13-3.起動 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.
ミサイル艇“イェンセン”のブリッジに快哉。
〈こちら“ハンマ・ヘッド”、〉
オオシマ中尉の声に勢いが乗る。
〈“シュタインベルク”へ伝達。『データ・リンクH069に接続。“イェンセン”とタイミングを合わせて融合炉を点火、可能な限り速やかに“フィッシャー”へ接舷せよ』、以上〉
〈“ウォー・エコー”了解。データ・リンクH069、“イェンセン”とタイミングを合わせて融合炉を点火、“フィッシャー”へ接舷、伝達します〉
〈“ハンマ・ヘッド”へ、こちら“クロー・エコー”〉
リュサック軍曹の声がデータ・リンクを経て届く。
〈続報です。“ジュエル”が命を張ってます――敵の艦砲は彼女が止めている模様!〉
〈どういうことだ?〉
オオシマ中尉は思わず声を上げた。
〈“ジュエル”が命を!?〉
〈こちらが敵の射界外へ逃げないと“ジュエル”を解放できないと、これはヘインズからです〉
リュサック軍曹の声が応じる。
〈詳細が要りますか?〉
〈確認して知らせろ〉
オオシマ中尉の中に閃き――なら、逆に仕掛けようはある。
〈艇長! 敵揚陸艇とフリゲートへ全力で突撃したとして、所要時間は?〉
〈ちょっと待ってください〉
艇長が計算を巡らせるだけの間が空いた。
〈距離を詰めるのに――1分要ります〉
〈“ウォー・エコー”、こちら“ハンマ・ヘッド”!〉
オオシマ中尉が噛み付かんばかりの声で呼びかける。
〈“シュタインベルク”へ伝達、砲撃準備!〉
◇
〈砲撃……ですか?〉
さすがに面食らった声が返ってきた。そこへオオシマ中尉が畳みかける。
〈そうだ、ポッドを回収される前に砲撃を浴びせる! 目標はフリゲートのセンサと揚陸艇の機関部だ、最優先!〉
〈敵が黙っちゃいませんよ〉
横からギャラガー軍曹が挟んで口。
〈ミス・ホワイトが押さえていてくれるなら話は違ってくる〉
オオシマ中尉は小声で答えつつ片眉を踊らせた。
〈すったもんだあるはずだ。その隙へ付け入る〉
〈いきなりミス・ホワイトを撃ち殺すような真似はしないと踏んでるわけですか〉
ギャラガー軍曹が口の端を湿した。
〈当たり前だ、〉
オオシマ中尉の声にハッタリが混じっていないといえば嘘になる。
〈連中の最優先目標だぞ〉
〈ヘインズが承知しませんよ〉
ギャラガー軍曹に苦笑い。
〈知らせるな〉
中尉に断言。
〈強引ですな〉
ギャラガー軍曹が肩をすくめた。
〈“ハンマ・ヘッド”、こちら“シュタインベルク”、エドワーズだ!〉
ロジャーの声がデータ・リンクに乗ってきた。
〈お待たせ、敵艦にぶちかますって?〉
〈連中、まだこっちが身動きできないと踏んでるはずだ〉
オオシマ中尉が声を返して、
〈裏を掻く!〉
〈ちょうどフリゲートの方にはちょっかいかけたからな〉
ロジャーが声に笑みを含ませた。
〈うちの“ネイ”がデータ・リンクをぶった切った。こいつァ役に立たないか?〉
〈よくやった!〉
オオシマ中尉の拳に力。
〈砲撃の第1目標はフリゲートのセンサ群、眼眩ましでいい。第2目標は揚陸艇の機関部――やれるか?〉
〈こちら艦長代理デミル少佐〉
“シュタインベルク”からさらに声。
〈確認したい。第1目標は眼眩ましだけでいいんだな?〉
〈お仲間を殺せとは言いません〉
思わず頷いてオオシマ中尉。捕虜の連邦兵ごと撃てとは、口が裂けても言えたものではない。
〈1分で結構、時間を稼いでいただきたい〉
〈連射になるな……〉
洩れ聞こえる呟きに続いて、デミル少佐が答えをよこした。
〈“ダルトン”を黙らせるだけなら何とかなる。だが、揚陸艇はまた話が違う。いま機関部はこちらから見て裏側だ、簡単にはいかん〉
〈いっそ沈めるというのは?〉
ギャラガー軍曹が横から提案を投げる。
〈強引だな〉
今度はオオシマ中尉が軍曹の科白を引用した。
〈それこそ敵が逆上するぞ。せっかく“クロー・ハンマ”が機転を利かせたところだ、活かさん手はない〉
そう返して中尉は“シュタインベルク”へ答えを送る。
〈解りました。フリゲートの眼を封じて下されば充分です〉
オオシマ中尉としてもここが収めどころと言っていい。
〈感謝します〉
通信を切ったオオシマ中尉が声を向けて艇長へ。
〈炉は?〉
〈あと1分下さい〉
艇長が断じた。
〈ギャラガー軍曹、〉
オオシマ中尉が投げて問い。
〈他艇の炉は?〉
〈こっちと似たり寄ったりです〉
応じてギャラガー軍曹。
〈あと2分、いや“ハギンス”は3分みた方がいいでしょう〉
〈急がせろ〉
オオシマ中尉が端的に告げた。
〈ポッドが揚陸艇に接触したところで仕掛けるぞ――時間はあとどれだけある?〉
〈およそ5分です――データ・リンク確立! “カヴール”、“ディミトロフ”……〉
ギャラガー軍曹から待望の報告。
〈……いま“シュルツ”も繋がりました!〉
〈よし、“ハンマ”中隊各艇へ! こちら“ハンマ・ヘッド”〉
伝令へ眼配せ一つ、オオシマ中尉はデータ・リンクへ命令を乗せた。
〈敵揚陸ポッドが揚陸艇に接舷すると同時に融合炉を点火、正面の敵艦へ突入する! “カヴール”の“スレッジ・ハンマ”はフリゲートに接近、“シュタインベルク”からの掩護射撃に乗じてこれを制圧せよ! 残りは敵揚陸艇に食らい付け! 敵が逃げ出そうが放すなよ、フリゲートに砲撃の隙を与えるな!〉
◇◇◇
〈“アイス・ポッド”、“バー・スプーン・ポッド”、速度ヴェクトル同期しました〉
揚陸艇“ソルティ・ドッグ”のブリッジで、航法士が告げた。
〈“ハイボール・グラス・ポッド”、“ミキシング・グラス・ポッド”、続きます――いま相対停止〉
戦術マップ上では、“シュタインベルク”へ向かっていた揚陸ポッド4基のマーカが艇の周囲に相対停止して並ぶ。そこへ艇長からの声が重なった。
〈救難艇の方は?〉
〈“レモン・ポッド”と“グレープフルーツ・ポッド”が帰還軌道に乗ったところです〉
操作卓から顔を上げずに航法士。
〈“ウォトカ・ポッド”と“ソルト・ポッド”は未だ初期加速中。Gがかけられないのが響いてます〉
〈定員超過もいいとこじゃ、〉
機関士が横合いから声を挟んだ。
〈脚が遅いのは仕方ないでしょう〉
“フィッシャー”から先行してくる2基が“フィッシャー”を離脱したのは、マリィを乗せた“ソルト・ポッド”より後のこと――だが、兵を載せていない分だけ順当に加速を稼いできている。一方の“ソルト・ポッド”と“ウォトカ・ポッド”は、兵をシートに収め切れないため加速をどうしても緩く取るしかなく、結果として船脚に枷がはめられた形になる。
〈敵の動向は?〉
腕を組んでいた艇長が訊く。
〈反応なし、静かなもんです〉
答えた声は航法士。事実、戦術マップ上に動きはない。
〈気に食わんな〉
艇長の呟きに、陸戦隊を率いる小隊長が眉をひそめた。
〈何が?〉
たかが救難艇の制圧に散々な目を見た、それを知る声が苦く語る――これ以上何の厄介事が振りかかるというのか、と。
〈救難艇1隻であの抵抗――そのくせ他の5隻が大人しくしている理由があるか〉
鬼でも相手取ったかのような、艇長の声。
〈相手が相手だぞ〉
誰かが唾を呑む、その音が聞こえた。応えるように、艇長が言を継ぐ。
〈用心が、要るな〉
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