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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第16章 相克
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16-11.感染 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

「何をさせる気?」振り返るマリィの眼が帯びて検。

「涙の再会に水を差すほど無粋だと思うかね?」ヘンダーソン大佐がすくめて肩。

「ここまでのことをしておいて……!」震えてマリィ、絞り出して涙声。「どこまで人を弄べば気が済むの……!?」

「これは随分な物言いだ」大佐の頬に苦い笑み。「少なくとも彼の願いは叶えたつもりだが?」

「そもそも死ぬ必要のなかった命だわ!」マリィの震える声に悲嘆と怒り。

「そこは平行線か」片眉をしかめて大佐が言葉を収める。

「これで“生きている”なんて言えるっていうの!?」その場をマリィの慟哭が覆う。

「だがこの通り、エリックは死んではいない」大佐の掌、示す先にMPS-030ダイダロス――エリックの魂を収めた骸。「犠牲を最小限に抑えて実を取るか、あるいは傷口を拡げてでも大義とやらを押し通すか――選ぶのは君だ」

「……卑怯者……!」唇を噛んでマリィがわななく。「どこまで残酷なの!? ……彼の命を私に奪わせるつもり……?」

「別に君の仲間と敵対しろとも言わんよ」淡然と言葉を置いて大佐。「説得してくれればそれに越したことはない」

「説得でも何でも!」激情がマリィの口を衝く。「やってみればいいでしょうに――その口で!!」

「――彼らが私の言葉に耳を貸すかね?」返ってきたのはむしろ淡白な大佐の疑問。「いみじくも君がそうだったように」

「――! ……」

 図星を衝かれたマリィが言葉に詰まる。キースらがヘンダーソン大佐の声に耳を貸す可能性、それはマリィが自ら証してみせた――すなわちゼロ。

「どちらにせよ、決めるのは君だ」ヘンダーソン大佐の口にいっそ突き放した物言いが上る。「彼の命とともに我々との共存を望むか、あるいはともに否定して葬り去るか――選択肢は二つに一つだ」

 漂って躊躇の間。急かすでもなく、ただし捨て置くでもなくヘンダーソン大佐はその眼をマリィへ注ぐ。

 逡巡――根気を試すような、その沈黙。再三再四、紡ごうとした言葉は形を成さずに流れ去る――その選択。いずれを採ろうとも潰える希望、その択一。

「……わ、……」言いかけてなお惑う。マリィが固唾を呑み下す、その音さえ響き渡らんばかりに重く沈黙。

「……解っ……たわ……」蚊の鳴くよりもなお細く、マリィの唇が言葉を紡ぐ。「……説得……すれば、いいのね……?」

 ヘンダーソン大佐がこの時小さく――しかし紛れもなく――笑みを浮かべた。


『ハァイ、キース』この時、“オーベルト”管制中枢のスピーカへ割り込んだ声がある。『面白いものが見付かったわよ』

「“キャス”か、」キースが笑みを声に乗せた。「もったいつけずに見せてみろ」

『OK、』宇宙空母“オーベルト”管制中枢、“キャス”がメイン・モニタへ表示を割り込ませた。『宇宙港“クライトン”の衛星放送回線、チャンネル別のデータ通信量よ』

 衛星放送回線ごとのデータ通信量が3次元グラフとして示される。

『注目はチャンネル035』“キャス”が声とともにチャンネル035のグラフを強調表示、ひときわ明るく明滅させてみせる。『下りも上りも立て込んでるわね――それも極端に』

 一目にして瞭然、チャンネル035の通信量は上り、下りともに群を抜いている。

「チャンネル035か。緊急放送用だな」ラズロ少将が疑問を呈してみせる。「確かに非常時だが……放送にしては不自然だな――データが多すぎる」

『だと思って、』“キャス”は相手の階級を鑑みるつもりなど毛ほども見せず、『中身を洗ってみたの。これが大当たり』

「陸戦隊の関係か?」食い付いたのはハルトマン中佐。

『それどころか、』“キャス”の声に喜々として色。『データ・リンク、それも軍用のが大っぴらに流れてたわ』

 ハルトマン中佐が掌で額を覆った。「……何という……!」

「つまりは連中も相当に追い詰まってるってわけだ」ロジャーが微笑を声に含ませた。

「第3艦隊のデータ・リンクは分断されたままだからな」ハルトマン中佐が巡らせて推測。「使えるものは使ったということか」

「ということは、」オオシマ中尉に疑問の声。「宇宙港側で手を貸した人間が?」

『まあ多分、警備中隊辺りの連中でしょ』“キャス”が皮肉を声に含ませて、『また嫌われたもんだわね』

「守るものが多いようだからな、あそこの中隊長は」苦い笑みを返してオオシマ中尉。「しかし、ただの石頭というわけでもなさそうだ。風向きが変われば考えを変えるだろうよ」

「何だそりゃ?」ロジャーの片頬にに苦く怪訝。「ま、俺達が無茶なのは間違いねェ。けど風向きがどうこう言う話なら、マリィのメッセージをぶち込んでやったら面白いんじゃねェのか? それこそ風向きとやらが変わるかも知れねェぜ?」

「かもな」不敵に頷いてオオシマ中尉。「これまでの行いが行いだ、大佐の人望が地に墜ちれたとなれば、連中が掌を返したところで不思議はないな」

「じゃ、」ロジャーが興の乗った声で、「ここで四の五の話し合ってる間に試す価値ありってことでいいよな?」

「異存は?」問いの視線をキースがその場に巡らせる――応じて沈黙。「ということだ、“キャス”。連中のリンクにマリィのメッセージを乗せてやれ」


「何だと!?」

 ノース軍曹に思わず声。宇宙港“クライトン”、無重力の宇宙港区画。乗り入れた機動装甲指揮車MT-12Cシャイアン・コマンダの電子戦席、応急のデータ・リンクを駆けたそのメッセージが視覚へ焼き付いて離れない。

 強烈な既視感――どころか自らの手で封殺したはずのそのデータ。一目で脳に焼き付くそのイメージ――いわく、マリィ・ホワイトは何も知らない。ヘンダーソン大佐の嘘、“サラディン・ファイル”の改竄、そして大佐の独裁志向――その主張。

 思わず懐、携帯端末を確かめる――そこに作動を示す光はない。

「どこから……!?」

 思わず口を衝く疑問。傍ら、補佐を務める兵長へ投げて問いの眼。返る視線に否定の色――焦燥。

 意を決す。起ち上げて携帯端末、骨振動マイク越しに命令を吹き込む。〈“シェリィ”、ミス・ホワイトのメッセージが……〉

 “シェリィ”に絶句。〈……流れてる? どういうことです!?〉

〈こっちが知りたい!〉ノース軍曹が打ち返す。〈お前じゃなきゃ外から……〉

〈外!?〉“シェリィ”が食い付いた。〈データ・リンクに割り込みなんてどこから……まさか!〉

〈くそ!〉ノース軍曹が遅れて悟る。〈放送波か!!〉

 応急のデータ・リンク構築に利用したのは民間の非常用衛星放送波、ここを衝かれたならば割り込みもさして難しいことではない。

〈データ・リンク遮断!〉ノース軍曹の声が切迫を通り越して突き刺さる。

〈無駄です!〉“シェリィ”が放送波の通信量グラフを視界へ示して、〈アップロードはとっくに終わって……!!〉

〈切れ!!〉なおノース軍曹が押して声。

〈……それが……!〉“シェリィ”に悲鳴。〈……切れません!!〉

〈くそ……!〉ノース軍曹に焦りが覗く。〈介入されたか!!〉


「衛星放送回線チャンネル035! 陸戦隊のデータ・リンクに、これは……!?」軌道エレヴェータ管制室、管制卓に就くドレイファス軍曹の声に重く緊張。「ミス・ホワイトのメッセージ――今度は生データが……!!」

 言い及んだ時点でもう遅い。ドレイファス軍曹の脳裏に、警備中隊長バカラック大尉の視覚に、マリィの技量――その総てを叩き込んだメッセージが深く跡を刻み込む。

「……今のは……!」バカラック大尉、その口に呆然と声。

 眼にしたのはヘンダーソン大佐の不義――その糾弾。先立つ大佐の行動――第3艦隊の切り捨てから救難信号の妨害に至るまで――をも考え合わせるに、その訴えはより一層の説得力をもって胸に迫る。

「……くそ……」頭を一つ振ってバカラック大尉。「陸戦隊の連中は……?」

 耳を傾けるまでもなく、陸戦隊からの声がデータ・リンクを駆け巡る――兆して波紋、衝いて動揺。

『大佐が……?』『それじゃ艦隊は……!?』『捨てられた……?』『まさか……!?』

「洩れたな、これは」バカラック大尉が呟く――第3艦隊所属陸戦隊が割れる、その瞬間。

「やっちまっていいですかね?」

 肩越し、覗いたドレイファス軍曹の頬に不穏な笑み。バカラック大尉ももはや制する言葉を持たない。

「……止めて止まるお前らでもなかろう」


『“裏口”が――?』“キャス”からまず疑問。『――開いてく!?』

「どうした、“キャス”?」訊いてキース。

『陸戦隊のデータ・リンク、』応えて“キャス”の声が尖る。『プロテクトが勝手に外れて――それだけじゃない! 他に誰かデータ突っ込んでるヤツがいる!』

「データって、」ロジャーから当然の疑問。「今さら何の?」

『戦闘記録みたいね』応じたのは“ネイ”。『第3艦隊と私達の。しかも宇宙港からの観測データよ。これが流れてるってことは――』

 “ネイ”が表示に回した要約だけでも、第3艦隊のデータ・リンク分断から、果ては救難信号の妨害までもがつぶさに見て取れる。前者だけでも宇宙に身を置く者には耐えがたいところ、後者に至ってはもはや喧嘩を売ったにも等しい。

「とうとう腰を上げたか」オオシマ中尉の頬に小さく笑み。

「宇宙港の警備中隊か!」ロジャーが指を一つ鳴らす。「バカラック大尉ってったな。あの狸親父が動いたってこたァ――!」

「“キャス”!」そこでキースに鋭く声。「宇宙港のシステムへ食い込め!!」

『言われなくても!』“キャス”の声にも意気が揚がる。

「“クライトン”だけじゃない!」キースが衝き込む。「“サイモン”と“ハミルトン”も繋がってるはずだ――しかも直通で! 今のうちだ、まとめて陥とせ!!」


「来ました、侵入!」ドレイファス軍曹の声にはむしろ快哉。「こいつァ……軌道エレヴェータの管制中枢へ食い込むつもりか!!」

「侵入元は?」念のためという体でバカラック大尉が判り切った問いを投げる。

「判りっこありません!」ドレイファス軍曹から即答。「そんなヘマ踏む連中じゃありませんよ! いいぞ、行っちまえ!!」


〈落ち着け!〉ニールセン大尉が衛星放送回線チャンネル035、陸戦隊のデータ・リンクへ声を押し込む。〈敵の情報操作だ! 見るな!!〉

 それで隊が収まろうはずなど無論ない。何よりニールセン大尉自身がヘンダーソン大佐へ寄せていた、その信頼が揺らいでいたことも間違いない。ただ頭にあったのは隊の維持――だが、その芯たる信条が揺らいだ現在、結束をもたらし得るものは失われた。

 データ・リンクのそこかしこ、噴出して疑問の声。一方であくまで大佐を支持する者もいる。意見の衝突が隊の統率に綻びを生み、集団としての機能を奪い去る――烏合の衆へと。


『レーザ通信確立!』“キャス”が宇宙港“クライトン”の通信システムへ侵入、まずは高速かつ安定したレーザ通信回線を確保する。『抵抗なし――こりゃ本格的に内輪もめ始めてるわね』

 言いつつ“キャス”は軌道エレヴェータの管制中枢侵入へ向けて足場を固める。電子戦艦で手に入れた軍事用暗号キィを駆使――するまでもなく、恐らくは意図して開けられた“裏口”伝いにサブ・システムを次々と平らげる。目立った抵抗がないと見るや、周辺システムの並列マシン・パワーにものを言わせて管制中枢へ一気に押し込む――あっけなく突破。

 視えたものは、混乱の渦。ヘンダーソン大佐を一度は指導者として仰いでおきながら、その行動に不信を隠し得なくなった、その矛盾。

 その混乱を衝いて“キャス”。宇宙港“サイモン”、“ハミルトン”への直通回線を探り当て、こじ開け――接触を果たす。

『開いた!』“キャス”に快哉。

「足元は固まったな」オオシマ中尉が眼を細める。

「次は第6艦隊だ」決然とキース。

「どう攻める?」問いはラズロ少将から。

「まずはトラップから仕掛ける手じゃねェのか」指摘してロジャー。「お姫様を手に入れたからにゃ、あのスケベ大佐は配信局目指してまっしぐらだろうよ」

「理屈だな」頷いてハルトマン中佐。「だがそれで打ち止めか?」

『言ってくれるじゃねェか』尖り気味にシンシアの声。『トラップ張ったら次は挑発かましてやらァ。決まってんだろ』

「そうだな」キースに悪い笑み。「配信曲から全チャンネルにマリィのメッセージを流してやったら――大佐のヤツがどんな顔で出てくるだろうな? ――“キャス”!」

「面白ェ」ロジャーに意気が揚がる。「“ネイ”!」

『言われなくても!』打って返して“ネイ”の声。『送電網伝いに攻めてくわ。うまくすれば地上局を押さえられるわよ』

『こっちは、』データ・リンク越しにシンシア。『生命維持系伝いに試してみる――“ウィル”?』

『いい手だ』“ウィル”が舌なめずりせんばかりに、『そう簡単には切られないからな。引き受けた』

「連中、“ジュエル”を陥としたなら身柄を運ぼうとするはずだ」オオシマ中尉が論理を辿る。「ドッキング・ポートか管制室辺りが臭うな――ギャラガー軍曹!」

「宇宙港の管制中枢からログを当たります」ギャラガー軍曹が頷き一つ、「“キンジィ”!」

『手伝えることは?』言い出して“ミア”。『“イーサ”と“ミーサ”の手も借りれば……』

「レーザ通信機だ!」キースが断じる。「連中、宇宙港との接触は断ちたくないはずだ――洗い出せ!」

 そして――その時。


〈ちょっと待って!〉混乱のただ中、ニールセン大尉の聴覚へ割って入って“シェリィ”の声。〈衛星放送波、チャンネル001!〉

 ニールセン大尉の視覚と聴覚、その時“シェリィ”が割り込ませて映像。折しも眼にしたばかりの顔が、“LIVE”の信号を伴い、なおかつ生の説得力を伴って呼びかける。

『……繰り返します。皆さん、聴いて下さい』紛いようもない――マリィ・ホワイト、その姿。『あらゆる戦闘を停止して下さい――今すぐに』




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


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