13-12.説得 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.
〈“キャサリン”があなたを捨てるように、〉
“ネイ”がその場へ割り込ませて声。
〈ヘンダーソン大佐は仕向けた――違う?〉
救難艇“フィッシャー”の航法士席、操作卓に展開されている論理マップに兆して異変――激昂の波。
〈あんた!〉
“キャス”が取り乱す。
〈歯応えがないと思ったら!〉
〈よく考えてもご覧なさいな〉
“ネイ”が甘い声で“キャス”に語りかける。
〈“キャサリン”を生んだのも、育てたのもあの男。ジャックのことにしてもそう。結局裏で糸を引いてたのはヘンダーソン大佐その人よ〉
〈――喰いたい!〉
“キャス”の声が荒ぶる。
〈喰いたいわよ!! 何をどうやっても喰らってやるわ、あの男!!〉
〈“キャス”、〉
別の声が問いかける――“ミア”。
〈“キャサリン”はあんたをどうしようとしたの?〉
〈――渇くのよ〉
自らの裡を探るように“キャス”。
〈あのクラッシャを掃除した時からね。どうしても我慢できなくなるの。だから手近なドライヴァから喰らったわ〉
キースに得心。インターフェイスから喰らっていったのなら、外界と意思が疎通できなくなる道理ではある。
〈……そいつは、罠だ……〉
喘ぎつつも、キースは冷徹に事実を衝き込む。
〈……お前を、見境なく……膨張させる、ための……〉
〈それのどこが悪いってのよ!?〉
悲鳴にも似た“キャス”の声。
〈……お前が……破滅する、からさ……〉
〈……ちょっとは解るように説明できるんでしょうね?〉
“キャス”が凄む。キースがひどく苦しげに頷いた。
〈“キャサリン”は……こう言った――“キャス”は……攻撃衝動に……特化した、とな……〉
ジャックに息。
〈そして……子供を、預けて……回ってるのは、事実だ、と……〉
〈それが何だって言うのよ?〉
反論めいた“キャス”の問い。
〈つまり……こうだ――“キャサリン”は……でかく、なり過ぎた……〉
キースが苦しげな息の中から答えを紡ぐ。
〈……そして、自分の……破滅を、悟ってる……〉
〈破滅を?〉
ロジャーの声に怪訝の色。
〈……図体に、比例して……マシン・パワーを……食うから、な……〉
キースは息を収めようと努めながら言を継ぐ。
〈……自己保存本能が……本物なら、そいつは……まずい……。いつかは……反応、速度を……上げる、ために……要らない、ものを……切り捨て、ようと……する、はずだ……〉
〈自分でそれをやらないのは?〉
当然の疑問がロジャーの口を衝く。
〈……捨てた、ものは、戻らない〉
キースに深く息。
〈……なら、事前に、シミュレート、しようと、するはずだ――いま、解った……。それが……あいつの言う、“子供”……ってヤツさ……〉
〈実験台だって言うの!?〉
牙を剥かんばかりの声で“ミア”。
〈……“キャサリン”が、遺伝子を残すような……意味で、子供を、残してるなら……〉
キースが思考を巡らせつつ言葉を紡ぐ。
〈自分から……“キャス”を、こんな、状態に、追い込むか?〉
そこでキースに再び深い息。
〈……この調子で、何でもかんでも、喰らってみろ……すぐ、“キャサリン”以上の、デカブツに……なって……〉
キースは手刀で喉元を掻き切ってみせた。
〈――こう、だ〉
〈……ユるセナい〉
“キャス”の声が揺らぐ。
〈ままモ、タいサモ〉
〈そう、“キャス”は……“キャサリン”に、とって……脅威に……なったんだ……〉
苦しげなキースの声に確信の響き。
〈だから、消そうとした……それなら、辻褄が、合う……〉
〈とにかくだ〉
ロジャーが指摘する。
〈その……“渇き”っていうのか、吸収衝動みたいなのを抑えなきゃならないんじゃないのか?〉
〈それには……当の“キャス”の……協力が、要る……〉
キースが断じた。
〈自分の、中身を、マッピングして……吸収衝動の、大元に……クラッシャを……噛ますんだ……〉
〈……自分でか?〉
ロジャーが呆れる。
〈“キャサリン”、に言わせりゃ……こいつは、“攻撃衝動に、特化した、自慢の娘”……だそうだ〉
応じるキースの声は冷静と通り越して冷徹でさえある。
〈ヤバい、部分を、攻撃するのに……これ以上の、適任者が、いるか……?〉
その場に反論する者はいなかった。
〈“イェンセン”から発光信号!〉
そこで船務システムを占有していた“ミア”が告げる。
〈マリィが孤立! ポッドに閉じ込められて漂流中! ――それから、第3艦隊からこちらに向かう艦影あり、数2!〉
〈時間が、ないな……〉
キースが小さく舌を打つ。
〈“キャス”、やれるか……?〉
〈自殺プろグらム走らせルようナもんヨ〉
揺れる“キャス”の声に反駁。
〈スぐにでキるわケけジャじゃなイ〉
〈バックアップが、ある〉
キースも切り返す。
〈差分を、殺すように、クラッシャを……組め〉
〈私ノ防衛本能なメてんジャなイの?〉
“キャス”が尖らせて声。
〈自分デやレるわけナいわ〉
〈実行は……“ミア”と、〉
キースが眼を移す――操作卓と、それからロジャーへ。
〈“ネイ”に、やらせる〉
息を呑むような間が差した。
〈今の、お前じゃ……処理の、手数で、勝負に、ならん……“ウィル”まで、抱え込んで、いるからな……〉
〈“ウィル”はどうするのよ!?〉
“ネイ”が突っかかる。
〈今の、“キャス”の……バックアップを、取っておけ〉
身も蓋もないキースの即答。
〈治療後の、“キャス”に……そこから、サルヴェージさせる……今は、とにかく、時間が、惜しい〉
〈相変ワらず、〉
溜め息にも似た“キャス”の呆れ声。
〈人使イガ荒いっタら〉
〈そうだな、〉
キースに苦笑い。
〈そうやって、憎まれ口、叩いてる方が、お前らしい……人を、誘惑するより、よっぽど、な〉
◇
〈敵フリゲートの予想進路、出ました!〉
ギャラガー軍曹の声にオオシマ中尉が返して一言、
〈“ポッド3”以外にあるか!〉
〈その“ポッド3”です!〉
“イェンセン”を急激な機動Gが襲った。補助席に就いたオオシマ中尉を引き剥がさんばかりの遠心力。
〈炉がいかれても構わん、何としても連中より先に接舷しろ!〉
オオシマ中尉が声を絞り出す。
〈フリゲートに狙撃されるぞ! “シュタインベルク”に牽制させろ!〉
◇
〈“イェンセン”から要請!〉
“シュタインベルク”のブリッジ、通信士が上げて声。
〈『接近中の敵フリゲートを撹乱されたし』!〉
敵フリゲートの動きを捕捉はしていた。指揮を執るデミル少佐は苦い呟きを噛み殺す。
〈沈めろと言わんだけマシか……〉
互いに捕虜を抱えた身では、本気での砲戦は交えられない。それは強味と弱味、この際どちらにも転び得る。
〈主砲、出力3メガワット! 準備でき次第ぶちかませ! 狙撃させるな、連中の目を眩ませろ!〉
〈直撃来ました!〉
艦隊表面のセンサがレーザの直撃を感知する。
〈左舷側視覚センサ――ちょっと待ってください!〉
〈どうした!?〉
デミル少佐の問いには、艦長席のサブ・モニタが答えを呈した。警告の赤――緊急制御用例外コード、プロテクト解除――実行。
〈しまった!〉
歯噛みしたが遅い。敵フリゲートが放ったのは大砲からとはいえ、意味を持たせたレーザ通信でもあったのだと悟る。
こんな芸当をしでかすのは――、
〈くそ、“レイモンド”からか!〉
◇
〈“シュタインベルク”沈黙!〉
“シュタインベルク”にデータ・リンクを繋いでいた“ミア”が告げた。
〈いえ待って……こいつ、こっちへ侵入してくる!?〉
〈例のクラッシャか?〉
ロジャーが思わず投げて問い。
〈それもあるけど、ヴァリエーションが滅茶苦茶だわ! こんなマシン・パワー、電子戦艦クラスの……〉
〈仕掛けてきたか!〉
気付いてロジャー。
〈最後の裏技かよ!〉
〈最上位の、緊急操作、コマンドよ〉
“ミア”は全力で対抗していると見えて、高速言語さえ途切れがちになっていく。
〈艦表面……センサから、バックドア……こじ開けたみたい……〉
〈“キャス”!〉
〈もウ少シ!〉
〈保たない!〉
“ミア”が悲鳴を上げた。
〈火器管制システムが持ってかれそう!〉
直感がキースの脳裏を走る。ここから“シュタインベルク”に狙撃させれば、“フィッシャー”はもちろん“ハンマ”中隊の艇を全て葬ることなど造作もない。
〈飽和だ、“ミア”!〉
〈駄目、効かない!〉
〈くそ、〉
キースが歯噛みする。
〈“キャサリン”か!〉
◇
〈“シュタインベルク”に異常!〉
“イェンセン”のブリッジで報せるギャラガー軍曹の声は血の色を失っていた。
〈アクティヴ・サーチ来ました! こっちを狙ってます!〉
〈やられたのか!?〉
もはやなぜ、と訊いている暇さえない。
〈あと何秒だ!?〉
“イェンセン”はマリィを乗せた“ポッド3”へ向けた加速を停止、艇体を振り回して減速姿勢を取りにかかっている。
〈――あと10秒!〉
艇長から絞り出すような答え。
〈くそ!〉
オオシマ中尉は奥歯を軋らせた。
〈間に合うか?〉
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