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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第13章 虚空
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13-2.群狼 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

〈“クロー・ハンマ”が!?〉

 思わずキースの声が尖った。


〈ああ、たった今連絡が入った〉

 船内電話の向こう、ブリッジのニモイ軍曹は声を苦らせた。

〈気持ちは解るがそう尖るな。いま繋ぐ〉


 あとほんのわずかでも早ければ――空しい仮定がキースの頭に渦を巻く。止めるに止められない激情が出口を求めて荒れ狂う。


〈こちらリュサック軍曹。接舷ハッチから通話している〉


 キースの耳に届いた名は“クロー・ハンマ”小隊第3分隊長のものだった。


〈マリィを連れて行かれた〉


 その結果が全てだった。キースの声に棘がなかったはずはない。だがそれをリュサック軍曹は呑んだ。


〈済まん。突入するにできなかった〉


〈よく中の様子が判ったな〉

 助け舟か、ニモイ曹長の声が間に入る。


〈監視システムには繋げたんですが、〉

 リュサック軍曹が苦しげに応じた。

〈そこでお手上げでした――まさか“ブツ切り”とは〉


 仮に突入したとしても、気密ハッチに展開を阻まれたであろうことは間違いない。そこへ無理に押し入らなかったのはむしろ勇断だが、


〈機転を利かせたつもりが仇になった〉

 ニモイ軍曹が取りなすように言葉をキースに向けた。

〈ただ、ハッチを閉鎖してなきゃ今頃……〉


〈いや……〉


 キースは言葉を濁した。ニモイ曹長の言うことは解る。ハッチを閉鎖していなければ、そもそも援軍が到着するまで保ったはずはない。

 ただ、その計算で割り切れない感情は依然として胸にある。


〈……済まん〉

 やっとの思いで呑み下し、キースはただそれだけを口に出す。

〈何を言っても恨み事になる〉


〈こっちへ来たのは第3分隊だけか?〉


 ニモイ曹長が問いを向けた。“クロー・ハンマ”の残り2個分隊、その動向はキースの頭にも引っかかってはいる。ただデータ・リンクも確立していない艇から艇へ身一つで渡るなど、それだけでも充分な冒険と言っていい。ましてや1個分隊10名が束で動くなど並大抵のことではない――たとえ艇が身動き一つままならないと知った上でのことであっても。


〈小隊長は送り狼になってる〉


 そしてリュサック軍曹の答えは、予想の枠を大きく外れていた。


〈……送り狼?〉

 理解が肚へ落ちず、キースはオウム返しに問いを投げる。


〈敵の揚陸ポッドに張り付いた〉

 リュサック軍曹に応じる声。

〈2個分隊が3基に分かれて……〉


〈どのポッドだ!?〉

 キースが噛み付く。


〈……背面のハッチを晒してた3基だ〉

 リュサック軍曹の声に乗って怪訝。

〈判るか?〉


〈くそ!!〉

 キースが激昂を壁へ叩き付けた。


〈ちょっと待て、〉

 半瞬遅れて、リュサック軍曹に理解の色。

〈ミス・ホワイトがどれに乗ってるか判るんだな!?〉


〈艇の底部から離れたやつだ〉

 答えを叩き付けてキース。

〈が、彼女は最後に乗った。てことは……〉


〈くそ、取りこぼしたやつか!〉

 リュサック軍曹が苦く舌を打つ。


〈連絡はつくのか?〉

 キースが問いを切り返す。


〈ちょっと待て――“クロー・ハンマ”へ、こちら“クロー・エコー”〉

 リュサック軍曹の声が外へ向く。

〈“ジュエル”は“親亀”の中にあり。繰り返す、“ジュエル”は“親亀”の中にあり!〉


〈勝算があるのか?〉

 ニモイ曹長が心配げな声を挟む。


〈出たとこ勝負です。第一こっちで心配しても始まりません〉

 リュサック軍曹は身も蓋もなく言い捨てた。

〈それよりやることは山ほどあります〉


 その言は事実を衝いていた。こらえろ――呪文のごとく口中にそう繰り返してキースが理性を繋ぎ止める。


〈……あと問題がある〉

 キースがマニング中佐の脅し文句へ思いを至らせる。

〈マリィが命を張って敵の艦砲を押さえてる。俺達が射界から外れないと彼女も逃げるに逃げられん〉


〈他の艇は!?〉

 ニモイ曹長が噛み付いた。


〈船務と通信を先に立ち上げてるところです〉

 リュサック軍曹も歯切れがいいとは言えない。

〈我々が出てきた時点ではまだ炉に取りかかってませんでした。今頃手がついてるかどうかってところでしょう〉


〈どっちにしろ一番遅れてるのはこの艇か〉

 ニモイ軍曹の声が苦る。


〈そういうことになります〉

 リュサック軍曹も否定しない。


〈セイガー少尉だ〉

 艇長の声が遅れて加わる。

〈ヘインズ、そっちでラッセル伍長を解放できるはずだ。ニモイ曹長、とにかく船務システムを叩き起こせ。ハッチが閉まったままじゃ誰ひとり身動きが取れん〉


〈了解〉

 ニモイ軍曹が、

〈回線はこのままオープンにして船務のご機嫌取りに回ります〉


〈俺はラッセル伍長の方へ回る〉

 キースは言い切って壁を蹴る。中心軸側、回転居住区入り口へ。

〈ラッセル伍長! シンシア!〉


〈こっちだ!〉

 返ってきたのは男の声――ラッセル伍長。


 シンシアの声はない――あるいは昏倒したままかと見当をつけつつ回転居住区の入り口、灼き抜かれたハッチからキースは顔を覗かせる。

 果たしてラッセル伍長の傍ら、後ろ手にくくられたシンシアには動き出す気配さえなかった。


〈直撃だった〉

 後ろ手のプラスティック・ワイアをキースに任せながら、ラッセル伍長はシンシアへ顎を向けた。

〈意識がまだ戻らん〉


〈引き受けた〉

 ワイアを切ったキースがシンシアへ向き直る。

〈あんたはとにかく炉を起こしてくれ〉


 言いつつ器用にシンシアのワイアをサヴァイヴァル・ナイフで切断する。両手両足を解放し、背後から入れて活。


 シンシアの口から濁った呻き。次いで身を反らして激痛に喘ぎ、身体を折ってのたうつ。眼の当たりにしたラッセル伍長が思わず顔をしかめた。


〈……大丈夫なのか?〉


〈本人はキツいがな〉

 応じるキースの声がふと陰る。

〈とりあえず動かすのは控えたい〉


〈“本人”ってあんた……〉

 ラッセル伍長が絶句した。

〈食らったことがあるのか?〉


〈ついさっきな〉


 キースに向く眼が変わる。そこでシンシアがようやく言葉を絞り出した。


「ちッ……くしょォ……!」


〈尊敬するよ――いや、同情かな〉

 ラッセル伍長は複雑な表情を残して壁を蹴った。背中越しに手を一振り、

〈あと任せたぜ〉


 ◇


〈“クロー・エコー”です!〉

 ミサイル艇“イェンセン”のブリッジでギャラガー軍曹が声を上げた。

〈『“ジュエル”は“親亀”の中にあり』!〉


〈敵のポッドは?〉

 声を詰めていたオオシマ中尉が問いを発する。


〈敵揚陸ポッド“エコー”、“フォックストロット”……“ゴルフ”、“ホテル”もです。揚陸艇への軌道へ入ります〉

 再起動した索敵システムに眼を落としつつ航法士。

〈続いて“フィッシャー”から離脱した4基も加速中。“アルファ”、“チャーリィ”……いや、“ブラヴォ”と“デルタ”が先行します〉


〈先行?〉


 艇内に限り回復したデータ・リンクから、中尉は視覚へ戦術マップを呼び出した。“フィッシャー”底部から離れた2基、通称“親亀”こと“アルファ”、“子亀”こと“チャーリィ”は明らかに揃って船脚が鈍い。


〈ミス・ホワイトを乗せたのは“親亀”なんだな?〉

〈確かに“親亀”と言ってきました〉


 “クロー・ハンマ”が取り付き損ねたという、まさにそのポッド。その一方で――マリィが揚陸艇に着くまで多少なりと猶予がある、とも言えなくはない。

 オオシマ中尉の頭を計算が駆け巡る。当初の思惑は外れた――果たしてその変化に付いて行けるか。


〈ギャラガー軍曹、復旧の進捗は?〉


〈“カヴール”と“シュルツ”、“ディミトロフ”はあと1、2分でデータ・リンクが繋がります〉

 航法士の横、操作卓へナヴィゲータを繋いでいたギャラガー軍曹が答える。

〈“ハギンス”が手間取ってます。“シュタインベルク”と“フィッシャー”はまだ見通しが立ちません〉


 敵の陸戦隊を相手にしていた“フィッシャー”はともかく、“シュタインベルク”が手をこまねいていたとは考えにくい。遠からず復旧は追い付いてくると読んで、


〈“ウォー・エコー”はどうした?〉

 オオシマ中尉は“シュタインベルク”へ向かった戦力の動向を問うた――が、


〈“ハンマ・ヘッド”、こちら“ウォー・エコー”、モントーヤ軍曹〉

 言った側からデータ・リンクに声が届く。

〈“シュタインベルク”の復旧状況を伝える。データ・リンク復旧完了! 融合炉点火まで推定3分!〉




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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