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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第14章 転回
148/221

14-9.制圧 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

〈第2格納庫、クリア!〉

 キリシマ少尉がデータ・リンクに宣する。


 敵の姿は視えていた。徹甲散弾を撃った敵の位置も知れている。そして獲物を眼にした特殊部隊の前に、陸戦兵とは言え一般兵が正面から渡り合えるはずもない。第2格納庫は1分とおかずに制圧された。


〈殺害15!〉

 そこでキリシマ少尉の声に翳。

〈損害……3〉


 ◇


 索敵擲弾に遅れること半拍、一斉に飛んで徹甲散弾。


 電子戦艦“レイモンド”上弦、第1格納庫。無人機ゴーストがボロ布よろしく吹き飛んだ。整備ブースが抉り取られる。察するに、待ち伏せていると踏んだ場所に片っ端から徹甲散弾を撃ち込んだものと窺えた。事実、伏せていなければ何人やられていたことか知れない。スコルプコ少尉はナヴィゲータへ問いを向けた。


〈“ジャンナ”、何発だ?〉

〈8発、4箇所から!〉


 推定される敵の残弾数と一致する。


〈よし! “スレッジ・リーダ”より各員、突入!!〉


 ◇


〈全滅なんだな!?〉

 キースが高速言語で確かめる。


〈全滅だ〉

 オオシマ中尉が応えて示す。

〈こちらのスコアと敵揚陸艇の搭載能力が一致する。そっちはどうだ?〉


〈全力で減速中。そっちへ辿り着くのに――〉

 キースは網膜に映された計算値に舌を打った。

〈あと8分はかかる〉


〈何か手はねェのか?〉

 歯噛みしてロジャー。

〈“フィッシャー”に誰か送れねェのか?〉


〈まだだ〉

 キースが声を絞り出す。

〈敵は“フィッシャー”を盾に取る気だ。まだコンタクトがないってことは、まだシンシアが粘ってるってことだ〉


 ◇


 時間はなかった。シンシアはまだ不確かな視覚を頼りに“イプシロン1”へと跳んだ。

 あれから駆動音はない。かと言って、操縦士が死んだという目はない。急所に、しかも集弾できなければ拳銃弾でそれは期待できない。ただ手応えは感じていた――気絶を期待するほどには。

 何よりも“シータ2”がまだ生きている。撃ち尽くしたコマンドーの弾倉を条件反射で入れ替えて、シンシアは“イプシロン1”の肩口に手をかけた。


 噴射音。振り返るまでもない、“シータ2”。戻りかけた視界で判別した首筋、“イプシロン1”の操縦士へシンシアはコマンドーを突き付けた。


〈止まれ!〉

 オープン回線に脅しの声を走らせる。

〈こいつの命……!〉


 背筋が冷えた。拳の気配。飛び退る。かすめて文字通りの鉄拳、唸りが遅れて耳へと届く。


 脅迫は聞き終わる前に潰せ――“ブレイド”中隊時代に叩き込まれた、それは原則。

 さらに重ねて噴射音――正面。“シータ2”が肩から突っ込んで来る、それが判る。飛び退る――逃げ切れない。


 衝突――金属のひしぐ、重い音が響き渡る。


 潰れたと思った。肉塊に戻ると覚悟した――しかしシンシアにその瞬間は訪れない。

 視界に落ちて影、聴覚を聾して金属音。眼前に動きを止められた“シータ2”の巨躯、背後から伸びて二本の太い腕。

 振り返る。回復し切らない眼が捉えたのは――、


「イリーナ!?」


 タロス“レモン・ボトル”の巨体。正面装甲を失ったその中に収まっているのは女のシルエット――イリーナ。


「馬……ッ鹿野郎!」


 “シータ2”が動く。“レモン・ボトル”の右腕を絡め取る。

 その隙。衝いた。力押しになれば結果は歴然、直感で悟る――仕掛けるならその前。

 狙いは頭部、センサ・ヘッド。コマンドーを突き付け、銃弾をあるだけ叩き込む。


 “シータ2”右腕のレーザ砲口が首をもたげる。見えていないと踏んでくぐり抜け、腋の下へ弾倉を替えたコマンドー。出し惜しみなし、文字通りに全弾を一点集中。確かな手応え。血がしぶく。

 それでも敵は怯まない。咄嗟にイリーナが“シータ2”の右腕を蹴り上げた。高出力レーザが壁を薙ぐ。

 さらに弾倉を替え、銃口を腋に向け――その直前に“シータ2”がスラスタを噴かした。シンシアとイリーナを圧し潰しにかかる。


 “レモン・ボトル”が踏ん張り――切れない。左腕をねじ上げられる。シンシアはそのまま左、“シータ2”の右脇へ滑り出た。次第にタロス2機の狭間が狭まる。


 探る。緊急救助用レヴァーがあるはず。手探り――硬い衝撃。隔壁に“レモン・ボトル”が押し付けられた。“シータ2”が推力を増す。あと30センチ。シンシアの手がレヴァーにかかり――、


 不意に横G。“レモン・ボトル”もろとも右へ滑る。側壁がシンシアに迫り来る。

 一も二もなく上へ。逃れ出る寸前、シンシアの右足が側壁との間に挟まれた。


「くそッ!」


 毒づいて見下ろす。“シータ2”右肩の無反動砲が眼に入る。その基部に可動関節――咄嗟の発想。

 擲弾銃GL11を無反動砲の基部にねじ込む。ヴァイザを閉じる。


『イリーナ、眼ェ閉じろ!』


 叫んでGL11を撃ち放つ。閃光衝撃榴弾が炸裂する。瞼を閉じてなお視覚を圧する光、そして身を打ちのめす衝撃波。“シータ2”の推力軸がずれた。“レモン・ボトル”からの反力と相まって、すっぽ抜けるように左へ転がる。シンシアの右足が解放された、が、衝撃をまともに浴びた身では動こうにも動けない。

 “レモン・ボトル”も“シータ2”を振りほどけない。徐々に押され――持ち上げられる。

 “シータ2”肩口の無反動砲が首をもたげた――まだ動く。可動範囲下限、砲口の前に“レモン・ボトル”が引きずり上げられる。


 そして無反動砲が火を噴いた――後ろから。


 暴発。歪んだ砲身を弾体が抜けられず、爆圧は後方へ抜けて果てる。反動で砲身が突き出されたが、寸前でイリーナは踏み留まった。

 これで次弾はない。とは言え力負けしていることにも変わりはない。辛うじて横へ受け流し、壁面を転がって避けるのがせいぜいというところ――素人としてはよくやっているが、専門家の前にあっては児戯に毛が生えた程度のことでしかない。


 衝撃波で壁に張り付けられたシンシアは、混濁する意識の隅にその格闘を捉えていた。手にP45コマンドー、腰にGL11、あるのは拳銃弾と閃光衝撃榴弾、そして軟体衝撃弾。


 自問――何ができる?


 答えは頭のなかで空回って形を成さない。敵は空間戦仕様のタロス、右肩の無反動砲こそ封じたものの、右腋に怪我を負わせた程度では怯む様子も――、


〈ブリッジ!〉

 衝動がシンシアの口を衝いた。

〈緊急消火!!〉


 データ・リンクが拾った声を果たしてブリッジが理解し得たかどうかも考えない。答えは半秒後、赤に転じた視界が物語る。周囲の隔壁が閉じ、通路の気圧が劇的に減じた。緊急消火モードの局所排気機能が作動する――真空へ。


 “シータ2”の右脇、流れていた血が噴き出した。急激に力を失い、“レモン・ボトル”に押し返されたと見るや、爆発的に血を撒き散らしてそのまま果てた。


 ◇


〈こちら“フィッシャー”!〉

 セイガー少尉の声がデータ・リンクを駆けた。

〈侵入したタロス2機を撃退!!〉


「よくやった!」

 オオシマ中尉の口に思わず通常言語。

〈“クロー・ハンマ”へ、作戦変更! 電子戦艦の制圧を最優先! “フィッシャー”の敵は排除された!!〉


 データ・リンクの向こうにも快哉。オオシマ中尉は続けた。


〈“ハンマ・ヘッド”より“ハンマ”中隊各員へ。よくやった! 作戦は次のフェイズへ移行する!!〉

 骨振動マイクを切る。その顔によぎる苦い表情。

〈艇長、電子戦艦へ移乗する。第2短艇発進用意!〉

 オオシマ中尉は告げてギャラガー軍曹へ眼を向けた。

〈ギャラガー軍曹も同行しろ。サルヴェージの手が要る〉


〈……了解〉

 ギャラガー軍曹は重い頷き。スコルプコ少尉が送ってきた電子戦中枢の映像は、サルヴェージ云々の域を大きく超えてはいる――が、敢えてそれを口には出さない。


 ◇


『馬ッ鹿野郎!』

 再び空気を充填する最中、シンシアはイリーナをタロスから引きずり出しつつ一喝した。

『くたばってたかも知んねェんだぞ!』


『その言葉、そのまんまお返しするよ』

 イリーナはイリーナで昂然と言い放つ。

『一人で全部背負い込んでヒロイン面するんじゃないよ』


『足手まといだっつって……』


『私が来なきゃ!』

 シンシアの言葉尻をぶった切って、イリーナは科白を押し被せる。

『あのままミンチになってたろ!!』


『……ッ!』

 返す言葉が出てこない。事実、一人で撃退するには荷が勝ちすぎたのは否めない。

『こっちは心配してやって……!』


『手前の心配ぐらいしろってのさ!』

 今度はイリーナが一喝。

『待ってるヤツがいるんだろ!?』


 返す言葉を失くしてシンシア。悟っているかのようにイリーナが続ける。


『あんたが調整してたタロスがあったからいいようなものの、でなきゃあの時どうやって生き残るつもりだったのさ?』


『……!』

 シンシアが歯を軋らせる。


『この強情っ張り』

 イリーナがヴァイザ越しに舌を見せる。

『惚れた男のためだからって、死んじまっちゃ意味ないだろう』


『惚れ……ッ!』

 シンシアが言葉を詰まらせる。

『惚れたとか……ッ! そんな、』


『カッコつけたって意味ないんだよ』


『……違うんだ……!』

 しおれたようなシンシアの声。

『オレが生きてて、あいつが死ぬようなことが……あっちゃいけないんだ。それだけさ……』


『ふーん、込み入ってそうじゃないか?』

 イリーナがシンシアの肩に手を置く。

『ま、吐き出したくなったら聞くさ。とにかく、あの男が眼を覚ますまで命は軽く扱わないこったね』


 ◇


〈ヘインズへ、〉

 データ・リンク越しにオオシマ中尉の、聞くからに重い声。

〈こちら“ハンマ・ヘッド”〉


〈こちらヘインズ〉

 ロジャーの慣れない操縦で軌道修正中の高機動仕様タロスから、キースが応じる。

〈悪い報せか〉


〈残念ながらその通りだ〉

 オオシマ中尉の声が重く沈む。

〈悪い報せと、さらに悪い報せと、最低の報せがある。どれから話す?〉



     *****



本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。


投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)



無断転載は固く禁じます。



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