12-12.脅迫 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.
〈操縦士のナヴィゲータ、応答しろ〉
開口一番、キースは高速言語に乗せて脅し文句を突き付けた。
〈こいつを殺されたくないならさっさと出てこい〉
〈――これで結構?〉
応じた声は冷たく硬い。そして言葉も最小限。
〈いいだろう〉
キースも愛想は求めない。その代わり容赦も声に乗せない。
〈次だ。データ・リンクの内容をこちらに開示しろ〉
〈応じるとでも?〉
〈応じないはずがあるか〉
キースは一言のもとに斬って捨てた。
〈主人を見捨てるナヴィゲータがどこにいる〉
間――。ナヴィゲータが主人の命を尊重しないのは連邦法に抵触する。そして軍に所属するナヴィゲータがそれに背けるはずはない。
〈名前を聞いておこうか〉
キースが先を促す。
〈名無しじゃやりにくいからな〉
さらに間が返ってきた。キースは待つ。しばし沈黙、その後に屈したようなナヴィゲータの声。
〈――“カロリーヌ”。そこの彼はセルジュ・パリロー軍曹〉
〈いいだろう、“カロリーヌ”〉
冷たくキースが言い放つ。
〈パリロー軍曹の命が懸かってる。このポッドをデータ・リンクに繋げ〉
せめてもの抵抗ということか、“カロリーヌ”に声はない。が、程なく網膜へデータが乗った。
救難艇に乗り込んだ陸戦隊は確実に前進しつつある。医務室と接舷ハッチ、いずれへ向かった隊もまさに最初のハッチを焼き切ったところ。残るハッチはそれぞれ1枚。
〈周辺に展開してる艦がいるな?〉
確信を抱いてキースが指摘する。ポッド周辺を示す戦術マップに“フィッシャー”以外の影はない。
〈出せ〉
キースの声が一段低まる。
〈それとも軍曹の指を切り落としていくか?〉
渋々の一語そのままの間があった。それから索敵センサの情報が更新される。戦術マップの3次元図がズーム・アウト、軌道前方に艦影が2つ現れる。付されたタグからすると1つは汎用揚陸艇、もう1つはフリゲート“ダルトン”。
〈やはりな〉
揚陸ポッドが接舷してきたからには母船が、さらにはその護衛がいるはずと踏んではいた――果たしてその予測は的を射ていたことになる。
〈“カロリーヌ”、音声を繋げ。それから陸戦隊のコード・ネームは?〉
無言のまま、視覚の隅に『音声通信中』の表示が現れる。その横へ文字列――“ソルティ・ドッグ”。
〈“ソルティ・ドッグ”、聞こえるか〉
キースは一方的に言い放つ。
〈こちら救難艇“フィッシャー”の乗組員〉
応じる声はすぐに届いた。
〈……こちら“ソルティ・ドッグ”〉
何のことはない、こちらの動向は“カロリーヌ”を通じて筒抜けだった――とこれで判る。
〈回りくどいやり取りは省く〉
一部始終を聞かれていた前提で、キースは告げた。
〈“フィッシャー”から兵を退け〉
〈待て……〉
〈盗み聞きしてたのは知ってる
〉キースは相手の言葉を斬って捨て、
〈パリロー軍曹はまだ無事だ。それを吹き飛ばすつもりじゃないだろうな?〉
相手の、恐らくは図星を衝いておいてキースが操縦桿を操る。
遅れて視覚へ警報――火器管制アクティヴ・サーチ。
この期に及んで“カロリーヌ”は可能な限りの抵抗を示している――そう読んでキースは鼻を鳴らす。艦砲の照準はとうに定まっていたと見て間違いない。
〈話を……〉
〈省くと言ったはずだ〉
スラスタを一噴きしてヴェクトルを“フィッシャー”へ。アクティヴ・サーチの反応はまだ消えない。
〈どうした、さっさと肚を決めろ〉
正面モニタ、映し出された外景に重なって“フィッシャー”の位置情報。距離を示す数字が眼に見えて減っていく。進行方向を微修正、“フィッシャー”底部へ接舷した揚陸ポッドの、そのさらに下へ。
〈交渉する気がないのか?〉
怪訝な声は“ソルティ・ドッグ”から。
〈その気がなきゃ生かしておくか〉
言いつつキースの真意は他にある。艦砲を撃たせないこと――撃てば身内に自ら手を下す、そのさまがデータ・リンクに乗って部隊の全員に晒される。
そうなれば戦意を削ぐどころの話ではない、そう踏んで。
〈パリロー軍曹は戦闘要員だ。いざという時の……〉
〈聞いたか野郎ども!〉
キースはせいぜい憎々しげな声をデータ・リンクへ。
〈上は兵隊の命なんぞ惜しくもないとよ!〉
〈貴様!〉
データ・リンクの向こうで声が上ずる。
〈何のつもりで!〉
キースの眼が捉えて正面モニタ、近付く“フィッシャー”――まだ時間が要る。
〈違うのか?〉
キースが投げつけて嘲弄の声。
〈これでデータ・リンクが途切れたら見物だな! 味方殺しの現場は兵どもに見せたくないってか!〉
リンクの向こうに言葉に詰まった、その気配。これで交渉の中継を断とうものなら、キースの言葉を認めたことになる。
〈……言葉を慎め!〉
〈図星だったか?〉
キースが煽って一言、
〈そいつは頭に来たろうな〉
〈黙れ!〉
相手の声に感情が差した。
〈兵の覚悟を愚弄する気か!〉
意地でも認めるわけにはいかない、相手のその一点。そこをキースは衝きに衝いた。
〈“覚悟”だ?〉
キースは侮蔑の鼻息一つ、
〈安全な所から命令を出すだけの人間が!?〉
〈何だと……!!〉
激昂が相手の声を詰まらせた。もはや交渉どころではない――キースとしては狙った展開。
〈待て〉
重い声が不毛な応酬を遮った。
〈こちら“バーテンダ”、大隊長のマニング中佐だ〉
〈話の解るヤツが出てきたか〉
〈パリロー軍曹と話したい〉
マニング中佐に冷静な声。
キースの脳裏を警戒が走る。
〈生体データならデータ・リンクに乗ってる。無事なのはそれで判るはずだ〉
〈話もできん状態にしたのかね?〉
不敵に衝いてマニング中佐。キースに沈黙――攻守が逆転しかけている。
〈それで、〉
せいぜい不敵にキースは返して、
〈こちらに何の得がある?〉
〈時間が稼げるな、とりあえず〉
マニング中佐の声が核心を射る。
〈ポッドを“フィッシャー”に接近させているようだが、要は乗り移る時間が欲しいのではないかね?〉
図星――ただし声には覗かせずにキース。
〈兵を退けと言ったはずだ〉
〈こちらはそちらの艇6隻、全てを照準に捉えている〉
淡然とマニング中佐。
〈乗組員全員と引き換えるには、パリロー軍曹1人というのは気前が良すぎるな。君を含めて全員に投降してもらうとするか〉
〈開き直ったか〉
〈君と同じ土俵に立ったまでだ〉
マニング中佐の声は欠片ほども揺るがない。
〈ああ、それからミス・ホワイトもじきこちらの手に入る〉
〈出任せだな〉
キースは鼻を鳴らしてみせた。
〈馬脚を現したか〉
〈でなければここまで必死に防戦する理由になるまい〉
核心を衝いてみせて、マニング中佐はなお冷淡に突き放す。
〈さて、どうするね? 答えは君の肚づもり一つだ〉
〈ただの脅しだ〉
受け流すキースの勘が警告を告げている。
〈やれるものならやってみろ。マリィ本人を確認もせずに吹き飛ばす気か?〉
〈だとして、我々は何も失わん〉
なおも沈着に、いっそ残酷にマニング中佐が事実を抉る。
〈すでに趨勢は決した。ミス・ホワイトの語る事実が欠けたところで、流れは変わらんよ〉
〈それこそハッタリだ〉
キースが反論を突き付ける。
〈マリィの身柄が欲しくないなら、最初っからこんな戦力は投入しない〉
〈欲しくないとは言っておらんよ。ただ自殺されたのでは致し方ないということだ〉
マニング中佐が選択を突き付けた。
〈君の言う味方殺し、君自身が許せるものかどうか見せてもらおう〉
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