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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第19章 魔窟
203/221

19-1.接舷 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

 フリゲート“オサナイ”、戦闘指揮所の空気が凍る。

〈対空防御!〉ノーラン少佐の声が青い。

〈間に合いません!〉オペレータの声に悲鳴の色。〈近すぎます!!〉

 小さく、しかし確かな振動――それが1つ、2つに留まらない。

〈D-5、C-5――接舷反応!〉

 さらに振動、それが立て続け。

〈E-5、B-4、D-3、……接舷反応さらに多数! ――B-5にも敵影!〉

〈閉鎖区画か!〉ノーラン少佐が舌を打つ。〈陸戦小隊を第5区画へ! 展開はボイエン小隊長に一任、敵迎撃を最優先!!〉


〈“キャス”、〉“ネクロマンサ000”、操縦席からキースが躍り出て着艦デッキ。〈エアロックを!〉

 言う間に取り付きエアロック、懐からのケーブルをハッチ横の端末へ。

〈ケチなこと言ってんじゃないわよ〉不敵に応じて“キャス”の声。〈この艦、第3艦隊の所属でしょ? 丸ごと乗っ取りに行かなくてどうすんのよ?〉

〈頼むぜ“キャス”〉ロジャーが続く。〈こちとら生身だ。レーザのスウィープ一発で焼き上がっちまう〉

〈焼けちゃえば?〉一蹴。〈まあ、ドジ踏むつもりもないけど〉

 侵入。セキュリティを難なく突破――したかに見えて。

〈何よこれ?〉“キャス”に疑問符。

〈隔壁が?〉キースの視界に艦内ネットワーク――が一部だけ。

〈何だこりゃ〉ロジャーも声をひそめて、〈区画ごと閉鎖でもされたのか?〉

〈多分ビンゴだ〉キースが即答。〈酸素から電力まで全部断ってやがるな、これは〉

〈電力も?〉ロジャーに怪訝。〈エアロックもか?〉

〈予備電源は生きてるはずだ〉キースが打ち返す。〈“キャス”、こじ開けろ〉


〈ギャラガー軍曹!〉エアロック前、オオシマ中尉が鋭く指示。〈最優先コード!!〉

 ギャラガー軍曹がケーブルを隔壁の操作端末へ。〈“キンジィ”、ぶち込め!!〉

 第3艦隊最優先コード、しかも“キャス”の手による改良版――作動ランプが緑へ転じた。

〈成功!〉“キンジィ”の声と同時、視覚の戦術マップへ“オサナイ”艦内図が展開する。

〈“ハンマ”中隊各員へ!〉データ・リンクへオオシマ中尉。〈ここから先は我々の庭だ! 懐に入り込んでねじ伏せろ! これよりデータ・リンク展開、各班自律行動! ――突入!!〉


 大佐の片頬に苦く笑み。

〈第6艦隊へ、こちらヘンダーソン大佐〉戦術マップへ意識を投げつつ大佐が告げる。〈艦砲、スウィープ射撃。目標“オサナイ”近傍宙域、敵のセンサを灼き潰せ――即時〉


〈エアロック、突破されました!〉オペレータに悲鳴の色。〈C-5、D-5、いえ、これは……!!〉

 言う間にも艦内図、エアロックに緊急解放の警戒色が増えていく。

〈……艦隊最優先コードです!〉

〈“キャサリン”の手を見透かしてきたか……!〉“オサナイ”陸戦小隊長ウィラード・ボイエン少尉が奥歯を苦く軋らせる。〈各分隊、艦橋と主機関の防衛を最優先! A-3区画へ集結!!〉

〈では敵の侵入を……!?〉副長に棘。

〈戦力差を考えろ!〉一蹴。〈ここが最後の砦じゃない。とにかく時間を稼ぎ出せ! ――艦長、意見具申します!!〉

〈聴こう〉ノーラン少佐が頷きを返す。〈いい手が?〉

〈陸戦要員には陸戦要員です。 強襲揚陸艦の戦力を!〉

〈意見を承諾〉ノーラン少佐に即答。〈艦隊司令部へ支援要請!〉


『あら、』“キャサリン”の声に笑みの息。『これで出し抜いたつもり?』

「何の話よ?」マリィが抑えた声を突き返す。

 宇宙空母“ゴダード”、第1格納庫を前にしたエアロック。ここに閉じ込められたからには生殺与奪を握られたに等しい。

『教えてあげましょうか』余裕をたたえて“キャサリン”。『彼が来たわよ』

 マリィの相貌に――むしろ蒼白。「何をする気!?」

『内緒』即答。『安心なさいな、歓迎してあげるわ』

「待っ……!」

 マリィが止める間もなく、“キャサリン”はその場から気配を消した。


〈認証突破〉手こずる風もなく“キャス”。〈あいつら、まさか私達が来るのを見越して区画ごと?〉

 エアロックのハッチが開く――なり、キースとロジャーが中へ銃口を巡らせる。敵影なし。そのまま中へ。背後へ手招き。

〈ああくそ、〉ガードナー少佐がエアロック内へ。〈これは区画ごと閉鎖されてるな〉

〈少佐もそう考えるか〉キースがハッチを閉鎖。エアロック起動、橙色灯の中で気圧計の表示が動く。

〈俺達に対応したにしちゃ早すぎる〉キースが考えを巡らせる。

〈てことは――〉ロジャーが小首を傾げて、〈マリィ、か?〉

〈だろうな〉キースに頷き。〈救難ポッドを出すまでに何か手を打ってるはずだ〉

〈ミス・ホワイトの味方が?〉ガードナー少佐に問い。

〈恐らく〉キースに即答。〈誰か説得したろうな〉

〈話が通じるに越したこたァねェわな〉ロジャーが肩を一つすくめて、〈ただし時間に余裕はねェぜ〉

 そこで内部に緑色灯。

〈行くぞ〉キースが手を内部ハッチへ。〈とにかく隔壁を確かめる〉


 ヘンダーソン大佐の視界に戦術マップ、“オサナイ”に緊急要請タグが立つ。

 曰く――敵陸戦隊より強襲。強襲揚陸艦の支援を請う。

〈強襲揚陸艦“ウィリアムズ”、陸戦隊に緊急出撃命令。制圧目標“オサナイ”、全兵装を使用許可〉


〈クリア!〉〈クリア!〉〈クリア!〉

 “ハンマ”中隊のデータ・リンクに報告が上がる。オオシマ中尉の視覚、中隊員の生体データ、その総括――異常なし。

〈いない!?〉ギャラガー軍曹に怪訝声。

〈罠――を張る時間はないはずだ〉オオシマ中尉が中隊のデータへ眼を流しつつ、〈敵は多くとも1個小隊と見る。制圧速度を最優先! 艦橋を陥とすぞ――前進!!〉


 対空レーザが宙を薙ぐ。“オサナイ”近傍宙域をスウィープ照射、味方ごと装甲上のセンサ類を灼き払う。

〈パッシヴ・サーチに感!〉オペレータの声とともに戦術マップ、アクティヴ・サーチの探知圏内へ艦影の群れが上書きされた。〈第3艦隊を確認――捕捉!!〉

〈“ウィリアムズ”陸戦隊、緊急出撃用意!〉

〈“オサナイ”へ、こちらヘンダーソン大佐〉淡然と大佐。〈要請を受諾。時間を稼げ〉


 “オサナイ”B-5区画、エアロック艦内側ハッチの、その向こう。

 キースらの眼に映ったのは、格納庫――の中から血走った眼、眼、眼――。

〈何だ!?〉

 思わずロジャーが銃口を向けかけ――留まった。相手の手に武器がない。

『待った!』キースらの右手、集団の中から非常灯の赤に戦闘用宇宙服。『どうか!!』

 一人、両手を掲げ――敵意なし。『話を聴いていただきたい!!』

 キースがロジャーへ左の掌、側からロジャーが横目で問い。

『誰だ?』キースから戦闘用宇宙服へ声。

『ジョナサン・フォーク軍曹』即答。『フリゲート“オサナイ”陸戦隊第1分隊長!』

『分隊長?』疑問の声はロジャーから。『第1分隊だって?』

 第1を名乗るからには相応の実力者を集めたものと見てまず間違いない。

『ミス・マリィと接触しました!』フォーク軍曹が打ち返す。『彼女の脱出に手を貸したのは我々です!!』

 キースとロジャーが、眼を見合わせた。


〈A-3A通路、クリア!〉

〈A-3C通路、クリア!〉

〈艦橋突入用意! ギャラガー軍曹、〉オオシマ中尉から問い。〈ヘインズ達の反応は?〉

〈相変わらずです〉端的に回答。〈艦橋から区画を解放した方が早いでしょう〉

〈突入用意!〉オオシマ中尉の指示が飛ぶ。〈艦橋を押さえる!!〉

〈はい残念〉そこへ嘲弄――“キャサリン”。〈おイタはここまでよ〉


『フォーク軍曹、そいつはありがたいが』キースの声に油断はない。『どうして俺達がマリィの味方だと?』

『“放送”は聴きました』フォーク軍曹の声が低まる。『キース・ヘインズ、我々はあなたを支持する』

『手前!』こちらは左手、ウー・ツァイユー上等兵。『何勝手に決めてやがる!!』

『彼女は?』キースが片眉を踊らせた。

『大佐の支持者』告げて、フォーク軍曹が肩越しに声を投げる。『訂正するなら今のうちだぞ!!』

『ちょっと待て』背後からガードナー少佐。『この閉鎖区画で“放送”を?』

 視覚、艦内ネットワーク図は外部との断絶を示して赤。

『打ち出した救難ポッドを使って』即答、フォーク軍曹。

『俺達は組織を離れた。敬礼も敬語も要らん』キースから問い。『味方は?』

『区画内の、』応じてフォーク軍曹。『およそ半数』


「……行ったか……?」ハーマン上等兵の呟きがエアロックの内壁を打つ。

「何か手が?」端的にマリィの問い。

「ここの制御を」ハーマン上等兵が指して操作盤。「手動系に切り替えるんです」

「できるの?」

「“キャサリン”の反応が遅ければ、」ハーマン上等兵の唇から舌。「あるいは」

「速かったら?」

「窒息でしょうね」ハーマン上等兵が苦笑――しようとして失敗した。「排気ポンプがフル回転すれば、ものの2秒で真空です」

「いいわ」決然とマリィ。「このままじゃいずれ“キャサリン”の手の中よ――やって」


 牽制の一撃――がハリス中佐の横に圧を残した。しかも複数。

『エアロックは“キャサリン”が押さえた!』陸戦隊から声が飛ぶ。『投降されたい!』

 ハリス中佐が歯を軋らせる。

『これ以上の抵抗は、』続けて陸戦隊。『ミス・ホワイトのためにもなりませんぞ!』

 眼を巡らせる。ハリス中佐を制圧にきた陸戦隊は、すでに各方向の通路から銃口を覗かせている。これ以上の時間は稼ぐに稼げない。

 引き鉄から指を――外す。構えを解いて、ライアット・ガンから手を離す。

『両手を頭の後ろへ!』鋭く命令。『スコット・ハリス中佐、これより貴官を拘束する!』

 そこで思わせぶりに――悪い笑み。「これで終わりだと思うかね?」

 瞬間、空気が張り詰めた。周囲の銃口が殺気を帯びる。

「抵抗はしない。だが大人しく捕まるつもりもない」そこでハリス中佐は一段低く、「――私をヘンダーソン大佐の元へ連れていけ」


〈“キャサリン”……!〉ギャラガー軍曹に戦慄が兆す。

〈“放送”の小細工はあきらめたのか?〉オオシマ中尉の声に挑発。

〈ご心配、どうも〉“キャサリン”の余裕は揺るがない。〈邪魔がなければ“本物”に任せておけば済む話だわ――違う?〉

 ハッチ脇の操作端末、これ見よがしに“放送”がモニタへ割り込んだ。“本物”マリィ・ホワイトのバスト・アップ。

『“K.H.”側の介入は今も続いています』“本物”のマリィは柔らかな細面に憂いを乗せて、『平和的解決を望むなら……』

〈“平和的解決”が聞いてあきれる〉オオシマ中尉が鼻を鳴らす。〈さんざ手を出しておいて語る科白か〉

〈さんざ横槍を入れておいて〉“キャサリン”は声も軽やかに、〈知らん顔する話でもないわよね〉

〈平行線だな〉不敵にオオシマ中尉。

〈そろそろね〉不意に“キャサリン”。〈焦らない?〉

〈……何の話だ?〉オオシマ中尉が片眉を踊らせる。

〈あなた達の飽和クラッシャよ〉衝き入れて“キャサリン”。〈同じ手がそうそう通用するとでも?〉


『半数?』ロジャーが眉をしかめる。

『睨み合いで』フォーク軍曹が肩をすくめた。『残りはご覧の通り。ヘンダーソン大佐側に付いてる』

『睨み合いってか』ロジャーが肩をすくめる。『ありがたくて涙が出るね』

『“放送”を観た上での意志なんだな?』キースが確かめる。

『実績だよ』ツァイユー上等兵が打ち返す。『あんた、連邦の侵攻ルートをぶった切った以上の実績を?』


『大佐の元へ?』陸戦隊員に怪訝声。『何を理由に?』

「貴官に教える必要が?」不敵にハリス中佐。

『結構、』陸戦隊員が左の掌をひらつかせた。『いずれ危険人物をお連れするわけにはいきませんからな』

「危険人物か」ハリス中佐がすくめて肩。「これは出世したものだな」

『連行し……』と合図を下しかけた、そこへ。

「先の電子攻撃、」ハリス中佐が言を重ねる。「私に届け物があった――と言えば考えを改めるかね?」


 ハーマン上等兵が操作盤に飛び付いた。

「非常停止!」

 警戒色に囲まれたシールドを破って、非常停止スイッチへ親指を押し込む――手応え。

「これで……!」そこまででハーマン上等兵が息を呑む。「……反応しない!?」

 そこで――視界を染めて赤色灯。

 加えてモニタのメッセージに警戒色――『検知:異常操作』。

 マリィが声を抑えつつ、「何が?」

「回路に!」ハーマン上等兵が舌を打つ。「安全装置に細工が!!」

 そこで頭上から低く――機械音。

 ハーマン上等兵が眼を天井へ。「……排気ポンプが!!」




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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