14-11.解析 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.
『第6艦隊に噴射炎!』
この時、宇宙港“クライトン”の裡で上がった声がある。“シュタインベルク”で上がった言葉と一字一句変わることのないものの、意を全く異にしたその歓声――主は、強襲揚陸艦“イーストウッド”所属空間歩兵中隊2個中隊。
『味方が来るぞ!』
◇
『ハイ、』
“キャス”の声はやけに淡白に聴覚へと響いた。
『遅かったじゃない』
電子戦艦“レイモンド”、破壊された電子戦中枢の防護殻内。元の鞘へ収まった“キャス”の声を聞いて、キースは一言だけを返した。
「よくやったな」
『珍しいわね、あんたが手放しで褒めるなんて』
「心配するな、」
キースは片頬を釣り上げてみせた。
「これからまだこき使ってやる」
『ま、貴重な経験ができたから良しとしとくわ。心残りなのは、』
“キャス”は悪びれもせずに言ってのける。
『あんたの最期が拝めなかったことね』
「楽しみは最後に取っとくもんだ」
『で、』
“キャス”は骨振動スピーカの声に笑みを含ませた。
『あんた達の方はどうなの?』
「艦隊の陸戦隊は黙らせた。次は旗艦を陥とす」
『電子戦艦まで陥としてやったのに?』
“キャス”は不満を隠さない。
『まだそんなとこで手こずってるの?』
「敵に切れるヤツがいてな」
キースは控えめに過ぎる言葉を選んだ。
「だいぶ手間を取らされた」
『でしょうね』
「その代わり、」
ロジャーが後を引き取った。
「敵にゃもう反攻の余地はないはずだ。制圧は時間の問題だな」
「むしろ心配の種は、」
キースが楽観を引っくり返す。
「艦隊を制圧した後のことだな」
『全くね』
“ネイ”が同意する。
『どこの誰よ、こんなろくでもない手を考えたの』
“ネイ”は敵タロスから第3艦隊のデータ・リンク、その惨状を直に見ている。その言葉はことの重さを直に伝えた。
「とにかく艦橋へ移ろうぜ」
ロジャーが意見を呈した。
「ガラクタを前に話してても不毛なだけだ、違うか?」
そこへ伝令が飛び込んだ。
「“シュタインベルク”より発光信号! 『第6艦隊に噴射炎を確認。宇宙空母より戦闘機隊が発信しつつあるものと推定する』と!」
「やれやれだ」
肩をすくめてロジャーがキースへ振り返る。
「制限時間はあんまり長くないようだぜ」
◇◇◇
「やっぱあのタロスと同じだ。ファームウェアから逝ってやがる」
船務システムに陣取ったロジャーが、操作卓の前で掌を額に当てた。
艦橋のデータ・リンク基幹部を“ネイ”に覗かせたまではいいとして、その惨状は予想を欠片たりと裏切らなかった。
「こいつァ外からどうこうって壊し方じゃねェぞ」
『ファームウェアに予めクラッシャを仕込んでたと見た方が自然ね』
“ネイ”がロジャーの科白を補う。
『つまり、普段の整備から浸透してたってこと』
「かなり前から“キャサリン”が潜り込んでたってわけだな」
言いつつキースには合点のいくところもある。惑星規模でマシン・パワーをかすめ取って生きてきた“キャサリン”のこと、浸透した先に軍が絡んでいたとしても不思議はない。
「ヘンダーソン大佐が生みの親ってのも納得ってとこだな」
「感心してる場合かよ」
ロジャーに苦笑。
「こいつァ下手すりゃ艦隊のファームウェア総入れ替えだぜ。とんだ人海戦術だ。調整イチからやり直しになりかねやしねェ」
『クラッシャは自壊型よ。跡形も残ってないわ』
“ネイ”が加える。
『ファームウェアはそれに巻き込まれてるから、一つ一つ穴を塞いで回ることになるわね』
「いや、“最後の砦”があるはずだ」
「ファームウェアの予備か?」
ロジャーが疑わしげに人差し指を振った。
「あのタロスを見たろ。上書きしただけじゃ調整がやり直しになるだけだぜ」
「いや、少なくとも穴を塞ぐためのサンプルにはなるはずだ」
キースは考えつつ言葉を継ぐ。
「壊されたファームウェアと照らし合わせれば、クラッシャと、そいつが空けた穴をあぶり出すのも無理な話じゃない。うまくすればワクチンが作れる」
『でも、』
声を差し挟んで“キャス”。
『潜伏してるクラッシャが1つとは限らないわよ』
「うわ、何てこと思いつくんだか」
ロジャーが軽く眼を覆う。
「地雷持ちの艦隊引き連れて第6艦隊に突っ込んでくなァぞっとしないね。かと言って素から調整やり直すほど時間はねェよな?」
「逆用できないか?」
キースが思い付く。
「敵が潜ませてるトラップがあるなら、第6艦隊にも仕込んでて不思議はない。クリーンなファームウェアを仕立てて調整を一からやり直すより、仕込んであるトラップをあぶり出して対策する方が早いんじゃないのか?」
「同じ地雷が第6艦隊にも仕込んであるって?」
ロジャーが片眉を跳ね上げた。
「ありゃ地球から差し向けられた艦隊だぜ?」
「昨日まで“テセウス解放戦線”のトップは誰だった?」
キースは腕を組んで指摘してみせた。
「マシュー・アレン」
ロジャーは片眉を踊らせた。
「――天下の行政総長様か」
その立場はすなわち“惑星連邦”元首にして軍の総司令官にも相当する。
「それに地球から来たはずの第6艦隊がいきなりヘンダーソン大佐に従ってるってのはどう見る?」
キースがさらに示して根拠。
「そもそものとこを言うなら、俺がいた“ブレイド”中隊も駐屯してたのは地球だぞ」
「つまり大いに脈ありってことかい」
ロジャーが唇を舌で湿す。
「そういうことだ」
キースに頷き。
『マシン・パワーが要るわね』
と“ネイ”。
『人海戦術で艦隊全部の分の穴を埋め直すとしても、その前に仕掛けは済ませなきゃ』
「まずは穴を塞ぐワクチンのが先だわな」
ロジャーは頭の後ろで手を組んだ。
「データ・リンクさえ使わなきゃ動いてはくれるんだろ? この艦で一番パワーのある端末ってェと……」
「制御中枢、でなきゃ……」
キースが単語を口に上らせる。
「航宙管制中枢か」
「決まりだな」
ロジャーが鳴らして指。
「ブリッジス大尉!」
艦長席で機能復旧の指示を飛ばしている大尉へ向けてキースが跳ぶ。
「頼みたいことが3つある」
「聞こう」
大尉に即答。
「1つ目はデータ・リンクのファームウェアだ。予備のヤツをサンプルに欲しい。敵のクラッシャの解析に使う」
キースは2本目の指を立てて、
「2つ目はこの艦の航宙管制中枢あたり――とにかくパワーのあるやつを解析に使いたい」
「何をやるつもりだ?」
「まずファームウェアの穴を塞ぐ」
答えを返してキース。
「現状の虫食いファームウェアと照らし合わせれば何か見えてくるはずだ。ワクチンが作れるかも知れん」
「願ってもない」
ブリッジス大尉は頷いて、骨振動マイクのスイッチを入れた。
「整備班、こちらブリッジス大尉。データ・リンクのファームウェア、予備のサンプルを艦橋へ。命の恩人からの依頼だ、何を置いても持って来い――管制室、ブリッジス大尉だ。航宙管制中枢のマシン・パワーを丸ごと命の恩人に預けたい――いずれ今のままじゃゴーストの1機も飛ばせやせんのだ、10分で空けてみせろ」
そこでブリッジス大尉がキースに戻して眼。
「――で、3つ目は?」
キースは3本目の指を立てた。
「ワクチンを突っ込んだ上で、この艦のマシン・パワーをありったけ解析に回したい」
「使い途を訊いていいか?」
声を低めつつブリッジス大尉。
「敵のクラッシャをあぶり出して逆用する」
断じてキース。
「第6艦隊にも使える可能性が大だ。ただし、解析の間は外部とのデータ・リンクは厳に断つ必要がある」
「了解した」
二つ返事。ブリッジス大尉は頷いた。
「どの道、今はデータ・リンクどころの状態ではないしな。いずれこのままではこの艦は木偶の坊に過ぎん」
「頼む」
キースは身体を流して船務システム操作卓へ。
「話はつけた。解析は“キャス”、お前が先頭でやれ」
『えー?』
“キャス”は遠慮なく不満を垂れ流す。
『私は壊し屋で掃除屋じゃないっての』
「壊し屋の心理を一番解ってるのは誰だ?」
打ち返してキース。
「壊し屋本人だろうが。その壊し屋で一番はどこのどいつだ?」
あきらめたような、間。
『――いつの間に人をおだてて使うようになったんだか』
「単なる事実だ」
言ってのけてキースは言を継ぐ。
「オオシマ中尉が俺達を残した意味ってものを考えろ」
事実、“キャサリン”に対抗し得たのは“キャス”だけだった。その“キャス”を救い出したのは“ネイ”と“ミア”。オオシマ中尉は自前の電子戦力よりもキースらを買っていることになる。
『はいはい、じゃあとにかく整備屋を呼んできて』
“キャス”の機嫌は悪くない。
『私達に手は生えてないんだからね。サンプルの用意と書き換えはそっちの役目よ!』
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