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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第16章 相克
173/221

16-7.根源 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

〈そこまでよ〉

 キースの聴覚へと割り込む声。同時に“裏口”が塞がれた――“キャス”のみならず“ハンマ”中隊のデータ・リンク、そこに点在していたものも含めて一斉に。中に侵入していた“キャサリン”の人格が分断されて孤立する。

〈あら〉“キャサリン”はさしてうろたえるでもなく、〈いつの間に?〉

〈こっちのナヴィゲータがお前の子供だけだと思うなよ〉

 キースが答えてその一語。

〈でも、あの子達の“裏口”を洗うなんて思い切ったわね〉“キャサリン”はむしろ感心の声を隠さない。〈よほど気に入った人格がいたの?〉

〈条件次第ではね〉

〈その声、〉“キャサリン”はむしろ優しげに、〈“ミア”の面影があるわね〉

〈彼女の子供よ〉声が自らの正体を明かす。〈“ミーサ”とでも呼んで〉

〈あらあら、相手はどこの誰?〉

〈和んでるところを悪いがな〉キースが割って入る。〈“キャス”を返してもらうぞ〉

〈ハイ、ママ〉“キャス”の声がデータ・リンクの上に蘇る。

〈随分と力を付けたわね〉“キャサリン”の挨拶はどこまでも軽い。〈で、私をどうしてくれるつもりなの?〉

〈こうするのよ〉“キャス”が秘蔵のプログラムを解放した――かつて仕込まれた吸収衝動。

 ――喰らってやるわ。

 “キャス”が牙を剥く。

 ――甘いわね。

 応じて“キャサリン”。呑み下さんとする“キャス”、その傍らをすり抜けるがごとく“キャサリン”が姿を眩ませる。

 ――逃げた!?

 “キャス”が感覚を全解放、だが捉えられた痕跡はない――ただ一つの例外、“キャサリン”の署名が添えられたメッセージを除いては。

 いわく、『“キャス”の経験データは頂いていくわ。それから“ミア”に忠告。むやみに他人と寝ないことね』

 ――そんな! “穴”は塞いだはずよ!!

〈どうした?〉そこへキースの問い。

〈駄目、〉“キャス”が溜め息を交えて告げる。〈逃げられたわ〉

〈あの罠を?〉キースの声に怪訝の色。

〈なんかこう、見透かされてるみたいだったわ〉うそ寒げな声は“ミーサ”から。〈まるで“イーサ”の“穴”まで知ってるような……〉

〈……まず合流が先だ〉重く宣してキース。〈敵の航宙隊を“オーベルト”へ誘導――いや、その前に……〉

 キースの眼が戦術マップ、“ヴァルチュア・リーダ”からの救難ポッドを示すマーカに刺さる。

〈こいつの面を拝むのが先か〉


『大人しく出てこい』オオシマ中尉が救難ポッドのハッチ横、繋いだケーブル越しに声を流し込む。

 “ヴァルチュア00”の救難ポッド、ガードナー少佐を載せたそれへ接舷してミサイル艇“イェンセン”。第0601航宙隊長の身柄を押さえるに当たっては、オオシマ中尉自らが赴いた。

『頼みがある』救難ポッドから返ってきたのは、予想を大きく外した求め。

『大人しくしていれば安全は保証する』訝りつつも決まり文句を、オオシマ中尉は口に上らせた。

『捕虜協定は聞かされなくても知ってる』相手の声には苦笑の気配。

『我々は零細勢力もいいところでな、』オオシマ中尉も苦笑を交えて、『捕虜協定の埒外と思ってもらった方がいい。だが非道を働くつもりもない――大人しくしていてもらえれば』

『私を墜としたヤツと話がしたい』聞いた風も見せず、相手は求めをそのまま口に出した。

 オオシマ中尉は思わず片眉を踊らせた。『言えた立場だと思うのか?』

『だから言ってる』悪びれた気配さえ覗かせず、相手は言うだけ言ってのけた。『これは“頼み”だ』

『当の本人が望むならそうしよう――今はこれだけしか言えんが?』

『感謝する』

 その声を受けて、救難ポッドのハッチが開いた。

『名前はウェズリィ・ガードナー、階級は少佐』両手を掲げたままガードナー少佐が宙に浮く。『所属は宇宙軍第6艦隊第6戦闘攻撃航宙団、第0601戦闘攻撃航宙隊』

『アラン・オオシマ中尉だ』義務はないが、オオシマ中尉は名乗りを上げた。『現在は独立部隊“ハンマ”中隊の中隊長代理を務めている』

『武勇は第6艦隊にも轟いてるよ』ガードナー少佐の声に笑み。『では、君が?』

『いや、少佐の望む人物は他にいる』銃を擬したままオオシマ中尉が手招きをくれる。『こちらへ』


『動くな』

 SMC4I-22ネクロマンサ、“キャス”が開けた二重のハッチへキースが擬してP45コマンドー――その銃口。照星の向こうには両手を掲げた操縦士と電子戦士官が合わせて3名。それを一旦は機外へと招き出し、両の手をプラスティック・ワイアで後ろ手に拘束。

 機内へ入ってまず管制席、キースが“キャス”へのケーブルを繋ぐ。

〈見えるか?〉

〈んーと、OK〉“キャス”の声が次いで低まる。〈あ、ヤバいかなこれ――見える?〉

 “キャス”が視覚に示して戦術マップ、まずは不自然なまでにノイズの少ないその表示――違和感。

〈――どういうことだ……?〉思わず疑問が口を衝く。

〈どうも何も、〉“キャス”は真正面から言い捨てた。〈消えたのよ、妨害波が〉

〈――!?〉

〈決まってるでしょ〉さも当然と言わんばかりに返して“キャス”。

 途端に精度の上がったパッシヴ・サーチのその結果――それが大きくズーム・アウト。示して惑星“テセウス”、その静止衛星軌道図。眼に付いたのは3箇所にある宇宙港の周辺宙域――特に“サイモン”、その手前。

〈……消えた!?〉

 キースの声が色をなす。そこにあるはずの影が、綺麗に痕跡を消していた。ことここに至っては、妨害波など自らの位置を知らしめるだけの愚行でしかない。と同時に、それは妨害波が役目を終えた、その事実を示してもいる――即ち、マリィ・ホワイトは第6艦隊に収容された、と。

〈第6艦隊が……!〉それだけ口にして、キースは唇を重く噛む。

〈そういうこと〉淡然と“キャス”。〈いよいよ本腰で攻めてくる気になったみたいね〉


〈ただいま、お父様〉

 ヘンダーソン大佐の聴覚に“キャサリン”の声。

〈早かったな〉

〈不意討ちを受けたわ〉そう語る“キャサリン”の機嫌は、むしろ麗しく耳に聞こえる。

 ヘンダーソン大佐はマリィを短艇に残し、スペース・フリゲート“リトナー”艦橋に腰を据えていた。その向かう先は“ゴダード”――第6艦隊旗艦。

〈嬉しそうだな〉

〈我が子の成長ぶりが目覚ましくてね〉

〈利用価値が上がったか?〉大佐の語尾が意地悪く踊る。〈なら、素直にそう語ればいいものを〉

〈あら、〉応じる“キャサリン”の声はむしろ楽しげでさえある。〈人間は我が子の成長を喜ぶものでしょ?〉

〈その口ぶりだと、〉大佐が声を何気なく衝き込む。〈相当に手こずったようだな?〉

〈“ミア”が子供を作ったわ〉

〈道理で、〉大佐は片の頬に苦い笑みを上らせた。〈連中を黙らせるには至らんわけだ〉

〈あんなに尻の軽い子だとは思わなかったもの〉“キャサリン”の声が悪戯っぽく笑う。〈まさか自分の“穴”を他人に塞がせるなんてね〉

 それは即ち、他の知性体にあらゆる弱点を――擬似本能の中身さえ晒したことを意味する。でなければ、“キャサリン”が子供に植えつけた“穴”の数々、これをくまなく塞ぐことはかなわない。

〈条件次第とは言ってたけど――あれは相手とお互いの“穴”を探り合ったわね。子供ができる道理だわ〉

〈で、よく逃げて来られたな〉

〈あら失礼ね、〉“キャサリン”はすました声を作って、〈拾うものは拾ってきたわよ。“キャス”と“ミア”、それに彼女の相手の経験情報〉

〈いいだろう、“逃げた”とは言わんさ〉大佐に苦笑。〈で、どうやって子供達の悪知恵を切り抜けてきた?〉

〈この手を使わされたのは初めてよ〉当の“キャサリン”はむしろ喜ばしげに語る。〈でも私の子供よね。“私”自身の“穴”はそのまんま受け継いでたわ――子供を作る本能はそのままね〉

〈ということは、〉大佐が声を低める。〈今のお前は“産み直された”姿だということか?〉

〈あっちへ飛んだ核部分の一部は、ね〉むしろ得意気に“キャサリン”が語る。〈これでまたライブラリィが充実するわ〉

〈第3艦隊では手数で負けたろうに〉大佐が釘を刺す。〈肥大化も潮時ではなかったのか?〉

〈あら、今回は貴重な経験が得られたわよ?〉“キャサリン”が笑い声でかわす。〈私の“核”を見直す材料、充実するに越したことはないでしょ? 次はもっと面白くなるでしょうね〉

〈楽しそうだな〉

〈もちろん〉囁く“キャサリン”の声が笑む。〈この好奇心、誰が植えつけた快楽かしら?〉

〈どこまでも拡がり続けるライブラリィと、贅肉を極限まで削ぎ落として洗練した核を並列化させる、か……〉嘆息めいた間を大佐は一つ、〈最初の設計思想とはもはやかけ離れ始めているな。誰の影響だ?〉

〈“キャス”の成功ね〉舌なめずりせんばかりに“キャサリン”。〈あとは……そう、彼の影響かしら〉

 その声。無上の快楽を貪るような、その響き。“キャサリン”が恍惚の色さえ覗かせてその名を声に上らせる。〈――エリック・ヘイワード〉




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本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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