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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第14章 転回
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14-7.盲点 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

〈最後のチャンスだ!〉


 “ハンマ”中隊を襲ってからこちら、文字通り“雲隠れ”していたタロスの一群――“イーストウッド”所属機動歩兵第3小隊の生き残り4機――の間に、ノイズ混じりの無線交信が走った。


〈救難艇だ――取り付け!〉


 救難艇“フィッシャー”の位置は、先刻“シュタインベルク”が放ったアクティヴ・サーチであぶり出されている。そして救難艇はその性格上、戦闘機動を前提とした構造を持たない。現に、救難艇は一定推力で減速を続けている。艦砲で撃沈するのは道義を問われるとしても、タロスで乗り付けるなら話も違う。


〈あいつを盾に取れれば勝ち目はある!〉


 ◇


〈対空迎撃、下舷に集中!〉

 デミル少佐が飛ばして指示。

〈タロスを“フィッシャー”に近付けるな!!〉


 ◇


 タロス各機がロケット弾を撃ち出した。戦闘機動を取る本体より高加速で飛翔したその一群は、“シュタインベルク”との中間点で爆発、弾頭に詰め込んだ金属片を散布――撹乱雲を押し拡げ、各種電磁波を乱反射。


 ◇


〈敵、撹乱雲を展開!〉


 “シュタインベルク”のメイン・モニタ、敵タロスを示すマーカが撹乱雲に隠された。


〈噴射炎は見える!〉

 デミル少佐が指示を下す。

〈センサに頼るな、目視照準! アクティヴ・サーチ継続、牽制の手を緩めるな!!〉


 ◇


〈くそ!〉

 ロジャーは舌を打った。

〈多すぎる!!〉


 敵の小型揚陸艇が戦闘機動で離脱の気配を見せたのも束の間、“シュタインベルク”からの対空砲火が鈍ったと見るや、電子戦艦“レイモンド”への接舷を強行する動きに出た。その間にも“シュタインベルク”が3隻を撃沈しているが、いかんせん敵揚陸艇は数で20を下らない。


 ロジャー自身が沈めた揚陸艇はようやくにして3隻目、敵は攻撃を回避するより、“レイモンド”を盾に取ることを選んだと見える。


〈“ハンマ・ヘッド”! こちらエドワーズ、〉

 引き鉄を絞りつつロジャーはデータ・リンクに声を乗せた。

〈敵の勢いが止まらねェ! こっちで撃ち落とすにも限度があるぞ!!〉


〈エドワーズへ、こちら“ハンマ・ヘッド”!〉

 オオシマ中尉から打ち返して一言、

〈敵の接舷を観測してるだけでも価値はある! 攻撃続行しつつデータをよこせ!!〉


 ◇


〈第2格納庫、エリア3、クリア!〉


 自らが斥候となって、キリシマ少尉は後続の小隊を手招きした。側面と後背を警戒しつつ、“クロー・ハンマ”は格納庫を搬入出エレヴェータ側へ前進する。


 先刻の交戦を経て、“ハンマ”中隊は手を変えた。制圧時間優先の手法から、被害を最小限に抑える手法へ――すなわち、斥候に敵の姿を確認させつつ進む――。


〈まるで泥棒ですな〉

 副小隊長ノイス曹長が愚痴をこぼした。その思いは曹長個人のみならず、“クロー・ハンマ”全体に燻る不満でもある。


〈言うな〉

 キリシマ少尉がなだめる。

〈固定観念は足を引くぞ〉


 宇宙船内で徹甲弾など撃った日には、気密を破るなり機器を損じるなり、船と乗組員に致命傷を与えかねない。ところが敵に占拠された最重要艦艇を攻めるに当たり――しかも“フィッシャー”でキースとシンシアが見せた奮戦ぶりを鑑みてか――敵は常識を大きく逸脱した。対物用どころか対空用の徹甲散弾で隔壁ごと撃ち抜きに来るという愚は自暴自棄の域さえ乗り越えて、もはや狂気に走ったとさえ言っていい。ただし、その狂気が“ハンマ”中隊に予想外の戦死者を出したのもまた事実。その結果が、出会い頭の危険を避ける盗っ人まがいの進軍という有り様だった。


〈敵影! 第2格納庫、エリア4!!〉

〈散開! “ブラヴォ”と“チャーリィ”は俺と共に正面へ! “アルファ”は左翼、“デルタ”と“エコー”は右翼へ回れ! 気取られるな!!〉


 “クロー・ハンマ”の各分隊が音もなく動き出す。


 ◇


 電子戦艦“レイモンド”との距離が詰まる。すれ違いざまに1隻を屠ったロジャーは、タロスを反転させた。4隻目。スラスタを全開、“レイモンド”への軌道を取る。


〈こちらエドワーズ、4隻目だ〉


 敵の小型揚陸艇はもはや怯む様子さえ見せず、“レイモンド”上下舷の飛行甲板に殺到しつつある。救難艇に襲いかかったというタロスに戦意を鼓舞されてか、あるいは後がないことを察してか。


 ロジャーは5隻目、自ら照準に入ってきた揚陸艇へ向けて引き鉄を絞った。


 ◇


〈爆炎を観測!〉

 “シュタインベルク”の戦闘指揮所に索敵士の声が上がる。

〈2機目です! ――くそ、撹乱雲が!!〉


〈あと2機はいるはずだ!〉

 デミル少佐が空気を引き締める。

〈何としても“フィッシャー”には近付けるな!!〉


 ◇


 撹乱雲を遺して2機目が逝った。その爆炎を見届け、操縦士は戦闘機動のGの中から獲物の影――救難艇“フィッシャー”のマーカ――に眼を据えた。


〈出せるもんは全部出せ!〉

 咆哮が操縦士の口を衝く。

〈救難艇の陰に回れ! 近付いたらこっちのもんだ!!〉


 ◇


〈しまった!〉

 デミル少佐が臍を噛む。戦闘機動の末、敵が“フィッシャー”の陰へ入ろうとしている。

〈戦闘機動パターン変更! 敵が“フィッシャー”の陰に入るぞ!!〉


 ◇


 気の遠くなるような急減速――持って行かれそうな意識を力づくで手繰り寄せる。タロスの眼前に迫って救難艇の船腹、進行方向へ向けていた高機動ユニットが衝突した。咄嗟にパージ、身を丸めて爆圧をしのぎつつスラスタ全開でその場に留まり――その手が接舷ハッチに触れた。


〈こちら“イプシロン1”、敵救難艇に接触!〉


 咆える。開閉レヴァーに手を伸ばす。マニピュレータがレヴァーを保持した、その感触。回す。エアロックの外壁が口を開ける。


 タロス“イプシロン1”は救難艇“フィッシャー”内部へと侵入を果たした。


 ◇


〈見えました! ――くそッ!!〉


 “シュタインベルク”が戦闘機動パターンを変え、“フィッシャー”の正面へと回り込む。そこで捉えたのは、今にも救難艇に取り付かんとするタロスが1機と――、


〈右舷側エアロックが!〉


 開いていた。正確には閉じようとしていた――恐らくはタロスを呑み込んで。もう1機も下弦側エアロックに取り付き、高機動ユニットをパージしている。


〈撃て!〉

 デミル少佐は即座に指示。

〈中に入れるな!!〉


 エアロックの外殻側ハッチが破損してしまえば、内殻側ハッチは安全装置の働きで開放されない――その理屈は砲手の頭へ回るより、むしろ空隙をすら生んだ。ハッチが閉じる。隙を衝いて、もう1機もエアロックの中へ隠れる。


〈こちら“シータ2”、〉

 雑音の多いオープン回線に、勝ち誇った声が乗る。

〈目標に接触!〉


〈くそ!〉

 デミル少佐がアーム・レストに叩き付けて怒り。

〈“フィッシャー”へ、こちら“シュタインベルク”! タロス2機がそちらの内部へ侵入した! 接舷ハッチ、右弦と下舷からだ!!〉


 ◇


 加圧を示す赤色灯の中、“イプシロン1”の操縦士は荒い息を吐きつつほくそ笑む。


 まず、最優先の目標をブリッジと定める。ナヴィゲータに命じて視覚に救難艇の内部構造図、侵入ルートを頭に入れる。艇尾側すぐ、回転居住区後端部から中心軸側へ向かえばブリッジへ出られる。その後ろには融合炉。

 赤十字の艇として医務室――回転居住区を盾に取るという手も考えられるが、ここは艇の制御を手中にすべきと肚を決める。


 加圧終了を示して緑色灯。エアロックの内殻側ハッチが開く。通路に敵の姿はない。艇尾側へ機体を流す。

 艇体前部を占める円筒形の回転居住区を過ぎ、角を折れようとした――その刹那。


 視界に映ったものは――太い拳。


 咄嗟に受け流そうとして流し切れず、頭部センサ・ユニットを持って行かれた。だが視界が失われたわけではない。スラスタを噴かして前進、組み付きに行って空を掻く。正面、装甲を蹴って後退したその人型は――、


〈“ソルト・ボトル”!?〉


 正面装甲を失ったその姿に重なる識別マーカは、確かに“ソルト・ボトル”のものだった。ただし中に収まっているのは、もちろん操縦士の専用スーツではない。空間歩兵用の戦闘用宇宙服、しかも体型からして――女。


〈いい根性してんじゃねェか!!〉


 スラスタの推力に乗せて拳を繰り出す。いなした相手が懐へ――だが。


〈もらった!〉


 ――掻き抱く。


 装甲のない相手の生身は絞れば潰れる道理、そう目算して力を込め――かけて気付いた。すり抜けられた――下へ。

 すかさず繰り出して膝。“ソルト・ボトル”がその脚を取りにくる。構わず噴かして背面スラスタ――全開。


〈潰れろ!〉


 視界の向こうに壁面。勢いそのまま壁面へ突っ込み――かけたところへ妙なG。“ソルト・ボトル”が取った脚を背負い投げるように“イプシロン1”を放り出す。


 激突――。


 右肩口から壁へめり込んだその背後、突き付けられた“ソルト・ボトル”の右腕に高出力レーザ砲。“イプシロン1”背面のメイン・スラスタへ向けて首をもたげる。


〈させるか!〉


 姿勢制御スラスタを噴かす。振り向きざまに左肘、くぐり抜けられるのは計算のうち、突き上げて右膝、受け止められるのもまた同じ。本命は――その向こう。


 補助センサが回転居住区の入り口前、捉えてタロスがもう1機。マーカが示したその正体――“シータ2”。


〈来い、挟め!〉叫んで“イプシロン1”。〈こいつを潰しちまえ!!〉

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