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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第18章 反攻
198/221

18-10.競合 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

『接舷を確認!』スピーカを衝いて艦長の声。『第3艦隊陸戦隊、“フィッシャー”に接舷!!』

 マリィの相貌から血の気が失せた。視覚情報に変化は――ない。

 第6艦隊旗艦“ゴダード”通信スタジオ。マリィから隣に佇むヘンダーソン大佐へ視線――はっきり敵意。

「何のつもり!?」

「つもりも何も、」ヘンダーソン大佐がすくめて肩。「止められてはいないものでね」

 と――マリィの視界へ戦術マップの抽出情報。ワイア・フレームで描かれた宇宙港“クライトン”を透かして、救難艇“フィッシャー”――の舷側に輝点が8。タグが示して『第3艦隊陸戦隊』。マリィが思わず息を呑む。

「君の要求は、」大佐は噛んで含めるように、「『この“放送”を妨害しないこと』だったはずだ」

「揚げ足を取ったつもり?」マリィが歯を軋らせる。

「まさか」大佐が小さく笑う。「ただ手をこまねいてもいない」

「止めて」短くマリィ。「陸戦隊を」

「賭け金を上げるのかね? では、」大佐が片頬だけを歪めて、「君のチップを拝見しようか」


 視覚、“放送”ウィンドウにマリィの表情――そこに焦燥。

「ハリス中佐!」ハーマン・カーシュナー上等兵が身をこわばらせた。「見過ごすんですか!?」

 眼を飛ばす。傍ら、スコット・ハリス中佐も苦いものを噛み潰していた。

 宇宙空母“ゴダード”は第5ブリーフィング・ルーム。無重力の背後、可視光シールド越しに第1格納庫が覗く。

「カーシュナー上等兵」ハリス中佐が指招きを一つ、「耳を貸せ」


「何か手は!?」ドレイファス軍曹が歯を軋らせる。

 軌道エレヴェータ“クライトン”管制室。各自の視覚に展開された戦術マップが映すのは救難艇“フィッシャー”と、そこへ取り付く揚陸ポッド――敵性の赤、その数8。

『救難信号を打ち込めばいい』端的にバレージ。『強制受信回路にクラッシャを突っ込んでやれ』

「そうか、乗っ取らなくとも!」ドレイファス軍曹に得心の声。「裏口さえこじ開ければ!」

「バレると面倒だぞ」バカラック大尉が思い当たる。「第6艦隊の電子戦艦に出張られかねん」

「レーザ通信!」バカラック大尉が機転を乗せる。「救難信号!」

 傍受されなければ介入されることもない。その点でレーザ通信に非の打ち所はない。

『救難信号!』“カレン”が復唱。『目標照準!』

 同時、戦術マップに次々とタグが立つ。『SOS送信』の文字情報、いずれも揚陸ポッド。数は――6。

「足りない!?」バカラック大尉が眉をしかめ――遅れて悟る。「くそ、そういうことか!!」

 残る2基はいずれも“フィッシャー”の陰――即ち死角。

「敵のデータ・リンクは!?」ドレイファス軍曹。「死角にいても迂回すれば!」

『“ビアンカ”、』バレージがナヴィゲータへ投げて声。『指示変更。通信系の掌握を優先』

『侵入中――』リンク越しに“ビアンカ”が告げる。『――ですが、これは……』

 視覚、ネットワーク図が揚陸ポッド6基へ伸びた――が。

『データ・リンクが……』“ビアンカ”の声が張り詰める。『……手繰れません。通信封止中かと』

『レーザ通信機は?』冷徹に衝いてバレージ。『揚陸ポッドから救難信号、レーザ通信で打ち込んでやれ。6基を陥とせたからには目はあるはずだ』

『はい』“ビアンカ”が短く肯んじる。

『それから』バレージが言を継ぐ。『“放送”に“フィッシャー”の状況を。宣伝の足しにはなるだろう』

「あまり時間はないはずだ」ドレイファス軍曹の声が焦れる。「頼むぜ、“ビアンカ”。あんたが頼みの綱だ」

『私が頼みの綱? 軍人の?』“ビアンカ”に嘆息。『また落ちぶれたものですね』


〈“フィッシャー”に?〉キースが片眉を踊らせた。

 戦術マップに割り入った“放送”にあったのは、ただ端的な観測データに過ぎない。しかしそこに映っている絵面は、赤十字の救難艇に群がる揚陸ポッド。そして何より、そこから発せられる識別信号は――ヘンダーソン大佐側。

〈それを“放送”か。やるね〉ガードナー少佐が口笛一つ、〈これで大佐の足元が揺らぐ〉

〈“フィッシャー”が生き残ったらな〉キースの声は軽くない。〈これで人質を取ったら、大佐は次の手を打ってくるぞ。違うか?〉

〈あー、確かに〉ロジャーが軽く舌を出す。〈どっちにしろ、主導権を渡していいこたァねェわな〉

〈そういうことだ〉キースに頷き一つ。〈介入するぞ〉

〈ここから?〉ロジャーは眉を一つ踊らせ、〈おいおい、どういう風の吹き回しだ?〉

 アクティヴ・ステルスの中で自ら信号を発するのは、文字通りの自殺行為と称しても過分ではない。

〈“トリプルA”の直通回線があるだろう〉キースが衝いて、〈時間が稼げればそれでいい〉

〈どうしたよ〉ロジャーが声を苦らせる。〈お前さんらしくもねェ〉

〈ヤツら、〉キースには意に介した風もない。〈最初から俺達の介入を誘う気だ。なら、こっちからタイミングを外す手に出る〉

〈タイミングを?〉バーナード少佐の語尾に疑問符。

〈ヤツらの想定を外せるとしたら――〉キースが打ち返す。〈今の今だ。他にあるか?〉

〈とんだバクチじゃねェか〉ロジャーが小さく笑う。

〈同じバクチなら勝ち目を狙うさ〉キースの眼に意。〈考えがある〉


 ――侵入!

 救難信号のレーザ通信に載った“ビアンカ”が、軌道エレヴェータ管制室からダイヴ――視界内の揚陸ポッドへ。

 宇宙船の通信回路は、救難信号を拒めるようにはできていない。それはどこより死に近しい宇宙空間における、あるいは『最後の信頼』と称しても過言ではない。もちろん悪用には相応の罰則をもって応じるのが常ではあるが、『最後の信頼』を破ってみせたヘンダーソン大佐の陣営が非を鳴らしたとして、聞く耳が果たしてどれだけあるものか。

 そして、ひとたび侵入したなら――。

 ――ここ!

 制圧済みの揚陸ポッドに、足場以上の意味はない。よって操舵系を始めとする中身に用もない。

 受信機からポッド外殻沿い、救難用の非常電源系を辿って――レーザ通信機へ。


「チップ?」ケルベロスを顎に擬したまま、マリィが声を尖らせる。「私はこの生命を賭けてるわ」

「そう、“放送”を続けるためにね」大佐は両の掌を掲げ、「この駆け引きは、いわば一つの取り引きだ。私は約束を違えてはいない。そこへ際限なく要求を拡げるとしたら――君自身の価値を下げることにはならないかね?」

「盗人猛々しい……!」マリィの声が怒りをはらむ。

「君の生命をチップにしたのは」大佐が語尾を叩き折り、「他でもない、君自身だ」

「私に死なれて困るのは誰!?」畳みかけてマリィ。

「少なくとも私だけではないよ」言い切る大佐に――むしろ笑み。「いいのかね――仲間に報いなくても?」


 “ビアンカ”が回路を手繰る先――レーザ通信機、その一基。

 照準は揚陸ポッド、軌道エレヴェータから死角へ入る2基。すかさず発信、救難信号に擬してプローブ・プログラム。

 反応――凶報。突入寸前――いずれも似て。

 違いは――データ・リンクと安全装置の接続、その一点。

 賭けた。“ビアンカ”、躍り込む。


〈レーザ通信!〉ノース軍曹から警告。〈救難信号です!!〉

〈切れ!〉即答、ニールセン大尉。〈総員警戒! データ・リンク完全封止! 敵の飽和クラッシャが来るぞ!!〉

 視覚、戦術マップが掻き消えた。


 ――安全装置!

 “ビアンカ”が干渉、作動――爆砕ボルト。

 鈍い衝撃――それが、一つ。


 重い振動は――隔壁の向こうから。

〈“ベルモット・ポッド”です〉“ベルタ”がニールセン大尉の視覚へ簡易マップ。

 隔壁を伝った音響データ、そこから導き出した音源は――隣のハッチに取り付いた“ベルモット・ポッド”を指している。

〈やられたか!〉ニールセン大尉が舌を打つ。

〈大尉、〉そこへノース軍曹が頷き一つ、ヘルメットを自ら接触させる。〈今回の敵は軌道エレヴェータから攻めてきてます。意見具申を〉

〈手短に〉ニールセン大尉も小さく頷き返す。

〈接舷したからには、操舵系以外のデータ・リンクを敢えて開放するんです〉そこでノース軍曹が声を低め、〈いまトラップを張ってます。3秒下さい〉

 頷き一つ、ニールセン大尉がノース軍曹の肩へと手。


 ――もう一基!

 強制パージされた揚陸ポッドの艇首、“ビアンカ”がレーザ通信機を巡らせる。プローブを送り込む時間さえ惜しんで、“ビアンカ”は最後の一基へ――跳ぶ。


〈最優先目標もおらん、遠慮は無用!〉ニールセン大尉が戦闘用宇宙服の近距離無線へ、〈ポッドの外殻ごとハッチをぶち抜け!!〉

 ノース軍曹が副操縦席へ取り付いた。

〈3秒下さい!〉前衛が即応、近距離無線。

〈カウント3!〉ニールセン大尉が宣する。〈連携は捨てる! “ジン”各員、各自の判断で敵を制圧!!〉


 ――!

 最初に“ビアンカ”が捉えたのは、ポッド内部の無線通信に乗る制圧命令。

 そしてデータ・リンクに断絶――手の出しようもないほどに。

 だが音声は無線通信に乗っている。手持ちのクラッシャ、中でも最軽量の一種を音声変換。

 ――間に合って!


〈3!〉前衛がチューブ状の爆薬をハッチへ輪状に巡らせる。

〈2!〉ニールセン大尉がノース軍曹をハッチの端末から引き剥がす。

〈1!〉ニールセン大尉へ背後、タロス“ジン・ボトル”から親指。

〈用意よし!〉前衛が側方、内壁へ退避。

〈突入!〉


 と、そこで。

 予想に反して揚陸ポッドのデータ・リンクが――晴れた。

 ――罠!?

 “ビアンカ”に戦慄。

 見通せる。舷側ハッチに破損を検知。その意味するところを察する前に――、

 データ・リンクを暗号が駆ける。“ビアンカ”にも接した記憶、その意味は。

 ――召喚コード……“キャサリン”を!?


〈侵入を検知!〉ノース軍曹の声が割って入った。〈早い!?〉

〈構うな!〉ニールセン大尉の眼前、炸薬が外殻ハッチを輪状に灼き抜く。

 今の救難艇“フィッシャー”、その接舷ハッチは一度灼き抜かれたところに応急の気密シールを張った、ただそれだけのものに過ぎない。それだけでは内部の気密隔壁といい勝負、突入用の炸薬で吹き飛ばせない道理はない。

 事実、ハッチはたやすく吹き飛んだ――が。

 いきなり突風、背後から。乱れた姿勢を立て直す――その視界に白一色。

〈!?〉

 ニールセン大尉に疑問符。応じて“ベルタ”が視覚に解。気圧表示が――ゼロを指す。

 急速な減圧は、大気中の水分を飽和させ、水蒸気を――つまりは霧を生む。頭がその理屈を呑み込む――その前に。

 悲鳴、それも立て続け――それが2つ。

〈敵襲ッ!〉

 反射。照星を据え直す。ライアット・ガンRSG99バイソン――その前に。

 銃火が見えた。間に合わない。引き鉄を絞る間すら――、

 弾けた。軟体衝撃弾。大きく十文字に開いたそれが絡み付く先――太い腕。

〈“ジン・ボトル”!?〉

 眼前、タロス。衝撃弾を防いだその背、スラスタから噴射炎。

〈撃つな!〉言いつつニールセン大尉が壁を蹴る。〈“ジン・ボトル”を盾にしろ! 続け!!〉


 ――逃げ場は……!?

 “ビアンカ”が意識を周囲へ向ける。“キャサリン”が出てくるともなれば、勝負を挑むにも分が悪い。

 だが。

 出口となるのは二つ――レーザ通信機か、“フィッシャー”か。

 迎え討つか、留まるか――選べる答えは一つだけ。


 “フィッシャー”へ殴り込んだ、その途端。

 横合いから一撃――は予想通り。左手でハッチの淵を引っ掴み、ニールセン大尉が進路をねじ曲げる。遠心力に振り回されながらの急ターン、視界が流れる――中に敵。黒の戦闘用宇宙服。

〈敵ッ!〉

 言葉もろとも引き鉄に力。構えてRSG-99バイソン、12ゲージの銃口が咆える――その直前。

 衝撃。右肩――ただし浅い。銃口がブレる。銃弾が逸れる。

 その左肩を敵が踏み上げ、勢いそのまま背後へ抜けた。

〈行ったぞ!〉

 迫る壁に足をつき、反動をバネに蓄えつつ敵の姿を求め――“ジン・ボトル”からの視覚情報に細身の黒。今しもエアロックの側壁を蹴って“フィッシャー”側へ。

〈即時制圧!〉ニールセン大尉が思い切る。〈我々に構うな!!〉

 タロスに一瞬の――逡巡。

 エアロックをシンシアが抜けた。その先に“フィッシャー”艇内、振り向き切っていないタロスが――構えて拳。

 シンシアがライアット・ガンを左手へトス。空いた右手で一挙動、P45コマンドーのシルエット。

 文字通りの鉄拳と銃火が――交錯する。




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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