17-3.封印 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.
『“K.H.”――これは特定の人名を示すものではありません』マリィが硬く言葉を紡ぐ。『“KeyHole”、即ち“鍵”の存在を受けて“封印”を開ける“鍵穴”――そのことを示しています』
「“封印”? ――おいおい、今度は何の茶番だ?」警備中隊長バカラック大尉が呆れ半分の言葉を紡ぐ。「ミス・ホワイトは何も知らないんじゃなかったのか? それとも彼女の信用でも墜とそうってのか?」
宇宙港“クライトン”は中心部、軌道レヴェータ区画。正面を占めるメイン・モニタには、マリィの苦しげなバスト・アップ。
「かも知れませんよ」管制卓から返してドレイファス軍曹。「真実はヘンダーソン大佐の言葉一つ、ってことにしたいんなら、そういう疑問を演出したも計算のうち――そういうこともあるでしょうぜ」
「にしてもまた大仰なもの言いだな」シートに背を預けたバカラック大尉が腕を組む。「“封印”と来たか――またどんな演出をぶち上げるつもりだ?」
「まさか“惑星連邦”の崩壊とか」とぼけた風のドレイファス軍曹――その言はしかし妙な寒気を伴って宙を泳ぐ。「……まさか、冗談ですよ」
「実際に、」バカラック大尉がこめかみに感じて汗。「跳躍ゲートは封鎖された――その事実を呑んだ上でか?」
『ここで言う“封印”とは……』“放送”の中でマリィがためらいがちに唇を噛む。『“惑星連邦”を分断し、各植民星系に独立をもたらす――そのシナリオを実現するプランに他なりません』
カメラが引いた。マリィの細身を端に捉えつつ、空けた空白へ描いて略図。
その上へひときわ大きく示されたタイトルは『惑星“テセウス”』、描かれた地形の中に輝点が等間隔で現れて3つ――いずれも軌道エレヴェータ。さらにその横、惑星地図からカメラがなおも引く。
『――届いた!』宇宙空母“オーベルト”戦闘指揮所に“キャス”の声。『宇宙港“サイモン”の配信局よ!』
〈発信源は!?〉キースの高速言語に感情が滲む。
『まだよ、』応じる“キャス”が低めて声。『――ああもう、間にスクランブルが入ってる!』
「配信局の収録室は――?」ハルトマン中佐が問いを口へ上らせる。
『決まってんでしょ、』言い捨てた“キャス”がモニタ端へ割り込ませて実況映像。『もぬけの殻!』
言葉通り、“サイモン”配信局にある収録室の群れには人影の一つすら見当たらない。
傍ら、メイン・モニタの大部分を占める“放送”――そこにはマリィの隣に映して星系の縮図。
衛星“ペリペテス”“シニス”“パイア”の軌道を視野に収めただけには留まらず、視点は外宇宙側すぐ隣に惑星“アリアドネ”を捉え、なお引いて恒星“カイロス”を、さらに引いて外惑星軌道までをも捉えたところでようやく収まりを見せ始める。最終的にモニタ上へ収まったのは――星系“ソル”へと繋がる跳躍ゲートの公転軌道。
〈尻尾は掴めないのか?〉オオシマ中尉に冷ややかな問い。
『できてりゃ苦労はないっての!』吐き捨てて“キャス”。『連中だっておとなしくしてるわけないでしょ!』
〈ジャミングかましてみちゃどうだ?〉
不敵にロジャー。
『こちとら敵の居場所を手繰ってるとこだってのに!?』
切り返す“キャス”の声が尖る。
〈いや、いい考えかもしれん〉ふとキースから助け舟。〈連中、“放送”の邪魔はされたくないはずだ。手をこまねいてるはずはない〉
『だから!』“キャス”に苛立ち。『出所も判んないデータを相手にどうやってちょっかい出すってのよ!?』
〈心配するな、必ず通る場所がある〉キースの声が帯びて確信。〈――配信中枢だ。こいつを陥とせ〉
『そのプランに示されているのは……、』重い間がマリィの言葉を押し留め――しかし言葉を断ち切れない。『星都を含めた軌道エレヴェータの制圧、ひいてはそこから宇宙軍による跳躍ゲートの軍事封鎖にまで至る、一連の行動なのです』
『そう、』マリィの横からヘンダーソン大佐の声。『“テセウス解放戦線”が裏で目論んでいた計画の要は、跳躍ゲートを単に軍事力で封鎖するところにこそある。つまりは“穴”を用意するわけだな』
カメラの視界に収まった大佐は、マリィへ軽く眼を投げた。
そこで“放送”をかすめてノイズが――一瞬。
『くっそ、やりやがった!』指揮卓にニールセン大尉の拳が弾ける。『警備中隊の狙いはこれか!?』
宇宙港“クライトン”は居住区画、その一端。軌道エレヴェータ区画との間を隔てて気密隔壁――その寸前。
乗り付ける機動装甲指揮車――MT-12Cシャイアン・コマンダ。
『宇宙港から!?』中の移動指揮所、ノース軍曹が呈して疑問。『どうやって!?』
『つまり、』眼を翻して、大佐は視線をカメラへ移す。『封鎖をすり抜けて密貿易を成立させる――その余地を残しておくことだ』
マリィが大佐へ眼を投げる――その機を読んだかのように大佐がマリィへ振り返る。
『――迂回した!?』“キャス”の声に棘が乗る。『どこから!?』
戦闘指揮所のサブ・モニタには模式図、宇宙港“サイモン”配信局のデータ・リンク。それが示して青一色――制圧完了。
だが“放送”映像には一瞬のノイズこそ乗ったものの、それ以外には小揺るぎする気配さえ見せていない。
『第6艦隊はステルスに入ってるんですよ!?』復活した“放送”を前に、しかしノース軍曹の声は収まらない。
『そのステルスの!』隣、歯を軋らせてニールセン大尉。『弱点を――ヤツらが衝いたとしたらどうする!?』
――間。そしてノース軍曹の声に理解が兆す。『――まさか!』
『だが、私の下した命令はそこまで甘くない』そこまで言ったヘンダーソン大佐が――マリィへ掌。『さて、この事実は君の口から告げてもらわねばな』
〈まだだ!〉キースの声に力。
『簡単に言ってんじゃないわよ!』
〈データのヘッダは!?〉データ・リンクの向こうからシンシア。〈通信履歴とかは洗ったのか!?〉
『だから!』
“キャス”が吐き捨てるそばからサブ・モニタに新たなウィンドウ。“放送”データに埋め込まれた通信経路データが真っ赤に染まる――即ち。
『丸ごと偽造!』
『連中……!』ノース軍曹が跳ね上げて語尾。『……ホットラインを!?』
『そうだ!』ニールセン大尉は苛立ちも隠さず、『宇宙港同士は有線で繋がってる! ヤツらが狙わん理由はない!!』
『ちっくしょ……!』ノース軍曹のヘルメット上、苛立たしげな指が踊って5本。『問題はどうやって止めるか、ってとこですよ』
唾を一つ呑んだマリィが、“放送”映像の中で大佐へ睨みを返す。
が、大佐は涼しい顔でその視線を受け流した。頷きさえして一言、『さあ』
『……ケヴィン・ヘンダーソン大佐の、下した命令は……』眼を伏せたマリィが絞り出して声。『……跳躍ゲートの、完全封鎖です……』
〈いや、かかった!〉キースが食らいつく。〈これでヤツらは逃げられん!!〉
〈……ああそういうことか。底意地の悪い話だね、どうも〉悟ったロジャーに苦い笑み。〈こりゃタヌキとキツネの化かし合いかよ?〉
『その通り』マリィの限界を見抜いたかのように、ヘンダーソン大佐の笑みが後を継ぐ。『闇取り引きはおろか、往来そのものを物理的に――しかも恒久的に封じる完全封鎖だ』
〈どこだ!?〉
ハルトマン中佐がサブ・モニタ、“放送”のヘッダ情報へ眼を注ぐ――ひたすら連なる偽装の赤。
〈け、そういうことか〉シンシアの声が追い付いた。〈問題は“放送”データそのものじゃねェってわけかよ――“ウィル”?〉
シンシアの指示を受けて“ウィル”がサブ・モニタにウィンドウをもう一つ。“放送”情報に添えられているのは観測データ――その発信方位。
〈そう、〉キースの声に確信が兆す。〈宇宙港の通信アンテナだ!〉
『通信アンテナだ!』ニールセン大尉に断言。『“放送”の発信源はごまかせん!』
『てことは……!?』ノース軍曹が息を呑む。『――くそ、“ミランダ”!』
視界、“ミランダ”が戦術マップへ加えてウィンドウ。そこへ“放送”波の発信方位、その先に――宇宙港“サイモン”。
『ヤツら、』ニールセン大尉が軋らせて歯。『宇宙港から仕掛ける気だ! “ベルタ”!!』
ニールセン大尉の携帯端末から“ベルタ”が戦術マップに描いて輝点、それが宇宙港“サイモン”から地上へ伸びる。
『あいつら――!』見届ける前に察してノース軍曹。『――“ミランダ”!』
戦術マップ、輝点が至って赤道上。そのまま地上を這い進み、至る先には――軌道エレヴェータ“クライトン”。
『無謀です!』“ミランダ”の声にもはっきり焦り。『データ・リンクもないのに!!』
マリィが重く口をつむぐ。うつむき気味に眼を固く閉じ合わせ、唇を重く引き結ぶ。
大佐が証したのは“テセウス解放戦線”が描いたシナリオに対する、明らかな逸脱。背信への背信、裏に裏を返した正当化。
『さてここで質問だ、ミス・ホワイト』ヘンダーソン大佐が芝居がかった声でマリィを向いた。『果たして私の行動は“テセウス解放戦線”の思惑通りか――あるいは否か?』
打ちひしがれたように、マリィの表情が持ち上がる。深緑色のその瞳は――今にも泣き出さんばかりに濡れていた。
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