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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第18章 反攻
200/221

18-12.破孔 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

 空気を裂く――警報。

 甲高く――金属音。

 ヘンダーソン大佐から鋭く眼。マリィの胸元、ケルベロス。

『漏水警報!』スピーカから警告が迸る。『漏水警報! 空気循環、緊急停止!!』

 大佐の眉が跳ねる。横眼を飛ばす。通気口にシャッタ――と弾痕一つ。


 金属音を確かに聞いた。

 マリィは正面、ヘンダーソン大佐――が横へ投げて眼。

 辿る。側壁――違和感。通気口にシャッタ――と弾痕。

「大佐!!」

 理解した。その悪意。その狙い。

 受け止めた大佐の、その眼に――確信の色。


 耳に警報。

 金属の悲鳴を確かに聞いた。

 ハリス中佐が視覚の片隅、“放送”へと意識を振り向ける。そこに映る異常が――ない。

 悟る――干渉。記憶にある限り、それが可能なのは――“キャサリン”。

 だがハリス中佐がその名を声に出すより早く、通信スタジオのハッチが――開く。


〈介入!〉“キャス”が視覚、“放送”ウィンドウに重ねて警告の赤。〈来たわ、ママよ!!〉

 ロジャーに舌打ち。〈くそ、お姫様を押さえる気か!〉

〈“トリプルA”は!?〉ガードナー少佐の声に疑問符。〈さっきの手は効いてないのか?〉

〈あれは撤退を誘う手だ――“キャス”!〉すぐさまキース。〈“キャサリン”に妨害だ、吸収衝動にぶち込んだクラッシャがあったな!?〉

〈あれを!?〉言いつつ“キャス”がクラッシャをロード。〈どうやってママにぶち込むってのよ!?〉

〈シンシアだ!〉ロジャーが指を戦術マップ、揚陸ポッドからの“放送”ウィンドウへ。〈あいつのポッドを拠点に!!〉

〈“放送”に!?〉“ネイ”が噛み付く。〈バレバレじゃない!!〉

〈誰が“放送”にこだわるっつったよ!?〉打ち返してロジャー。

〈そうか――“キャス”!〉キースが指示。〈“トリプルA”に直通回線!!〉

〈そのうちバレるわよ!?〉言いつつ“キャス”が回線を開く。


 ハリス中佐の怒声――を背後へ追いやる。

 ハッチ横からジャンヌ・チアリ兵長が視線をマリィへ巡らせる。

 視界が開けた。ハッチの向こう。反射。突入。訓練通り。

 マリィの位置は通信スタジオの監視カメラ群から割り出してある。事実その位置は間近――ただしその手元、ケルベロスの位置を除いては。

〈!〉

 咄嗟。跳び込む。貫き手をケルベロス、その銃身へ。

 気付く。マリィ。その眼線――交錯。


〈レーザ通信!〉“ウィル”が告げる。

〈どこから!?〉シンシアが訊く間にも視覚、戦術マップに重ねてウィンドウ。〈――“フィッシャー”!?〉

 さらに文字情報がスクロール。シンシアの声に理解が兆す。

『やあ悪いね』悪びれもなく“トリプルA”。『取り込み中かな?』


 弾けた。マリィの手元。ケルベロスが宙へと弾かれる。

 勢いそのまま、ジャンヌ兵長がマリィの懐へ。腕を取られ、脚をさばかれ、マリィは宙へと投げ出された。

「!」

 悲鳴を上げる暇もなく、ジャンヌ兵長にマリィの腕が絡め取られる。背後から胴に絡んで脚、さらに首へと腕が回る。抵抗を試みる隙すらない。

「……!」

 マリィの頸動脈に圧、意識が遠のき――。


〈“トリプルA”!〉“ウィル”が声。〈第6艦隊の“裏口”を!!〉

『いいけど』“トリプルA”から“裏口”データ。『こいつはもう対策されてると見た方がいいね』

〈構わねェ!〉シンシアが両断。〈このポッドで次のを探す!!〉

『じゃ、手土産を渡しておくよ』さらに“トリプルA”がデータを転送、『キースと僕からだ』


「大佐!」ハリス中佐が声を荒げる。「何故このような!?」

 言いつつ視界の隅へ意識をやれば、“放送”には不穏の影すらない。「“放送”まで操作するとは、一体何の……!?」

「中佐、」ヘンダーソン大佐は軽く肩をすくめて、「自殺を止めて何か問題でも?」

「信用に関わる問題でしょう!」ハリス中佐の声に険。「ミス・ホワイトが命まで懸けた取り引きを……!!」

「ではミス・ホワイト自身が、」大佐が右手の指を踊らせる。「命を軽んじるのはいいのかね?」

「“K.H.”の前で!」ハリス中佐の語調が尖る。「大義をかなぐり捨てるおつもりか!?」

「まさか」大佐に苦笑一つ、「どうやら中佐には、私とは違う光景が見えているようだな?」

 陸戦隊から中佐へ銃口。

 ハリス中佐は歯軋り一つ、「……そういう肚か!」

 そこで、視界、“放送”ウィンドウに――ノイズが走る。

「――!」

 呆然の半拍。次いで得心。眼に事実。

 晴れた。“放送”ウィンドウ、ハリス中佐自身の背中――すなわち無加工のままの、“事実”。


〈間に合った!?〉シンシアに快哉。

〈やったか!〉ヒューイが“放送”ウィンドウへ眼を投げる。

 チャンネル001に急転、“放送”の空気が張り詰めた。

 絵面が変わる――膠着の静から崩壊の動、さらにはその先、悪意の転。


 場が凍る。その光景が意識を縛る。

 “放送”ウィンドウにハリス中佐自身の――その背中。

 コマを落としたかのような、空白――。

「ヘンダーソン大佐!」いち早くハリス中佐から声。「ミス・ホワイトに手を出すおつもりか!!」

 その意味。息を呑む。ジャンヌ兵長が我へと返る。

 言葉一つに限らない。ハリス中佐の声が“放送”へとぶちまけたのは、大佐の義を揺るがす――爆弾そのもの。


〈来た!〉“ウィル”に快哉。

〈やったか!〉シンシアの声に力――の向く先、“放送”の向こうにハリス中佐。


『――なるほど』一拍、“放送”内の大佐に余裕の言。『事実に“演出”を加えるとは見上げたものだな』

『大佐……!!』ハリス中佐の喉に声。

『つまりここには』大佐が肩を一つすくめ、『“事実”が二つあるということだ――違うかね?』


〈まだ言うか!?〉ロジャーに色。

〈まだだ〉キースが声を抑える。〈まだ早い〉

〈何が!?〉ロジャーから疑問符。

〈見てろ〉“放送”をキースが凝視。〈次の手だ。必ず来る!〉


『あなたの示す“事実”は、』“放送”の中、ハリス中佐が衝き込む。『幻に過ぎない――つまりそういうことでしょう』

『どちらの“事実”が“本物”か――』大佐が声を低めて、『――いずれ明らかになるだろう。電子戦の只中だ、混乱があっても私は不思議に思わんよ?』

『なるほど』ハリス中佐が声を滾らせる。『で、私に何ができると? ここはあなたの縄張りでしょうに』

『ハリス中佐自身に疑いをかけるわけではないよ』大佐はいっそ優しげに、『ただ、利用されている可能性は否めないがね』

『ほう、』ハリス中佐が細めて眼。『では、誰に?』

『そう、』立ち姿のマリィが、ハリス中佐の視界に割り込んだ。『例えば――“K.H.”に』


〈また介入!〉鋭く“キャス”。〈ママが切り返してきたわ!!〉

〈来たか!〉キースの声に刃。〈よし行け!!〉


「“K.H.”に?」

 ハリス中佐の背筋に悪寒。視覚からは、組み伏せられたマリィの姿が消えている。

 思い当たったハリス中佐が片眼を覆う。コンタクト・レンズ型網膜投影機、これを通した視覚に干渉を受けているとしたら。

「それは、あなたに――」戦慄を滲ませてハリス中佐。「――の間違いでは、大佐?」

『それは、』視覚に映るマリィから声。『断言できるのかしら?』

「では――、」ハリス中佐が問いをマリィの像へ。「今見ているこの光景こそが――幻だとしたら?」

『どうやって、』視覚、マリィから反論。「証明を?』

「では、」ハリス中佐が右の瞳へ指。「この眼の網膜投影機を外したら――?」

 と――その間もなく。

 “放送”の映像が――歪む。


 ――邪魔が!?

 “キャサリン”に怪訝。邪魔とも見せぬ、それは違和感――と。

 ――データ中継中枢!?

 データ配信中枢――の上流、通信スタジオの映像を中継する要への、それは攻撃。ただし歪んでいるのは――背景のみ。


〈やった!〉鋭くシンシア。

〈尻尾は押さえた!〉返して“ウィル”。〈オリジナルの方にノイズを入れるとは連中も思わねェ!!〉

 背景映像が歪む中で巻き込まれないとすれば、それは後ハメの合成に他ならない。ここでは即ち――マリィの像。

 像を取り込む。分析を加えてポッドからの“放送”に乗せる。曰く――『チャンネル001、“放送”に映るマリィ・ホワイトは合成データ』。


 手繰る――。

 “キャサリン”が自らデータを割り込ませた中継点。敵の介入はその上流、手がかりを求めてプローブ・プログラムを打つ――と。

 消えた。罠。しかし同時に人為の跡。ルートを替え、電源伝いに新たなプローブ、消失点へ探りを入れる。

 意識に留まったのは、単純なテキスト・ファイル。ただしファイル名が『親愛なる“キャサリン”へ――“ミーサ”より』。


「!」ハリス中佐の視覚にシンシアからの“放送”、その示す事実。

 意を固める。足を踏み出す。通信スタジオ、その奥へ。

『中佐!』制止の声は背後から。

「ミス・ホワイトが無事だと言うなら!」肩越しに中佐。「止める理由がどこにある!?」

 面食らったような――間。

 その隙、中佐は歩を進め――マリィの虚像、その足元へで膝を折る。

「つまりこれは、」ハリス中佐が手を――ジャンヌ兵長と、組み敷かれたマリィへ。「幻だと言うのだろう?」

 途端――、

 中佐の視覚、その片隅に『LIVE』の文字列。

 中佐の眼、コンタクト・レンズ型の網膜投影装置。その外部カメラの捉えた映像が――そのままシンシアからの“放送”ウィンドウへ。


 ――!?

 “キャサリン”が気付く。携帯端末を結ぶデータ・リンク。中継中枢からのルートを手繰り――そこに。

 ――私をお探し?

 余裕をたたえて“ミーサ”の気配。


「どけ、兵長」ハリス中佐が冷たく声。「大佐の信に傷を付けたいか?」

 視線の先、ジャンヌ兵長がゆっくり動き――絡めたマリィの手足を放す。

 マリィが上げて眼線――ハリス中佐へ。表情を引き締め、身を起こす。

「ミス・ホワイト、」ハリス中佐が手を差し伸べる。「動けるかね?」

「ありがとうございます」青ざめながらも、マリィが眼に力。「助かりました」

「移動しよう」マリィの手を取りつつハリス中佐。「ここは危ない」

「どこへ行くつもりかね?」ヘンダーソン大佐から余裕の言。「――“虚像”を連れて」

「彼女が“虚像”なら」ハリス中佐が眼だけを大佐へ向けて、「どこへ行こうが影響は出ない――違いますか?」

「では、」大佐は肩を一つすくめ、「少なくとも、貴官は私の敵に回るわけだ」

「この眼で」昂然とハリス中佐。「事実を確かめたものでね」

「では、」大佐は頷き一つ、「現時刻をもって、貴官を“オサナイ”艦長の任から解く」

 周辺、陸戦隊の銃口が――ハリス中佐へ。

「結構、」マリィを立たせながらハリス中佐。「私は好きにさせていただく――ミス・ホワイト?」

『あなたを拘束します、ハリス中佐』データ・リンクにカリョ少尉。

「おやめなさい!」毅然とマリィが前へと一歩。「味方さえ葬り去るつもり!?」

「“虚像”の言に従えと?」不敵に大佐。

「なら、」打ち返してマリィ。「“本物”とやらの口から“事実”を世界へ告げることね」

 沈黙――。視界に虚しく間。

「よかろう、ミス・ホワイト」大佐が片頬を釣り上げる。「この場は君が“本物”だ。何なりと好きにするがいい」


 “キャサリン”がクラッシャ――“ミーサ”の気配へ。

 理解している――いきなり本体を晒すのは愚の骨頂。空振りなのは百も承知、ただし炸裂したクラッシャからは強烈な探知信号――こちらが本命。

 視えた――のは“ミーサ”のプローブ、八方へ。定石なら秘すはずの気配も露骨にひた走る。

 釣り餌と判断。“キャサリン”はその放出元へクラッシャを送り込――んだところで。

 弾けた。プローブ。探知信号が駆け抜ける。

 バレた。“キャサリン”はプローブを切り捨てる。即座に潜伏位置を放棄、仕切り直しへ――と。

 クロックの差でクラッシャ、それが複数。“キャサリン”の元座標へ押し寄せ、弾ける。

 “キャサリン”に――笑みの残滓。


 視覚隅のウィンドウ、ハリス中佐からのライヴ中継に――途絶。

「やはりか」大佐に余裕の声。「“キャサリン”相手にここまで潜り込むとは、なかなかに侮れんな」

「急ごう、ミス・ホワイト」ハリス中佐が促す。

「どうするつもりかね?」大佐が投げて問い。

「教える義務でも?」冷たくマリィ。

「まさか」大佐が肩をすくめ、「老婆心だよ。いずれにせよこの艦から出るわけにもいくまい?」

「あら、」マリィが声を低めて、「エリックが載ってる艇は?」

「そう簡単に」大佐の頬に苦笑が一つ。「出られるとでも?」




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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[良い点] 感想遅くてすみません。最近体調が悪く、泣く泣く気に入った作品の中から、さらに作品を絞りに絞りました。その中でも残ったまさに、名作。あまり交流がでぎず、ある大切な作家さんが離れていってしまっ…
2019/11/25 16:59 退会済み
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