18-4.圧倒 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.
『ひどいな』さして困った風もなく“トリプルA”。
〈あら、〉“キャサリン”は感心した風に、〈ステップは随分上手いじゃない〉
『単なる逃げ足だ――よ!』
科白の間に軌道エレヴェータ管制室のモニタが半分ほどブラック・アウト。
『あーあ、』“トリプルA”に減らず口。『せっかちだなァ』
〈女を待たせるものじゃないわよ〉澄まして“キャサリン”。
『これでも?』不意に“トリプルA”。
視覚、ウィンドウがポップ・アップ。描画は宇宙港“クライトン”近傍のネットワーク図――が錨泊船を捉えている。
〈あら、〉“キャサリン”は素知らぬ振りで、〈今度は手品でも?〉
『ま、ちょっとした細工だよ』
“トリプルA”が語る間にズーム、中心に錨泊船、その1隻。タグには『輸送船“ポーリ”』、さらに記述して『船籍:“サンティーニ商会”』――が。
船籍にモザイク、書き換わる――“メルカート”。
“トリプルA”が一言、『こいつが尻尾だね』
〈“メルカート”に喧嘩を?〉嘲るように“キャサリン”。〈安く上がるものじゃないわよ?〉
『仕掛けるのは、』したりと“トリプルA”。『僕じゃないさ』
視覚へさらにウィンドウ。中央のロゴに“パラディ商会”、そしてノイズが一瞬。
映ったのは黒髪を撫でつけ、青い瞳を復讐に燃やす壮年の男――アントーニオ・バレージ。
『貴様が敵の片割れか』
そしてネットワーク図から錨泊船の接続が――消える。
〈よく私を信じる気になったな〉SMC4I-22ネクロマンサの操縦席、ウェズリィ・ガードナー少佐が苦笑を刻む。〈貴官達を襲った航宙隊の隊長だぞ?〉
〈信じたわけじゃない〉電子戦士官席から返してキース。〈だから俺がここにいる〉
〈使えるものは何でも使うってか〉ロジャーが奥、電子戦曹士席から混ぜ返す。〈澄ましてられるほど大所帯じゃないからな〉
〈眼付け役がいたところで、〉ガードナー少佐が肩をすくめた。〈私がその気になったら艦隊丸ごと運命共同体だ。賭けにしちゃ分が悪そうだが?〉
〈あんたに帰る場所はない、ガードナー少佐〉キースが冷徹に言い放つ。〈それに俺への興味もある。こっちにしてみればそれでいい〉
〈言うことが違うね、どうも〉ガードナー少佐が小さく肝を抜く。〈ま、どっちにしろ息が詰まるよりはいい――発進用意よし〉
〈こちらヘインズ、〉キースが“オーベルト”管制中枢へ呼びかける。〈“ネクロマンサ000”発進用意よし〉
〈こちら“オーベルト”、了解〉視界に戦術マップ。〈管制中枢に同期、微加速前進――健闘を祈る〉
『そう逃げ急ぐな』怨念を滲ませたバレージがいっそ笑む。『せいぜい遊んでいけ』
〈あら、〉涼しい声で応じて“キャサリン”。〈これで勝ったと思ってるの?〉
『貴様がデカブツなのは承知の上だ』バレージが鼻息一つ、『逃げるにしても容量食らいで転送時間が、プロセッサ上で勝負するにもクロック数が余計にかかる』
〈ストーカは嫌われるわよ?〉色を保って“キャサリン”。
『それを貴様は錨泊船の向こう、』バレージが示して指一本。『宇宙港区画と“メルカート”のマシン・パワーを借りることで時間を稼いでいたはずだ』
〈あーら怖い、〉“キャサリン”の声が芝居がかる。〈女は理屈で口説くものじゃないわ〉
『だが私の存在は計算外だったようだな』バレージが片頬を釣り上げる。『これで貴様は袋のネズミだ』
そこで、クラッシャが発動した。配線が飽和し、プロセッサが焼き切れ、ネットワークが沈黙へと落ちる。
『クラッシャ作動確認』“トリプルA”が開いてウィンドウ。『それにしても容赦ないね』
『手を抜いていられる相手とは聞いていないな』バレージは涼しい顔一つ、『いい加減こちらも業を煮やしていたところだ。丸ごと焼き払わんだけありがたく思え』
『怒り心頭だね。怖い怖い』軽やかに“トリプルA”。『走査開始』
“トリプルA”が管制室のネットワーク、クラッシャ跡にスウィーパを走らせる――と。
『抜けた!?』
一隅に抜け穴、大きくない。その先にあるのは――、
『“ゴースト002”――』“トリプルA”に怪訝の一語。『――まずい! 狙いは“ダルトン”か!!』
〈軌道エレヴェータ“クライトン”よりメッセージ!〉フリゲート“ダルトン”の戦闘指揮所、ナヴィゲータの声が上がる。〈『発:“トリプルA”、宛:“ダルトン”、緊急要請:“ゴースト002”を撃墜されたし』!!〉
メイン・モニタの戦術マップに“ゴースト002”の現在座標が強調表示。高々度軌道へ退避しつつある“ダルトン”から狙えない位置取りではない。
〈艦長代理!?〉副長席から砲術長ピーターソン大尉が問いを投げる。
〈命令系統を無視してよく言う〉艦長席からモロダー少佐が鼻息一つ、〈覗き屋風情が何を偉そうに〉
――と。
視覚に赤。聴覚に警報。
電子戦担当士官から悲鳴。〈最優先コード受信!〉
視覚へ浮かんで緊急表示、『第3艦隊最優先コード:狙撃』『目標:“オーベルト”』
〈どこから……!?〉
モロダー少佐が問うまでもなく、戦術マップ上に“ゴースト002”が強調表示、『最上位命令系統』のタグが立つ。
〈デバッグは!?〉モロダー少佐が語尾を跳ね上げる。〈バックドアは“K.H.”のナヴィゲータが……!?〉
〈トラップ反応なし!〉打ち返す電子戦担当士官の声が青い。〈デバッグ効いていません!!〉
〈戦術マップにクラッシャを!〉ピーターソン大尉に機転。〈敵に“オーベルト”の座標を渡すな!!〉
〈駄目です!〉電子戦担当士官の声が悲痛に満ちる。〈コマンド受け付けません!!〉
〈甘く見られたものね〉そこへ“キャサリン”の声が差す。〈この程度で何とかしたつもり?〉
ウィンドウ上、主砲の出力設定が跳ね上がる。戦術マップに“オーベルト”の現在座標。姿勢制御の軽いG。
〈“ダルトン”姿勢変更!〉
第6艦隊旗艦“ゴダード”、通信スタジオ。ヘンダーソン大佐の聴覚へ報告が割り込む。合わせて視覚へ戦術マップがポップ・アップ、高々度衛星軌道にあるフリゲート“ダルトン”の座標と主砲軸線が強調表示。
「何を……!?」蚊帳の外に置かれたマリィから問い。
「何も」大佐がマリィへ肩をそびやかす。
「何を隠しているの!?」マリィがケルベロスの撃鉄を起こす、硬い音。
「ただ、」軽く大佐。「互いの位置を探り合っているにすぎんよ。言わば前哨戦だな」
「キースに危害を……!」マリィの声に険。
「正当防衛だよ」大佐は小首を傾げて、「それに君が引き鉄を引いてしまったら……」
「あなたの信用は地に墜ちるわよ」マリィから念押し。
「同時に」大佐の片頬が小さく歪む。「エリックの命運も」
詰まる。マリィ。血の気が引く。
「そこは使いどころということだな」大佐はいっそ優しげに、「よく考えてみてくれたまえ。さて――、」
そこで大佐は声を振り替えた。〈司令――艦隊、主砲斉射用意〉
フリゲート“ダルトン”から自動射撃。主砲斉射――それが4連。
光束は目標座標を過たず――、
“ゴースト002”からそれを観測した“キャサリン”の意識に――怪訝。
――反応なし?
そこへ。
――あーら、おあいにく。
割り込んだ気配――“キャス”。
――いたの?
“キャサリン”にむしろ笑み。
――囮に食い付いといて勝てる気?
“キャス”から挑発。
――ァはン。
ゴーストのプロセッサ上、コアとタスクを密かに集めて睨み合い――わずかにナノ秒。
動く。喰らう。リソースを奪い固めにかかる。クロックを争う喰らい合い――刹那の勝負。
そこへ――。
――!!
クラッシャ。炸裂。そもそもの足場、プロセッサが昇天する。
続いて――“ダルトン”の主砲が“ゴースト002”を灼き抜いた。
『どっちだ?』“トリプルA”が声に緊迫を滲ませる。『いや、来る――かな』
軌道エレヴェータ“クライトン”管制室。戦術マップからは今しも“ゴースト002”が消えたところ。
「来る?」ドレイファス軍曹が語尾を跳ね上げる。「何が!?」
『ふン、』不敵にバレージ、『意趣返しのつもりか?』
「何のつもりで――?」バカラック大尉が言いさした――その時。
〈来るわ!〉悲鳴じみて“キャス”。〈何よあの手数……!?〉
〈ハイ、〉そこへ“キャサリン”、余裕の声。〈また会ったわね〉
そこへバレージ、有無も何もなくクラッシャ発動。“ゴースト002”へと通じるルートを灼き潰す。
〈どうしたの?〉“キャサリン”におどけ声。〈トロいデカブツなんでしょ私? 手間取っていていいのかしら?〉
バレージに無言――舌打ち。
『どうも語弊があったようだね』“トリプルA”が軽やかに、『随分と雰囲気が変わったんじゃないかな?』
〈そ、〉“キャサリン”が語尾を弾ませて、〈女の装いには気を遣っておくことね〉
「何が狙いだ?」バカラック大尉が問いを投げつける。
〈決まってるでしょ?〉“キャサリン”から冷えた声。〈第3艦隊の尻尾〉
『教えるとでも?』“トリプルA”が挑発。
〈じゃなきゃここを洗うまでよ〉平然と“キャサリン”。〈“キャス”が来てるでしょ。あの子の足跡があれば充分〉
『させると思うか?』バレージに低い声。
〈止めてみたら?〉“キャサリン”は舌なめずりせんばかり。
その時――、
警報。視覚へ表示――補助電源に異常発生。
バレージからクラッシャ、マシン・パワーに物を言わせたスウィープ攻撃。
〈甘いわね〉“キャサリン”に鼻息一つ、〈それでごまかされるほど――〉
暗転。電源断。外殻部との中継網。補助電源の供給を失ったネットワークがカオスの底へと沈み込む。
さらに電源断。外殻部のレーザ通信機が一斉に機能を停止した。
――たっぷり半秒、さすがに緊急電源が作動する。
「やった――のか?」ドレイファス軍曹がモニタ群、緊急起動画面を眺めて洩らす。
「無茶苦茶やりやがって」バカラック大尉が頭を掻く。「補助電源から切るってな、どんな無茶か解ってるのかあいつら」
「さすがに接続は維持できませんか」溜め息混じりにドレイファス軍曹。
中継網を補助電源から落としたとなれば、外部との接続は断たれるのが道理。管制室内部へ退避したナヴィゲータならともかく、外部から接続している人間は放り出されるのが理の当然。
「あのナヴィゲータは?」バカラック大尉から素朴な疑問。
「尻尾残すようなヤツじゃないでしょう」ドレイファス軍曹が苦笑い。「逃げててくれるといいんですがね」
――そこへ。
〈そう思う?〉軽やかな声は――“キャサリン”。〈甘いわね〉
「な……!」ドレイファス軍曹に絶句。
〈やるんなら徹底しなきゃね〉“キャサリン”の澄まし声。
と、ウィンドウがポップ・アップ。中の模式図が示して――、
「電源の遮断シークェンス!?」ドレイファス軍曹が気付いた。
〈ご明察〉楽しげに“キャサリン”。
その間にも模式図上では電源遮断シークェンスが逆回しに再現され――、
〈ほら、〉“キャサリン”が模式図の数カ所を強調表示。〈慌てるから尻尾が見えてるわ〉
「まさか……!」バカラック大尉が言いさしたところで、
〈それじゃあね〉嘲笑含みの声を残して、“キャサリン”が消える。
*****
本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。
投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)
無断転載は固く禁じます。
Reproduction is prohibited.
Unauthorized reproduction prohibited.
(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.
*****




