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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第14章 転回
154/221

14-15.対抗 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

『やった!』

 “キャス”の快哉。

『リンク確立!』


 結局は整備担当曹士の知恵だけでは足りず、木偶の坊と化したウェアハム中佐の口から回路のチューン内容を聞き出し、それでようやくデータ・リンクが確立された。とはいえ、まだ小手調べの航宙管制システムの、しかも管制中枢に直結したほんの一部が開通したに過ぎないが。


「改良版のコピィを……」


 言いさした整備担当曹士に皆まで言わせず、“キャス”は複数のスロットからデータ・クリスタルを吐き出した。


『言われなくたって! さあここからはあんた達の出番よ! こいつをデータ・リンクに片っ端から突っ込んで!』


 ◇


『面倒なことになったわね』

 他人事よろしく“キャサリン”が艦長ハリス中佐へ告げた。

『ここは艦長の威厳を示していただきたいわ』


 “オサナイ”の艦内で火災警報に乗ったモールス信号のSOS、そこに気付かない者は少ない。鈍い人間がいたとして、それが口伝えに伝わり、艦内に知れ渡るのはもはや時間の問題でしかない。


「“オサナイ”全艦へ告げる! こちら艦長」

 ハリス中佐は艦内電話を全データ・リンクへ解放する。

「先刻の火災警報は最優先目標が発したものである!」


 苦い言い草だと思いつつもハリス中佐は言を継ぐ。

「陸戦隊は最優先目標の罠に嵌まり、なおかつ一部は目標に与して本艦を制圧する意図を見せた。この上に危険を重ねるわけにはいかない。目標と陸戦隊を区画ごと厳重隔離の上で、本艦は宇宙港“サイモン”へ向かう。繰り返す。B-5区画との接触は“サイモン”到着まで厳にこれを禁ずる。以上!」


 ◇


 観測ドーム内の照明が落ちた。非常灯の赤に視界が染まる。


「くそ、」

 フォーク軍曹が舌を打った。

「区画ごと閉鎖したな」


「良くないの?」

 問いはマリィから。


「どっちとも言える」

 フォーク軍曹は顎へ手をやった。

「閉鎖されたら区画の外へは非常信号も届かなくなる。が、その手に出たのはSOSが届いたからだとも言えるな」


「とにかくこちらから意思表示を続けて」

 言いつつマリィが思い当たったように、

「ハッチの安全装置を解除する手順は?」


「ハッチ内外の気圧差が基準内に収まって、減圧警報が解除されて、その上で船内側から操作することになる」

 フォーク軍曹が答えを返す。

「減圧警報が解除できれば目はあるが、どっちにしろ船内側からの解除操作が要るな」


「警報装置はいじれるんでしょ?」

 マリィは確認の声を投げた。火災警報装置でSOSを発信できた以上、減圧警報装置をいじれない理由はない。


「ナガラ兵長!」

 ハッチ横のセンサに取り付いた小柄な兵へ、フォーク軍曹が声を投げた。

「どうだ?」


「やれそうな気はしますね」

 ナガラ兵長は背中越しに答えを返す。

「気圧差はもともと問題になってませんから、あとは船内側からの操作待ちってことになりますね」


「ノックでも何でもいいわ」

 マリィがフォーク軍曹へ告げる。

「とにかくSOSを送り続けて!」


 ◇


「“オーベルト”より発光信号!」

 強襲揚陸艦“イーストウッド”の戦闘指揮所へ伝令が飛び込んだ。


「内容は!?」

 艦長がすかさず問い返す。


「は! ですが……」

 伝令が言い淀む。


「構わん」

 促して艦長。

「読み上げろ!」


「は!」

 伝令がメモを読み上げる。

「『発・第3艦隊司令サルバトール・ラズロ少将、宛・第3艦隊所属の全艦艇。“ハンマ”中隊に対して即刻恭順せよ。現時刻をもって第3艦隊は本来の指揮系統を回復、ケヴィン・ヘンダーソン大佐の叛乱行動に対し、これを鎮圧するものとする。命令に違反するものは、実力をもってこれを排除する。なお、破損したデータ・リンクは“ハンマ”中隊の手で復旧しつつあり、戦力差は明らかである――以上』」


 時間の問題だと解ってはいた。マニング中佐は苦い思いを奥歯で噛み潰した。


「まだ抵抗の手段は残っています」

 それでもマニング中佐は艦長へ告げた。

「宇宙港の陸戦隊を回収に向かいましょう。まだ2個中隊の戦力が残っています。“ハンマ”中隊とて損耗はゼロではありません」


 実際、5隻ある“ハンマ”中隊のミサイル艇のうち2隻を撃沈した実績はある。


「“オーベルト”の方向に噴射炎を確認!」

 続いて伝令が飛び込んだのは、その時だった。

「推定目標――本艦!!」


 理屈として解ってはいた。艦隊中枢の旗艦と電子戦艦を陥としたのなら、次に“ハンマ”中隊が狙うであろう目標は陸戦の中枢たる“イーストウッド”そのものであると。そして“ハンマ”中隊に陸戦隊を差し向けた関係上、“イーストウッド”の現在位置は電子戦艦“レイモンド”に――ひいては旗艦“オーベルト”にも――極めて近い。逃げて時間を稼ぐ目はなかった。


「艦長」

 マニング中佐が肚を据えた声で告げる。

「我々司令部とて陸戦隊員です。時間を稼ぎます。失礼」


 敬礼一つ残してマニング中佐が陸戦指揮所へ跳ぶ。

「陸戦隊員は銃を取れ! 水際で敵を迎え討つ!!」


 ◇


『うっわー……』

 “ネイ”に思わず呆れ声。

『まだ出るの?』


 電子戦艦“レイモンド”の航宙管制中枢。さしあたって手に入ったマシン・パワーは航宙管制システム、それを動員して“キャス”と“ミア”が艦全体のシステムを解析にかかった――結果、見る間にも無数のクラッシャやトラップがあぶり出される有り様となった。


『さすがにママのやることね』

 “キャス”が片手間に感想を口に上らせる。

『勘所はまず押さえてると思ったけど、こりゃ結構ホネだわよ。今引っかかったのだって囮かも知れないわ』


「クラッシャどころか、」

 キースの声は低い。

「“キャサリン”そのものが一部なりと寄生してる可能性もある。油断はするな」


『いいけど時間あるの?』

 “キャス”が衝いて素朴な問い。


「……あと、」

 キースの返答に苦味が滲む。

「2時間がせいぜいだ」


 “シュタインベルク”が第6艦隊に観測した噴射炎が戦闘機隊だとして、予想到達時間までが残すところおよそ2時間。しかも艦のシステムに仕掛けを施すとして、データ・リンクの復旧だけでも1、2時間はかかるという予想が出ている。手持ち時間は限りなくゼロに近い。


『陥とした艦には、』

 “キャス”は声から感情を廃して、

『とにかくデータ・リンクの復旧だけは急がせて』


「旗艦と強襲揚陸艦には」

 キースは声に苦味を残しつつ、

「いま短艇を飛ばしてるとこだ。クリスタルを持たせてな」


 “ハンマ”中隊は現在、全力をもって強襲揚陸艦を陥としにかかっているという。キースらの乗る電子戦艦“レイモンド”はといえば発光信号さえ最小限、艦を徹底的に隔離することで“キャサリン”からの汚染を回避しながらシステムの解析作業を続けている。


「第6艦隊の戦闘機隊が到達したとして、」

 キースが訊いた。

「連中のクラッシャは逆用できそうか?」


『刺し違えを覚悟するならね』


 システムに“キャサリン”が潜ませたと思われるクラッシャやトラップの存在は、洗えば洗っただけ見付かった――というのが実情。未だに底をつく気配さえ見えない。


「同じ刺し違えにするなら、」

 ロジャーが口に出してみる。

「ゴーストを出すのはどうだ?」


『いいわね、それ』

 返して“キャス”。

『やれるもんなら準備させて。木偶の坊でもいいから2、3機でも飛ばせれば上等だわ。とにかく時間を稼ぎたいの』


「ブリッジス大尉!」

 ロジャーが艦長席へ跳んだ。

「やれるか訊きたい。ゴーストは今の調子で飛ばせるか? 2、3機だけでも」


「試せというなら」

 ブリッジス大尉は否定しない。


「頼む」

 ロジャーがブリッジス大尉へ頷きかけ、

「電子戦の中継役と囮役を兼ねさせたい」


「了解した」

 ブリッジス大尉は伝令を呼んだ。

「航宙整備班長をここへ」

 言ってから思い付いたようにブリッジス大尉が訊いた。

「複雑な機動はできんと思うが……」


「ひとまずプローブとして働いてくれりゃ文句なしだ」


 取って返しながらロジャーが投げ返す。

「頼んだぜ」


『とにかく戦闘機だけでもやり過ごさないと。第6艦隊に動きは……』

 言いつつ“キャス”が自ら航宙管制システムにアクセスした。一部なりと復旧した観測機器で宇宙港“サイモン”方向を捉える。

『……まだないみたいね。次、通信系いける?』


 ◇


「……くそ!」

 “オサナイ”B-5区画の測的助手が頭を抱えて隣の測的手へ問いかけた。

「どう聞いたってSOSですよ! 放っとくんですか兵長!?」


 観測ドームのハッチを叩くリズムは間違いなくモールス信号、その伝える内容は『SOS No Oxygen(SOS 酸素ガ無イ)』。マリィと陸戦隊に本来の部署を追い出された形の彼らだが、減圧警報の発報は耳にしている。観測ドームに何がしかの異常があったことは疑うべくもないが、それに続いて火災警報を使ったSOS、区画閉鎖、さらに今またハッチ越しのモールス信号と来ては、興味を持つなという方が無理な相談とは言える。


「相手を甘く見るな、上等兵」

 兵長は言うものの、耳を貸さないわけにもいかない風ではある。


「減圧警報が出てんですよ!」

 宇宙船乗りとしてはSOSには鈍感ではいられない――いつ自分が助けられる側になるとも知れぬ身としては。

「陸戦隊はともかく、目標の酸素がないって話なら……」


「そいつが嘘だったら?」


「陸戦隊がたらし込まれたってんですか!?」

 上等兵が叩き返した。

「相手は女一人ですよ!?」


 ドームの様子を確かめようにも、データ・リンクがクラッシュしていて監視カメラも環境モニタも使いものにならない。


「本当にたらし込まれてたらどうする?」

 兵長はあくまで懐疑の声を崩さない。

「陸戦隊が相手じゃひとたまりもないぞ」


「どうやって!?」

 上等兵に当然の疑問。


「ヘンダーソン大佐が言ってたろう、目標は詐欺師みたいなヤツだぞ」

 なだめにかかって兵長。

「言うことがどこまで本当かなんて俺達で判断がつくってのか?」


「だったらこのまま死んじまうのを見過ごせってんですか!?」

 上等兵が噛み付いた。

「それこそ取り返しがつきませんって! 第3艦隊まで引き換えにしたんですよ!?」


「……」

 そこを衝かれると兵長も返す言葉がない。


「どの道ここは区画ごと切り離されちまってるんです!」

 上等兵が畳みかける。

「出て来たところで、何ができるわけでもありませんって!」


 B-5区画には副砲がある。ただ隔離されて電力や酸素の供給までが止まった現在、何かができる状態では確かにない。


「いいですね!?」


 この場はそれで上等兵が押し切った。観測ドームのハッチに取り付き、機械式の内外気圧計を確認した後、ハッチの解放レヴァーに手をかける。力を込めて一気にひねり――、


 気密が解けた。ハッチが手前側へ浮き上がり、次いで奥へ向けて――開く。




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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