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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第14章 転回
143/221

14-4.強襲 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

 ミサイル艇“イェンセン”第1短艇、その前部。操縦席を上からぶち抜いて、巨大な高機動ユニットを背負ったタロスが突き立っていた。


 腕が動いた――と思ったのも束の間。キースの隣にいた最先任曹長、その頭部は瞬時に蒸散して果てた。


 ベルトを解いたのはもはや反射、キースは上へと飛び出した。その後を追うように耐Gシートの背が灼き抜かれる。追いかけたレーザの光条が、しかし途中でつっかえた――関節の可動、その限界。


〈振り放せ!〉

 即座にデータ・リンクへオオシマ中尉。

〈ヘインズ、指示を!!〉


〈下へ!〉

 返してキース。


 “イェンセン”の姿勢制御スラスタが咆える。キースに続いて席を離れた同乗の5人が、共に天井側へ放り出される。叩き付けられた天井を軋みが伝わる――だが足りない。食い込んだタロスは離れない。


 そのタロスが、今度は腕と一体化した大出力レーザを床へ――その向こうの“イェンセン”本体へ――擬した。


〈パージだ!〉

 キースが叫ぶ。

〈短艇ごと棄てろ! タロスの狙いは“イェンセン”だ!〉


 躊躇するような、間。その間に床面が赤熱した。

 重い衝撃。そして無重力。直後、床面をレーザが灼き切った。


〈間に合った、か……?〉

 キースの口を呟きが衝く。


〈一息ついてる暇はないぞ!〉

 同乗するマルケス兵長に警告の声。


〈こいつァ空間戦仕様だ!〉

 やはり同乗していたロジャーの声から戦慄が伝わる。

〈さっきと違って装甲丸ごとぶち抜きに来るぞ!〉


 その声を受けたかのように、タロスが右肩、無反動砲を床へと擬した。


 ◇


〈パージ実行!〉


 聴覚にナヴィゲータ“ジュディ”の報告、しかしオオシマ中尉が打って舌。視覚の隅、船外モニタには後方へ遠ざかる第一短艇。前部上方から高機動仕様タロスをめり込ませたその底面には、高出力レーザが貫通した灼熱の赤――すんでの差で間に合った。


〈くそ!〉

 剥いた歯の間から、ギャラガー軍曹が呻きを洩らす。本来の体制なら、マルケス兵長と共にギャラガー軍曹もあの中にいたことになる。


〈今は、〉

 同じく歯噛みしつつオオシマ中尉は言わざるを得ない。

〈電子戦艦に辿り着くことだけを考えろ。姿勢変更! 減速開始!!〉


 ◇


 キースは天井を蹴った。ロジャーが続く。宙を跳んでタロスの背後、高機動ユニットへ。気付いたタロスから高出力レーザ。が、光条は関節の可動限界に囚われて届かない。


〈マルケス兵長!〉


 キースがデータ・リンクに飛ばして声。受けたマルケス兵長が思い出したように後を追う。

 タロスが手間取っていた。今のうちに背後から忍び寄れば、タロス自体を乗っ取ることも――そう考えた、まさにその時。


 ――爆光。視野を瞬時に染める白。


 データ・リンクが残る3人の絶命を視界に伝える。振り返ると、そこには天井もろくになかった。正面にあるはずの床は形すら残していなかった。

 対物榴弾で床を爆砕した――その事実は遅れて腑に落ちた。生き残ったのはタロスの陰にいた3人だけ――マルケス兵長とロジャー、そしてキース。


 タロスが振り返る。榴弾の破片を浴びて傷だらけの、しかし機能を失ったとも見えない姿が幽鬼のごとく腕のレーザ砲を向けた。


〈しがみ付け!〉

 キースが叫ぶ。わすかに遅れて光条が走る――。


 レーザはまだ届かない。タロスの高機動ユニットが火を噴いた。ボロ雑巾さながらにフレームの一部だけを残した短艇前部から、推力に任せてタロスが機体を突き抜けにかかる。


〈この野郎!〉

 ロジャーが舌を打つ。

〈まだ“イェンセン”をやる気だ!〉


〈させるか!〉

 キースが高機動ユニットを這い上がる。タロス本体の、その背後。


 不意に横からGが襲った。高機動型タロスの戦闘機動。足が滑る。下半身が持って行かれかけ、踏み留まった所へさらなるGが方向を変えて襲いかかる。戦闘用宇宙服が振り切られる、そのさまが視界の隅に引っかかる。


 右への急転回。右腕から高出力レーザの一閃。命中、四散。


〈マルケス!〉


 ロジャーの声が耳に届く。振り回されたキースがそのままタロスの腕にしがみ付く。その手にP45コマンドー、銃口を押し付けて右腋、その間隙。

 引き鉄を絞る。装甲のないその一点へ弾丸をあるだけ叩きこむ。防弾繊維と言えど集中すれば防ぎ切れるものではない。その一点を貫いて装甲の内側を跳ね回る弾丸、――しがみついた身体にその感触。


 ――咆哮。


 タロスが右腕をキースごと振り回す。


〈キース!〉

 ロジャーがキースに呼びかける――まだ保っている。


〈ロジャー!〉

 振り回されながらキースが叫ぶ。

〈パージしろ、こいつのハッチだ!〉


 意味を求めてロジャーの視線が這う――タロスの装甲、その表面。右脇腹に黒と黄の帯、囲まれて緊急救助用レヴァー。

 這い上がる。食い付いて離れないキースにタロスが業を煮やす。左腕、前腕と一体化した高出力レーザが首をもたげる。


 レヴァーに手が届き――かけて滑る。


 キースがタロスの左腕へと乗り移る。自ら身体を振り回し、太い腕に巻き付く。今度は、右腕を動かそうとして――タロスは失敗した。代わりに腕ごと肩へ振り上げる――そこには高機動ユニットの標準装備、左右に2門ある対空レーザの太い砲口が覗いていた。


 レヴァーにロジャーの手がかかる。力を込めかけ――、


 衝撃。閃光。ロジャーの身体は前へ投げ出される。辛うじて踏み留まって指二本。視界の端にはキースの姿、その手には擲弾銃。咄嗟に閃光衝撃榴弾を対空レーザ砲口に撃ち込んだ――そう察して、ロジャーは緊急救助レヴァー目がけて身体を引き上げる。


 キースの動きが止まっていた。榴弾の衝撃を間近で受けたからには、タロスの腕にしがみついているだけでも驚異的ですらある。その左腕を、タロスは振りかぶった。


 今度こそレヴァーに手が届く。


 タロスが左手を振り下ろす。その先には自らの側面装甲、キースの身体を叩き付けるつもりと知れた。

 ロジャーの右手、レヴァーに込めて力。握りしめて引き抜く。爆砕ボルトが作動した。タロスの前部装甲がパージされる。

 そこで内側から醜悪に膨れ上がって操縦士。傷口から真空に晒されたその血液が速やかに沸騰し、内側からその身体を引き裂いて出口を求めた、その結果。


 止まった――タロス。慣性で振りほどかれ、側面装甲にぶつかったキースの腕をロジャーが捕まえる。


「やった……のか?」

 訝るロジャーがつい通常言語をデータ・リンクに乗せた。


〈……多分……な〉

 息も絶え絶えに、キースの答えが帰ってくる。見るからにその身体には力がない。


〈生きてるんだよな、お前?〉


〈……ああ……〉

 キースの頷きが、ロジャーからも覗えた。

〈……手伝え……〉


〈何を?〉

 間が抜けているのを自覚しつつも、ロジャーは問いを禁じ得なかった。キースから苦笑の気配。


〈……こいつを……かっぱらう……〉

 苦しげにキースが言葉を絞り出す。

〈……“ハンマ”中隊に……追い付くぞ……〉


〈……そうだな〉

 血袋と化した操縦士をよけつつ、ロジャーが“ネイ”からのケーブルをタロスの端末へ。

〈うわ、ひでェ!〉

 データ・リンクの接続画面を見たロジャーが思わず声を上げた。

〈データ・リンクが初期モードだぞこいつ!〉


〈どれどれ〉

 “ネイ”が探りを入れた。

〈ファームウェアがいっぺん逝っちゃってるわね、これは〉


〈こりゃ陣形取るどころか、情報支援もなかったはずだぜ〉

 ロジャーがむしろ感嘆する。

〈それであんだけの無茶やってのけたのかよ……!〉


 タロスが装備するセンサの探知範囲は、宇宙船のそれとは比べようもなく狭い。だから他艦からの誘導もない状態では、普通なら戦闘機動中のミサイル艇になど、照準を合わせることすらおぼつかない――はずだった。


〈でなきゃ今頃、“ハンマ”中隊は全滅してたわね〉


 少なくとも相当の腕利きだったことは理解できた。敬意とともに、ロジャーは操縦士のベルトを外した。


〈ちょっと待ってて――〉

 “ネイ”が“シュタインベルク”とのデータ・リンクを通じて、正常なファームウェアを手に入れた。

〈データ・リンクを一から構築し直すわ。にしても凝ったことするわね〉


〈……待てよ……〉

 キースは声を低めた。

〈……てことは、“キャサリン”のヤツ、この事態を……〉


〈見越してたってのか?〉

 ロジャーがキースの疑問の先に回る。

〈……何のために?〉


〈……くそ……〉

 キースがもどかしげに首を振る。

〈……頭が、回らん……〉


〈フル装備のタロスと格闘やった後だぜ、無理すんな〉

 言いつつロジャーも考えを巡らせる。

〈お前言ってたよな、“キャサリン”のやつァ贅肉を削ぎ落とすテストを“子供”でやってるって〉


〈そう……〉

 キースが苦しげな声で応じる。

〈“キャス”が成功例なんだとしたら……〉


〈檻に閉じ込めてじっくり研究するわな、俺なら〉

 ロジャーは唇を舌で湿した。

〈そのための仕掛けか、これが?〉


〈ああ……だが俺達がそいつを制圧しようとして……〉

 ふとキースの声に色。

〈……くそ!〉


〈どうした?〉


〈電子戦艦だ、制圧を急がせろ!〉

 呻きにも似たキースの声。

〈サンプルが手に入らないなら、“キャサリン”は……!〉



     *****



本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。


投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)



無断転載は固く禁じます。



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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.



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