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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第16章 相克
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16-10.対策 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

「言わせるかね、俺に」第3艦隊旗艦“オーベルト”、その管制中枢でロジャーが片眉をしかめてみせた。「つまるところ“喰われた”んじゃないか、って可能性が否定できないわけさ――エリックが、“キャサリン”に」

「……あいつは正気だった!」キースの声が怒りにわななく。「……死ぬまで!」

「そういう場合もあるんじゃないかってこった。まあ融合しちまって正気でいるってこたァ、」ロジャーが肩をすくめる。「言っちまえば同意の上――まあ結婚の一種みたいなもん……」

 キースがロジャーの胸ぐらを掴んだ――その眼に怒り。

「他にうまい説明があるってんなら聞くぜ?」振り払う素振りも見せずにロジャーが訊く。

「……マリィが……!」キースの声が怒りに震えて低い。「……マリィがいながら……!」

「だからこそ、ってのは考えないかね?」ロジャーはあくまで淡然と問いを投げる。「何つって誘われたかまでは知りゃしねェけどよ。頭ン中だけでも残しておけるとなりゃ、女想いの男が死に際ですがるにゃあり得る話じゃ……?」

「あいつは……ッ!」言葉尻を断ち切ってキースに憤激。「あいつは……そこまであきらめのいい男じゃない!」

「ま、状況が状況でどうなるかなんてなァ、その場にいなかった俺にゃ想像するしかないけどよ」ロジャーが肩をすくめてみせる。「エリックに魔が差したとしてだ、お前さんとしちゃどこまで都合が悪いんだ?」

「……何……だと?」怒りを通り越したキースの表情がいっそ呆ける。

「お姫様の貞操か?」ロジャーの頬に人の悪い笑みが差す。「それとも手前の惚れた腫れたか?」

「貴様!」『待てよ!』

 シンシアの声と周囲の手、ともに割って入る間さえ与えずキースはロジャーを殴り飛ばした。肉の弾ける音がその場に響く。

『馬鹿野郎! 何トチ狂ってやがんだよ!』シンシアの怒声もデータ・リンク越しでは虚しく空を切る。『ロジャーもロジャーだ! そこまで傷を抉るこたァねェだろ!?』

「……済まねェな、調子に乗り過ぎた」さほど懲りた風も見せずロジャーが返す。「お前さんがこうまでムキになるってなァ、そうそうお眼にかかれるもんじゃないんでね」

「……俺はお前の玩具か」寄ってたかって取り押さえられたキースが、震えの残る声で吐き捨てる。

「ま、お前さんも人間だなと思ってよ」ロジャーが頬に指を這わせる。「ま、痛いとこ衝いたってことは当たりを引いたかもな」

「どういうことだ?」キースの声に怪訝の色。

「“キャサリン”さ」ロジャーが「ありゃ相当な食わせもんだぜ? 痛いとこ衝きにくるのはお決まりじゃねェの」

 キースの眼に得心――理性の光。「じゃ、あいつは……!」

「まあ、まず間違いないわな」ロジャーが軽い声で応じる。「エリックってヤツは死んでない――少なくとも、頭ン中はな」

『てことは……!』言いさしたシンシアが思わず唇を噛む。

「ま、多分そういうこった」ロジャーが苦く舌を出す。「お姫様な、人質取られちまっちゃ抵抗のしようがねェ。連中の思惑にずっぽり嵌まっちまうだろうぜ」

「だとして、」開き直ってキース。「やることが変わるわけじゃない。違うか?」

「お前さんはお姫様を取り返しに、」ロジャーが指をひらつかせて、「“ハンマ”中隊はヘンダーソン大佐の首を獲りにってか? ハードルは相当に上がってるかも知れんぜ?」

「それがどうした」断じるキースの眼が据わる。「今こっちの手にはネクロマンサもゴーストもある。“シュタインベルク”や“ダルトン”に、“オーベルト”だって動かせる」

「電子戦艦の真似事でも始めるつもりか?」けしかけるようにロジャーが笑む。

「その真似事ができる手駒は揃ってる」キースの眼が帯びて凄味。「あとはマリィとヘンダーソン大佐がどこにいるか、第6艦隊がどこで張ってるか、それだけ掴めりゃ手の出しようはあると言ってる」

「いいねェ、」ロジャーに不敵な笑み。「派手になりそうじゃねェの」

「簡単に言ってくれるな」横合い、皮肉交じりの声は副長――艦長代理のウィリバルト・ハルトマン中佐から。「2人の居場所をどうやって探り出す?」

『てことは、』データ・リンク越しにシンシアが衝き込む。『逆に言や、居場所さえ判りゃ仕掛けようはあるってこったな?』

「確かにできんとは言わん」ハルトマン中佐が腕を組む。「だが逆に訊きたいのは目標の位置、これをいかに割り出すかだ。一体どうやって探り出す?」

「大佐の立場に立って考えてみるさ」キースがハルトマン中佐に声を向ける。「マリィが救難信号でばらまいたあのデータ、ヘンダーソン大佐としちゃあれを否定したいはずだ」

 マリィが救難信号に潜ませてばらまいたメッセージは、不完全なりに星系“カイロス”全域へ届いてはいる。いわく――マリィ・ホワイトは何も知らず、そしてヘンダーソン大佐は独裁を志向している――ただし、直後に発せられた妨害波によって詳細までは触れられるに及んではいない。その完成形は宇宙港“クライトン”へ圧縮データとして送り込みはしたものの、それが拡散されたかどうかまでは確認できていない。

「大佐にしてみれば、あのメッセージは放っといていい代物じゃないはずだ。なら――、」口の端を舌で湿してキースが言を継ぐ。「当のマリィ本人を使ってそいつを否定にきてもおかしくない。違うか?」

「で、大佐の動きを読んでかかるわけか」ハルトマン中佐が顎へ指。「外したら悲惨だぞ」

「後手に回る方がよほど悲惨でしょうな」オオシマ中尉が意見を挟む。「待っていたところで第6艦隊が丸ごと襲ってくるだけでしょう。手駒が限られているなら、こっちから斬り込んで行った方が見込みはあります」

「そこは否定せんよ」ハルトマン中佐が軽く振って首。「問題はどうやって大佐とミス・ホワイトの居場所を特定するかだ」

「だから、こっちから誘導してやるのさ」一段低くキースの声。「無視できないようにな」

「具体的には?」乗ってきたのは艦隊司令サルバトール・ラズロ少将。

「マリィのメッセージを再発信する」端的にキース。「今度は完成形のデータを、ありとあらゆる回線にだ」

「宇宙港は使えんが、それでもいいいのかね?」ハルトマン中佐が疑問を呈する。発信能力という点で言えば、宇宙港の持つ配信局に宇宙空母は比べるべくもない。

「むしろそこがキモでね」キースの声にむしろ不敵の色。「相手には宇宙港を使わせる。向こうは発信能力の高い配信局で勝ちを取りに来る、って読みだ」

「ほう?」眼を細めてハルトマン中佐。

「アクティヴ・ステルス中の第6艦隊からは“放送”なんざできっこない」断じてキース。「マリィを使った“放送”で対抗するなら、艦隊のステルスを解くか、艦隊を離れるか――いずれにしろ宇宙港と接触を取らなきゃならない」

「宇宙港へレーザ通信を送るか、録画メッセージを流すかする手もあるぞ」オオシマ中尉が指摘を投げる。

「“放送”するからには説得力の点でライヴは外せない」断じてキース。「レーザ通信で中継するにしても、俺達が宇宙港を押さえてたら位置がバレる」

「宇宙港を押さえるのが前提か」確かめるようにラズロ少将。

「あっちが“サイモン”を使うか“ハミルトン”まで足を伸ばすか、」キースが頷き一つ返して、「どっちにしろ宇宙港とデータ・リンクを繋がないことには始まらない。なら、こっちとして次の手は宇宙港を陥とす――手始めは“サイモン”というところだろう。そうすれば少なくとも電子戦の土俵へ上がれることになる」

「“サイモン”の手前で第6艦隊が待ち受けていたら?」怪訝な問いはハルトマン中佐から。

「多分、その可能性が一番高い」そう語るキースの声に怯む色はない。「アクティヴ・ステルス同士で正面切って渡り合うことになる。肝試しのチキン・レースだな」

「先に手を出した方が負けるってか」不敵に笑んでロジャーが一言。

「勝負にならん」ハルトマン中佐が首を振る。「向こうにはまだ航宙機隊が残っているんだぞ。それこそ手数で勝ち目がない」

「少数とはいえ、」負けずにキース。「こっちにも鹵獲した航宙機隊がある」

「ゴーストの数が圧倒的に足りん」ハルトマン中佐の声はあくまで重い。

『負けることしか考えねェのか!?』シンシアがデータ・リンクの向こうでしびれを切らした。『徒手空拳からここまでお膳立て整えてやってんだ、ちったァ硬ェ頭ほぐして考えやがれ!』

「こっちにはミサイル艇3隻と“ハンマ”中隊、」オオシマ中尉から助け舟。「とにかく敵の艦艇に取り付ければ勝負の目はあります」

「向こうにも強襲揚陸艦の陸戦隊が控えている」指摘してハルトマン中佐。「逆に“クライトン”の陸戦隊を説得する手はないのか?」

「こっちとしては目標の居場所だけじゃなく、あわよくば目標そのものを押さえたい」キースから断言。「その点で外れが見えてる“クライトン”にはこだわる理由がない」

「陸戦隊2個中隊を正面切って相手にするからにゃ、」ロジャーも首肯する。「こっちも消耗は覚悟しなきゃな」

「よく聞け――だから制圧ではなく“説得”と言っている」ハルトマン中佐が押した。「損害を出さずに情報拠点としての宇宙港を押さえるチャンスだとしたら?」

「――いい方法があるなら、」キースが口調を転じた。「今のうちに言ってくれ」

「つまりこうだ、」ハルトマン中佐が額へ指をかざしつつ、「宇宙港の警備中隊とは接触を取りに行ったと話していたな?」

「確かに、」オオシマ中尉が頷きつつ腕を組む。「彼らにはコナをかけました――結果としては外れを引きましたが」

「警備中隊が諸君の味方だという疑惑は陸戦隊に植え付けたわけだろう」中佐の眼に光。「それを“クライトン”上陸部隊全体に拡げられんかと言っているんだ」

「具体的には?」訊いてオオシマ中尉。

「疑惑が拡散し切れていない可能性を考えてみるといい――」中佐自身が言葉を選ぶ――答えを自らの裡に探るかのごとく。「宇宙港の中にいた陸戦隊が、妨害波もミス・ホワイトのメッセージも受け取っていない可能性だ」

『つまり陸戦隊のデータ・リンクに、』シンシアがその言葉尻に乗る。『マリィのメッセージを直接押し込んじまうってことか?』

「早い話がそういうことだ」ハルトマン中佐に首肯。

「通じるという根拠は?」問いを重ねてオオシマ中尉。

「未だに陸戦隊が一枚岩だというのが解せん」ハルトマン中佐の指が撫でて顎。「ミス・ホワイトが救難信号を悪用したのは考えものだが、それを妨害するというのはより深い嫌悪感を呼ぶはずだ。ヘンダーソン大佐の釈明があるまでは付け込む隙が生まれていても不思議はない」

「それが表に出ていない、と?」半ばは自らへ向けたかのようにオオシマ中尉が問いを紡ぐ。「うまく行けば……」

「うまく行けば、」補ってハルトマン中佐。「損害を出さずに宇宙港という情報拠点が手に入る」

「損害を出さずに、か……」咀嚼するようなキースの呟き。「やってみる価値はありそうだな」




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本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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