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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第15章 接触
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15-4.始動 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

〈どれだけ手間食うと思ってんだ!?〉“キャス”の逆鱗に触れた当のロジャーが訊き返す。

 電子戦艦“レイモンド”上限後部、第1格納庫。ロジャーの指先にはSMD-025ゴースト――有人コクピット・モジュール搭載機。

〈知ったこっちゃないわよ〉一蹴して“キャス”。〈どっちにしてもファームをイチから書き換えるよりよっぽどマシでしょ。それにチャンスは待ってくれないわよ――いま結果が来たわ、あと13分と32秒!〉

〈問答無用かよ〉ぼやきつつもロジャーがラッタルを這い上がる。〈ワクチン突っ込んでる暇もねェぞ〉

〈炉が落ちてても起動用電源は使えるはずだな?〉問いの形でキースが考えを割り込ませる。

〈そうね、〉“キャス”の首肯。〈生きててもいいはずだわ〉

 核融合炉の起動には、最初のきっかけとなる核融合反応を起こすだけの電力が要る。ましてや戦闘態勢下の戦闘艦なら、整備中で融合炉を止めることはあっても、再起動用の電力は蓄えてあって不思議はない。

〈なら炉を起ち上げる手間は省けるはずだな〉キースもロジャーの後を追う。〈“キャス”、身代わりのダミィとワクチンのコピィを作っておけ〉

〈おいおいおい、〉嫌な予感をみなぎらせてロジャーの問い。〈何の相談だ?〉

〈馬鹿正直に立ち上げたら、〉ロジャーの問いにキースが返す。〈“キャサリン”の思う壺に嵌まる〉

〈例のクラッシャが飛んでくるってのか?〉

〈外部とのデータ・リンクも切っておいた方がいいな〉言下にロジャーの疑問を肯定しておいて、〈機体内部のリンクだけ確立して、後は目視データで機位測定しながらタイミングを待つってところか〉

〈でしょうね〉“キャス”の声に浮わついた気配はない。〈どのみち予備電源じゃひと噴かしがいいことよ〉

〈炉を動かす余裕もないってか〉ロジャーがむしろ不穏な笑みを声に乗せる。〈一発勝負の大博打かよ〉

〈私の計算に不満があるっての?〉“キャス”が声を尖らせる。

〈いやいやいや、〉ロジャーはむしろ声を浮き立たせて、〈なかなか大した肝っ玉だ。嫌いじゃないぜ、そういうの〉

〈どこまでおめでたく出来てるんだか〉呆れてみせた声の主は“ネイ”。

〈前向きだっつって欲しいね〉返すロジャーが口を尖らせる。〈沈んでたって埒が明くわきゃねェだろ〉

〈はいはい失礼、〉取り澄ました声で“キャス”が割って入る。〈仲がいいのは解ったから早くして。後がつっかえてんだからね〉

〈お前さんが言うかよ〉苦笑を声に乗せてロジャーが返す。〈よっぽど図星だったんだな〉

〈その手はもう食わないわよ〉言いつつ“キャス”の声が尖る。〈私にちょっかい出してるほど暇じゃないと思うけど?〉

〈へいへい、おっしゃる通りで〉形だけ恐縮したロジャーが整備区画に左腕の鏡を覗かせる。〈とりあえず動くやつァ見当たらねェ……っと〉

〈構うなと言ってる〉キースの口から苦言が漏れる。

〈文句はあの女たらしに言って〉打ち返して“キャス”の反駁。

〈急ぐぞロジャー、〉仕方なしといった体でキースが言葉をロジャーに向けた。〈こいつのことだから余計な時間は見込んでない〉

〈そうせっつきなさんなって〉ロジャーが軽口を残して飛び出した。〈人間、余裕なくしちゃおしまいよ〉


『余裕ないって顔してるぜ』“ウィル”がシンシアに向けた、最初の一声がそれだった。『どうやら死に損なったってとこかな、これは?』

「手前をサルヴェージすんのにどんだけ手間食ったと思ってんだ」憎まれ口を返すシンシアの口調に、しかし鋭さはない。「ヒューイのナヴィゲータがかかりっきりになってたぞ」

『そりゃ失礼』

「どこまで覚えてる?」シンシアの問いは、“ウィル”そのものの存在に向けられる――一時は実体すら半ば失った存在を、いままた同じ人格として扱うべきか、その可否を。

『どうもぼやけてるな』応じる“ウィル”の声には芯がない。『例えばキースに何か……執念めいたものを感じた覚えが残ってる。でもその理由となると説明できない――とでも言や伝わるかな』

「“キャス”に喰われたところは?」

『――ああ、』擬似人格にしては珍しく怖気をふるったような“ウィル”の声。『そこまでははっきり覚えてる。自我がなくなっていくってのかな、あれは。記憶だけ残ってて意志が消えてく感じとでも言うか』

『そこまででいいでしょ』横から入った声は“ミア”。『彼にも働いてもらわなきゃなんないんだから』

「そうだな」シンシアが頷く。

『何が起こってる?』“ウィル”が訊いた。『それから自己紹介くらいしてくれ。相方の呼び方も判らなきゃ仕事に張りも出やしない』

『“ミア”でいいわ。ヒューイのナヴィゲータといえば解るでしょ?』“ミア”の答えには色気の欠片たりとない。『あれからことが進んでね。今じゃこっちが第3艦隊を制圧にかかってる――のはいいけど、時間が一杯いっぱいってとこよ』

『それで、』自虐めいた色を“ウィル”の声が帯びる。『負けの込んでる俺にまで出番が回ってきたってか?』

「ヒネてる場合か」シンシアが“ウィル”の憂いを一言の元に斬って捨てた。

『OK、』“ウィル”が感覚を解放する。場所は救難艇“フィッシャー”ブリッジ、航法中枢。そこに繋がる船務中枢を始めとした、ほぼ艇全てのマシン・パワーが直に感じ取れる。『こいつはまた思い切ったもんだな』

「どのみち艦隊ン中から動かなきゃ使いようがないからな」航法席の後ろから顔を覗かせたのはニモイ曹長。「“キャス”とお前さんをサルヴェージする方が先だった。感謝してくれよ、“キャス”の抜け殻とシンシアの持ってたバック・アップを繋ぎ合わせるのは結構ホネだったんだぜ」

「“シュタインベルク”の力まで借りたからな」シンシアが付け加える。「これで空振りだったら眼も当てられねェところだ」

『そこまでして俺に何をしろって?』

「決まってるだろ」シンシアの声が凄味を帯びる。「“キャサリン”のやつが空けた穴を探して、そいつを埋めて回るのさ」

『俺が助かったってことは“キャス”も助かったってことだよな?』“ウィル”の声にはっきり怪訝。『あいつのほうが適任じゃないのか?』

「あいつらはまだ電子戦艦の中で足止めだ」ニモイ曹長から助け舟。「這いずり出てきて旗艦に辿り着くまで、使えるマシン・パワーはこっちのが上だ」

『で、その間はあいつの作業を肩代わりするってか』“ウィル”に鼻を鳴らすような間。『けど“キャス”に喰われた俺に何ができるって?』

「むしろ喰われたからこそだ」シンシアが“ウィル”の自虐を叩き返す。「ヤツのやり口はお前の骨身に沁みてるはずだ。鼻が利かねェわけがねェだろ」

『負け犬の骨までしゃぶり尽くそうってわけだ、』苦笑が“ウィル”の声に滲んだ。『涙が出るね』

「御託はいい」シンシアは苛立ちを隠さない。「やるのか、やらねェのか?」

『どっちかってェと、やれるかやれないかだな』

 言う間に“ウィル”は自らの中へダイヴした。オリジナルの自我にプラス・アルファされた部分があるにはある。

『アドヴァイザとしちゃ“ミア”がいるとして、』“ミア”を主役に据えない理由は推して知れた――経験の差。『とにかく今んとこのデータをくれ。こちとら自分がどういう有り様かも解っちゃいないんだ。とにかくやれるだけやってみよう』

『なら急ぐことね』“ミア”が事もなげに告げる。『キース達、じき通信管制に入るつもりよ』

〈他人事みてェに言ってんじゃねェよ〉文句を一つ投げて、シンシアは高速言語をデータリンクに疾らせた。〈キースへ、こちらシンシア。まだだんまりモードにゃ入っちゃいねェだろうな?〉

〈こちらキース、〉鋭い声が帰ってくる。〈今リンクを切ろうとしてたとこだ。どうした?〉

〈艦隊のファームな、穴埋めはまだ途中だったろ?〉畳みかけてシンシア。〈こっちで引き継ぐ。データをよこせ〉

〈やれるのか?〉

〈“ウィル”が息を吹き返した〉シンシアが打ち返す。〈“ミア”と共同で作業に当たらせる。どうせそっちァしばらく解析やってる暇なんざありゃしないだろ? この際猫の手も借りたいってとこだよな?〉

〈解った――ちょうどいい〉

〈……何がだよ?〉余計な一言にシンシアが食い付いた。

〈ちょうどバック・アップが欲しかったとこだ〉

〈何のだっつってんだよ!?〉

〈解析中のファームと作りかけのワクチンだ、決まってるだろう〉

〈手前、〉シンシアの声が険を帯びる。〈まさか保険でもかけてるつもりじゃあるまいな?〉

〈それほど暇だと思うか〉

〈馬鹿野郎!〉シンシアの一喝が飛ぶ。〈手前、それほどギリギリの橋渡ってるんなら相談ぐらいしやがれ!〉

〈役に立つならとっくにやってる〉キースの答えは淡々として深刻の度は滲ませない。〈この際は解析優先だ。こっちで作業を継続するつもりだったが〉

〈遭難するかも知れねェって素直に言え!〉シンシアが突っ込む。

〈後は俺達の作業と“キャス”のタイミング取りにかかってるが〉言う間に手を動かしている様が音を通じて伝わってくる。〈どのみち一発勝負、例によって後はない〉

〈無茶考えやがる……〉シンシアが額に手を当てた。

〈そもそも相手が無茶なんだ〉キースが断じる。〈無茶もしないで生き残れるほど甘かない〉

 とどめの一言。これにはシンシアも返す言葉を持たなかった。〈無茶が身上かよ……イカれてやがる〉

〈気が済んだんなら転送するぞ〉追い打ってキース。〈お前の言ってる通り暇がない〉

〈勝手にしやがれ〉そう強がるのがシンシアには精一杯のところだった。〈宇宙のゴミになんざなるんじゃねぇぞ、こちろら人手が足んねェんだ〉

〈励ましのお言葉と受け取っとくぜ〉ロジャーの軽口が割って入る。〈“オーベルト”に辿り着いたらせいぜい熱烈に歓迎してくれ〉

〈そいつァ“オーベルト”の連中に伝えといてやる〉せいぜい皮肉に聞こえるようにシンシアが返す。〈野郎どもの暑苦しい歓迎を覚悟しときな〉

〈そりゃ涙が出るね〉懲りた風もなくロジャーが続ける。〈お前さんのねぎらい一つありゃ、地獄の入り口からだって帰ってきてみせるぜ〉

〈ねぎらいだ何だっつって、〉噛み付いてシンシア。〈どうせろくでもないもん期待してやがるだろうが!〉

 軽口が交わされている間にもデータの転送が進み――終わるなり“キャス”の声が割り込んだ。〈転送終了。漫才もそこまでよ〉

〈どこが漫才だ!〉切り返すシンシアの声が少なからず熱い。

〈付き合うだけ無駄ってこと〉言い捨てて“キャス”が声の向く先を変える。〈もう最終段階でしょ、キース。リンク切るわよ〉

〈ああ〉

 そうしてデータ・リンクは一方的に遮断された。

〈あん畜生、どこまでふざけりゃ気が済むってんだ!?〉

〈好みの女がこの世からいなくなるまででしょ〉“ミア”が素っ気なく応じる。〈だんだん解って来たけど、あなたも随分付き合いがいいわね〉

〈誰が!?〉返すシンシアの声に検が乗る。

〈そうやって付き合うから向こうも調子に乗るんでしょ?〉“ミア”の声に苦笑が乗る。〈解ってるくせに〉

〈――余計なお世話だ〉一拍の間を感情の鎮静に費やしてシンシア。〈まあいい。“ミア”、送ってよこしたデータ展開しな。始めるぜ、“ウィル”!〉




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本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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