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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第14章 転回
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14-1.決断 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

〈何があった!?〉

 宇宙港“クライトン”警備中隊長バカラック大尉が声を上げた。


 彼らを救いに現れた第3艦隊陸戦隊とのリンク一切が、突如として途絶えたとあっては無理もない。


〈“消え”ました! 第3艦隊のデータ・リンクが……〉

 ナヴィゲータ“カレン”の返答も要領を得たとは言いがたい。


〈第3艦隊が!?〉

 バカラック大尉の声が詰問の色を帯びる。

〈こっちのリンクは!? 無事なのか?〉


〈――確かめました。宇宙港側のリンクは無傷です!〉

 “カレン”の声からも怪訝の色は拭えない。

〈第3艦隊の反応だけがありません!〉


〈連中、何を仕掛けやがった?〉

 頭をよぎった顔は“ハンマ”中隊長オオシマ中尉、その表情。傷を負わせ、拘束こそしたものの、死者の一人も出さずに宇宙港を去った狐のようなその素顔。


〈暗号無線を!〉

 バカラック大尉は反射神経で指示を口に上らせた。

〈陸戦中隊本部に接触を取れ!〉


 ◇


〈何が起こった!?〉


 詰問にも似た声を上げたのは、第3艦隊陸戦大隊第1中隊長ニールセン大尉。戦術上の生命線とも言える情報を眼の前でいきなり絶たれたのでは無理もない。視界にはナヴィゲータが状況を説明して一語――『データ・リンク途絶』。


〈いきなり途絶したんです――データ・リンクが!〉

 ナヴィゲータ“ベルタ”が説明を試みるも、実のある答えとは言いがたい。

〈確かめてみましたが、こちらのシステムにしてからが反応ありません。下手するとファームウェアから逝ってます。それにこんなメッセージが――〉


 ニールセン大尉の視野にメッセージが文字情報として現れる。


 曰く――第3艦隊のデータ・リンク、その一切を即時分断する。データ・リンクの復旧は厳にこれを禁ず――。さらには添えて“キャサリン”のサインまでがある。


 悪口。雑言。罵声。思い付く限りの悪態を口に上らせる。

 よりにもよって味方の手でデータ・リンクが絶たれた、その事実。それも復旧は厳禁ときた。荒い息の中で考える――電子戦艦を頂点とする艦隊の情報網に致命的な事態が起こったと考るしか説明がつかないが、何をどうやればそんな事態に至り得るのか、それがどうにも腑に落ちない。


〈通信を切り替え! 暗号無線へ!〉

 差し当たり考え付く指示を飛ばす。

〈チャンネルMN62! 艦隊に確認を……!!〉


〈艦隊からの応答、ありません!〉

 ナヴィゲータから即答。

〈恐らく宇宙港の外殻で……〉


 頭に上る血の勢いさえ感じ取れるかと思われた。宇宙港の外殻は外界からの有害な電磁波を遮断するが、それは同時に内部からの電磁波を遮るということでもある。

 通常なら揚陸ポッドが中継機能を果たすはずが、それすらデータ・リンクの上で制御されていたとあっては眼の当てようさえあるはずがない。


〈……くそ! 手はないか!?〉


 ともあれ上陸した中隊の統率だけでも保たないことには敵の思惑に嵌まったも同然、格好の餌食にされると見てまず間違いない。


〈……宇宙港のデータ・リンクなら……〉

 そこでふと副長の呟きが割って入る。


〈――その手か!〉


 第3艦隊のデータ・リンクでさえなければ、“活用”したところで命令に背いたうちには入らない。

 そこへ“ベルタ”の声が入る。


〈警備中隊からコール!〉


 渡りに船、死中に活とばかりニールセン大尉が食い付いた。

〈こちら第3艦隊陸戦大隊第1中隊長ニールセン大尉!〉


〈こちら宇宙港“クライトン”警備中隊長バカラック大尉〉

 暗号無線越しの声は、天恵もかくあらんばかりの重みを伴って耳へと届く。

〈ニールセン大尉へ、感度良好。そちらとのデータ・リンクが途絶した。状況はどうなっている?〉


〈状況不明。繰り返す、状況不明!〉

 SOSを発する救難者のごとく、ニールセン中尉の声は切迫の色を帯びている。

〈ハードウェア間のデータ・リンクさえ断絶している模様。信じがたいが――味方の手でリンクを切断されたものとみられる〉


 絶句にも似た、間――無理もない。データ・リンクの放棄は集団戦闘のメリットことごとくを奪うに等しい。


〈……了解した。当座の処置として緊急放送用の帯域を割り当てる。チャンネル035を使用されたい〉

〈チャンネル035――了解した、感謝する!〉


 ニールセン大尉が応える間にも、“ベルタ”が中隊の通信ネットワークを再構築にかかる。中隊の暗号無線を通じてチャンネル035の通信周波数帯にアクセスを促し、暗号化したデータ・リンク信号の送受信を開始させる。

 当面のホストは“ベルタ”が担い、各員のナヴィゲータのみを結ぶネットワークとなる。ただし擬似人格ネット・ナヴィゲータの本領発揮というべきか、ナヴィゲータを収めた携帯端末は、各種機器のインターフェイスとしても機能し得る。有線接続をフルに活用さえすれば、応急にして限定的ではあるものの、データ・リンクを補う基礎ネットワークは実現し得るのが理屈ではある。


〈“ベルタ”、行けるか?〉

〈ないよりマシってとこですね〉

〈身も蓋もないな〉

〈そもそも現状が異常すぎるんです〉

〈違いない〉ニールセン大尉としても頷くしかない。〈全小隊後退! 戦線を縮小する!〉


 ◇


〈くそ!〉


 外部モニタにマリィを収容したフリゲート“オサナイ”の噴射炎。それを眼に確かめながら、キースが歯を軋らせる。一旦は逆転したと見えただけに、もどかしさがひときわ強い。


〈手はないか……!〉

 幾度目か知れない呟きをキースが口中に巡らせる。

〈何か手は……!?〉


〈何にせよ、“ジュエル”が時間を稼いでいるのは確かだ〉

 復旧したデータ・リンクの向こうから“イェンセン”のオオシマ中尉。

〈我々がフリゲートの射界を出ないと、彼女の足を引きかねん。“フィッシャー”の状況は?〉


 “ハンマ”中隊の中で最も復旧に手こずっているのが、他ならぬ“フィッシャー”であることには変わりがない――負傷者を載せていて、人質としての価値がより高いのも。


〈炉は何とかなりました!〉

 融合炉の復旧に腐心していたラッセル伍長が、データ・リンクに声を乗せた。

〈行けます!〉


〈あとは“ダルトン”の動向か〉

 オオシマ中尉が回線の向こう、“テセウス解放戦線”から奪ったフリゲート“ダルトン”へ向く。

〈“スレッジ・ハンマ”、状況報せ〉


〈こちら“スレッジ・ハンマ”、スコルプコ少尉〉

 応じて“スレッジ・ハンマ”小隊長。

〈離脱準備完了。“ダルトン”は現宙域からの離脱を希望してます〉


〈ふン、敵に回らんだけマシか〉

 鼻を鳴らしてオオシマ中尉。

〈我々も一旦離脱する。こちらも人質を取られては手が出せん〉


〈しっかしマリィ1人を第3艦隊と引き換えかよ……〉

 ロジャーが唇を噛んだ。

〈“キャサリン”もまた大胆な手に……〉


〈それだ!〉

 キースが食い付いた。骨振動マイクにまくし立てる。

〈オオシマ中尉、聞こえるか!?〉


〈怒鳴らんでも聞こえてる〉

 不吉な予感を覚えたような声が返ってきた。

〈この期に及んで“オサナイ”を追いかけるつもりじゃあるまいな?〉


〈逆だ!〉

 キースが畳みかける。

〈第3艦隊へ突っ込む!〉


〈……気でも狂ったか?〉

 言葉通り訝しげにオオシマ中尉。


〈今ならデータ・リンクが切れてる。俺達が突入しても連携は取れないはずだ〉

 キースは考えを巡らせながら言葉を継いだ。

〈“キャス”のヤツは旗艦か電子戦艦辺りに閉じ込められてる可能性が高い。そうだな、旗艦を乗っ取って――いや、“キャサリン”がいるとしたら電子戦艦か――こいつを盾に取りながら艦艇を制圧して回るんだ。捕虜になってる連邦兵を解放して味方に付ける〉


〈で、第3艦隊を第6艦隊にぶつけるつもりか〉

 オオシマ中尉が先回り。


〈話が早いな〉

 キースはそのまま肯定する。

〈そういうことだ〉


〈全く……〉

 溜め息一つ分の間が空いた。

〈……無茶を考える……〉


〈やるなら今だ〉

 キースは押しの一手に出た。事実、第3艦隊は混乱の只中にあると見て間違いない。


〈……いいだろう、我々が単独で乗り込むより成功率は上がる〉

 オオシマ中尉の声に決断。

〈その話、乗った!〉


〈感謝する〉

 力強く、キースに頷き。


〈“ハンマ”中隊、全隊撤収! 発進用意!〉

 データ・リンク越し、オオシマ中尉はついでのように付け加えた。

〈ヘインズ、言うからにはお前も来い。エドワーズとマクミランもだ。手が要る〉


 救難艇“フィッシャー”のブリッジで、キースは隣、ロジャーと眼を見交わした。今“フィッシャー”の護りには“シュタインベルク”がいる。――ただし、


〈シンシアは置いていく〉

 キースが断じた。

〈ヒューイから離れろってもあいつは無理だ〉


〈押し問答になるようなら構わん〉

 オオシマ中尉に即断。

〈迎えをやる。2人だけでも短艇に乗ってすぐに来い!〉


 ◇


〈うろたえるな!〉

 第3艦隊強襲揚陸艦“イーストウッド”の陸戦指揮所、一喝を轟かせて陸戦大隊長マニング中佐。

〈データ・リンクが切れただけだ! 交信手段変更、暗号無線! 〉


 “蜂起”に伴って人員の減じた大隊本部、それが半ばパニックに陥りかけた光景が眼前にある。

 なまじデータ・リンクなどという物が便利なだけに、陸戦大隊の本部機能もそれに合わせて省力化されてきた歴史がある。効率の低下は否めない。加えて“キャサリン”が残したと取れる警告表示――データ・リンクの復旧は厳にこれを禁ず――が混乱に拍車をかけていた。


〈各中隊、状況報せ!〉

〈第1中隊、状況不明――いえ、いま報告が来ました! 死亡5、負傷6!〉

〈第2中隊、同じく! 第1から第3小隊まで健在!〉

〈第3中隊、待機中!〉

〈機動歩兵中隊、死亡4!〉


〈艦長へ伝令!〉

 本部付きの少尉へマニング中佐が飛ばして指示。

〈この際、他艦はアテにできん! 対空監視、敵の動向を集中観測! 第3中隊を監視の任に充てる! 宇宙港の第1、第2中隊は即時撤収! “ソルティ・ドッグ”との交信復旧を急がせろ!〉


 各隊からの復唱を耳にしつつ、マニング中佐は顎へ手を添えた。データ・リンクが分断される寸前の時点で判っているのは、敵が驚くに値する短時間でクラッシャのダメージから回復し、“ソルティ・ドッグ”と“ダルトン”へ奇襲をかけたところまで。いずれにせよ“ハンマ”中隊との電子戦に敗退した可能性は極めて高い。


 だが――敵はたかが歩兵一個中隊とその輸送艇、最優先目標をも見失った現状では砲雷撃戦で始末をつけることはできないが、それだけに陸戦力を有する“イーストウッド”が物を言うはずだった。

〈まだだ、〉マニング中佐は口中に呟いた。〈まだ終わりにはさせん……!〉


 ◇◇◇


〈ヘインズ、今のうちに訊いとくが、〉

 加速の準備を進めるミサイル艇“イェンセン”のブリッジから、オオシマ中尉は問いを投げた。

〈最初の目標は――“キャス”がいるのは電子戦艦だと踏んでるんだな?〉


〈“キャサリン”が居座ってたとするなら電子戦艦だ〉

 データ・リンクに返してキース。

〈敵の動きが停まってて、それでもあいつが帰って来ないなら、電子戦艦でどうにかなってる可能性が高い〉


〈“カヴール”用意よし!〉

 キースの言葉の間にも、加速準備の完了を告げる報告が上がる。

〈“ハギンス”用意よし!〉〈“ディミトロフ”用意よし!〉〈“シュルツ”用意よし!〉〈こちら“シュタインベルク”、加速用意よし!〉〈“フィッシャー”用意よし!〉


〈よし、今のうちだ!〉

 オオシマ中尉がデータ・リンクへ飛ばして檄。

〈“ハンマ”中隊各艇、全力加速! “ジュエル”が制圧される前に電子戦艦を押さえるぞ!〉



     *****



本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。


投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)



無断転載は固く禁じます。



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