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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第13章 虚空
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13-5.加速 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

〈敵ミサイル艇――加速に入りました!〉


 “ソルティ・ドッグ”航法士の眼前で、戦術マップ上のマーカが一斉に動き出す。敵艇の状態を表すタグがめまぐるしく内容を変える。


〈狙いは!?〉

 小隊長は半ば出口へ身体を向けながら声だけで訊いた。

〈どっちだ、“ダルトン”かこっちか!〉


〈双方です!〉

 小隊長の語尾を断ち切って航法士。

〈本艇に4隻、“ダルトン”に1隻!〉


〈連中、目標の命が惜しくないのか!?〉


 ◇


「ミサイル艇、加速しました!」

 操縦士の声が“ソルト・ポッド”の空気を震わせた。

「こちらへ向かってきます!」


「やはりか!」


 ツァイス軍曹の右手がマリィへ伸びる。マリィがケルベロスの撃鉄を起こす。緊張をはらんだ硬い音。


「動かないで!」


「待って下さい――救難艇から発光信号!」

 操縦士が悲鳴にも似た声を重ねる。

「宛先は当艇! 文面は以下の通り! 『“ソルト・ポッド”へ、こちら“ソルト・ボトル”。プレシジョンAM-35の傷はコリンズ家の母屋を出た』?」


「“ソルト・ボトル”だ?」

 ツァイス軍曹が眉をしかめる。使われたのは敵にやられたタロスの名、それが何の因果で持ち出されたのか軍曹にも想像がつきかねた。


「……以下、繰り返しています!」


「一体何の……」

 口中に呟いたツァイス軍曹が思わず視線をマリィに刺した。

「……貴様か!」


「何のお話?」


 せいぜいとぼけた声を作ってみせたが、どこまで通じたかはマリィ本人にも自信はない。『プレシジョンAM-35の傷』が指すのは紛れもなくマリィ本人、しかしその後はマリィにさえ理解が及ばない。


「とぼけるな!」

 マリィが頭を回す間にもツァイス軍曹が血走った声を上げていた。

「連中が連絡をつけたいとすれば貴様だ! 他に誰がいる!」


「本当にお仲間でないと言い切れるの?」


 せいぜい真っ向から睨み返す。しばし意地をかけたような硬い視線が互いをしのぎ合う。少なくともここで迷いを見せてはいけない――それは文面から伝わった。


「……何を企んでる? 連中と通じて!?」


 軍曹の声が剃刀を思わせて耳を伝う。


「言いがかりだわ」

「“ダルトン”はどうした!?」


 背後、軍曹に代わって声を上げた者がいる――わずかに気が逸れた。ツァイス軍曹が壁を蹴る。太い右腕がケルベロスへ伸び――、

 そして、轟音が弾けた。


 ◇


〈撃ち方始め!〉

 “シュタインベルク”の戦闘指揮所にデミル少佐の声が飛ぶ。

〈転舵、方位085-005!〉


 出力を落として“シュタインベルク”の主砲たる自由電子レーザ砲が“ダルトン”へ向けて光束を放つ。同時に全力で転舵、フリゲートの鼻先が弾かれたように“フィッシャー”を向いた。


〈機関半速! “フィッシャー”に着けろ!〉


 主機関が轟然と咆えた。飛びかからんばかりの加速で“フィッシャー”へ接近、距離半ばで乱暴に舳先を振り回してほぼ全力で急減速。耐Gシートの中でロジャーが口笛一つ吹く間に、フリゲートは救難艇の眼と鼻の先で相対停止した。


〈いい腕だ〉


〈砲撃絶やすな!〉

 デミル少佐の指示は途切れない。

〈“ダルトン”の眼を引き付けろ!〉


 ◇


〈直撃! ――くそッ!〉


 フリゲート“ダルトン”の戦闘指揮所に悪罵が上がる。


〈報告は正確にせんか!〉


 艦長の檄が飛ぶ。叩き返すように砲術長が報せた。


〈“シュタインベルク”から砲撃、連続で来ます!〉


〈損害は!?〉

 艦長が短く訊き返す。


〈損害軽微!〉


 答える船務長の声を策敵士が遮る。

〈光学センサ、ホワイト・アウト! “シュタインベルク”をロスト!〉


〈レーザの出力を落として来てます!〉

 砲術長が舌を打った。

〈畜生、照準が!〉


〈うろたえるな!〉

 艦長が一喝する。

〈アクティヴ・サーチ! 副砲射撃用意!〉


 “ダルトン”が強烈な電磁パルスを発振する。レーザに潰された各種センサに頼らずとも、照準を定める手段がないわけではない。


〈ジャミング来ます!〉

 策敵士が不審げな声も露わに、

〈発信源特定! 丸見えです!〉


 “シュタインベルク”がなりふり構わず電磁波を放射していた。“ダルトン”は自ら発振した電磁パルスの反射波を解析することこそできないものの、撹乱波の発振源すなわち“シュタインベルク”の位置を特定することは造作もない――その様はさながら闇の中に灯台を見付け出すにも等しいほどに。


〈連中、何を考えている?〉

 頭に浮かぶ疑問を、しかし艦長は振り払った。追求している時間はない。

〈主砲、出力1メガワット! “シュタインベルク”の眼を潰せ!〉


 ◇


〈艇体反転、減速開始!〉


 ミサイル艇“カヴール”がメイン・スラスタを進行方向へ転じた。すかさず全力噴射、それまで溜め込んだ運動エネルギーを殺しにかかる。その先にはフリゲート“ダルトン”、眼眩ましのレーザと電磁波を浴びる、その姿。


〈敵フリゲートまで25秒!〉

 宇宙服の通信機越し、艇長の声が告げる。


〈“スレッジ・ハンマ”総員!〉

 6Gの重圧下で小隊長スコルプコ少尉が無線に声を乗せた。

〈カウント・ゼロで短艇へ移乗、フリゲートの制圧にかかる!〉


 ◇


「何だ!?」


 咄嗟にツァイス軍曹が振り向いた。ヴァイザを開いたヘルメット越し、頬に感じるほどの爆圧――それが複数。いずれも源は接舷ハッチの向こう側、揚陸艇の内部と窺えた。その瞬間をマリィが捉える。銃口が動く。引き鉄に圧力。ケルベロスが火を噴いた。


 拳銃弾の直撃ごときで戦闘用宇宙服を貫くことはできないが、衝撃がなくなるわけではない。ツァイス軍曹の上体が弾かれた。マリィの対面、操縦士の背をかすめて側壁に叩き付けられる。


「近寄らないで!」

「……の女ァ!」


 迂闊を悟ったツァイス軍曹が、軋る歯の間から憤怒の声を絞り出す。胸に弾痕、戦闘宇宙服の素材が銃弾を受け止めた黒い点。その足が側壁を蹴った。マリィの銃口が後を追う。


 ――罠。


 再び銃声。ツァイス軍曹は天井に跳ね、マリィの弾丸をかわして懐へ。そこでマリィが気付く――が、遅い。顎に引き付けたケルベロスへツァイス軍曹の手が伸びた。銃把を握る拳ごと鷲掴み、腕力に任せて引っこ抜く。


「もらった!」


 ◇


 “クロー・ハンマ”は3基の揚陸ポッドから同時に仕掛けた。予めポッド背面側の接舷ハッチ、その外側に気密テントを張って空気の流出を防いだ上で、ハッチの接合部を正確に爆破する。内部へ弾け飛んだハッチの後から閃光衝撃榴弾をぶち込み、ポッド内部へなだれ込む。


 兵を載せた“ウォトカ・ポッド”では意表を衝いたところで散開、負傷兵と分隊長を2人がかりで押さえ込むと、タロスへの盾にして動きを封じる。周囲に味方が溢れていてはいかに怪力のタロスと言えどもおいそれと暴れるわけにはいかない。そのまま事態を膠着へと引きずり込む。


 兵を載せていない“グレープフルーツ・ポッド”と“レモン・ポッド”では状況が違ってほぼ素通りの状態になった。操縦士1人を制圧、手早く縛り上げて揚陸艇の内部へ侵入する。


〈“ポッド2”、クリア!〉〈“ポッド3”、クリア!〉


 揚陸艇の背骨に当たるセンタ・フレームへ侵入して迷わず合流。キリシマ少尉は“ポッド2”からの“クロー・ブラヴォ”に手信号、ブリッジへの突入を指示――しようとしたその先にひときわ大きなシルエット――タロス。


〈少尉、“ジュエル”を!〉


 “クロー・ブラヴォ”の声に背を押され、キリシマ少尉自ら率いる“クロー・チャーリィ”は“ソルト・ポッド”の接舷ハッチへ張り付く。軟体衝撃弾がかすめる視界には女の細いシルエット、そしてその傍ら――天井から掴みかかる戦闘用宇宙服。


「もらった!」


 その声が、空気を震わせた。女――マリィの身体が手前へ踊り出る。射線に重なる。撃つに撃てない。


「敵か!」


 気付かれた。いずれにしろ隙を窺う余裕はない。勢いはそのまま、“クロー・チャーリィ”の5名はポッド内へとなだれ込んだ。操縦士を諦め、副操縦士を盾に取る。その眼前、ツァイス軍曹がマリィの手からケルベロスをもぎ取り、銃口をマリィのこめかみへ。


〈動くな!〉〈動くな!〉


 恫喝が宙で火花を散らす。




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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