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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第17章.露呈
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17-9.鍵穴 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

「司令!」キースから声――艦隊司令サルバトール・ラズロ少将へ。

 戦術マップ上、“放送”波の観測方向に――宇宙港“サイモン”。軌道エレヴェータ“クライトン”を含めた多点観測が示す発信位置は――宇宙港“サイモン”の、その通信アンテナ。

「加速用意!」受けてラズロ少将。「目標、第6艦隊――推定座標、宇宙港“サイモン”!!」


『……改めて……』唇を噛み締めたマリィが――絞り出す。『“K.H.”は、役割に冠された名前――それだけのものに過ぎません』

 大佐へ睨みを一つ投げ――跳ね返されて眼を伏せる。マリィの口元に苦く声。

『役割を果たしさえすれば誰でもよかった――そう言ってさえ過言ではないのです。処刑されたキリル・ハーヴィック少将も、』苦しげにマリィの眼線が――カメラにすがる。『“K.H.”の一人に過ぎなかった――そういうことになります』


『じゃ、』データ・リンク越しにシンシアが毒づく。『残りは誰と誰だってことにしたいんだ?』

「待って下さい!」ハルトマン中佐から疑問。「確証は!?」

「待っていたらマリィの命がない」キースが断じる。

「いずれにせよ彼我の距離は詰めねばならん」ラズロ少将が告げて事実。「探知継続!」

『確証待ってる時間はねェぜ』シンシアの硬い声。『多分もう核心が近い』


『では、他の“K.H.”は誰だったのか――』“放送”の中、マリィが硬く呑んで息。

『“サラディン・ファイル”には、』マリィが噛んで唇、舌に重く絡めて躊躇。『歴代“K.H.”の役割を担った人物の名前があります』


「アクティヴ・ステルスなら!」キースから言。「敵にプレッシャーをかけられる!!」

「むしろ探知だ!」ハルトマン中佐が衝く。「パッシヴ・サーチでは逃げられる!!」


『その数は、これまでに6人――』マリィが間を空へ置く。『いえ、ヘンダーソン大佐が処刑した最後の1人を加えれば、合わせて7人ということになります』


「軌道エレヴェータ!」打ち返してキース。「探知と管制はあっちの方が本職だ!!」

「回線はレーザ通信で維持すりゃいい」ロジャーが言い添える。「結果だけ受け取る分にゃ、傍受の心配は要らねェぜ」


『最後の1人は、ヘンダーソン大佐の言にもありました』伏し目がちにマリィ。『キリル・ハーヴィック少将。彼が7人目に当たります』


「軌道エレヴェータの先が問題だ」ハルトマン中佐から指摘。「見たぞ――陸戦隊はまだやる気だ! せめて最優先コードで……!!」


『その前、6人目は』マリィが眼を上げた――その先に。『ケヴィン・ヘンダーソン大佐。“サラディン・ファイル”の作成された2年前には、中佐の地位にありました』


『野郎!』シンシアが歯を軋らせた。『スカした顔しやがって、真犯人でいやがった!!』

「ヤツが!!」キースに殺気。その脳裏に――“ブレイド”中隊の、その最期。

「大佐が!?」オオシマ中尉の語気が荒れる。「自作自演か」

「乗せられるなって」ロジャーから冷や水。「あンの狸、タダで転ぶとは思えねェ」

「何か用意している、と?」ラズロ少将が疑問を挟む。

「ま、」ロジャーがすくめて肩。「それが判りゃ苦労はねェんだが」


『再びお眼にかかる』そこで“放送”の視点が転じた――声の主へ。『ケヴィン・ヘンダーソンだ。階級は大佐』


「何を考えている?」キースは瘴気さえ絞り出さんばかりに、「この期に及んで……!!」


『私が“K.H.”の役割を担ったのは、』大佐が眉を一つ踊らせて、『言うなれば必然だった。ただし肚に叛意を抱いてのことだったのは、これまでご覧にいれてきた通りだ』


『よく言うぜ』シンシアの言も重く、硬い。『引っかかった方が悪いってか』


『我々が争う理由はすでにない』ヘンダーソン大佐に断言。『それは、これからミス・ホワイトが公表する事実を聞いてもらえれば明らかだろう』


「まだ隠し玉があるってか」ロジャーがしかめて眉。


 “放送”内、持ち上がる大佐の掌が示して――マリィ。その示す先、マリィの表情が――凍る。

『これは』ヘンダーソン大佐の声は静かに、しかし有無を言わさず続く。『君の口から伝えてもらわねば意味がない――解るな?』


「くそ、妨害は!?」

 宇宙港“クライトン”、軌道エレヴェータ管制区画。居座ったバカラック大尉の声音もさすがに青い。

「アタック試行中!」ドレイファス軍曹の眼にも焦りが滲む。

 視覚内に浮かぶ宇宙港“サイモン”の模式図は、しかし一向に揺らがない。

「アタック続行!」バカラック大尉の視覚には監視カメラからの映像も複数、位置情報は気密隔壁向こう、群がる陸戦隊を示す。「連中、まだあきらめていないはずだ!!」


『引き続き――歴代の“K.H.”を遡ります』

 マリィがカメラへ向けた瞳には、大佐への怒りがくすぶり残る。

『ケヴィン・ヘンダーソン大佐の前任、即ち5人目の“K.H.”は――』マリィの傍ら、リストから名前が浮き上がる。『――クルト・フーバー少佐。3年前に死亡しています』


「フーバー少佐?」バカラック大尉に疑問の声。「解るか、“カレン”?」

 宇宙港“クライトン”、軌道エレヴェータ管制室。正面のメイン・モニタはマリィとヘンダーソン大佐の“放送”が占める。

『星系“ソル”駐留の第1軍第2師団、第201旅団の所属ですね』“カレン”が陸軍のデータベースを洗ってバカラック大尉の視覚へリストを展開していく。『隷下に――ああ、“ブレイド”中隊の名前があります』


『さらに遡って、4人目は――』そこでマリィが息を呑む。『――カレル……ハドソン少佐……!』

「ハドソン少佐が!?」オオシマ中尉が語尾を跳ね上げる。

『ベン・サラディンを手にかけたとされる“ブレイド”中隊長です』マリィが言を継ぐ。『当時の階級は大尉でした』

『ここで補足しておく必要もあろう』“放送”にヘンダーソン大佐の声が割り入る。『ハドソン少佐は現“ハンマ”中隊の中隊長でもある。私の首を狙う最右翼というわけだ』

「く……!」オオシマ中尉から怒気が立ち上る。

「こいつもでっち上げか?」ロジャーがキースへ向けて問い。

「“ブレイド”中隊長だったのは事実だ」返してキース。

「参ったねこりゃ」ロジャーが鼻を鳴らす。「どこまでがハッタリなんだか」


『ハドソン少佐率いる“ハンマ”中隊は私への敵対を表明している。が、』ヘンダーソン大佐から鷹揚に笑み。『このような背景があるとなれば、“ハンマ”中隊の意志とて揺らぎもしよう』


「『死人に口なし』か」ロジャーが嫌悪に口を歪ませた。「言いたい放題だな」


『これは考え直すに足る機会と、私は信じる』“放送”越しにヘンダーソン大佐が呼びかける。『私は争いを望まない。互いに手を組めるなら、私は喜んで手を差し出そう。“ハンマ”中隊の回答を待つ』


『け、』シンシアに皮肉声。『ただ始末を急ぎたいだけだろが』

「だろうな」キースが頷く。「事情がどうあれ、やり口が正当化されるわけじゃない」


『ただ、』ヘンダーソン大佐が片頬を釣り上げる。『私への反感がこれで帳消しになる――とまでは、さすがに楽観していない。公表したい事実にはまだ続きがある。耳を傾けていただければ幸いだ』


「余裕だな」ハルトマン中佐が眉をしかめる。「まだ手札を隠しているのか」

「情報戦としては、」ラズロ少将が顎を掻く。「我々の大義名分を削げばいいというわけだ。ミス・ホワイトを取り込んだからこその手というわけか」


 “放送”のカメラがパン、捉えてマリィの白い顔。

『次は――ハドソン少佐の“前任”です』マリィが声を絞り出し、『3人目――ケイン・ハンコック、当時は少尉でした。ベン・サラディンの命を絶ったとされる“ブレイド”中隊の所属です』


「ここでも“ブレイド”中隊か」ハルトマン中佐に苦い声。「続くな」

『サラディンのヤツも』シンシアの声が一段冷える。『“K.H.”を知ってるって口ぶりだったな』


『“サラディン・ファイル”には、』メリィの瞳が宙、描き出されているであろうデータを辿る。『ハンコック少尉は“テセウス解放戦線”と“ブレイド”中隊の間に初めて接点を作った――とあります』


「てことは、」ロジャーに独語。「それまで連中はずっと“テセウス”ン中で動いてたってことか――“ネイ”?」

 ロジャーの視覚へ、“ネイ”からケイン・ハンコックのプロフィール。

 最終階級は少尉、当時の所属は星系“ソル”に拠点を置く“ブレイド”中隊。ただしその直前の所属が惑星“テセウス”へ飛んでいる。

「“テセウス”と地球、か……」


『さらに“前任”です、』マリィの表情が硬い。『2人目は――カイル・ホールデン、2年前の階級は軍曹。“K.H.”を継いだ当時は学生、“テセウス中央大学”に在籍していました』


『ヒット!』明滅――“ネイ”の示すリスト、その一角。『カイル・ホールデン!』

「関係者は!?」ロジャーに問い。「その先に何かあるはずだ! 大佐のヤツ、何考えてやがる!?」

『待ってて』“ネイ”が洗う――カイル・ホールデンの関係者。

「学生時代っつってたな」ロジャーが推測を巡らせる。「てことは……」

 次々と開いてサブ・ウィンドウ、キィワードは学生時代。

『学生運動――?』

 繋がりのあったとされる人名を“ネイ”がピック・アップ、周辺の人物相関を力任せに洗っていく。


『カイル・ホールデンの専攻は社会学でした』マリィが声を継ぐ。『テーマは“多星系時代の都市と市民”、担当教授はカーク・ヒューズ博士とあります』


『“カーク・ヒューズ研究室”!』“ネイ”がデータを絞り込む。『博士の頭文字も“K.H.”!?』

 ロジャーの視覚、目まぐるしくデータがスクロール。

「それで終わりってんなら!」ロジャーから喝。「あの大佐がふんぞり返ってるはずァねェ! 他に何かあるはずだ!」


『そして最初の“K.H.”は――』“放送”内、マリィが眼をわずかに泳がせた。

 ――その表情が見る間に凍る。

『……嘘……!』

 マリィが、ようやくそれだけを口に出す。


 “ネイ”が手繰る。カーク・ヒューズ博士の下、指導研究生のそのリスト。

 ――その中に。

 頭文字“K.H.”、一致する名前が――あった。


『初代“K.H.”の名前は――』マリィの声すら青ざめた。『その、名前は――』


「冗談だろ、おい」ロジャーが眼を巡らせる――その先に。


『初代“K.H.”――』声をわななかせながら、マリィがその名を――絞り出す。『――キース……ヘインズ……!』

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