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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第12章 追撃
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12-8.苦闘 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

 タロスに身じろぎ。


 ケルベロスを探す暇はない。悲鳴を上げる身体に鞭打ってキースは身を起こした。足をシートの背にかける。タロスの右腕、一体化した銃口が首をもたげる。


 足元に感触。渾身の力でそれを蹴り放つ。そこに炸裂して衝撃弾。辛うじて逃れた身体が床を滑る。それをタロスの銃口が追う。搭乗員用シートに弾けて2撃目、キースは左手シートの合間へ割り込んだ。


 2列に並んだシートの向こう、側壁の銃架へ手を伸ばす。


 眼前、シートをぶち抜いてタロスの右腕。見えていないとバクチを張って、キースはその腕へ手をかけ、さらには乗り越えて銃架の擲弾銃GL11Gを引ったくる。


 横薙ぎにタロスが右腕を振るった。その腕を蹴ってキースは上へ。

 弾丸を手に取る暇さえなかった。舌打ちの暇もなく天井を蹴ってさらに横へ。そのすぐ後を追って衝撃弾。

 天井にも左右2列に配された搭乗員シート、その隙間へ。タロスへ眼を投げる――左腕の動きが明らかに鈍い、と見る間にタロスが突進、天井側へ。キースが飛び出す、その直後に突っ込んだ。右腕一本でシートを薙ぎ払って立ち上がる。


 察するに、隠れる物陰を取り払ってしまえばいいと開き直った――キースにはそう窺えた。それが的を射た手だということも。その間にもタロスが猪突、続けざまにシートを蹴散らしキースを追う。


 キースが床を蹴る。頭上、底面側へ。その足元をかすめてタロスの腕――すんでの差。シートの座面へ突っ込んで無様に転がる。

 顔を上げたところへ押し寄せてタロスの巨体。横ざまに跳んで側壁、銃架へ背中から。振り返ったタロスがスラスタを噴いて後を追う。


 側壁へ炸裂してタロスの拳。架けられていた銃が群れをなして宙を舞う。全身をバネにして跳んだキースへ振り返りつつ、タロスは拳を横薙ぎ、折れ曲がった銃が跳ね飛ばされてキースへ降り注ぐ。

 キースの手に閃光衝撃榴弾。銃架からようやく手に取ったそれを擲弾銃に込める間は、しかしない。タロスがなお追いすがる。


 弾丸を込めようと意識を逸らしたのが災いした。わずかに反応が遅れ――タロスの腕が横からキースの足を引っ掛けた。モーメントのかかった身体が不意に回転、天井に頭をぶつけ――かけたところで身体を折って肩から着地、転がりながらタロスを仰ぎ――、


〈!〉


 文字通りの鉄拳が飛んできた。


 咄嗟に擲弾銃を手放し、空いた右手で天井を跳ねのけ斜め下。拳がヘルメットをかすめた。キースは肩のライアット・ガンを構えてタロスの空いた懐へ。


 頭部のセンサ・ユニットへ至近から軟体衝撃弾。命中も見届けず相手の胸を蹴飛ばしたところで太い腕が戻ってきた。紙一重でかわして床へ、さらに跳ねて側壁へ。その足元へ弾けて衝撃弾。


〈まだ来るか!?〉


 センサ・ユニットへの直撃はこれが2度目、いくら非殺傷兵器でも影響の一つや二つ――その期待をはね退けてタロスが右肩の無反動砲を動かした。射線もろくに定めず撃ち放つ。

 艇尾側の壁に弾けて閃光、そして爆圧。キースの背後から押し寄せ、叩きのめして突き抜ける。


 身構えていた意識をこじ開けるように、空白――。


 衝撃に打たれた身体が言うことを聞かない――どころか、思考さえもが千切れてまとまらない。その混濁した意識の中で、右腕を伸ばしてくるタロスが見えた。その意味を掴みかねているうちに――、


 通り過ぎた。


 キースの身体が艇首側へ流れて過ぎる。遅れて意味を悟った――タロスもセンサに異常を来たした、ということに。

 間の抜けた数秒――漂って艇首側、視界にはひしゃげたコンソールとシートの跡、そして――、


 宙を漂う身体の感覚が戻り始める。キースは眼を見開いた。引きちぎれた金属片に混じって、ケルベロスのシルエット。

 もがく。腕を伸ばす。脚を動かす。背後でタロスが動き出す。スラスタを噴かして空中で振り返り、右の手をキースへ向けて伸ばし――空振った。しばし手探り。ちょうど腕の照準用センサでキースを探しているように。

 キースの手にケルベロス。身体を折って振り向き、タロスへ照星。その向こうでタロスの銃口と眼が合った。


 火線。交錯――。


 タロスの右肩から閃光。砲身を根本内側から引き裂いて爆圧。タロスの巨体が横へ弾かれた。側壁にタロスの巨体が跳ね返る。

 それを見届ける間もなく、キースの腹部へ衝撃弾が炸裂した。


 ◇


「ドクタ!」


 医務室のハッチを開けてセイガー少尉の声が飛び込んできた。マリィは弾かれたように振り向いた。


「静かにせんか!」


 控えめな罵声がマリィの傍らから飛んだ。ドクタがちょうどヒューイの輸液カートリッジを交換しているところだった。


「そいつは敵に言ってくれ」

 セイガー少尉は構う素振りも見せずに言葉を継いだ。

「ハッチ閉めて、患者を固定しててくれ」


「押されとるのか」


 ドクタが顔も上げずにそれだけ確かめる。それが質問ではないことに、マリィも気付いていた。


「ヤツら、多分ここを狙ってる」

 肯定を通り越してセイガー少尉。

「居住区に立て籠もる。この後は顔も出すな。じきここも戦場になる」


「戦場にする気か」

 ドクタの声が咎めて重い。


「赤十字に襲いかかってくるような連中だぞ」

 処置なしといった体で、セイガー少尉は首を振ってみせた。

「理屈が通じる相手か」


 ドクタは黙って肩だけすくめた。セイガー少尉が言葉を継ぐ。


「まあそこら辺はヘインズとマクミランに言ってくれ。抵抗するってもあの連中がどこまで頑張るかにかかってる」

「彼は?」


 問いを挟んだマリィに、セイガー少尉が宇宙服の中から顔を向けた。


「相手を追い上げてったが、それきりだ。後は俺にも判らん」

「……追い上げて?」


 引っかかった顔でマリィが問いを重ねた。セイガー少尉がそこで、気付いたように言い淀む。


「……四方八方から敵が突入してきてるんだ。あいつはその中に斬り込んでった」


 マリィは唇を噛み締めた。聞いているうちにも曇り出しそうな表情を押し留める。セイガー少尉が見かねたように言葉を足した。


「敵の勢いは鈍ってる、そいつは間違いない。てことは、ヤツも生きてるってことだ」


 楽天的ながら、一つの理屈ではある。


「私に出来ることは?」

 イリーナが問いを向けた。


「ここを守っててくれ。それしか言えん」

 セイガー少尉の口調が苦い。

「何にしても顔は出すな。相手は予想以上の重装備だ、どうにかできるもんじゃない」


「それを何とかする気でおるのか」

 冷静にドクタが水を差した。


「そこの彼女の命がかかってる」

 セイガー少尉はマリィへ顎を向けた。

「俺はともかく、ヘインズとマクミランは粘るだろうな」


 そこでひときわ大きく爆音。セイガー少尉は艇尾側へ眼を向けて、


「もう行かなきゃならん。顔出すなよ!」


 そう言い残して慌ただしくハッチを閉めた。言いたいことも訊きたいことも断ち切って。


 ◇


〈危ない!〉


 ラッセル伍長がシンシアを突き飛ばした。


 直後に閃光。そして轟音、骨の髄を貫く衝撃波。


 視覚はヴァイザの光量調節機能で救われた。聴覚のダメージも最小限。しかし神経が痛覚で飽和した。動けない。事態が掴めない。

 数秒の空白――それで充分なことは身体が知っている。もがくように身をよじり、眼を動かし――、

 敵の気配を頭上に感じた――もう遅い。


 銃声――。


 無駄と解っていても身構え――ようとしてそれすら果たせず、シンシアは痛覚を待ち受けた。




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


Reproduction is prohibited.

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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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