13-6.制圧 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.
〈減速終了まであと5秒!〉
“カヴール”の艇内、無線に艇長の声が響く。
〈3、2、1――相対停止!〉
〈総員、制圧行動開始!〉
“スレッジ・ハンマ”にスコルプコ少尉が号令を下す。待ちかねたように舷側、ミサイルの代わりに備えられた短艇が離脱した。噴射を小刻みに繰り返し、持ち前の小回りを活かして“ダルトン”舷側、接舷ハッチ4箇所に艇体を着ける。
〈接舷!〉
重い振動と同時に、先頭の二人がシートを離れた。短艇側の接舷ハッチを開放、その向こうにある“ダルトン”の接舷ハッチ接合部に炸薬チューブを手早く巡らせる。
〈“スレッジ・ブラヴォ”、突入用意よし!〉
スコルプコ少尉は視界の端、流れるカウントへ意識を凝らす。制圧行動開始からここまで12秒。
〈“スレッジ・アルファ”、突入用意よし!〉〈“スレッジ・エコー”、突入用意よし!〉
間が一拍。
〈“スレッジ・デルタ”、突入用意よし!〉
〈よし!〉
スコルプコ少尉が命令を下した。
〈こちら“スレッジ・リーダ”! “スレッジ・ハンマ”各班、突入!!〉
◇
〈接舷ハッチに近接反応!〉
“ダルトン”の戦闘指揮所で船務長が声を上げた。
〈第1、第3……第5、第6もです! 接舷した艇があります!〉
〈“シュタインベルク”の狙いはこれか!〉
艦長が苦虫を噛む。データ・リンクの寸断された艦には味方の動きさえも伝わっては来ないが、ここまで忍び寄ってくるのが味方であるはずもない。そして、“シュタインベルク”のなりふり構わぬジャミングはこれを狙ったものなら説明がつく。
〈アクティヴ・サーチ、近接防御!〉
〈――発見!〉
策敵士の声が青ざめた。
〈左舷、至近! 対空砲の射角外です!〉
◇
“ダルトン”の左舷2箇所と上下各1箇所の接舷ハッチ、合計4箇所に仕掛けられた炸薬が同時にハッチ接合部を吹き飛ばした。エアロック内壁に灼き飛ばされたハッチの残骸が重くぶつかる。
〈行け! 行け! 行け!〉
待ち構えていた2人が内壁側のハッチに取り付き、慣れた手つきで炸薬チューブを巡らせる。今度は他班を待つまでもなく、作業を終えた端からハッチを吹き飛ばしていく。
〈“ブラヴォ”、エアロック、クリア!〉
最初は“ブラヴォ”、次に“アルファ”、ややあって“デルタ”と“エコー”が艦内への侵入を果たした。そのまま個別に前進、制圧目標を目指して動き出す――“アルファ”は艦橋、“ブラヴォ”は機関部、“デルタ”は融合炉、そして“エコー”は居住区へ。
◇
〈接舷ハッチ破損!〉
船務長の声とともに艦内図、接舷ハッチを表す輝点に赤が灯っていく。
〈侵入者! 第1、第5、第6……〉
〈進路は!?〉
訊いて艦長。
〈艦前方へ1グループ、〉
船務長の視線が艦内図と監視カメラの画像を目まぐるしく行き来する。
〈艦中央へ3――いや2グループ! 後部へ1グループ!〉
〈気密ハッチ緊急閉鎖!〉
言いつつ気付いた。半拍遅れてその事実を船務長から思い知らされる。
〈駄目です! 遠隔操作が利きません!〉
〈陸戦隊に……!〉
データを、と言いさして艦長は舌を打った。データ・リンクを壊された今となっては、直接的な連携など取りようがない。アーム・レスト脇へ手を伸ばして船内電話、陸戦小隊が詰めている曹士食堂にコールをかける。
〈スキャベリ少尉を!〉
〈は!〉
歯切れのよい返事とは裏腹に待たされること10秒近く、
〈……こちら……〉
〈敵陸戦隊員が侵入した!〉
相手も確かめずに艦長は畳みかけた。
〈ブリッジ防衛を最優先! 以降は陸戦隊に一任する!〉
〈敵の位置と規模は!?〉
当然の疑問。返すがえすもデータ・リンクの損失が悔やまれた。
〈4グループに分かれた!〉
中央モニタ、艦内図に重ねられた推定位置に睨みを飛ばす。
〈艦首方向に1グループ、中央部に2、艦尾方向に1! これ以上はこちらでも掴めん!〉
◇
〈くそ!〉
曹士食堂のスキャベリ少尉は密かに毒づいた。
〈敵の居場所も判らんで、どう止めろって……!〉
言う間に入り口、ハッチが薄く開く。その隙間から滑り込んだ拳大の物体――、
〈敵襲ッ!〉
気付いた伍長が叫ぶ、その言葉尻を断ち切るように閃光が視界を蹂躙した。遅れて衝撃波――閃光衝撃手榴弾。
身体に刷り込んだ動作――肩に提げた銃を手に取り、銃口とともに巡らせるはずの視界は――しかし焼き付いて光景を捉えない。
衝撃に見舞われた。上体が横ざまに持っていかれる。平衡感覚が反転、鈍い痛覚。聴覚には味方の苦悶が鋭く続く。
やられた――その自覚は遅れてやってきた。憤怒、恥辱、そして閉塞。混乱の中に彷徨う意識が、手荒く後ろ手に縛られた事実を辛うじて捉える。
ものの5秒ほどで、曹士食堂は中の捕虜ごと“スレッジ・エコー”の手に陥ちた。
◇
「“キャス”がやられたって?」
“フィッシャー”へ顔を見せるなり、ロジャーの開口一番がそれだった。
「リュサック軍曹から話は聞いた。ファージまで組んどいて、どういうこった?」
「多分トラップだ」
出迎えたキースが答えを返す。
「“キャサリン”の仕業だろうな。“キャス”のやり口を読んでたとしか思えん」
「そりゃ共同作業だったってのは解るけどよ……」
ロジャーは“キャス”と“キャサリン”が“クライトン・シティ”を麻痺に追い込んだ、その現場を思い起こしながら呟く。
「だからって“キャス”釣り上げたさに虎の子をエサになんか使うかね?」
「どういうことだ?」
「考えてもみろよ、食い止めるどころか解析もろくすっぽできやしないクラッシャだぜ?」
ロジャーが掌を上に広げる。
「先のこと考えりゃ奥の手に取っとくだろ、普通」
「つまり先のことを考える必要がないか、」
キースが親指を顎に添える。
「さもなきゃ“キャス”がそれだけ邪魔だった、ってことか……」
「な、変だろ?」
ロジャーが肩をすくめる。
「“キャサリン”には“キャス”が目障りだった、か……」
頷きつつキースがその声を噛みしめる。
「ロジャー、手伝え」
「もちろん」
ロジャーが頷く。
「“キャス”を救けるんだろ?」
「そうだ」
キースが頷き返して腕を組む。
「お前が考えた通りなら、“キャス”が鍵を握ってることになる」
「けどよ、“ウィル”はどうしたんだ?」
至極もっともな疑問をロジャーが口に乗せる。
「“ネイ”ほどじゃないにしてもよ、あいつもチューンは相当してるはずだぜ?」
「“キャス”に喰われた」
「――“喰われた”ァ?」
呆けた返事――そう理解していても声が止まらなかった。
「サルヴェージを試したんだが、帰って来なかった」
「先に言え、そういうことは!」
ロジャーが噛み付く。
「ってことは何か!? “ネイ”が失敗したら後がねェってことじゃねェのか!?」
「じゃ、このまま指をくわえて見てるってのか?」
問いにぶつけ返す問い。
「ンなわけねェだろ。マリィは“クロー・ハンマ”が助けに行ってる」
ロジャーが言い返す。
「それに“ハンマ”中隊もぼさっとしてるわけじゃねェ」
「動けるのか!?」
切り返しはロジャーの予想を外した角度からやって来た。思わずロジャーが訊き返す。
「知らねェのか!?」
「知らん」
眼を怒らせたのも束の間、キースが感情をねじ伏せてロジャーの眼を見据える。
「……知らんが、どっちにしろ安心してていいわけじゃない。連中がマリィを助け出したとしてだ、その先どうする?」
「まァ、な。ここを逃げ出したとして……」
可能性を言葉にしてみて、ロジャーは苦虫を潰した。
「ヘンダーソン大佐の首を獲りに行く――しかないか」
「大佐は“生みの親”だ」
冷たくキースが指摘する。
「“キャサリン”が今さら敵に回らない理由がない」
「何で俺がけしかけられる方に回ってんだ、畜生」
口惜しそうにロジャーがヘルメットの上を掻きむしる。
「こうなりゃ逆に訊くけどな。“キャス”をサルヴェージするとしてだ、どんな手があるってんだ?」
返ってきたのは黙考の気配。ロジャーが言葉を重ねる。
「無策のまんま“ネイ”を突っ込むわけにはいかねェぞ」
ロジャーが指鉄砲をキースの胸板に突き付けた。
「まさか考えなしってわけじゃねェだろうな」
と、キースが思い付いたように問い返した。
「策があればいいんだな?」
「何か考えがあるんだろうな?」
「まずは探りを入れる」
キースが敵の携帯端末、パリロー軍曹から奪った“カロリーヌ”をかざしてみせた。
「敵のナヴィゲータを手に入れた。こいつを足がかりにできるはずだ」
「どうやって?」
「敵のクラッシャは味方まで喰わなかった」
事実とともに携帯端末をロジャーの胸元へ突き付ける。
「今の“キャス”も“キャサリン”の仕組んだ状態だってんなら、食う相手を選ぶはずだ。違うか?」
舌なめずり一つ、咀嚼の間をおいてロジャーが顎、ヘルメットの輪郭に指を這わせた。
「可能性はあるな」
頷いてキースが先に壁を蹴った。
「ブリッジへ行くぞ。どっちにしろマシン・パワーが要る」
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