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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第12章 追撃
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12-11.強奪 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

 キースは跳ね飛ばされた。

 側壁へ頭から突っ込む。咄嗟の受け身も取れず無様に転がる――上、天井に並んだシートの狭間へ。


 顔を上げる。タロスを睨む。その眼に光。


 タロスの胴体に異変――失って正面装甲。緊急救助用の爆発ボルトを作動させた、その手応えを記憶に確かめる。

 パイロットは真空に晒されようとも、インナ・スーツに守られている――はずだがその右肩口、大きく傷が口を開けていた。

 噴き出す血煙。瞬時に沸騰した血液が、人間のシルエットさえ残さずスーツの内から膨れ上がる。

 凍り付いたように、タロスは動きを失った。見届けたキースは大きく息を一つ、次いで自らの身体へ意識を振り向ける。


 とりあえず折れた骨はない。打撲はこの際数えるだけ無駄と言っていい。悲鳴を上げる関節を一つ一つ動かし、五体が使えることだけ確かめた。その痛みだけで十二分に息が上がる。それから天井を押し出し、身体を漂わせてタロスへ。


 仁王立ちのまま血袋と化した操縦士――その身体を固定しているベルトへ手を伸ばす――両肩と腰、それに脚の付け根。それだけ外せば、手応えさえ怪しくなった操縦士の身体は何とか引きずり出せた。ここまでが一仕事、痛む全身をなだめつつ息を整える。


 腰部装甲に守られたメイン・コンソール、その作動灯はまだ生きていた。機械の側としてみれば外部からの緊急操作を受け付けたに過ぎず、ことさら異常に陥っているわけではない――当然のことだが。


〈使えるか――?〉


 足先からタロスへ滑り入る。パイロットはキースよりやや小柄だったと見えて、もう少しというところで足先がつっかえた。

 ヘルメットから接続ケーブルを伸ばしてメイン・コンソールへ。専用のインナ・スーツではないが、ある程度までなら戦闘用宇宙服でも扱えるはず――と、かつて仕込まれた知識を引っ張り出す。

 果たして、データ表示と音声入力までは難なく行った。


 ――パイロットの異常を検知。IDを入力して下さい。


 網膜へ文字列――タロスからのメッセージ。正規のパイロットでないことは見抜かれて当然、キースはすぐに切り返す。


〈パイロット緊急変更、体型調整モードへ移行〉


 ――緊急コードを入力して下さい。


〈緊急コード、045LGC326〉


 “ブレイド”中隊当時に聞き知った裏コード。間が開いた。さすがに古かったか、と歯噛みしかけたところで、


 ――緊急コード確認。体型調整モードへ移行します。


 その表示に軽く肩の力が抜けた。タロスが四肢と胴体の長さ、そして幅を一旦最大値まで引き伸ばす。

 同時にタロスはデータ・リンクへ接続した。敵の展開状況が網膜投影機に乗ってくる。


 4箇所ある接舷ハッチから“フィッシャー”に侵入した敵は、ブリッジと機関部、それに回転居住区の前後入り口を押さえにかかっていた。うちキースが相手にしたのはブリッジを狙った第1班“ウォトカ”、突入したのは他に3班。


 第2班“グレープフルーツ”は“ウォトカ”と共に艇首側の回転居住区入り口で気密隔壁を溶断中とある。第3班“ソルト”は無人の機関室に攻め入った後、第4班“レモン”に合流して回転居住区を艇尾側から攻めている。しかし――、


 キースは軽く口笛を鳴らした。“フィッシャー”艇内の全ハッチが緊急閉鎖、各班はハッチを溶断中とある。つまり、これは――、

 艇の機能が一部なりと回復しているということに他ならない。


 と、そこで敵の通話が耳に入った。


〈“ソルティ・ドッグ”全隊へ、“ウォトカ・ボトル”がやられた!〉


 察するに、このタロスがパイロット変更のシークェンスに入ったことから状況を判じたものと見えた。声が続ける。


〈データ・リンク回線変更、L007〉


 雑音一つ、それきりデータが掻き消えた。


〈データ・リンクをL007へ〉


 タロスに命じてみる。返ってきたのは視野の隅、問いの文字列。


 ――パスワードを入力して下さい。


 舌打ち一つ、キースは裏コードを試してみる――効果なし。

 半秒ほど思考を巡らせ――思い付いて命じてみる。


〈通信ログを表示〉


 拍子抜けするほどあっさりとタロスが応じた。

 遡ると、“ソルト”へ向けては揚陸ポッドへの退路確保を、他班に向けては最優先目標の――恐らくマリィの――確保を優先するべく命令が下されていた。ハッチを緊急閉鎖したブリッジは無視する形となる。


 ともあれ当面目指すべきところは決した。“フィッシャー”底部に接舷したという揚陸ポッド“ソルト・ポッド”、ここが敵とマリィとへの最短距離となる。


 ――ベルトを装着して下さい。


 敵のデータ・リンクに並んで操作を促す指示が視覚に走る。キースは応じて両肩と腰部、足の付け根のベルトを固定した。ベルトの基部には遊び以上の余裕があり、この段階では固定ベルトというには心許ないことはなはだしい。

〈装着完了〉

 キースの声に続いて、視覚へ体型の概形測定データが現れた。ベルトの装着位置から把握したもので、これに合わせてタロスの胴体が緩やかに収縮を始める。さらに体側面から固定パッド、これが幅を計りつつ胴を側面から固定にかかる。


 ――両腕を軽く動かして下さい。


 指示に合わせて肘を軽く曲げ、ひねりを加える。関節位置はもちろん、腕の太ささえ合っていないが、タロスが腕の当たり具合から次第に関節位置を合わせ込んでいくのが感触でも判る。


 ほぼ関節位置が合致したところで内部の固定パッドが膨らみ太さを計測、データの精度をさらに上げて関節位置に微調整を加える。

 ただし右肩から先は作動系に支障を来たしたと見えて動きがぎこちない。


 同じ要領で脚の関節を合わせ込むと、ひとまずの体型調整が完了した。本来なら神経信号を拾うインナ・スーツと合わせてセッティングを詰めていくところだが、急場でできるのはせいぜいここまで、贅沢を言えばキリがない。


 一旦タロスから抜け出し、跳んでキースは副操縦席へ。

 コンソールごと潰れた操縦席の隣、縛り上げた操縦士を脇にどかせたところで気が付いた。潰れた操縦席コンソール、その傍らに浮く破片に混じってケルベロス。拾い上げてシートに就き、戦闘用宇宙服の接続ケーブルをコンソールへ繋ぎ――そこで引っかかるものを覚えて振り向いた。左横、宙に浮いた操縦士、その懐――携帯端末。


 シートから離れてコンソールを蹴ると底部、接舷ハッチへ。緊急開放されたハッチを手動で閉じると、取って返してコンソールへ指を走らせる。


 入力したコマンドは内部与圧。応じて内部に非常灯、空気が内部へ満たされていく。

 傍ら、怪訝の一語を全身に滲ませて操縦士。それを放り置いてキースは再びケーブルをコンソールへ。与圧が終わるまで操縦士に用はない。


 コンソールに周辺空域のマップが示された。補足情報が視覚へ乗る。揚陸ポッドは回転したまま、流れて“フィッシャー”から離れつつあった。


 キースは操縦桿へ手を添えた。スラスタを噴いてカウンタを当て、まずはポッドの回転速度を抑える。角度を合わせてもうひと噴射、回転を止めると今度は“フィッシャー”と速度ヴェクトルを合わせにかかる。


 訓練経験があるとはいえ、慣れない上にナヴィゲータの補助もないとなれば、そこまでが一苦労。その間に与圧が完了した。ポッド内の照明が通常の色を取り戻す。


 そこでキースは縛り上げた操縦士へと振り返る。今度こそ身をよじって操縦士は抵抗を示した。それをねじ伏せて操縦士の宇宙服、ファスナを下ろして気密を解く。その内懐へ手を突っ込んで、キースは携帯端末を抜き出した。ケーブルを繋ぐ。


〈大人しくしてろ〉

 凄味を効かせてキースの声。

〈手を貸せ――ぶち殺されたくなけりゃな〉




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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