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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第14章 転回
151/221

14-12.密談 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

「“レイモンド”は連中の手に陥ちたか」


 ケヴィン・ヘンダーソン大佐は呟きを口の端に乗せた。眼前にモニタ、第3艦隊の拡大映像。電子戦艦“レイモンド”の舷側に離脱の噴射炎――それが向かう先は“ハンマ”中隊のミサイル艇。つまり生き残ったのは敵の側ということになる。


『陸戦隊も頑張ったみたいだけど』

 拡大映像にタグを付しつつ“キャサリン”が評する。

『結果は動かなかったわね』


「お前が敗けた時点で予想はできたことだ」

 ヘンダーソン大佐は苦い声を洩らした。

「5隻中2隻、データ・リンクも使えん中ではまだよくやった方だろう」


 陸戦隊が撃沈した“ハンマ”中隊のミサイル艇に、大佐は思いを馳せた。ただ制圧されるだけかと思いきや、“イーストウッド”の陸戦隊は思わぬ働きを見せている。とは言え、局面を動かすには力が足りなかったというべきか。


『取り返すのに一苦労ね』

 他人ごとさながらに“キャサリン”が言ってのける。


「それもこれもお前の娘を始末せねば始まらん」


『あら、あれで終わったとは思ってないわけ?』

 皮肉交じりに“キャサリン”。


「信じてもいないことを口にするな」

 ヘンダーソン大佐が鼻を鳴らす。

「お前の子供だぞ。あれで始末できるなら、初手で息の音が止まっていようが」


『考えてはあるわよ』

 舌でも出しそうな声で“キャサリン”が応じた。

『そっちこそ油断してるかと思ってたわ』


「こういう私にしたのはどこの誰だ?」

 大佐の頬に苦い笑み。


『私だけのせいではないわね、少なくとも』

 言葉を転がすように“キャサリン”が笑う。

『でも安心したわ。私の傑作を相手にするだけの気概は持ってるってわけね』


「だからこうして艦隊へ向かっている」

 周囲を、大佐は掌で示してみせた――軌道エレヴェータ“サイモン”のリフタ内、その一室。外景を移すモニタの一面ではすでに空の蒼が宇宙の闇に追いやられて沈んでいる。

「お前も子供と相対した経験情報は早いうちに欲しかろう?」


『そうは言うけど、マリィの身柄が早く欲しいのもあるんでしょ?』


「否定はせんが、」

 ヘンダーソン大佐が眼を細める。

「お前が首尾よく片付けていればかけずに済んだ手間だ」


『じゃあ、私はお役御免かしら?』


「行くにしても後始末は済ませてから行け」

 せいぜい素っ気なく言い捨てててから大佐は付け足した。

「どの道お前にも必要なことだろう?」


『その通りね』

 面白がるように“キャサリン”が応じる。

『私もせいぜい趣向を凝らしてあの子を出迎えることにするわ。で、傷は塞げそうなの?』


「正直、一苦労だな」

 大佐は左腕のアーミィ・ウォッチ、ファーレンハイトHART7015へ眼を落とした。

「連中の脚を削ぐのに……あと3時間というところか」


 “キャサリン”がモニタへ表示を割り込ませる。こちらは“テセウス”の衛星軌道図、うち静止衛星軌道から低軌道へ向かって降下中の一群が輝点となって示される――第6艦隊旗艦の宇宙空母“ゴダード”から発進した第0601戦闘攻撃航宙隊。

 その輝点群から伸びて予定軌道、低高度衛星軌道を3分の2周して再び静止衛星軌道へ駆け上がり、第3艦隊へ斜め下方から斬り込む形を取る。所要時間にして3時間半――一見して遠回りと映る行程だが、それでも自転方向に対して逆行、失速するよりはよほど早い。


 一方の第6艦隊はヘンダーソン大佐を迎え、マリィの身柄を回収するまで動こうにも動けない。それに、ミサイル艇の機動力に対抗するには、それ以上の機動力を持つ戦闘機をぶつけるに限る――という事情もある。そうなれば、歩兵の他に兵力を持たない“ハンマ”中隊からそれ以上の侵攻能力を奪うことはできる。


『問題は、』

 “キャサリン”が呈して懸念。

『それまでにどれだけ第3艦隊が陥ちているかね』


 実のところ、強襲揚陸艦“イーストウッド”の戦果はこの点で重大な意味を持つ。5隻中、実に2隻――その頭数もさることながら、脚であるミサイル艇の数を減らしたことで、“ハンマ”中隊は作戦行動の自由度に重い枷を嵌められたことにになる。


「電子戦艦と旗艦、それに強襲揚陸艦はまず総力で制圧に来るとして、残り時間では巡洋艦群まで恐らく制圧し切れまい。それもデータ・リンクが途切れていては張り子の虎だ、が――」

『復旧してきたら?』


「お前なら、できるか?」

 大佐が投げたのは、問いというより確認の言葉。


『バックアップのファームウェアを書き戻すだけなら、人海戦術で何とかなるわ――1、2時間てところでね。でも、』

 “キャサリン”の声が意地の悪い笑みを含む。

『まともに動かすならそれだけじゃ無理だわね。現物合わせの調整が軽く見積もったって丸1日は要るわ。書き戻してそれで終わりなんて考えるお馬鹿は現場を見ない理屈屋だけよ』


「では連中が馬鹿ではないと仮定しよう」

 大佐が組んで両の指。

「お前ならどうする?」


『ワクチンを作って』

 当然のように返して“キャサリン”。

『ファームウェアの穴だけを塞ぐわ。それなら調整も最小限、実際そのまま動くでしょうね』


「そこで考えを止める連中かね?」

 大佐が片頬を持ち上げる。


『違うわね』

 楽しげに“キャサリン”が断じた。

『その上で私が仕込んだクラッシャやトラップを無効化しようとするでしょうね。システムを洗われたら見つかるはずよ、あの子ならね』


「それで?」

 ヘンダーソン大佐が先を促す。


『多分、』

 “キャサリン”に鼻息一つ、

『他にもクラッシャが潜んでると考えるでしょうね。見付け出すには骨が折れると思うけど』


「連中は電子戦艦1隻を手に入れた」

 ヘンダーソン大佐の口調に動揺はない。

「電子戦中枢を失ったままでは単なる木偶の坊だ――本来の使い途としてはな。だが最大限活用しようとするなら、演算能力をフルに活かして解析なり何なりに回すこともできる。電子戦機隊を使わないなら、航宙管制機能を転用して近距離の電子攻撃も可能だろう」


『電子攻撃、仕掛けてくると思ってるわけね?』

「お前のことだ、第6艦隊にも“奥の手”は潜ませてあるだろう。それを逆用するつもりでいるとしたら、どうかな?」

『あの男ならそのくらい考えるでしょうね――でもアクティヴ・ステルス中の編隊なら、そもそも電子戦が成立しないわ。こちらとしても“穴”を塞ぐことはできないけど』


 戦闘機隊に随伴するSMD-025ゴースト、この編隊が構成するアクティヴ・ステルス・アレイは、光を含むあらゆる電磁波に対してカウンタとなる逆位相波を発振して減殺する。

 もっとも計算のタイム・ラグを要する以上、完全に“消える”ことはできない――だが、アクティヴ・サーチをはじめとした探知の眼をかいくぐる程度には巧妙に“隠れる”ことができる。その代償として、自ら発する電磁波――噴射炎を含む――は、予め厳重に管理することが求められるが。

 例えば推進機関の使用は厳密なスケジュールに基づいて行わねばならず、外部との電波交信はもってのほか、レーザ通信すら中継地のクラッキングを恐れるなら使わないに越したことはない――それほどに。


「さて、」

 ヘンダーソン大佐は顎に指を走らせた。

「では地雷を抱えた状態であの男と相対することになるというわけか」


『そもそも“視えない”航宙機隊を相手に、』

 “キャサリン”が鼻息混じりに応じる。

『どういう手を繰り出してくるかが見ものというところね』


「また“遊ぶ”つもりか」

『ま、この程度で潰れるならその程度の相手よ』

「戦力を玩具にされる側の身にもなれ」


『あら、』

 意外げに“キャサリン”は笑みを声に含ませた。

『私の仕掛け、あれのおかげで第3艦隊は乗っ取られずに済んでるのよ?』


「ものは言いようだな」

 ヘンダーソン大佐が両の指を組む。

「この一手で片付く手合いだと思っているのか?」


『その前にマリィの身柄が手に入るでしょうに』


 ヘンダーソン大佐は片頬をゆがめた。

「それとは問題が別だろうが」


『あら、珍しく臆病風?』


「慎重と臆病は別物だ」

 片手を一振り、ヘンダーソン大佐が言を継ぐ。

「それより、はぐらかすつもりか?」


『どうせ“手術”するつもりではいるんでしょ?』

 見透かしたように“キャサリン”が問い返す。

『マリィを手に入れたら、今度は第6艦隊が動かせるわ――私もそれなりの準備は整えておくわよ』


「では、手並みを見せてもらうとするか」

 ヘンダーソン大佐は、小さく頬を釣り上げた。


 ◇


『第3艦隊各艦に告ぐ』

 フリゲート“シュタインベルク”から第3艦隊の全艦艇ヘ向けて放たれた発光信号は、一方的に告げていた。

『救難艇“フィッシャー”は“テセウス解放戦線”の負傷者をも乗せている。当艦においても同様である。これに向けての攻撃は厳に慎むべし。さもなくば、名誉と大義を著しく損ねることになろう』


「聞き入れますかね?」

 砲雷長ウィルキンス大尉が、意地の悪い声で呈して疑問。

「タロスで赤十字に乗り込む連中ですよ?」


「聞き入れる」

 艦長席のデミル少佐が返したのは確信の声。

「タロスで赤十字を撃沈しに来なかったのが何よりの証拠だ」


「盾に取りたいだけだったかも知れませんよ?」


「盾に取りに来た時点で連中に勝算はあったはずだ」

 デミル少佐は口調を崩さない。

「なら、同じ手が通用するとは思わんか?」


「タロスで乗り込んできたあの連中をネタにしてですか」

 ウィルキンス大尉は苦笑を隠さない。

「しかもそのネタも死体と来てる」


「その連中にしても、生死を知らせてやる義理はない」

 デミル少佐の声はいっそ冷徹の響きさえ帯びる。

「赤十字を襲うからには、それだけの報いは覚悟の上だろう。問題は第6艦隊の方だ」


 デミル少佐はサブ・モニタへ映し出された戦闘機隊の予想位置に眼を投げる。


「あと、3時間と少しってとこですか」


 ウィルキンス大尉が口に上らせた、その数字こそが航宙機隊が到達するまでの予想時間。それまでに第3艦隊の全艦艇を制圧し、データ・リンクを正常化させるのは事実上不可能と言っていい。

 そして狙われているのは“ハンマ”中隊が脚とするミサイル艇と見て間違いない。それは第6艦隊の艦艇群が移動していないことからしても明らかに解る。


 せめても陥とした艦艇のデータ・リンクが復旧できれば掩護の一つもできようが、はたしてそれがどこまで出来るか。


「データ・リンクの復旧にはベストの人員を充てたって、あの話を信じるしかありませんな」


 慰めるように、ウィルキンス大尉がオオシマ中尉の言葉を語る。通信によれば、データ・リンクの復旧に当たっているのは電子戦艦に潜む擬似人格を撃退した当の人員とナヴィゲータ達――つまり望みうる最良の人選だが、それにしても結果は未知の果てにある。


「あるいは、“オーベルト”の戦闘機が使えれば――」

 詮ない希望と知りながら、口に上らせずにはいられない。


「にしたってデータ・リンクが復旧せんことには始まりませんな」


「歯痒いものだな」

 デミル少佐が歯を軋らせた。

「待つしかない身というのは」




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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