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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第15章 接触
159/221

15-3.閉塞 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

〈無駄よ〉

 ハーマン・カーシュナー上等兵の気密ヘルメットに“キャサリン”の高速言語。

 “オサナイ”を離脱する救難ポッドに乗り込んだところまでは良かった。“オサナイ”から回収の短艇が出てくるであろうことも予想を裏切ってはいない。懐の携帯端末に忍ばせてあるのはマリィの自信作とも言えるデータ・リンク・プログラム。

 ただ力になりたい、その希望に背を押されて志願した囮役。だが追い付いた短艇のハッチ横、端末に流し込んだはずのそれは、嘲弄一つで弾かれた。

『無駄なもんかよ!』ハーマン上等兵の衝動が通常言語の形をとって口を衝く。口を開いた短艇のハッチに滑り込み、壁を蹴って中へ躍り込む。

 阻みに来る手を覚悟したがその予想は外された――それを幸い、シートを乗り越えて操縦卓へ。

 表示灯は完全自動操縦下にあることを示している。手動への切り替えを図るが、そこへ“キャサリン”が追い討ちの一言を投げかけた。

〈無駄だってば〉

 ――反応なし。操縦系統はつまり“キャサリン”の完全な管制下にあるらしい――通常のものは。

〈これで終わったと――〉ハーマン上等兵は拳を叩き下ろす――操縦卓の左端。〈――思うなよ!〉

 振り下ろした拳の先には黒と黄の警戒色、それにに縁取られた透明シールド、さらにその下には――非常系統の作動スイッチ。

 短艇の姿勢がわずかに揺れた――自動ジャイロの制御が停まる。

 まさしく最後の手段、完全手動の非常モード。電子制御を挟まなければ、“キャサリン”が介入する余地はない。

 代償として、操縦の難度は跳ね上がる。ハーマン上等兵は自らの教練評価を頭の中で顧みた。戦闘機動のセンスはからきしだったが、機械を手懐ける腕前だけなら教官を唸らせる自信がある。

 爆発ボルトで乗り捨てた救難ポッドを切り離し、短艇の鼻先を巡らせる。軌道計算は懐のナヴィゲータに任せるとして、センサの使えない目視飛行で辿り着けるであろうのは、恐らく“オサナイ”をおいてない。が――、

 マリィの窮状に思いが至る。“キャサリン”が同じ罠を張っているなら、マリィは身柄を押さえられたに等しい。

〈……できるか?〉

 自問の末に、ハーマン上等兵は短艇の進路を定めた――マリィの救難ポッドへ。


「結局は力づくじゃねェかよ!」ウー・ツァイユー上等兵は声に怒りを隠さない。「何が議論だ、馬鹿馬鹿しい!」

 その視線が睨む先にあるのは銃身――せめても昏い銃口と眼が合わないだけマシというものだが、それでも陸戦隊との力の差は埋めがたい。

 ツァイユー上等兵ら乗組員は、作戦中も武器を携行しない。対航宙戦仕様の宇宙軍艦艇ではそもそも白兵戦を想定しないからだが、それがこの際は陸戦隊員との力の差として現れた。艦艇警備の名目で各艦艇に常駐している陸戦隊はもともと揚陸部隊の所属だが、それが一般乗組員との溝を深めてもいる。

「じゃあどうしろってんだ?」ジョナサン・フォーク軍曹がライフルともども両手を掲げて話しかける。

「武器を捨てろってんだよ!」ツァイユー上等兵が突っかかる。「当たり前じゃねェか!!」

「その武器を使わずにいてくれるって保証はないだろう?」

「手前らが使わない保証の方が先だろうが!」

 その点で、確かに理はツァイユー上等兵らの方にある。

「確かにその通りだな」呟きがジョナサン軍曹の口から転び出た。

「軍曹!」背後から咎めたのはリーランド兵長。「それでは……!」

「この際!」その声を遮ってジョナサン軍曹が言を継ぐ。「武器はどちらの手も届かないとこにあればいい――違うか?」

「そんな都合のいいとこが、」ツァイユー上等兵の反問はしかし、可能性を色を帯びてもいる。「どこにあんだよ?」

「そうだな、」ジョナサン軍曹は一つ首を傾げてみせた。「観測ドーム――あそこならどうだ?」




『くそ!』電子戦艦“レイモンド”上弦、ラッタルから第1格納庫側を覗いたロジャーに呪詛の声。『無茶苦茶やりやがったな』

 今はスピンによる遠心力のせいで“底”と映る格納庫側が、圧倒的な質量に押し潰されている――それが判る。せり出して来ているその“底”は、第一飛行甲板の内側にあった格納庫区画のみならず、さらに内側の整備区画をさえ呑み下してなお余りある。

『こいつァ……』ロジャーが背後のキースに告げた。『タロスがどうこういう状態じゃねェぞ』

『まだだ』断じてキースの声。『タロスを置いてきたのは甲板後部だ。全部が全部潰れてるとは限らん』

『この期に及んであきらめが悪ィな』ロジャーは肩を一つすくめて、『救難ポッドはここの連中にくれてやろうとか、人のいいこと考えてやしねェか?』

『逃げるだけのポッドが何の役に立つ?』人のよくない反問を返して、キースは艦尾側へ壁を蹴る。『問題はこの艦のスピンだ。このヴェクトルをどうにかしなけりゃ“オーベルト”に乗り込むどころの話じゃないぞ。それに――、』

『それに?』

『外周は恐らく全部この調子だ。救難ポッドだろうが短艇だろうが、タロスと条件は変わらん』振り返ったキースが言葉を継いだ。『装甲があるだけタロスの方に分はあるはずだ。違うか』

『ごもっとも』データ・リンクに“キャス”の苦笑。『やっぱ人がいいんじゃないの』

『聞こえたぞ』キースが聞き咎める。

『そう言ったもの』“キャス”は素知らぬ顔で言ってのけた。

 聞き流したロジャーが、視覚の隅に投影された気圧を確かめる。『ここはまだ気密が破れてないようだからいいとして、この先が面倒だぞ』

 気密が破れた区画のハッチはすぐには開かない。隣の区画をエアロック代わりにして気圧を合わせる手順が要るためで、この際はデータ・リンクの断絶がその手間になお拍車をかける。ましてや潰れずにいる保証のない区画へ乗り込むとなると、その手間は生半可なものではない。

 艦首側、気密ハッチに取り付いたキースが舌を打つ。その側、ハッチ横の端末に、その先の減圧異常を示して赤。

『この先から減圧が始まってる』キースが取って返しざま、『回り込むしかないな』

『どっちにしたって余裕ァねェんだ』今度は先に立ったロジャーが告げる。『確かめるもんは確かめたこったし、バクチ打ってるより中央甲板辿ってった方が話ァ早いぜ』

『そうだな』続いたキースが頷き一つ、戻ったラッタルに手をかける。『急がば回れ、か』




〈捕虜兵と接触しました〉スコルプコ少尉が報告の声をデータ・リンクに乗せた。〈最先任はヴァルガス中尉、機関副長です〉

〈人数は?〉打ち返してオオシマ中尉の問いが飛ぶ。

〈22名です〉野太い声が割って入る。〈こちらヴァルガス中尉、データ・リンクに繋がせていただいた〉

〈こちらオオシマ中尉、〉返す声で問いを重ねる。〈ヴァルガス中尉にお尋ねする。つまり機関科員のほとんどが部署に就いていると見てよろしいか?〉

〈その通り。しかも、〉ヴァルガス中尉は言を継いだ。〈この艦の乗組員は揃いも揃って諦めが悪い。こいつは身に沁みておられよう〉

〈承知しているつもりです〉オオシマ中尉は声の矛先を変えた。〈“スレッジ・ハンマ”および“クロー・ハンマ”へ。全力で炉を押さえろ。ヘインズの暗示もどこまで保つか判らん、連中が眼を覚ましてみろ、またカミカゼを見舞ってくるぞ〉

〈“スレッジ・リーダ”了解〉スコルプコ少尉が返す。その眼でキリシマ少尉に注意を促す。

〈“クロー・リーダ”了解。しかし、〉キリシマ少尉がただし書きをつけた。〈手持ちの爆薬が底をつきました。まずもって補給が先です。炉壁が抜けんことには話になりません〉

〈了解した。ヴァルガス中尉、ご案内をお願いできますか?〉

〈是非もない〉快諾の声。ヴァルガス中尉は少尉二人に手招きをくれた。〈弾薬庫は格納庫に隣接している。炉からは一旦離れることになるが、よろしいか?〉

〈やむを得ません〉オオシマ中尉の声が届く。〈ともあれ最善を尽くすのみです〉

〈ヘインズとエドワーズへ、こちら“ハンマ・ヘッド”〉オオシマ中尉が声をキースらに向けた。〈聞いての通り、こちらはしばらく足止めだ。お前達だけでも“オーベルト”へ急げ!〉


『言ってくれるぜ』ロジャーの独語が苦く曇る。〈こちらエドワーズ、こっちは減圧の真っ最中!〉

〈位置は?〉オオシマ中尉の声が問う。

〈第3甲板、第3区画!〉視界に減圧を示して赤色灯。〈ここから先ァ気密が破れてる〉

〈ということは、〉オオシマ中尉の声にも陰り。〈タロスも無事とは限らんな〉

 タロスを乗り付けた格納庫はロジャーらのいる区画から見て直下、潰されていない可能性が残るにせよ、気密が破れているからには何らかの損害を被っていると見て間違いない。

〈判らないから確かめに行くんだ〉返したのはキース。〈動かんことには何も始まらん〉

 そこで緑色灯が減圧の終了を告げた。遠心力の働く“下”方向への気密ハッチを引き開け、覗き込む。

『ひでェな……』

 ロジャーが洩らす。“下”面、飛行甲板が歪んだ裏面を見せていた。のみならず、横一文字に甲板を切り裂いて幾本かの構造材が突き立っているのも見渡せる。その切っ先は更に“上”、格納庫区画を貫いて第3甲板にまで及んでいる。

『“ネイ”、タロスの位置は?』

〈……〉“ネイ”はロジャーの視覚、タロスを駐機した位置にマーカを示す。〈残念ね〉

 マーカの在り処は虚空、構造材の切っ先が通ったであろう痕に呑まれて消えていた。

『こいつァ……』ロジャーが思わず舌を打つ。『どっちにしろ外に吸い出されちまってるぞ』

『なら次だ』命綱を繋いだキースが身を乗り出す。『乗れる機体を探す。“キャス”、管制中枢のデータベースがあったろう』

〈あら、バレてた?〉

〈お前の収集癖は今に始まったことじゃないからな〉高速言語に切り替えてキースが続ける。〈ここから見た被害状況と照らし合わせて使える機体を見付け出せ〉

〈そう都合よく行くもんじゃないわよ〉むくれたような“キャス”の声が返る。〈電子戦艦よ? 有人機なんて電子戦母機みたいなリンクごってごての代物に決まってるじゃない〉

〈無人機のオプション装備があるだろう〉キースが斬り込む。〈有人操縦用のコクピット・モジュールが〉

〈装備してるやつを探せっての?〉“キャス”が訝る。〈リンクが逝っちゃってる以上は使い物になるまで時間食うわよ〉

〈いや、〉キースが別の考えを示す。〈モジュールを単体で使う。複座で多少はスラスタも利くはずだ〉

〈脱出ポッド使う気でいるわけ?〉“キャス”はかえって胡散臭げに問い返した。〈あれの推進剤なんてオマケにしかならないわ〉

〈救難ポッドよりマシだ〉キースが断じた。〈推進にはこの艦にかかってるスピンを使う〉

〈あーやっだやだ、〉察して“キャス” の苦い声。〈まさか放出タイミング計算しろなんて言わないわよね?〉

〈計算しろ、“キャス”〉キースの声には揺るぐ気配もない。〈この艦の管制中枢を使え〉

〈うわ、〉今度は“ネイ”が声を上げた。〈使えるものは使い倒す気ね〉

〈せっかく修復したんなら、〉ロジャーが肯定の声を上げた。〈そりゃ使わない手は……って使えるのか?〉

〈どいつもこいつもお手軽に言ってくれちゃって……〉ぼやく“キャス”の声には、しかし否定のニュアンスはない。〈舞い上がってるキースほど扱いに困る男もないわ〉

〈ってことは使えるんだな?〉そこまで言って初めてキースが場違いな単語を聞き咎めた。『――“舞い上がってる”?』

『違ェねェ!』たまらずロジャーが吹き出した。『“キャス”、お前さんも言うようになったじゃねェか』

〈冗談吹いてる場合か〉

 尖るキースの科白の腰を、しかし“キャス”が叩き折る。

〈あーら残念、ご注文の計算はただ今進行中。たまにはキースのことも構ってあげないと拗ねちゃうから〉

〈そりゃお前さんの方だろ、“キャス”〉ロジャーが楽しげにつついて笑う。〈今のキースはマリィ一辺倒だからな。妬けるのも解るが今はその辺にしといてやれ〉

〈妬く!?〉今度は“キャス”が声のトーンを跳ね上げた。〈私が?〉

〈自覚ないのかねェ?〉さも愉快そうにロジャーが突っ込む。〈キースのこたァ喰っちまいたいくらいお熱なんだろ?〉

〈馬ッ鹿じゃないの?〉言い募る“キャス”の声に色。〈ただこいつの最期を見届けたいってくらいで……!〉

〈図星だねェ、〉ロジャーはにやけた声を隠そうともしない。〈ムキになる辺りなんざ可愛いったら〉

〈いい加減にしろ“キャス”、〉呆れ気味にキースが声を割り込ませる。〈じゃれ合ってる暇があるならポッドの場所ぐらいこっちに流せ。こいつの軽口にいつまで付き合うつもりだ?〉

〈悪いの私!?〉尖って“キャス”の声。

〈こいつの性格ぐらい読め〉キースに苦い声。〈ロジャーの女たらしは呼吸みたいなもんだ。付き合うだけ時間の無駄だぞ〉

〈えーえーそうでしょうともよ〉目一杯の憤懣を声に乗せて、“キャス”がキースの視覚に割り込む。〈こんな色キチガイに遊ばれる私が悪いんだわ〉

 視覚にマップ・データが重なった。示されたのは“上”、整備区画も裂け目に近いその一角――付されたタグが示すのは無人電子戦機SMD-025ゴースト、有人コクピット・モジュール搭載機。

〈おい、〉キースが質す声を上げた。〈こいつは……!〉

〈定期整備で炉から電源から何から落としてた機体らしいわ。悪いけど、〉悪びれてなど毛ほどもいない声を“キャス”が返す。〈モジュールの推進剤だけじゃ減速なんてし切れたもんじゃないわ。旗艦に激突したくないならこいつをイチから立ち上げるのよ、主機関とスラスタ周りだけでもね!〉




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


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