15-9.対抗 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.
〈マリィから発光信号!〉“ウィル”が“フィッシャー”のブリッジで声を上げた。〈――“敵艦に狙われてる”!?〉
〈アクティヴ・サーチか!?〉色を帯びてシンシアの声。〈妙だな、マリィの身柄欲しさに艦隊まで捨てたヤツが――今さら?〉
〈今だからかも知れんぜ〉返して“ウィル”の硬い声。〈光学観測でも判るぜ、一隻マリィに近付いてるのが〉
〈電子戦艦の方は?〉打ち返してシンシア。
〈音沙汰なし〉“ウィル”がこぼす。〈こりゃ振られたかな〉
〈続けろ!〉問答無用でシンシア。〈マリィに近付いてやがるヤツにもちょっかい出すぞ!〉
〈いいけど、〉イリーナに呆れ声。〈何やるつもりだい?〉
〈“シュタインベルク”だよ!〉シンシアが応じる声に力。〈アクティヴ・サーチをぶちかますのさ、マリィを狙ってるフリゲートに!!〉
〈いいけどよ、〉“ウィル”の声に疑問が乗る。〈お互い撃沈なんてできやしないんだろ? それくらいで思い留まる相手かね?〉
〈だったら頭使え!〉シンシアが現実を突き付ける。〈“サラディン・ファイル”ってなァマリィの語りがセットでナンボの代物だ。それを吹っ飛ばそうってこたァ……〉
〈ちょっと待ちなよ〉イリーナがシンシアに差して水。〈連中がマリィの確保に躍起だってのは周知の事実だろ? 事実にゃ事実をぶつけるもん……〉
〈回りくどい説明ァなしだ!〉語尾をぶった切ってシンシアが訊く。〈手があるのか?〉
〈敵がマリィにアクティヴ・サーチをぶつけてるんだろ?〉反問を返して意地悪げにイリーナが笑みを浮かべる。〈中継してやりゃ……〉
〈そいつだ!〉一も二もなくシンシアが食い付いた。〈マリィに現状をライヴで中継させろ! こっちは拡散に回る! 繋がりゃいい、ネットに片っ端から仔細構わず垂れ流してやれ!〉
〈この妨害波の中で!?〉疑問を呈したのは“ミア”。〈どうやって……!?〉
〈SOS……〉返しかけたシンシアが途中で気付いて頭を抱える。〈……は敵が押さえてるか!〉
救難信号の周波数帯は敵の妨害で使い物にならない。レーザ通信のような指向性を持たず、かつ電波妨害を突破でき、さらに強制受信義務がある信号といえば……、
〈“フィッシャー”へ、こちら“シュタインベルク”、〉言う間にもデータ・リンク越しにコール。〈デミル少佐だ〉
〈こちら“フィッシャー”、マクミランだ〉シンシアが応じる。〈そっちでも傍受したか?〉
〈無論だ〉デミル少佐の声に滲んで緊迫。〈ミス・ホワイトにアクティヴ・サーチとはいい度胸だ、これが黙っていられるか!〉
〈多分、マリィに接近してるフリゲートだ!〉シンシアが〈ぶちかませるか?〉
〈知らんわけじゃあるまい、〉言葉尻だけで訝ってデミル少佐。〈あっちにも人質がいるぞ、お互い撃つに撃てんのは……〉
〈アクティヴ・サーチだけでいい!〉シンシアが不敵に言い放つ。〈牽制だ! 本命にゃマリィ本人のメッセージを使う!!〉
〈――どうやる?〉半拍とおかずにデミル少佐が乗ってきた。
〈何とかSOSを拾わせようと思ってる。光信号なら……〉
〈アクティヴ・サーチの方が早い〉割り込んでデミル少佐。
〈……やれるのか?〉むしろ虚を衝かれたシンシアの口から問いが出る。
〈火器管制アクティヴ・サーチなら、あからさまな敵対行動だ〉デミル少佐が言を継ぐ。〈嫌でも反応は引き出せる。どこを狙う?〉
〈宇宙港!〉打ち返してイリーナ。〈あそこからの有線なら妨害波もくそもないはずだよ!〉
〈ならオオシマ中尉を呼び出せ!〉シンシアが記憶の緒をたぐり寄せる。〈確か因縁持ってたはずだ!〉
『中継を?』思わずマリィが訊き返す。
『そう言ってきてます』ハーマン上等兵に緊張の極み。『今の実況を中継しろと』
『またぶっつけ本番?』場違いな科白がマリィの口を衝く。『しかも、今度は自分が殺されるところを?』
だが、遅れて理屈は頭に沁みた。確かに衆人環視の中でなら、マリィを撃てなくなるかも知れない――その可能性。
『解説が要ります?』覗き込むようなハーマン上等兵の問いかけ。
『……やるわ』決然とマリィ。『これで相手の引き鉄が重くなるんなら。準備して』
〈アクティヴ・サーチです!〉宇宙港“クライトン”軌道エレヴェータ管制室、管制卓に就いたドレイファス軍曹の声に緊張が走る。〈発信源特定――フリゲート“シュタインベルク”!〉
火器管制アクティヴ・サーチの照射は明確な敵意の表明に当たる。その発信源たるフリゲート“シュタインベルク”が“ハンマ”中隊の手に陥ちたとは、“解放”に現れた陸戦隊からの情報にある。
〈あの連中、宇宙港を捨てたと思ったら……!〉管制部長席でユージーン・バカラック大尉が舌を打ちつつ首を傾げる。〈……何を今さら?〉
〈アクティヴ・サーチにパターンあり!〉ドレイファス軍曹の声が色を成した。〈これは――SOS!?〉
〈何のつもりだ!?〉バカラック大尉が眉をひそめる。
敵意の塊ともいうべきアクティヴ・サーチに乗せてきたのが、よりにもよってSOS――冗談にしても笑えないことこの上ない。
もっとも――跡から頭が追い付いた――救難信号の周波数帯は妨害波で遮られ、それを打ち破るにはより強力なアクティヴ・サーチが必要になっていてもおかしくはない。
〈並行して発光信号!〉ドレイファス軍曹が告げて事実。〈――圧縮データ!!〉
〈構うな!〉バカラック大尉が鼻息一つ、〈どうせウィルスかクラッシャか、ろくなもんが仕込んじゃあるまい〉
〈アクティヴ・サーチのモールス信号、続きます!〉ドレイファス軍曹の声音が緊張の色に染まっていく。〈“Broadcast this message from Marie White(マリィ・ホワイトノメッセージヲ発信セヨ)”――!〉
〈誰が聞く耳を――、〉言いかけたバカラック大尉の語尾を、ドレイファス軍曹の訳がぶった切る。
〈“――to Cp.Eugene Bacharack, from Lt.Aran Ohshima, with respect.(ユージーン・バカラック大尉へ、アラン・オオシマ中尉ヨリ、敬意ヲ込メテ)”〉
〈――!〉バカラック大尉が頭を抱えた。
よりにもよってここでその名が出るとは夢想だに思わない。思い至るはずもない。
〈どうします?〉人の悪い視線を、ドレイファス軍曹が投げてよこす。
〈あンの疫病神……!〉バカラック大尉に地獄の底から絞り出さんばかりの唸り声。
これではバカラック大尉の立場は、“ハンマ”中隊の味方として喧伝されてしまったに等しい――しかもマリィ・ホワイトの知名度までをも味方に付けて。
〈俺とミス・ホワイトの名前を抱き合わせにしやがった!〉
そこでオオシマ中尉と交わした言葉が頭をよぎる――“惑星連邦”に制圧されるか、ヘンダーソン大佐の独裁下に入るか、二者択一――あるいは、別の選択肢があり得るとしたならば。
〈バカラック大尉へ! こちらニールセン大尉、〉鋭い声が応急のデータ・リンクに乗ってきた。〈どういうことだ、これは!?〉
進退窮す。データ・リンクで――しかも公共のチャンネルを使って――繋がっているとなると、宇宙港の陸戦隊に隠しおおせるはずもない。バカラック大尉の思考が素早く巡る――起こった事実は曲げられない。――ならば。
〈ニールセン大尉へ、こちらバカラック大尉。どういうわけか“ハンマ”中隊の連中は私を抱き込みに来たようだ〉
〈認めるのか!?〉ニールセン大尉の口調は詰問に近い。〈だとしたらなぜ我々に手を貸した!?〉
〈その通り。我々が連中とグルだとしたら、貴官らを救けたと思うかね?〉反問に忍ばせて、バカラック大尉は事実を相手へ突き付ける。〈相手はこちらを揺さぶりに来ている――そうは思わんか?〉
〈だとして――〉ニールセン大尉の矛先が鈍った。〈何のために?〉
〈それが判らんから苦労している〉本音がバカラック大尉の口を衝く。
〈なら、〉ニールセン大尉が訝りつつも、〈事実を確かめてみるまでではないのか?〉
〈いいだろう、連中からのデータをそちらへ中継する〉バカラック大尉がドレイファス軍曹へ手信号をくれつつ、〈自分の眼で確かめてみてくれ〉
『こちら“コスモポリタン・ニュース・ダイジェスト”のマリィ・ホワイトです。惑星“テセウス”の静止衛星軌道上からお伝えしています』
マリィからのメッセージが文字情報として視野を流れていく。同時に流されている圧縮データは電子戦担当士官へ回し、ニールセン大尉は眼を凝らした。
最優先目標マリィ・ホワイト、その手になる直接情報はあの“放送”以来のものになる。ただ、この通信がマリィ本人からのものである保証は、実のところ未だない。その真偽は並行して送り付けられてきた圧縮データが持つ内容次第というところ、しかしそこに何らかの悪意――クラッシャやウィルスなど――が潜ませてある可能性も排除できない。そこは電子戦担当班の検証待ちというところだが、それを置いても“惑星連邦”を揺るがした当の本人を名乗るメッセージには、ニールセン大尉ならずとも興味を惹かれるものがあった。
『私は今、“テセウス解放戦線”の艦艇に狙われている状態です。いつこの生命が吹き飛んでもおかしくはありません』
「――何だと!?」
思わず通常言語の呟きがニールセン大尉の口を衝く。宇宙艦隊を挙げてまで追い求めている最優先目標を、今度は抹殺しようなど矛盾に満ちていることこの上ない。
もちろん、これが第三者の狂言でない可能性は捨て切れないが、穏やかでいられる内容でもないのは間違いなかった。
〈電子戦班!〉ニールセン大尉が指示を飛ばす。〈圧縮データの解析急げ!〉
〈こちら電子戦班、無茶です!〉悲鳴にも似た答えがデータ・リンクを駆ける。〈マシン・パワーが絶対的に足りません!〉
〈最優先目標が殺されるかも知れんのだぞ!〉
〈圧縮そのものは暗号化されてるわけでもなし、大した代物じゃありません〉電子戦班を率いるノース軍曹の声が諭すように低くなる。〈問題はそこに何が仕込んであるかです。下手すりゃ宇宙港ごと感染するかも知れんのですよ!?〉
『私はここに断言します。私は何も知りません――あの“放送”、あそこで語った以上のことは、何一つ』
ニールセン大尉の背筋が冷えた。自分は何かとてつもなく重大な局面に遭遇しているのではないか――その不安。
〈なら、〉思い付きが先走ったようなノース軍曹の声。〈いっそ解析をあきらめては!?〉
〈は!?〉大尉の声がすっぽ抜けた。
〈データ・リンクから隔離した端末で圧縮データを展開すればいいんです!〉思い付きをそのまま言葉へ直しているかのように、ノース軍曹の上ずった声が語る。〈後は私が直接確かめます!〉
『ケヴィン・ヘンダーソン大佐が語るような新事実など、ベン・サラディンの遺したリストには存在しないのです』文字情報が視覚を流れていく、そこに違和感。ヘンダーソン大佐の言と真っ向から対立する、それは証言。
〈何だ、こいつは……!?〉ノース軍曹の口を衝いて出た、それは感情。〈こいつは……いや、まさか……〉
『何より、データを隠す動機が私には存在しません』
そしてノース軍曹の声がない。
〈どうした、ノース軍曹!?〉マリィのメッセージを視界に捉えたままニールセン大尉は声を跳ね上げた。〈何があった!?〉
対する答えは――沈黙。
『その証拠をここに示しましょう。まず、今の私は……』
――そこで、マリィのメッセージは突如として途絶した。
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