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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第2章 亡霊
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2-3.探求

〈こいつか〉

 ジャックの眼が帯びて鋭い光。

〈やはりな〉


 フロート・トレーラ・アルビオンを乗り出してその運転席、ジャックが舵を自動に任せて真っ先に覗いたのはエミリィのデータ・クリスタル。

 “キャス”が短時間で抜いてきたそのデータに記されていたのは、陸軍第3軍第2連隊を起点とした“物資調達網”とされる一連のリスト。


〈ま、手始めとしちゃこんなもんね〉

 “キャス”はジャックの視覚にリストをスクロールさせながら、

〈ヒントも何もなしで判るのは、とりあえずこんなとこ〉


〈このカオスは何だ?〉

 ジャックに端的な疑問が浮かぶ。


 ベン・サラディン直筆のサイン・データ、さらには量子刻印までもが刻まれたそのクリスタル。“物資調達網”に関わる人物のリスト――その背後にはクリスタルの大部分を占めて膨大なカオスが横たわる。


〈どっかの誰かさんが投資渋るから〉

 “キャス”にあからさまな皮肉が覗く。

〈連想コレクションがもっと充実してたら解けるかも知れないのに、なんかヒントくらいないの?〉


 言いながら“キャス”は、エミリィのクリスタルから引き出したリストを視界、“ハミルトン・シティ”郊外の再開発待ちとされる寂れた夜景に重ねる。


〈ヒント、か〉

 呟いたジャックが、呪文めいた言葉を口に乗せた。


 凍ったように“キャス”の反応が止まる。


 “キャス”の核をなすプログラム・モジュールが、隠れた機能を発動させた。惑星上に分散したキィ・ポイントに接触、その情報をもとに、擬似人格の断片を掘り起こし、かき集め、“キャス”自らを核の一部として復元していく。

 そうして組み上がった擬似人格はジャック手持ちの端末の容量をはるかに越え、惑星各地の端末の処理能力をわずかづつかすめ取りながら、数千台の端末を並列処理に巻き込んだところでようやく安定した。


 そのままトレーラを流すことしばし――落ち着きを匂わせる声が聴覚に届いた。


〈お久しぶりね、ジャック〉

〈そんなになるか、“キャサリン”〉

〈うちの子はうまくやってる?〉

〈生意気で困ってる〉

〈よかった。向こうっ気が強いくらいでちょうどいいのよ〉


〈要らん喧嘩まで売ってるぜ〉

 ジャックは片頬だけをゆがめて応じる。


〈痛い目にあったら、その時はそれも経験のうち――冗談よ。で、わざわざ呼んだってことはよっぽどのネタがあるわね〉

〈こうやって相談するのもヤバいくらいだ〉


〈上等〉

 舌なめずりのさまが眼に浮かぶような声。

〈セキュリティは目一杯上げたわ――見せて〉


〈ドライブσのクリスタルだ〉


 端末のアクセス・ランプが瞬いた。

〈ァはン、こりゃ厄介そうね。キィワードか何か、心当たりは?〉


〈ベン・サラディン――ヤツの制圧作戦だな〉

〈何よ、まだ“キャス”に話してないの?〉


 “キャス”からは、“キャサリン”の痕跡は――もちろんその記憶も――視ることはできない。


〈あいつは壊し屋だからな。秘密を覗くんならともかく、抱え込むには向いてない〉

〈そりゃ壊し屋ってのは認めるけど、〉


 理由もなく、ジャックは“キャサリン”の苦笑を聞いたように思った。


〈最初っからあまり切り捨てないことね。使えるものも使えなくなるわよ〉

〈捨てちゃいないさ〉

〈それとも古傷がまだ痛む?〉


 ――沈黙。


〈あら図星――いいわ、ちょっと待ってて〉


 言うだけ言って“キャサリン”は消えた。ジャックが誰に向けるでもなく洩らす。


「一言多いんだよ」

〈だから生き残ってるの。解る?〉


 ジャックは片眉を跳ね上げた。

〈人間だったらとっくに風穴空いてるぜ〉


〈おとぎ話の世界だわね、私にとっては〉

 “キャサリン”はそう前置いて、

〈で、本題のデータだけど〉


〈見せてくれ〉


 視覚にリストが現れる。


〈手っ取り早いのはこのあたり。帳簿データね、軽火器の売買に見えるけど〉


 リストの一部、左寄りの列が明滅を始める。


〈売り手の共通項、判る?〉


 判るも何も、名前のほとんどに覚えがあるとなれば、答えを外すはずもない。


〈“ブレイド”絡みか〉

 ジャックの口に因縁の名前――2年前、ベン・サラディンを首魁に頂く独立派ゲリラを制圧すべく突入しながら、舞台となった深深度レア・メタル鉱脈跡に半数近くを喪った部隊の名。


〈ご明察〉


 明滅がリストの右側に移る。


〈じゃ、買い手は?〉

〈ゲリラじゃないのか〉


〈たぶんそのクチね〉

 “キャサリン”がリスト右側、明滅する項目を一部に絞った。とはいえその数は半ばを大きく上回る。

〈この連中、手配が回ってるわ〉


〈横流し、か〉


 エミリィの言葉が脳裏をかすめる。が、引っかかるものがジャックにはあった。リスト左側、筆頭近く――アルバート・テイラー。


「――何のために?」


 ふと疑問が口を衝いた。視線を追った“キャサリン”がそれに応じる。


〈金欲しさ、ってのが一般的だと思うけど?〉


 ジャックは思わず鼻を鳴らした。

〈こいつが金に困ってるって?〉


〈……ァはン〉


 ジャックの視線を検出した“キャサリン”が、テイラーの名を明滅させる。


〈さて、どうかしら。案外裏の金が欲しかったりするかもよ〉


 言う間にも“検索中”のアイコンが点滅する。


〈タチの悪い女か、それとも会社が傾いてるか……〉

〈――ビンゴ。結構ヤバい橋渡ってるのね〉


 視界に新たなウィンドウが開いた。“テイラー・インタープラネット”系列の貿易会社がいくつか傾きかけている――その兆候。


〈……にしちゃ割が合わん。だいいちこの程度で埋まる額か〉

〈んー……女のセンは引っかかってこないわね、今のところ〉

〈――他には?〉

〈もうちょっとキィワードが欲しいわね。こういうのは“キャス”の方が向いてるんだけどな〉

〈あのな、あいつの性格がうつってないか?〉

〈あら、親子ですもの、当然でしょ?〉


〈“親子”――ね〉

 ジャックは思わず天を仰ぐ。

〈いいさ、どうせテイラーのヤツには用がある。ついでに訊いてやるまでのことだ〉


〈“用がある”、ね〉

 “キャサリン”が呆れ声を作ってみせた。

〈また穏やかな物言いだこと〉


 そこへジャックが本音を付け足した。

 〈――手足の1本や2本と引き換えにしてでもな〉


〈あら怖い〉

 まるで怖がる風もなく“キャサリン”。

〈で、どうやって?〉


〈こいつだ〉

 次にジャックが示したのは“トロント”のリスト。


〈またダミィが多いのね〉

 呆れ半分に“キャサリン”の声。

〈また念の入ったこと〉


 勝手知ったる手早さで“キャサリン”が無数のダミィ・データを取り除いていく。

〈そろそろ、この辺もあの子には話さなきゃならないんじゃないの?〉


〈ああ、そうだな〉

 ジャックの首肯に凄惨の色。

〈“ヤツら”を避ける理由も失せた〉


〈ァはン〉

 リストを洗う“キャサリン”の声に得心の響き。

〈なるほどね。当のテイラー本人が“テセウス”くんだりまで出てくるってわけ。そりゃ動きたくなるのも解るけど――何かあった?〉


 ジャックの目尻に憎悪の片鱗。

〈――特大のヤツがな〉


〈あら怖い〉

 “キャサリン”がニュースにわざとらしい検索をかけてから、ジャックの視野に速報記事を拡大してみせた。

〈――“カーヴァ・ストリート”のテロ騒ぎ?〉


〈“ヤツら”に襲われた〉

 ジャックの声が一段と低くなる。

〈それだけじゃない。こっちのことはとっくの昔にバレてたらしい〉


〈で、逃げないで仕掛けるってことは――〉

 “キャサリン”がジャックの肚を探るように、もったいつけた間を作る。

〈――昔の仲間が絡んでるってとこかしら――殺られたの?〉


 ジャックが奥歯を軋らせる。


〈あらビンゴ〉

 ジャックの懊悩を知ってか知らずか、“キャサリン”の語調はあくまで軽い。

〈ま、テイラーを攻めるとして、真っ向正面から突っ込んでくわけでもないんでしょ? 今のテイラー、お忍びの旅とはいえ仮にも大企業の取締役よ?〉


 “キャサリン”が洗い出したリスト、そこに連なる名の共通項は、知る者が見れば一目で解る――元“ブレイド”中隊関係者、それもベン・サラディンとの因縁を抱えたその当事者。機密の裏に隠されてこそいるものの、ことに関わった当事者の記憶まで消せるわけではない。


 そして筆頭、当時は陸軍情報本部からのオブザーヴァとして因縁の場に居合わせたアルバート・テイラーの動向。“テセウス”へ秘密裏の来訪を果たすとされる日まで、残すところあと15日。


〈まずはテイラーのヤツを陥とすとして――短期決戦か〉

 ジャックの声が、凄味を帯びて低くなる。

〈生け贄が要るな――ヤツへの“メッセージ”が〉





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

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