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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第14章 転回
145/221

14-6.間隙 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

〈“ハンマ・ヘッド”へ、こちら“スレッジ・アルファ”〉

 スコルプコ少尉は苦い高速言語をデータ・リンクに乗せた。

〈電子戦中枢、クリア! しかし、こいつは……!〉


〈時間がない、“スレッジ・アルファ”〉

 オオシマ中尉の声に感情はない。

〈端的に話せ〉


〈――やられました〉


 一言でスコルプコ少尉は言い表した――そのセンサ・ヘルメットが捉えた映像はオオシマ中尉にも送られている、その事実を承知しながら。

 電子戦中枢の防護殻内、眼前にあるのは光を失い、モニタも破れ、筐体の各所に亀裂すら入れた電子戦中枢の本体とその操作卓。


〈電子戦中枢は破壊されたものと判断せざるを得ません。拘束2、いずれも高級将校〉


〈了解。敵の揚陸ポッドが接舷し始めている〉

 端的にオオシマ中尉が作戦の進行を促す。

〈監視だけ残して“スレッジ・ハンマ”は制圧を続行――艦橋と戦闘指揮所、急げ!〉


〈“スレッジ・ハンマ”、了解!〉

〈“クロー・ハンマ”は炉と機関部の制圧に回れ! 敵の陸戦隊が取り付いてくるぞ、中枢部の制圧を急ぐ!〉


 オオシマ中尉は艦外映像へ眼をやった。電子戦艦の概形は、“やや小振りな宇宙空母”とでも形容するのが相応しい。艦体上下に飛行甲板を備え――主に発着するのは電子戦用無人機SMD-025ゴースト――、その狭間に大出力の融合炉と電子戦装備を詰め込めるだけ詰め込んでいる。

 殊に異様を呈するのは前後左右、斜めに突き出したアンテナ群。これが敵味方に対して直接、あるいはゴーストを介して、電子的な――時には可視光さえも含む――欺瞞や介入、防衛を担う。


 左右両舷に合わせて8箇所ある接舷ハッチは現在、“ハンマ”中隊の短艇が塞いでいた。強襲揚陸艦“イーストウッド”からの陸戦隊を載せた小型揚陸艇群は、勢い上下の飛行甲板を目指して群がりつつある。


〈艦橋、クリア!〉

 “スレッジ・ハンマ”の制圧報告が先んじた。

〈拘束3、無力化2! 損害ゼロ!!〉


〈融合炉、クリア!〉

 “クロー・ハンマ”を率いるキリシマ少尉から、報告の声がデータ・リンクに上がる。

〈拘束26、無力化5、損害ゼロ! 機関の制圧に向かう!!〉


 “クロー・ハンマ”が手間取るのも道理、これだけの規模の艦となれば、融合炉や主機関において作業に携わる人間そのものが少なくない。このままでは機を逸す――オオシマ中尉はそう踏んだ。


〈“クロー・ハンマ”、こちら“ハンマ・ヘッド”!〉

 オオシマ中尉の指示がデータ・リンクを駆ける。

〈機関は後回しだ、“フォックストロット”を警備に残して第2飛行甲板へ急行! “スレッジ・ハンマ”は戦闘指揮所を制圧次第、第1飛行甲板へ! 敵の陸戦隊が押し寄せてくるぞ!〉


 ◇


〈敵襲!〉

 

 電子戦艦“レイモンド”艦底部。“クロー・ハンマ”は第2飛行甲板へ出る直前の第2格納庫で敵とかち合った。出会い頭に交わして一撃、キリシマ少尉は前衛に問いを飛ばした。


〈数は!?〉

〈3人までは確認しました!〉


〈“チャーリィ”と“デルタ”、右側面から回り込め!〉

 小型揚陸艇でやって来たなら少なくとも半個分隊5人はいる計算、問題は敵がどれだけ固まって来ているか。

〈掩護射撃、用意! ――3、2、1、行け!!〉


 ◇


〈来ました!〉

 陸戦指揮所と化した“イェンセン”のブリッジにギャラガー軍曹の声。

〈敵小型揚陸艇、本艇に接近中! 数は2!!〉


 “ハンマ”中隊のミサイル艇の中で、中隊本部たる“イェンセン”だけが短艇を電子戦艦へ送り込んでいない。そこに眼を付けたのは敵の鋭さか、あるいは無統率の現れか。


〈本部小隊に眼を付けたか。そこまではいいが、〉

 オオシマ中尉は小さく鼻を鳴らした。

〈我々も随分と甘く見られたものだな。歓迎してやるか〉


 保ちこたえるにしても、その間は指揮機能が麻痺するのが道理。その間の損失にオオシマ中尉が思いを巡らせた――その時。


 光芒――。


 小型揚陸艇の1隻が、機関からプラズマを噴いた。不規則なスピンに陥った艇体が“イェンセン”をかすめて過ぎていく。


〈敵揚陸艇、中破1! もう1隻も戦闘機動に入りました――離脱します!〉


〈“ハンマ・ヘッド”へ、〉

 ロジャーの声がデータ・リンクに乗った。

〈こちらエドワーズ。電子戦艦に接近中!〉


〈こちら“ハンマ・ヘッド”、今は誘導してやる余裕がない〉

 答えてオオシマ中尉。

〈敵の陸戦隊と艦の奪り合いになってる〉


〈途中からだが聞こえてる。こっちで“イェンセン”に接近中の敵を見付けた〉

 ロジャーの声が笑みを含んだ。

〈余計な世話だったかな?〉


〈よくやった。まだ取り付いてない敵揚陸艇が多数! 狙撃できるか?〉


〈やってもいいけどよ、〉

 ロジャーの声は気乗りした風でもない。

〈敵ァ戦闘機動に入ってる。俺の腕前じゃ保証はできねェぞ?〉


〈敵がどれだけいると思ってる?〉

 開き直った声でオオシマ中尉。

〈牽制になればそれでいい。電子戦艦と我々に近付こうとするやつから狙い撃て〉


〈了解した〉

 その後にロジャーから問いが飛んできた。

〈電子戦中枢はどうなった?〉


〈……そこは聞こえてなかったのか?〉


〈タロスのデータ・リンク調整しながら飛んでたからな〉

 言いつつも察したらしく、ロジャーの声が低くなる。

〈――間に合わなかったか?〉


〈結果から言えばな〉

 断ずるオオシマ中尉に苦い声。

〈そういうことだ〉


〈“キャス”がただでやられたとも思えねェ〉

 続くロジャーの声は、それでも割り切った風ではない。

〈少なくともキースのやつァあきらめてねェ。検証は?〉


〈いいだろう〉

 オオシマ中尉も頷く。

〈だがその前に敵の掃除だ。もう2、3基墜とせばかなりの脅しになるはずだ。やれ〉


〈了解した。“キャス”のサルヴェージ、頼んだぜ〉


 ◇


 2隻目の小型揚陸艇が火を噴いた。今度は揚陸艇本体への直撃――その光景がオオシマ中尉に違和感をもたらした。


〈“ジュディ”! 38番映像、拡大!〉

 艇外映像の一つ、ロジャーからの高出力レーザが直撃したらしい小型揚陸艇――その先。飛行甲板表面に抉ったような傷がある。

〈巻き戻せ!〉


 38の番号を振られた映像が時間を遡る。飛行甲板に煙ったような着弾跡、それが元へと巻き戻り、次いで手前の小型揚陸艇が形を取り戻す。その中央、揚陸艇の本体に灼熱の赤――。


〈くそ! “ハンマ”全隊へ、こちら“ハンマ・ヘッド”!〉

 オオシマ中尉は舌打ち混じりに発して警告。

〈敵は爆発物を携行! 繰り返す、敵は爆発物を携行している!!〉


 ◇


〈伏せろ!〉


 咄嗟に叫んでキリシマ少尉。と同時に盾にしていた壁面が吹き飛んだ。掩護射撃に身を乗り出していた兵が3人、上半身を持って行かれる。


〈徹甲散弾だ!〉

 齧り取られたような壁を一見するや、キリシマ少尉がデータ・リンクに咆えた。

〈連中、対空ミサイルでも持ってきやがったか!〉


 ◇


〈分散包囲!〉

 ギャラガー軍曹がキリシマ少尉から送られたセンサ・ヘルメットの映像を解析、情報を飛ばす。

〈敵は徹甲散弾弾頭を携行の模様! 恐らくタロス搭載用の弾頭だけを持ち込んだものと思われる! 携行限度は半個分隊当たり1発か2発と推定、留意せよ!!〉


 ◇


〈無茶なもん持ち出しやがって!〉

 キリシマ少尉はバッテリィの交換を終えてレーザ突撃銃LAR115ソーンを構えた。盾になる壁面が敵味方とも抉り取られて見通しだけはやけにいい。

〈回り込むぞ! “アルファ”は俺に続いて左、“チャーリィ”は右だ! “ブラヴォ”と“デルタ”、掩護しろ! 3、2、1、行け!!〉


 直後、またも爆発。掩護していた“クロー・デルタ”の傍ら、盾にしていた無人機SMD-025ゴーストが跡形もなく吹き飛んだ。


〈突入!〉

 床を蹴り、天井に張り付きながらキリシマ少尉が飛ばして指示。

〈“ブラヴォ”、“デルタ”、制圧しろ! ヤツらにもう手札はない!!〉


 即座に“クロー・ブラヴォ”と“デルタ”が敵へと押し寄せた。掩護の弾幕を張っていたキリシマ中尉らが追い付く頃には、敵の全員が屍と化していた。


〈敵の装備を確認しろ!〉

 頭数を確認しながらキリシマ少尉。

〈“ハンマ・ヘッドへ、こちら“クロー・ハンマ”。第2格納庫エリア1、クリア! 殺害5、損害……3〉


〈“クロー・ハンマ”へ、こちら“ハンマ・ヘッド”!〉

 オオシマ中尉の声が訊く。

〈敵の装備は!?〉


〈確認中ですが……恐らくミサイル弾頭を持ち込んでます〉

 ざっと見て眼についたのは無反動砲RR17の太い砲身と歩兵用ミサイルの収納筒――それが2組。ただし無反動砲の砲口は2門揃って見るも無残に裂けている。

〈無反動砲で無理やり撃ち出したようです〉


〈“ハンマ”中隊全隊へ! こちら“ハンマ・ヘッド”、聞いての通りだ〉

 オオシマ中尉は声をデータ・リンクに飛ばした。

〈敵陸戦隊は半個分隊ごとに2発の徹甲散弾を携行している。留意せよ!〉


 ◇


 聞いた側から壁が抜けた。第1格納庫へ突入した直後、先陣を切った“スレッジ・アルファ”の3人が消し飛んだ。


〈怯むな!〉

 スコルプコ少尉が檄を飛ばす。

〈敵に頭を出させるな! 撃て! 撃て! 撃て!〉


 弾幕の陰から“スレッジ・デルタ”を率いてスコルプコ少尉が飛び出す。無反動砲の太い砲身を見かけるや、LAR115ソーンからレーザの一連射を叩き込んで黙らせる。


〈突撃!〉

 すかさず命令。

〈敵の大砲を黙らせた! 今のうちだ!!〉


 ◇


〈エドワーズへ、こちら“ハンマ・ヘッド”!〉

 オオシマ中尉の声がロジャーの聴覚へ。

〈聞いての通りだ。敵が厄介な代物を持ち込んでる。とにかく揚陸艇の接舷を妨害しろ、撃ちまくれ!〉


〈簡単に言ってくれるぜ……〉


 ロジャーは口中に毒づいた。“ネイ”の補助があるとはいえ、タロスの高機動ユニットに装備された対空レーザ砲を含め火器管制システムは初期状態、照準がずれている上に相手は戦闘機動中なものだから始末が悪い。それが群がりつつある電子戦艦やミサイル艇を避けてとなると、慣熟もしていない身で命中させるのは難しい。加えて2門ある対空レーザの一方はキースが潰してしまった――下手な鉄砲に加えて数が撃てない。


〈“ハンマ・ヘッド”へ、こちら“シュタインベルク”!〉

 データ・リンクにデミル少佐の声が乗る。

〈接舷を妨害すればいいんだな?〉


〈頼みます〉

 即座に応じてオオシマ中尉。


〈了解した〉

 打って返してデミル少佐。

〈こちらからアクティヴ・サーチを食らわせる〉


 直後、背後から襲って電磁波のパルス、それも連続。敵の位置があぶり出され、同時に“シュタインベルク”の位置も筒抜けになる。積極的な敵意。続いて対空レーザの狙撃が始まった。

 対する第3艦隊も黙ってはいない。データ・リンクが死んだなりに撃てる艦砲は“シュタインベルク”に向けて火を噴く。寸前、“シュタインベルク”は戦闘機動、回避に入った。


 電子戦艦に接舷間際、動きの鈍った小型揚陸艇を目がけてロジャーは照準用レーザを照射した――反応なし。目測で照準をずらして行って、反応の出たところで引き鉄を絞る――命中、爆散。

 問題は接舷してしまった揚陸艇の数――それを考えつつ、ロジャーは次の標的を探して照準を巡らせた。


 ◇


〈下方に噴射炎!〉

 “シュタインベルク”の戦闘指揮所、索敵士が声を上げた。

〈加速を開始――タロスです!!〉


 艦長席のデミル少佐はメイン・モニタ、アクティヴ・サーチであぶり出された最新の戦術マップへ眼を向けた。

〈“ハンマ”中隊を襲ったヤツか?〉


〈位置関係からして、恐らくは――〉

 索敵士の声に緊迫。

〈敵影4! 予想進路出ました――本艦ではありません!!〉


〈しまった!〉

 デミル少佐が舌を打つ。

〈狙いは“フィッシャー”か!!〉



     *****



本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。


投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)



無断転載は固く禁じます。



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