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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第12章 追撃
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12-5.急迫 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

〈“ウィル”!〉


 思わずシンシアが声を上げた。その視線の先、左腕のインターフェイスには“ウィル”の生存信号――それがまさに途切れたところ。同じく自分のインターフェイスを覗いていたキースが高速言語で呼びかける。


〈おい“キャス”、聞こえてるんなら返事しろ!〉


 応じるようなノイズが聴覚に一瞬――そこで視界が赤に染まった。


〈くそ!〉


 セイガー少尉の悪態が、非常灯の照らし出すブリッジに飛ぶ。制御システムが飽和した今、いかに宇宙船を知り抜いていようとも盲に等しい。ただ推測は働いた。事態の悪化を示す推測が――。


〈多分もう核融合反応が維持できなくなってるはずです〉

 操作卓の下から顔を上げたニモイ曹長が、セイガー少尉と眼を合わせた。

〈……逃げ切れません〉


 非常灯が作動しているからには主機関の停止が検知されたのは間違いない。これを再度運転状態にまで持ち込むのにかかる時間は、果たして数分か半日か――。それだけあれば敵は追い付いてなお釣りが来る。


〈構うな、作業続行!〉

 手を止めずにセイガー少尉が返した。

〈どっちにしろ状況が見えんことには何もできん。センサ系の作業を優先!〉


 言葉の後で振り返る――セイガー少尉のその眼がキースを捉えた。

〈そういうわけだ。出番が来る〉


 ◇


〈目標に変化あり!〉

 第3艦隊旗艦“オーベルト”、その中枢たる戦闘指揮所に索敵士の声が上がった。

〈赤外線量が急速低下、6隻ともです!〉


 その意味するところを汲んで、電子参謀の中佐は参謀長ニール・ドネリィ大佐へ振り向いた。今や大佐は艦隊指揮の実権をその掌中に収めている。


〈目標の脚を止めました〉


 視線の先、ドネリィ大佐が頷いて視線を振る。

〈捕捉までの時間は?〉


〈は、〉

 揚陸参謀が頷きを返した。

〈3分とおかずに〉


 その言葉が終わるのを待たず、メイン・モニタ上に表示――接舷位置までの予測所要時間は2分18秒。多少の変動を伴いつつも、その数字は確実にゼロへ近付いていく。


〈最優先目標は、救難艇に乗っていると見てまず間違いありません〉

 揚陸参謀は背後、ドネリィ大佐へ告げた。


 最優先目標――すなわちマリィ・ホワイト。彼女が救難艇“フィッシャー”に乗っているのか“シュタインベルク”に移乗したのか、あるいは他の艇に乗っていたのかは推測するしかない。そして先鋒たるフリゲート“シュタインベルク”のシステムは初手で敵に押さえられてしまったため、得られた手がかりはないに等しい。


〈根拠は?〉

 敢えてドネリィ大佐が訊いた。


〈“シュタインベルク”の陸戦隊1個小隊が手玉に取られました〉

 答える揚陸参謀の表情が、薄暗い中にあってなお判るほど屈辱に苦い。

〈赤十字にそれほどの戦力を割く理由が他にありません〉


〈よろしい、では救難艇を最優先目標とする〉

 大佐が声を低めた。

〈全力でかかれ!〉


〈は!〉

 作戦参謀副長が命じる。

〈“ソルティ・ドッグ”、第1制圧目標を“フィッシャー”とする!〉


 通信士が陸戦隊“ソルティ・ドッグ”とフリゲート“ダルトン”へ命令を伝達した。メイン・モニタの戦術マップ上、相対位置表示の救難艇“フィッシャー”を表すマーカに『最優先目標』のタグが立つ。


 ◇


〈発光信号!“フィッシャー”からです!〉


 ミサイル艇“イェンセン”、機能を喪失したブリッジへ伝令が飛び込んだ。


〈内容は!?〉

 非常灯の赤の中からオオシマ中尉が問いを返す。


 艇のシステムが飽和してからこちら、中尉は搭乗員の数に物を言わせて周辺の観測とコンタクトに人員を充てている。救難艇からの発光信号は待望の反応と言えた。


〈は!『我、ネット・クラッシャに対抗するファージ・プログラム構築に成功せり……』〉


 わずかなりと空気が緩んだ。核融合炉はすでに停止、となれば第3艦隊からの追っ手に捕捉されるのは時間の問題でしかない。せめても盲で相対せずに済むのがありがたい、というのが本音になる。


 オオシマ中尉は問うた。

〈続きは?〉


〈『ただし復旧には全システムの再起動を要す。貴艇の準備が整い次第、ファージの送信を開始する』〉


 緩みかけた、それ以上の落胆が漂う。


〈システムが動くならそれだけマシだ。ギャラガー軍曹はファージを受信、直ちに各艇へ展開!〉

 次いでブリッジへ声を向け、

〈光学観測班、敵揚陸艇の識別急げ! 全中隊白兵戦用意!!〉


 停滞していた空気がにわかに動き出した。その中にあって、オオシマ中尉の表情に憔悴の色がひときわ濃くまとわりつく。

 この間にも揚陸艇が距離を詰めてきているのは見ずとも判る。問題は接触がいつになるか――返す返すもナヴィゲータの動きを封じられたのは痛恨事、オオシマ中尉は苦い想いを奥歯で噛み潰した。


〈連中、どこを狙ってくる……?〉


 言うまでもなく解答を思い付いて、オオシマ中尉は今度こそ舌を打った。


 ◇


〈敵影確認! 噴射炎です!〉


 “シュタインベルク”の戦闘指揮所に伝令。ロジャーは反射的にブリッジ後方、ハッチへ向かった。


〈どこだ!?〉

 副長のウェズリィ・デミル少佐が訊く。炉が停まって敵に追い付かれるのが確定してからこちら、関心の的は敵が“いつ”“どの船に”接触するか――そこに絞られている。


 ネット・クラッシャに対抗するファージ・プログラムができたとはいえ、その展開は発光信号で細々と行うしかなく、しかもつい先刻から取り掛かったばかりというのが実情。加えてシステム全体を再起動せねばならないと来れば、艦の機能が回復するまでの時間はあまりに長い。

 勢い、策敵手段は目視に限られ、敵の減速噴射が眼に見えるまで焦れて待つ他ない――というのがロジャー達の立場だった。


〈ブロックA-09、方位175-168! 現在進路を解析中!〉


 聞き終えるが早いか、ロジャーはハッチをくぐって通路へ出た。艦の重心部から艦体後方へ、更に外縁部、高々度軌道側へ。ブロックA-09、観測ドームの機密ハッチにロジャーはノックをくれた。中からの応答を待たずに把手を回す。

 中に入ると臨時の観測要員が2人。うち1人が観測用光学スキャナに張り付いていた。もう1人が振り返ってロジャーを認める。


〈敵の動きは!?〉

 相手の声を待たずロジャーが噛み付く。


〈まだ解析中だ〉

 相手も無駄な質問を省いて端的に答えた。

〈ただ、進路は本艦ではないらしい。軌跡がずれてる〉


〈どっちへ!?〉

 なお詰め寄ってロジャー。


〈高高度側だ〉

 怯む気配もなく相手が答える。


 現在の位置関係から察するに――、


〈畜生、〉

 ロジャーが舌を打つ。

〈ヤツらの狙いは“フィッシャー”か!〉


 ◇


〈索敵システム再起動!〉


 索敵と通信の任を兼ねた航法士ニモイ曹長が声を上げる。ただし“フィッシャー”のブリッジでその声を聞いたのは他にセイガー少尉だけ、それも船務システムの再起動作業に当たっている。


〈敵は!?〉

 セイガー少尉が声だけを振り向けた。


〈周辺空域を走査開始――感あり、数5、いや6!〉

〈何だと!?〉


 さすがにセイガー少尉が顔を上げた。システム飽和の前に観測したのはフリゲートと揚陸艇の2隻だけ、その数が増えるとすれば――、


〈揚陸ポッドか!〉

〈距離が詰まります――うち4が接触コース!〉

〈接触までの時間は!?〉

〈推定1分――切りました!〉


〈くそ、ヘインズに――いや、私が行く!〉

 セイガー少尉は身体を浮かせた。船務システムとその制御下にある船内ネットワークの復旧、これはもう間に合わないと見切りをつける。

〈揚陸ポッドを追尾!〉


 もっともその結果を聞く耳はブリッジにないが――内心にそうぼやきながらセイガー少尉は出口のハッチをくぐり抜けた。回転居住区画を回り込んで外周部上部側、機関にほど近い観測ドームへ。


 途中でブリッジへ向かうキースを捕まえる。


〈来たぞ!〉

 先にセイガー少尉が声を飛ばした。

〈揚陸ポッドが4、目標はこの艇だ〉


 キースが舌を打つ。肩にかけたライアット・ガンのスリングに手をかけつつ、

〈時間は?〉


〈あと1分ない〉


 言う側から重い音。救難艇の艇体が小突かれたように微震する。


〈“イェンセン”を呼べ、救援要請……〉

 言い残してキースは壁を蹴った。音源は高高度側、艇首方向。

〈いや、居住区に立て籠もれ! 何とかして保たせろ!〉


 音と微震が続いた――2回、3回、ややあって4回目。いずれも別方向、察するに上下左右から挟み込まれた。

 四方からなだれ込んでくるであろう敵に対して、こちらの陸戦要員はキースとシンシアの2名のみ。残るは乗組員と非戦闘員、前後二箇所にしか入り口を持たない回転居住区に籠城するにしても、どれほど保つものかあまりにも心許ない。


 艇体上方、通路前方に接舷ハッチ――の周辺で空気がゆらぎ、火花が噴き出す。ハッチごと艇殻を灼き切りつつある、その熱と光、それに音。

 シンシアにコールをかけようとして、口をつぐむ――“キャス”は沈黙の中にある。“ウィル”もまた同様。どころか艇内では携帯端末にいたるまで飽和しているとあっては、敵の端末を1つ2つ奪ったところで焼け石に水を注ぐに等しい。


 とにかく時間を稼ぐしかない――肩のライアット・ガンRSG99バイソンを構えるキースの眼前、響いて鈍い音――溶融の鈍い光をまとわりつかせた外殻の成れの果て、それが打ち抜かれる、最後の悲鳴。


 そこから覗いた物に違和感。次いで通路の前後へ突き出された銃口、と一体化した太い腕――。


 キースは銃口を引っ込めた。そのすぐ後を銃火が追う。軟体衝撃弾が壁に弾けた。


〈くそッ!〉


 キースが毒づく。ハッチから現れたのは全身鏡面の重装甲と機動スラスタに覆われた人型――パワード・スーツだった。




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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