電脳防壁をくぐらせ――生存信号。
後を追う。突破。まず一つ。
防壁内部でプローブ展開、“裏口”と侵入経路をマッピング。船務中枢から乗員の携帯端末、位置情報を拾い出す――その中に。
エアロック。第1格納庫、その傍らに陸戦隊。
――こいつか!
手繰る。艦内。センサ回線。第一格納庫横、エアロックの操作端末へ――さしかかったところで。
暗転。プローブの反応消失。
――トラップか!
そこで、これ見よがしにテキスト・データ。表題に踊る「残念でした」、ただ一語。
――“キャサリン”!?
直後。電力が波打ち――瞬断。
*****
本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。
投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)
無断転載は固く禁じます。
Reproduction is prohibited.
Unauthorized reproduction prohibited.
(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.
*****




