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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第12章 追撃
112/221

12-4.侵蝕 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

〈くそ、周辺警戒! 目視観測ッ!〉

 艇長が声を上げた。


 ミサイル艇“イェンセン”、あらゆるシステムが飽和・静止したブリッジで、オオシマ中尉へ艇長が向き直る。

〈観測員が要ります。6名貸してください〉


〈解った〉

 オオシマ中尉はブリッジ出口のハッチへ向き直りながら訊く。

〈システムを再起動するのにどれだけかかかる?〉


 艇長が、答えかけた言葉を呑み込んだ。振り返って機関士席へ眼を投げる――席の主は確認に飛び出していってまだ間がない。


〈10分、と言いたいところですが……〉

〈『が』?〉


 オオシマ中尉は眉根を寄せた。短い沈黙を挟んで、艇長は言葉を継いだ。


〈この調子じゃ炉の制御システムまで逝ってます。ヘタをするとバッテリィを食い尽くしかねません〉


 艇の心臓部たるレーザ核融合炉は、制御を失ったところで暴走する心配は原理的にない。ただしそれはこの際、後方から追ってくる第3艦隊に捕捉されることを意味する。


〈間違いないんだな?〉

〈確認中です〉


 艇長の答える言葉が重い。艇内のネットワーク――どころか中継するナヴィゲータも根こそぎ活動を停止した今となっては、それすら機関士が答えを持ち帰るのを待つ他ない。


 オオシマ中尉は艇長の肩を叩いた。

〈6名だな〉

 そのまま背を向け、ハッチをくぐる。


 艇長はその背を見送ったのも一瞬、ブリッジへ向き直った。

〈システム緊急停止! この艇を一から叩き起こすぞ!〉


 ◇


〈通信システム起動!〉

 救難艇“フィッシャー”のブリッジ、航法士を兼ねるニモイ曹長が声を上げた。


 反応をなくした“キャス”をよそに、通信システムのモニタ上には起動プロセスが順調に走っていく。


〈データ・リンク確認!〉

 セイガー少尉の声が走る。


〈くそ、レーザ通信機反応なし! こいつァ……〉

 ニモイ曹長の手元、モニタはレーザ通信機を始めとして、全通信デヴァイスの沈黙を示す。

〈デヴァイス単位でやられてます!〉


〈タチの悪い……!〉

 毒づいて、セイガー少尉は考えを切り替えた。

〈システム丸ごと起こしてられるか! 発光信号、手動送信用意! 何としても“イェンセン”にファージを送信しろ。電子戦艦に潜ってて無事で済んでるはずはない〉


 センサを含む全システムが飽和したとなれば、観測員を舷窓に配するはずと読んでのこと、航法士席のニモイ曹長が腰を浮かせた。


〈了解〉


 セイガー少尉が続いてブリッジの全員へ、

〈全システムに再起動をかける!〉


〈……待て〉

 そこへ、キースが言葉を挟んだ。

〈何かおかしい〉


 セイガー少尉が眉をひそめる。

〈あんたのナヴィゲータが組んだファージだぞ?〉


〈だから言ってる〉

 キースも言葉を探るように、

〈……俺のナヴィゲータが嵌められた。なのにファージはうまく動いてる。こっちを出し抜くには詰めが甘い――違うか?〉


〈だからって手をこまねいてる気か?〉

 セイガー少尉が苛立ちもあらわに艇尾を指し示す。

〈フリゲートと陸戦隊が追ってきてるんだぞ!〉


 宇宙港“クライトン”に向かっていたフリゲート“ダルトン”と揚陸艇“ソルティ・ドッグ”の転進は、システム停止の寸前に観測されている。


〈どっちにしろ送信には時間が要る〉

 セイガー少尉が示して譲歩の線。

〈替えのファージができるもんなら用意しろ〉


〈キース!〉

 シンシアがキースの肩へ手をかけた。

〈“キャス”のバックアップぐらい取ってあんだろ?〉


〈そりゃな〉

 キースの声に冴えがない。

〈でもそのままじゃ同じことの繰り返しだ――同じファージを組んで、また嵌められる〉


〈アレンジすりゃいいってことか?〉


 そう訊くシンシアに、セイガー少尉が眉をひそめた。


〈そう簡単な話じゃないはずだが――考えがあるのか?〉


〈ナヴィゲータのことはナヴィゲータに訊くさ〉

 シンシアの声にはいっそ居直ったかのように迷いがない。

〈待ってろ、“ウィル”を立ち上げ直す〉


〈ファージを組み込んだら同じことだぞ〉

 キースに疑問の声。


〈クラッシャにゃかなわなかったけどダウンして逃げてる。まだ汚染されてない分、望みはあるぜ〉


 言い返しかけて、キースは口を閉じた。他にいい考えがあるわけではない。代わりに訊く。

〈どうやる?〉


〈“ウィル”に“キャス”の“穴”を塞がせる〉

 シンシアは声をセイガー少尉へ。

〈ファージのサンプルは残ってるな?〉


〈ああ〉


〈こっちへ回してくれ〉

 シンシアが戦闘用宇宙服の胸部からケーブルを伸ばす。

〈それからログも。手がかりになるはずだ〉


 受け取ったキースがケーブルを胸部のコネクタへ。シンシアは左前腕、手甲部の保護カバーを外してインターフェイスにアクセス、無線通信を切り離した上で“ウィル”に再起動をかける。


〈出番だ。起きろ、“ウィル”!〉


〈――参ったよ〉

 周辺との接続を確かめながら“ウィル”が応じた。

〈ありゃお手上げだ、眼の付けどころが根本っから違ってる――ちょっと待った、いま何に繋いでるんだ?〉


〈“キャス”だ〉


 シンシアの答えに、“ウィル”から言いよどむ気配が返る。

〈……感染してんじゃないだろうな?〉


〈心配すんな、むしろクラッシャを駆除したくらいだ〉

〈じゃなんで隔離してるんだ?〉


 クラッシャが排除されていながら、データ・リンクに繋がっていない――“ウィル”の疑念も無理からぬものではあった。


〈その“キャス”がやられた。多分狙い討ちのトラップだ〉


〈で、俺に何をやれって?〉

 ますます疑念を深めた“ウィル”の声。


〈“キャス”にゃ敵の狙ってきた“穴”があるはずだ〉

 打ち返してシンシア。

〈お前が塞げ〉


〈ご指名かい〉

 嫌な予感が当たったとばかりに“ウィル”。

〈クラッシャに負けたってェのに、大した期待だね〉


〈多分敵の狙いは二段構えだ〉

 シンシアの声に不敵な笑み。

〈“キャス”を嵌めたヤツァ、クラッシャに負けたヤツが出てくるなんざ思っちゃいないだろうよ〉


〈言いようってヤツだな〉

 “ウィル”の声は軽くない。


〈材料は“キャス”が組んだクラッシャとログ・データ――〉

 シンシアが口の端を舌で湿らせる。

〈まあやってみるしかねェだろ〉


〈気楽に言うね〉


〈何もやらねェよりゃマシだ〉

 断じてシンシア。

〈やるのかやらねェのか?〉


〈まあそこまで言うってことは後がないんだろ〉

 “ウィル”に苦い声。

〈やるさ〉


 データを読み込んで、“ウィル”は“キャス”のバックアップ・データへアクセス。

〈バックアップはいじっていいのか?〉


 この問いにはキースが応じた。

〈俺だ“ウィル”、聞こえるか?〉


〈聞こえてる〉

 溜め息さえ洩らさんばかりに“ウィル”。

〈手前のナヴィゲータを他人にいじらせるなんざ、随分と思い切ったな〉


〈背に腹は代えられん〉

 聞かなかったかのようにキースが続ける。

〈“キャス”は起動させるとまた嵌められる恐れがある。バックアップ領域からいじってくれ〉


 “ウィル”は深い溜め息一つ、

〈了解〉


 “ウィル”はまずファージ・プログラムを解析、クラッシャの攻撃パターンを抽出した。

 自己流の防疫プログラムにターゲット情報を組み込み、次いで接触を開始――“キャス”のバックアップ領域へ。


〈おい、冗談だろ?〉


 “キャス”がやられる直前のログ・データを手がかりに、バックアップの人格データを探っていく。求めるのは、外部からの干渉を許す感覚器官から中核に近い感覚中枢まで。データそのものもさることながら、その組み合わせ自体に反応しそうな隠しコードがあるのではないかと当たりをつけて、“キャス”のコードを探っていく。


 そして予想はついたことだが――それで突き止められるほど、問題の根は浅くなかった。


〈くそ!〉

 “ウィル”は人間達に噛みついた。

〈手がかりが少なすぎる! 何か他にないのか?〉


〈最大のサンプルがある〉

 応じたキースの声は、冗談にも明るいものとは言いかねた。


〈……一応聞いとくよ〉


 嫌な気配を隠しもせずに“ウィル”。そこへ打ち返してキースの声。


〈現状の“キャス”本体だ〉


 生の“キャス”に接触すれば、あるいは手がかりが得られるかもしれない――それは理屈ではある。ただし、外れを引くだけならいざ知らず、何が起こるとも知れない荒業でもある。


〈墓穴を掘っちまったかな〉

 “ウィル”がぼやいた。

〈いいのかシンシア、帰って来られなくなるかもよ?〉


〈他に手ァねェだろう〉

 シンシアが引導を渡した。

〈やれ、“ウィル”〉


〈オーケィ、涙が出るね〉

 “ウィル”の声にはっきりと苦笑い。

〈――繋いでくれ〉


 キースが端末を操作、プロセッサへの接触を許可する。“ウィル”はキースの携帯端末、そのプロセッサへ接触した。


 他の端末と違って、処理は飽和していない。ファージがクラッシャの駆除に成功していることを確かめて、“ウィル”はプロセッサ内部へ侵入する。


 その一角に擬似人格プログラム――死んだように固まった“キャス”の本体。

 “キャス”のプログラムそのものは停止したわけでなかった。プロセッサの処理能力を幾分なりとも食っている。

 プロセッサに読み込まれたコードを抽出、“ウィル”が状態を確かめようとしようとした――その時。


 かすかに違和感。


 作業領域へ読み出したデータが余分にプロセッサの処理能力をかすめ取ったような、わずかな振れ。


 ――隠してるのは、何?


 まず感じたもの――言葉にするなら、剥き出しの好奇心。


 ――ねえ、見せてよ。


 違和感の正体――探りに来たはずが、逆に自分の中身をまさぐられている嫌悪感。


 ――見せてくんないの?


 “キャス”の断片――“ウィル”がそう気付いた時には、暴力的な侵食が始まっていた。


 ――なら、壊しちゃえ。


 壊れた笑みを含んだ意思が、“ウィル”の中へと侵入してくる。




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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