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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第12章 追撃
122/221

12-14.戦慄 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

〈目標確保!〉


 “レモン”の前衛が声を上げた。負傷者のベッド上、目標――マリィ・ホワイトが身体を折ってのたうっていた。胸を掻きむしり、喉を鳴らして苦悶に喘いでいる。


〈過呼吸です〉

 一見で判断、背後から白い首筋に手をかける。背後で班長が許可を出した。


〈やれ〉

「貴様ら何を……!」


 立ち直りかけたドクタの声を聞き流し、前衛がマリィの首に力を込めた。頸動脈を圧迫、気付いたマリィが暴れ出す――が、ものの数秒で虚しく意識を手放した。


 ◇


〈揚陸艇の艦影分離!〉

 “シュタインベルク”の戦闘指揮所に索敵士の声が上がる。

〈揚陸ポッドと推定、基数4!〉


〈手駒の残り全部か〉

 艦長席でデミル少佐が顔をしかめた。

〈気前がいいな〉


 揚陸艇に搭載される揚陸ポッドは8基、うち4基が“フィッシャー”に寄ってたかって取り付いたのは確認している。差し引き4基が揚陸艇に残っていたはずだが、逆算すればそれを全力で投入してきたことになる。搭乗している陸戦隊員の数は推定で4班、2個分隊。


 対する“シュタインベルク”に残った陸戦要員といえばロジャーただ一人、計算を働かせるまでもなく不利のただ一語に尽きた。もっとも“シュタインベルク”搭乗の陸戦隊1個小隊がすでに制圧されているのだから、向こうにしてみればこれでも足りないと思っていても不思議ではない。


〈火器管制は?〉


 砲雷長ウィルキンス大尉からは苦い声。

〈まだミサイル・ランチャまで手が回りません〉


 動力炉を再稼働に持ち込む時間などない以上、砲座は全く役に立たない。内蔵バッテリィだけで戦闘に臨むとして、使えるのは精密誘導を要するミサイルのみに限られる。そして索敵と通信の各システムこそ優先させて起動したものの、ミサイル誘導に耐える精密走査の可能な火器管制システムは、その中枢部さえまともに立ち上げ切れていない。


〈け、俺一人に2個分隊が相手かよ〉

 ロジャーがうそ寒い顔で呟いた。


 ◇


 眼前にタロス、その向こうに陸戦隊。


 “カロリーヌ”にしてやられた――そう思う間に反射でキースはスラスタを噴かした。

 前面装甲のないタロスを全力で正面から突っ込ませる。その背後、寸前までキースがいた場所に軟体衝撃弾が束となって炸裂する。

 銃口ごと向けられたタロスの腕を内側から払いのけ――そこで損傷した右腕が力負け。さらに左肩のスラスタが咳き込んだ。左腕をねじ込み、相手の懐へ潜り込む。


 敵の右肩、無反動砲が動きかけた。左手で砲口を逸らしに行って、直前で相手の腕が絡みつく。

 撃たせまいとなおもスラスタ全開。タロスをハッチの向こう、敵の只中へ押し返し――そこで互いの力が拮抗した。


 動きが止まる、どころか相手に押され始める。キースが自らスラスタを潰した、その事実が無慈悲にのしかかる。


 視界の端、タロスの脇から回り込む陸戦隊。その銃口がキースの生身を追いかける。

 いなして推力を横へ逸らす。すっぽ抜けた敵タロスが入れ替わって“ウォトカ・ポッド”側へ流れる。


 そこへ陸戦隊から軟体衝撃弾。それがキースをかすめ、敵タロスの装甲に空しく弾ける。それを横目に側壁に着地、銃架を踏みしだいて底部へ眼を流す。

 “フィッシャー”へ繋がるハッチが見える。ただしその前に陸戦隊の戦闘用宇宙服。キースを狙ったままポンプ・アクション、ライアット・ガンの次弾を装填。側面からは体勢を立て直した敵タロス。


 壁を蹴ってキース。飛んできた衝撃弾を腕の装甲で受け止め、その向こうの陸戦隊員を引っかける。そのままハッチへ飛び込んだ。


 背に着弾の音が響く。振り切って“フィッシャー”内部へ。直後の空間を大出力レーザが灼く、それがセンサの感知で知れた。寸前でかわして通路へ踊り出る。


 ◇


〈“ソルト”より“レモン”へ!〉

 警告の声がデータ・リンクを駆けた。

〈敵はタロスを強奪、そっちへ向かった!〉


 ◇


 回転居住区の端までわずか。タロスのレーザ、と言うよりその照準をかわして壁を蹴り、床に跳ねて軌道を変えながらキースは通路の角を折れた――艇体外周から中心軸、居住区の艇尾側入り口へ。


 データ・リンクはもはや視界から消えていた。“カロリーヌ”がサボタージュに入ったのは間違いない。パリロー軍曹の身を盾に取れなくなればそれも当然、改めて追求するまでもなかった。


〈惜しかったわ〉


 そこへ“カロリーヌ”からだまし討ちを認める声。キースは眉をひそめた。


〈黙ってろ〉


 そこで居住区入り口からタロスの腕が現れた。


 理由をそこに悟ってキースは腕を交差、装甲のない前面をかばいつつ壁を蹴る。

 艇の外壁を背に回したキースへ、さすがにレーザは飛んで来なかった。そこまでは計算通り。

 ただし代わりに飛んできた物がある。側壁に跳ねたそれは軟体衝撃弾ではなく――閃光衝撃榴弾。

 咄嗟に身をひねった。背を向けかけた、その斜め後ろで炸裂。閃光と衝撃波が突き抜ける。その視野に追いすがってきた敵タロス。


 挟まれた――それは覚悟の上。

 再び居住区入り口へ向き直って跳ぶ。装甲のない前面を腕でかばいながら敵の懐、灼き抜かれたハッチの跡へ。


 金属音と火花をまき散らしてくぐり抜けた先、立ち塞がってタロスの巨体。殴りかかったその先に戦闘用宇宙服の一団。さらにその一人の肩の上、担がれた人のシルエット。


 ――理性のタガが飛びかけた。


 一見して女と判る細い肢体、力なくうなだれた首筋、亜麻色の長い髪、その姿――マリィに他ならない。

 目標発見の報から予想はついていた――その事実をもって辛うじて自制を繋ぎ止める。血走る視線を遮るタロスに据え、右肩から突進。

 受け止める腕が伸びてきたのは計算のうち、自分の生身を狙ってきた右腕だけを確実に受け止めて接近戦へともつれ込む。


 ただし冷静さを欠いたのは否めない。勢いそのまま重心をずらして体を入れ替えるつもりが、ほぼ正面から阻まれた。持ち込まれて力押し。

 こうなって勝てる勝負ではない。事実、右肩のフレームが音を上げた。左のスラスタが咳き込んだ。均衡が崩れた。キースが側壁へ向かって押され出す。


 腕の取り合いになった。加えてキースの正面は無防備、そのまま押し込まれれば潰される。

 制約が多い、その分だけ動きが重くなる。ジリ貧の体でキースが押されていく。

 横へ、上へ、跳ねて相手の手を払い、回り込もうとして阻まれる。時折突き込まれる拳がキースを直に狙ってきた。辛うじていなしつつも、そのたびフレームにダメージが蓄積されていく、それが判る。その間にも背後、もう一機のタロス――“ソルト・ボトル”が間合いを詰めてくる。


 キースの頭を狙って拳が飛んできた。相手――“レモン・ボトル”の胴を蹴飛ばして、すんでの差で免れる。さらに飛んできて追い討ち。飛び退ったところで背に金属音。

 背後から“ソルト・ボトル”がキース機の肩を押さえ込んだ。上から金属の太い腕を振りかぶる。更に前面、金属の拳が迫る。


 ――スラスタ全開。


 キースは上方へ向けてありったけの推力を解放した。

 “ソルト・ボトル”が錘となり、生じて回転のモーメント。前からの拳をくぐり、なおも下へ。“ソルト・ボトル”が連られて前へのめり――、


 金属の悲鳴。“ソルト・ボトル”の頭部センサ・ユニットを、“レモン・ボトル”が殴り潰した。拍子にすっぽ抜けたキースが側壁に着地、返す勢いで狼狽えた2機の隙を衝く。

 狙いすまして“レモン・ボトル”のセンサ・ユニット、左の拳を叩き込む。マニピュレータと引き換えに相手のセンサ群をもぎ取るや、突き飛ばす反動で“ソルト・ボトル”の右肩に肘をくれた。無反動砲の砲身がねじ曲がる。


 呆気ない――キースの背筋を寒い予感が駆け上がる。その肘を相手の右手が捉えた。

 “ソルト・ボトル”の左腕、一体となった銃口が胴の左側、装甲表面を引っ掻いた。その先端、照準用センサが探るは獲物――即ちキース。




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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