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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第12章 追撃
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12-13.捕獲 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

 気密ハッチの周囲を巡って溶断跡、灼熱の色が最後の1ミリを灼き抜いた。


「下がってろ!」


 医務室から顔を出したセイガー少尉が、背後に声を投げつつヴァイザを閉じた。と同時に金属音、打ち抜かれたハッチが宙を飛ぶ。

 覗いた頭を狙って軟体衝撃弾。入れ替わりに軽い発射音、隔壁に跳ねる音――、


「伏せろ!」


 セイガー少尉が壁を蹴る、その瞬間を待たずに閃光と爆圧が炸裂した。視覚を漂白し、聴覚を蹂躙し、衝撃波で感覚を狂わせるだけ狂わせて、感覚と判断に空白の時間をねじ込む。


 こじ開けた隙を衝いてきたのはやはりタロス。装甲に覆われた腕で軟体衝撃弾を受け流し、スラスタを噴いて一気に踊り出る。

 止める間などあるはずもなかった。逃げ損ねたセイガー少尉の身体を薙ぎ払い、医務室のハッチから身を乗り出す。センサ・ユニットを巡らせて中を探る。すぐセンサが人影を判別した――ベッドの怪我人に覆いかぶさったまま動けない人間が3人。うち2人が女、そのうち1人の身体特徴が目標と――一致。

〈いました!〉その声がデータ・リンクを駆けた。〈目標発見!〉


 ◇


 その報せはキースの耳にも突き刺さった。次いでデータ・リンクに位置情報――目標発見。


〈勝負あったな〉


 マニング中佐が揺るがぬ声で宣告した。キースはこれで手札を読まれたに等しい。

 “フィッシャー”までの距離に眼をやる――もう少し。


〈こちらから接舷してパリロー軍曹を解放する〉

 歯軋りの間を置いて、キースはそう告げた。

〈少し待て〉


 接舷して懐に飛び込めば――残り少ない選択肢を活かすにはそれしかない。

〈それには及ばんよ〉

 マニング中佐の声には、この期に及んでなお隙がない。

〈こちらから迎えを出す〉


〈いやに親切だな〉

 素直に皮肉が口を衝く。

〈人質は預けっ放しか〉


〈ミス・ホワイトは丁重に扱って欲しかろう?〉


 万事休す、その一言が頭をよぎる。それでも頭を巡らせる。まだあきらめるわけにはいかない。


〈それに、〉

 マニング中佐はさらに重ねた。

〈他の艇を撃たない理由もなくなった〉

 そこで、唐突にノイズが乗った。


 ◇


 警告音――。


〈何か!?〉


 目標を一旦追い抜いて頭を押さえたフリゲート“ダルトン”の戦闘指揮所、艦長が問いの声を飛ばした。


〈……火器管制、目標をロスト!〉


 砲雷長の声に困惑、次いで焦燥。艦長が声を上げるまでに一拍以上の間が開いた。


〈……電子攻撃の可能性は!?〉


 問いに応じて電子戦長。

〈“レイモンド”からは報告――いや、応答なし!〉


〈抜かれたのか!?〉


 仮にも正規軍宇宙艦隊の電子戦艦の盾が――という言葉を艦長は呑み下す。その思考を待たずに電子戦長から追い討ちの報告。


〈データ・リンク切断!〉


〈どこからだ!?〉

 さすがに苛立ちが艦長の声を尖らせる。

〈データ・リンクも乗り換えとるのに……〉


 言った後で思い至った可能性。現在使用しているデータ・リンクはL007、切り替えたログを覗けて、さらにL007へのアクセス・コードを持っているとしたら――、


 電子戦長と艦長の声が重なった。

〈“シュタインベルク”!〉


 ◇


〈気付かれたか!〉

 ロジャーがあからさまに舌を打った。


 “シュタインベルク”の戦闘指揮所、電子戦用操作卓を占めたロジャーの眼前に展開して模式図、“ダルトン”からの逆侵入を防ぐ“ネイ”の防衛線。


〈仕込みがまだ終わってないっつってんでしょ!〉

 “ネイ”が忌々しげに告げた。

〈キースが粘り切ってたらバレずに済んでたわよ!〉


 模式図上、データ・リンクへ伸ばした“ネイ”の手は“ダルトン”の火器管制中枢のみならず、通信および電子戦の各中枢にまで食い込んでいる。ただし揚陸艇“ソルティ・ドッグ”は手付かず、艦隊の電子戦艦“レイモンド”に至ってはちょっかいの一つさえかけるに及んでいない。


〈クラッシャかまされる前にリンク切断したけどそれで打ち止め! あと任せたからね!〉

〈『あと』?〉


 ロジャーが聞き咎める。“ネイ”が叩き返した。


〈来るわよ、揚陸ポッド!〉


 ◇


〈“ダルトン”より発光信号!〉


 揚陸艇“ソルティ・ドッグ”の狭いブリッジ、航法士から切羽詰まった声が上がった。“ダルトン”のデータ・リンクがいきなり途絶えたのはここでも確認している。


〈何と言ってる!?〉


 艇長が促す。読み取りにしばし間、航法士がアルファベットの羅列から意味を汲み取る。


〈『……我……電子攻撃を被れり。……敵は……“シュタインベルク”と推察さる』!〉


〈司令部、こちら“ソルティ・ドッグ”!〉

 宇宙服の骨振動マイクに噛みつかんばかりに艇長。

〈“ダルトン”より発光信号、指示を請う!〉


〈“バーテンダ”より“ソルティ・ドッグ”、こちらでも確認した〉

 データ・リンク越しに発光信号を確認していたと見えて、マニング中佐の反応は早い。

〈“アイス”、“バー・スプーン”、“ハイボール・グラス”、“ミキシング・グラス”各班を“シュタインベルク”へ投入、これを制圧せよ。繰り返す、“シュタインベルク”を制圧せよ!〉


 ◇


 警告音が途絶えた。

 キースは視線をコンソールに巡らせ――敵フリゲートからの火器管制アクティヴ・サーチが途切れた、そのことを眼に確かめる。


 すかさずスラスタ全開。揚陸ポッドが弾かれたように“フィッシャー”目がけて加速する。この隙がいつまで保つか判らない。

 “フィッシャー”までの距離が縮む。残り半分を切った。機体を反転。距離計の数字が、見る間に桁を減らしていく。感覚に任せて強引に逆噴射。背がシートに押し付けられる。操縦士が背後、シートの列へ転がった。後を追うようにタロスの転倒する金属音。


「何しやがる!」


 悲鳴と抗議の声に相手の無事を認めたら、それ以上は関知しない。構う余地もない。

 行き過ぎかけた、まさにその一点でポッドは踏み留まった。わずかに機体を戻すや、ぶつけるかのような勢いでキースは“フィッシャー”底部、“ソルト・ポッド”の背面へ付ける。


 床にドッキング、というより衝突の重い音。すがるようにドッキング・ポートの映像を確かめる。相手の背面ハッチはぎりぎり端だが、中に収まっていることはいた。

 この際出来は構わない。キースは即座にコンソールを蹴って背後、シートを薙ぎ倒して転倒したタロスへ向かう。

 仰向けのタロスに足先を押し込み、ベルトを締めると起動スイッチを入れる。システムの反応を確かめたら腕を突っ込んで固定、機体を起こす。やや不自由ながら機体は応じた。スラスタを噴いてドッキング・ポートへ。


 “ソルト・ポッド”側のハッチへ“カロリーヌ”を繋いで命じる。

〈開けろ〉


〈彼の無事も確かめずに?〉

〈声を聞いたろ。それとも戻ってひねり潰すか?〉

〈このセンサで確かめるまで動かないわよ。その程度は交渉の大前提でしょ?〉


 キースが折れた。データ・リンクに“ソルト”班の現在位置を確かめた――まだ最後のハッチを破ってはいない――ということもある。シートの列に分け入り、間にパリロー軍曹が転がっているのを――タロスの倒れた跡から数十センチのところで確認する。


〈これでいいな〉

〈駄目、ちゃんと助け起こして〉

 襟首を掴んでつまみ上げ、もがくパリロー軍曹をシートの上に放り出す。


〈これ以上は無理だな。本人が暴れてたんじゃ収まりようがない〉

〈待って、声を……〉

〈これ以上ごねると軍曹をくびり殺すぞ〉


 背を向けて再びハッチへ。ケーブルを繋いで“カロリーヌ”に命じる。“ソルト”が最後のハッチを破るまで、推定で10秒を切っている。


〈開けろ〉


 間が半秒ほど、音を立ててハッチのロックが外れた。

 ハッチを引き開ける――と、その向こうに敵の姿が現れた。


 ◇


 視覚が白光で、聴覚が爆音で塗り潰された。平衡感覚が衝撃で吹き飛んだ。そしてマリィはパニックに陥った。セイガー少尉が伏せろと告げた記憶さえ頭から押し流された。


 声も出ず、抵抗する力も入らず、そもそも何に抵抗すべきかの見当さえつかない。


 喘ぐ。悲鳴を上げようにもままならない。空気を求め、それすらろくに果たせない。

 そこへ触覚。何者かが肩に触れていた。それどころか掴んでいた。目当ては自分――その認識だけが頭の中で先鋭化した。振り向こうとして果たせず、せり上がる恐怖が胸を締め上げる。




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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