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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第12章 追撃
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12-7.防戦 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

 軟体衝撃弾がかすめて過ぎる、それをシンシアは確かに見た――ただし背後から前方へ。自分を照星に捉えた兵が背後へ吹き飛ぶ、そのさまも。


 直後、首根っこを引っ掴まれた。回転居住区の入り口に引きずり込まれる。


〈何やってる!〉


 気密ヘルメットのスピーカ越しに怒鳴って救い主。ラッセル伍長の、それは声。船務システムの中継機能は依然として麻痺しているが、至近距離なら宇宙服同士の直接通信も遮られることはない。


〈済まねェ! 助かったぜ!!〉


 告げるのももどかしく銃口を覗かせる、その先。敵の勢いに翳りが見えた。


〈……何だ?〉


 動揺の匂いを嗅ぎ取るや、シンシアは狙いを定めた。弾倉に残った衝撃弾で陸戦兵1人を撃ち倒す。


〈弾幕頼んだ!〉

 首を引っ込めてハンド・サイン、シンシアは慣れた手つきでライアット・ガンへ衝撃弾を込め始める。

〈助かった……けど何だ? 何が起こってる?〉


 ◇


〈“ソルティ・ドッグ”! こちら“ウォトカ・リーダ”、〉

 キースの聴覚へ、コンソールを通じて敵の通信。

〈“ウォトカ・ポッド”を奪られた! 繰り返す、“ウォトカ・ポッド”を奪られた!〉


 聞き流しながら、キースは揚陸ポッドをわずかに上昇させた。


 “ブレイド”中隊時代にひと通りの訓練を受けてはいる。ただしそれは想定される状況の一環としてのもので、繊細な操船技術を獲得したわけではない。

 それでもキースは舵を取らないわけにはいかない。パワード・スーツまで持ち込む相手に、正面から当たってなどいられない。


 “フィッシャー”から距離を取ると、その艇体の外周3箇所、隣り合うように接舷ハッチへ張り付いた揚陸ポッドがセンサに映る。

 揚陸ポッドなどともっともらしい呼称がついているものの、その実態は頑丈が取り柄のコンテナというに尽きる。それにロケット・エンジンと操縦席、それとドッキング用ハッチと耐Gシートを備えた“だけ”の、要は“棺桶”。その操縦に大した技量は要しない――ただしあくまで宇宙機としては、という条件がつく。


 ポッドを“フィッシャー”に対して一旦静止させたところで、今度は右舷側へスライドさせる――そこで床に伝わる硬い異音。


 次いで突風、遅れて警告。ハッチ緊急開放、気圧低下――ゼロ。

 振り返る――ドッキング・ハッチからタロスの頭。

 咄嗟に艇体を振り回す。推進軸を中心にポッドの艇体が急転、床と天井に生じて遠心力。這い上がりかけたタロスの上体がハッチの向こうに沈み――かけて踏み留まる。


 キースは肩のライアット・ガンをタロスへ向けた。両手の塞がったタロス頭部、センサ・ユニットへ直撃をくれる。怯んだところへさらに1発。


 タロスがスラスタを噴いた。頭部センサに2撃目を受けながら跳ねて真上へ。天井に背を打ちつけて前進に転じ、擦過の火花を散らしながらキースへ迫る。


 よけて横跳び、後ろでシートがタロスに潰された。その太い腕が横へ薙ぎ――かけて止まった。副操縦席にはプラスティック・ワイアで縛り上げた操縦士。

 タロスのその腕に乗ってキースは後ろへ逃れた。床へ。


 タロスが振り返りざま、腕と一体化した銃口を擬する。キースが搭乗員シートの背へ向かって跳ぶ。後を追って衝撃弾――が、捉えきれずシートの背に弾かれる。


 が、それ以上の逃げ場はない――下は床面、横は側壁か中央通路、上面にもシートは並んでいるが、移動するには姿を晒さないわけにはいかない。タロスは悠然と中央通路へ進み入る。向かって右側、搭乗員シートの陰に左腕を――衝き込んだ。


 ◇


 閃光と衝撃が弾けた。左舷側から衝撃波が突き抜ける。セイガー少尉は軸線部、回転居住区の入り口からライアット・ガンを覗かせた。


〈来たか……〉


 ほどなく左舷外周部通路の艇首側、曲がり角に敵の銃口。

 頭を覗かせたところでせめても一撃を見舞おうと思ったが無理だった。引き鉄を絞る間もなく軟体衝撃弾が殺到する。


〈数で勝ってると思いやがって!〉


 事実、戦力差は頭数だけでも1対6。さらにはそのうち一人がパワード・スーツで身を固めている。持ちこたえろというのはどだい無理な相談に過ぎない。


 非殺傷弾を使ってくるのがせめてもの慰めと言いたいところだが、それとて径がいたずらにでかいとくれば、無力化される危険はかえって大きい。

 陰から銃口だけ覗かせて撃ちまくってはいるものの、牽制になっているかすら正直怪しい。


 そこへ側面から衝撃弾。


〈!〉


 振り向きざまに一撃を放つ。それが艇の上部通路、キースが引っかき回した相手だということには――遅れて気付く。


〈……ここまでか!〉


 もはや限界と肚をくくる。セイガー少尉は内壁、赤い保護カヴァーを叩き割り、中の緊急閉鎖レヴァーを――引いた。手動信号を受けてハッチが緊急閉鎖、さらに閉鎖ボルトが展開される。気付いた敵からの弾幕は、間に合わずハッチを叩いたに過ぎない。


 とはいえ楽観できないことはセイガー少尉も承知済み。システムが飽和して動かない接舷ハッチをくぐり抜けてきた連中のこと、ハッチ一枚で稼げる時間はたかが知れている。セイガー少尉は隔壁を蹴って艇尾側へと跳んだ。


〈あとはヘインズのヤツが頼みか……〉


 ◇


 警告音。艇のコンディション表示パネル上、赤くハッチの閉鎖灯。場所は回転居住区の入り口、艇首側。見上げたニモイ曹長が掌を操作卓へ叩き付けた。


〈急げ、くそ!〉


 睨む画面に生命維持システムの状態表示――艇体状態チェック中。


 敵の侵攻を食い止める手段として、気密ハッチに眼を付けたところまではよかった。居住区の艇首側入り口、セイガー少尉の判断がそれを示している。


 しかし空気洩れを始めとした異常検知時に作動する非常系はともかく、通常系はブリッジからの操作を受け付ける。従ってクラッシャの攻撃を受けた今は麻痺状態。これを正常に戻せば隔壁が自由に開閉できる――はずだが、システムは再起動中に船殻の破損を検知して長々とチェックに入ってしまった。通常系の生命維持システムが操作可能になるのはその後からということになる。


〈駄目だ、間に合わん!〉

 ニモイ曹長はヘルメットの上から頭を掻きむしった。

〈考えろ、手があるはずだ、考えろ……〉


 ◇


 キースの眼前にタロスの左前腕、一体化した銃口が衝き込まれた。


 その腕の上を蹴ってキースが跳ぶ。すれ違いざまにケルベロスの一撃。弾丸は左肩スラスタ、噴射口の一つを捉えた。


 弾丸がスラスタの燃焼室を貫き、燃料パイプに穴を穿つ。燃料系の圧力が抜けた。急激に気化した推進剤が破孔を引き裂き、パイプが中から破裂する。安全装置が燃料を絶ったものの、飛び散った破片は装甲内部を跳ね回り、操縦士の肩と腕を襲った。


〈――――!〉


 獣じみた叫びを上げてタロスが振り返る――が。その前にしがみついたキースがケルベロスを背面スラスタ噴射口へ。

 3点連射。タロスの左背部、装甲の内側で燃料パイプが破裂した。内部、操縦士の背から弾丸と破片が襲いかかる。


 タロスが前面スラスタを噴いた。キースを巻き込んで背後へ突っ込む――操縦席の跡。根本だけ残ったシートが迫る。その根本をもぎ取り、タロスはコンソールの足元へ。金属をひしゃげさせてその背がめり込む。


〈……ッ!〉

 詰まる息の中から苦悶の声を吐き出してキース。みぞおちに食い込む硬い感触、その正体は――副操縦席の背。


 すんでのところでタロスの機体を蹴り剥がした、そこまではまではよかった――ものの、勢いを殺す暇もなければ、ましてや姿勢を選ぶ余地などあろうはずもない。


 涙の滲む眼を上げてタロスを捉える。まだ間に合う。キースがケルベロスを向け――ようとして戦慄。


 ――ない。


 ケルベロスの感触が失せていた。




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


Reproduction is prohibited.

Unauthorized reproduction prohibited.


(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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