17-8.究明 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.
〈連中、〉キースが片頬を歪ませた。〈軌道エレヴェータ区画の隔壁を迂回するつもりか〉
キースの視覚内、“キャス”が宇宙港の模式図を内側から強調表示。中心軸側にキースらが情報戦の拠点としている軌道エレヴェータ管制中枢、その外側を厚く覆う気密隔壁、さらにその外側――、
〈はいビンゴ〉“キャス”が気密隔壁の有線端末、通信状況グラフをポップ・アップ。〈まァいるわいるわ、こじ開ける気満々だこと〉
『“キャサリン”が事実をサルヴェージしてくれる』大佐が左の掌でカメラを示す。『それを君が誰よりも先に知る――それでよかろう? 納得づくで事実を知らしめればいい――この新世界へ』
『まやかしだわ』マリィが声を尖らせる。
『今のところはそれでいいとも』大佐の片頬にはっきりと笑み。『事実を知った上で同じことが言えるか――それは君次第というわけだ』
『何で――』シンシアの声に問い。『――そこまでして?』
『自分をそう安く観るもんじゃないよ』“トリプルA”の声にしかし力みはない。『こいつは僕の主観だからね。君が何と言おうと動かないよ』
「口説きに来たのかよ?」ロジャーに苦笑い。
『ある意味その通りだね』臆面すら匂わせずに“トリプルA”。『まあロジャーの言う意味ではキースとヒューイに置いて行かれてるわけだけど』
〈連中の狙いは軌道エレヴェータの管制中枢と警備中隊か〉キースが苦る。〈押し入られるのは面倒だな〉
その視界、宇宙港の模式図上に改めてタグ――第3艦隊陸戦大隊。
〈何よ、〉“キャス”の声が尖る。〈負ける気?〉
〈勘違いするな〉キースに即答。〈相手はあの“キャサリン”だ。足を引かれて勝てる手合か〉
〈じゃ何、〉“キャス”が声を尖らせる。〈あいつらと遊んでけっての、このくっそ忙しいのに?〉
――探るような、間。
ヘンダーソン大佐の片頬に張り付いた笑みは、揺らぐ気配をすら匂わせない。ただ焦燥だけがマリィの胸を裡から焼く。
『……いいでしょう』不承不承の体でマリィに譲歩。『でもこれで本当に戦闘が収まるって言うの?』
『私は妙手だと考えているよ』眼を据えたままでヘンダーソン大佐。『それもいずれ明らかになるだろう』
『どいつもこいつも……』シンシアの声に泣き笑い。『……何だよ……今さら寄ってたかって……』
『これでも一途な人間を見る眼はあるつもりでね』冗談めかして“トリプルA”。『一貫してる姿勢ってのは貴重だと知っているわけさ。さてエミリィ――いやシンシア・マクミラン、どうする?』
『決まってる』シンシアに即答。『ヒューイのヤツが助かるんなら文句はねェ。乗った!』
〈別に手間を取ることもない〉さも当然とばかりにキース。〈バレージをけしかける〉
〈はァ!?〉“キャス”の声が裏返る。〈“メルカート”ってばマリィの敵でしょ?〉
〈陸戦隊は“メルカート”を利用しようとした〉キースに悪い笑み。〈言ってみれば裏口を探っているわけだ。バレージとはさぞ気が合うだろうな?〉
〈無茶苦茶だわ〉“キャス”に呆れ声。
〈ちょい待ち〉割り込んでロジャー。
キースが振り返る――その先にロジャーの指招き。
声を呑み下してマリィが前へ進み出る。疑うように大佐へ振り向き――だがその片頬には笑みが張り付いて動かない。
一睨み、ひときわマリィが尖らせて目線――しかしそれを風と受け流して大佐の佇まい。
唇を強く噛み締め、次いでマリィはカメラへ向き直る。
『よし決まりだ』手を打たんばかりに“トリプルA”。『力になろう――喜んで』
「早速で悪ィけど、」ロジャーが言葉を衝き入れる。「こっちの事情はどこまで掴んでる?」
『“ウィル”と“ネイ”から大体のところは』“トリプルA”がすかさず応じる。『探してるのはヘンダーソン大佐の“放送”源、それから第6艦隊の居所――違うかい?』
「“放送”源から第6艦隊は手繰れる可能性が高いと踏んでる」すかさず言葉を挟んでキース。「マリィ本人がいるからな。だが問題は“放送”データの出所だ。糸口を見付ける端から切られてる」
『けど“放送”は今も続いてる』いっそ不敵に“トリプルA”。『――違うかい?』
「そうだ」キースが返して首肯。「――何か気付いたのか!?」
『放送の大元は?』“トリプルA”の声が挑みかけて問い。
〈でも宇宙港は洗ったのよ!?〉“キャス”が語尾を跳ね上げる。
『みたいだね』“トリプルA”の声が低まる。『宇宙港の通信アンテナは――なるほど、もぬけの殻ときたか』
「考えがありそうだな?」問いを向けてロジャー。
『“放送”は通信回線に乗ってきてる』事実を拾って“トリプルA”。『こいつは事実だ――違うかい?』
「“キャス”、」キースが飛ばして問い。「“放送”波の発信源は!?」
〈観測結果は変わってないわよ!〉“キャス”の声がしびれを切らす。〈宇宙港の通信アンテナ!〉
『つまり、』噛んで含めるように“トリプルA”の声が笑む。『そういうことだよ』
『まずは私から一言申し述べる。惑星“テセウス”に真なる敵がいるとするなら、それは誰か?』ヘンダーソン大佐の声がカメラへ向く。『跳躍ゲートを封鎖した私か? それとも、偽りの独立劇を仕組んだ張本人か? 我々が相争うさまを、嘲笑とともに見下しているのは誰か? ――知りたくはないかね? そう、我々が相争う必要などはどこにもないのだ。真に討つべき者がいるとするなら、そもそも我々を――ひいては“惑星連邦”をも弄んだ輩ではないのかね?』
〈だから!〉たまらず悲鳴を上げて“キャス”。〈スカした顔して焦らしてるんじゃないわよ!〉
『じゃ、質問を変えようか』“トリプルA”の声に笑み。『変化は、本当に、どこにも、なかったのかい?』
〈――そう……か!〉気付いたキースが転じて声。〈送電レーザ! 光発電ファームからの受信電力に揺らぎがあったな、“ミア”!?〉
〈ええ〉応じる“ミア”の声に怪訝の色。〈――それが?〉
〈他には、網にかかった変化はない〉決然とキース。
『じゃ、』教師然と“トリプルA”。『そういうことじゃないのかい?』
口笛一つ、ロジャーに得心。〈――そういうことかよ〉
『そう、』ヘンダーソン大佐が断ずる。『我々は手を組む理由こそあれ、いがみ合う道理はないのだ。それをこれからご覧に入れよう』
そこで傍らへ――掌。『他ならぬミス・ホワイトの、その口から』
〈このデータを信じるなら、〉キースがロジャーと眼を交わす。〈ヤツらの送信経路は宇宙港を通ってない――こいつは事実だ〉
〈――何が言いたいの?〉“キャス”の声に険。
〈そして放送波の発信源、〉キースが眼を転じて信号強度分布。〈こいつはさっきから変わってない〉
マリィの瞳、コンタクト・レンズ型の網膜投影装置が映して原稿データ。視界の一角を占めたそのリスト――そこに。
「……まさか……」マリィの声が刻んで戦慄。「……こんな……!」
「さて、」カメラから向き直って大佐に笑み――酷薄。「君の言い出したことだ。準備はいいかな、ミス・ホワイト?」
〈いい加減キレるわよ!〉“キャス”が脅す。
「つまり、こういうことだ」キースが組んだ腕から指を一本立てて、「ヤツらは宇宙港の通信アンテナ以外の手段で“放送”波を発信してる」
『けどよ、』シンシアの声に疑問符。『アンテナを使わずに……!?』
『そいつを可能にする手があるよ』決然と“トリプルA”。『ゴーストのアクティヴ・ステルス網――違うかい?』
「電磁波を片っ端からコピィできるゴーストのこった」ロジャーの声には確認の色。「“放送”波をでっち上げるくらい造作もねェってか?」
「そう、」ロジャーの確認をキースが引き継ぐ。「アクティヴ・ステルスを維持しながら“放送”波を発信するのも不可能じゃない」
〈――てことは!?〉気色ばんで“キャス”の声。
「そう、」キースが片頬を釣り上げる。「第6艦隊の居場所は一つ――宇宙港“サイモン”だ」
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