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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第11章 離脱
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11-13.衝撃 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

 モロー伍長が天井を蹴って空を泳ぐ。向かった先には船内電話、取り付く寸前にコールが入る。


「どうした!? 何が……」


『伍長!』

 遮るフェデラー兵長の声が差し迫る。

『“シュタインベルク”が……!』


「何が見えた!? “シュタインベルク”に何があった!」

『爆発です! “シュタインベルク”の軌道要素が狂っちまうほどの! いま艦が遠ざかって――』


 モロー伍長が奥歯を軋らせた。

「仕組みやがったな!」


 怒りに満ちた眼を背後へ投げた、その先にコーベン1等兵――彼が床へ導いたマリィの姿。モロー伍長は身を翻して壁を蹴った。跳びかからんばかりの勢いでマリィへ身を寄せ、二の腕を鷲掴む。抵抗できないマリィが痛みに小さく声を上げた。


「来い!」

「伍長殿!?」


 モロー伍長の手荒な扱いに、コーベン1等兵が控え目ながら声を呈した。そこへモロー伍長が噛み付く。


「解らんのか、陽動だ! 例の連中が突っ込んでくるぞ、人質を始末して場所を変える!」


 その背中へ組み付く者があった。


 マリィの身体が宙へ浮き、モロー伍長の手を離れる。振り返ろうとして果たせず、モロー伍長は両の脚を振り上げた。渾身の力で壁を蹴り、床へと背を叩き付ける。

 力が緩んだ。背後へ肘打ちを見舞い、相手が怯んだところで引き剥がす。振り返って眼にしたのは長身の女――イリーナ・ヴォルコワ。


「貴様!」


 どこに隠れていた――と問う前にイリーナは伍長を踏み付けていた。モロー伍長の身体を足場に、低重力の宙を跳ぶ。その先には――P45コマンドー。

 モロー伍長の足が半拍遅れて床を捉える。その視界をかすめたコーベン1等兵には、やはり組み付くスーツの女――アンナの姿。

 構っている暇はなかった。モロー伍長の眼の前で手を伸ばし、イリーナが銃を掴み取る。安全装置を外し、銃口を振り向け――、

 そこへ体当たり。モロー伍長は全体重を乗せてぶちかました。銃口がぶれる。銃弾が床に火花を散らした。モロー伍長がねじ上げてイリーナの手首。


「大人しくしてろ、この跳ねっ返り!」


 宙へ浮いたコマンドーからイリーナの手を引き離す。足を相手の胴に絡ませにかかり、しかし暴れ回る手足に阻まれて、伍長は小さく舌を打つ。

 考えを変えてイリーナの身体を投げ出し、反動で宙のコマンドーを追う。寸前、その足へイリーナがすがり付いた。わずかの差で伍長の指先が空を掻く。


「この……!」

「伍長殿!」


 コーベン1等兵の声を聞く間もなく、振り向きざまに掌底をイリーナのみぞおちへ。身体を折ったイリーナを足蹴にして、今度こそ伍長はコマンドーへ追い付いた。身体をひねって据える照星――その先にイリーナ。


「危ない!」


 マリィの足が壁を捉えた。咄嗟に蹴り出し、後ろ手に縛られたままの身体を伍長へぶつける。


 銃声――。


 弾丸はコーベン1等兵の側をかすめてベッドに突き立った。アンナと取っ組み合っていたコーベンが首をすくめる。


「貴様ァ!」

 モロー伍長が、もつれるマリィの身体を蹴り離した。

「そんなに死にたいか!」


 コマンドーの銃口が、宙を泳ぐマリィへ向いた。


「伍長ど……ッ!」


 コーベン1等兵の声が意味するところを考える前に、モロー伍長は引き鉄に力を込めていた。


 そして銃声。血飛沫が舞う。


 ◇


「くそ……伍長! 伍長!?」


 船内電話の向こうにもみ合う気配。フェデラー兵長は舌打ち一つ、傍らのモニタへ眼を落とした。


 艇各部のモニタ画面からはフリゲート“シュタインベルク”艦体後部上方、着艦デッキから拡がる塵芥が見て取れる。同時に姿勢にねじれを生じ、“シュタインベルク”が横腹を救難艇“フィッシャー”へ押し付け、斜め前方の視界を塞ぎつつある。何かが爆発した――それだけはここで知れた。が、誰が何の目的で、そもそも何をどうやったのかは見当すらつかず、人質の状態に思い至ってみればこの有り様。


「何だ! 何をやったんだ!?」

 拳銃を突き付けて、フェデラー兵長はセイガー少尉へ詰め寄った。


「知らない!」

 セイガー少尉の答えは一向に当を得ない。

「本当だ、判らないんだ!」


 解ったのは救難艇の乗組員も事態を把握していない、ただそのことだけに過ぎない。

 ならば、医務室へ駆けつけるか――思わないでもなかったが、ここに立て籠もる展開もあり得ないではない。第一、相手は怪我人と丸腰の女、2人がかりで始末に負えぬはずはないと思い直す。


 と、船外モニタの光景に違和感を覚えた――“シュタインベルク”の艦首が前面モニタから外れていく。


「何だ、何が起こってる!?」


 フェデラー兵長から鋭い問い。セイガー少尉は理解できないとばかりに首を振る。フェデラー兵長はその顔を前面モニタへ押し付けた。


「誰が離れろと言った!?」

「離れてるのか?」


 言ってから気付いたらしく、セイガー少尉は計器へ眼を走らせ始めた。ドッキング・アームの状態も、近接ビーコンの感知状況も、“シュタインベルク”が陥った変則的なスピンと、そこから自動で離脱しつつある“フィッシャー”の現状を示していた。


「艇を戻せ!」


「無理だ、緊急離脱シークェンスに入ってる!」

 振り返ってセイガー少尉が抗弁する。

「第一、向こうの姿勢が安定しなけりゃ近付けるわけないだろう!」


 背後、ブリッジ入口のハッチに開放音。


 反射――。

 P45コマンドーの銃口もろとも視線を翻し――かけたところ衝撃が胸に弾けた。

 視界が引っくり返る。息が詰まる。遅れて痛覚、頭にただ恐慌。視界の隅に、女の姿――戦闘用宇宙服のヘルメットを脱いだ、栗色の髪――ただそれだけが頭に残った。


 ◇


〈ドッキング・アーム破断!〉


 “ネイ”の声が、腹に響く破壊音を説明して聴覚に残る。ロジャーは格納庫から艦内へ抜けるエアロック、カクテル・シェイカもかくやと振り回された小部屋で身を起こした。


〈そのくらいいくだろうな。あー痛……〉

 エアロックから艦内側へ這い出す。


「どうするつもりだ!?」


 背後からマークスの問いが追いすがる。壁を蹴って肩越し、ロジャーは答えを投げ返した。


「艦橋へ行く」

「違う。私をだ!」


「来いよ。何ならここで待っててもいいけどな、」

 ロジャーは不敵な笑みを投げかけて、

「気絶でもしてることにしとこうか?」


 鼻を鳴らして、マークスがロジャーの後を追う。

 回転居住区の脇を通って艦尾側へ抜け、機関部との中間で折れて推進軸線上へ。艦の重心部に艦橋がある。


〈艦橋へ行ったって相手にされないわよ〉

 “ネイ”が冷たく釘を差す。


〈いいの〉

 鼻息一つ、ロジャーが言い切る。

〈下手に遠慮してみろ、後ろめたいことでもあんのかって疑われるぜ〉


 艦橋へ入ると、文字通り引っくり返ったような騒ぎに出くわした――緊急離脱シークェンス。人手不足の中で姿勢制御と対空監視、戦闘準備までが並行して進められる中、ロジャーはやはり一顧だにされなかった。


〈ほら言わんこっちゃない〉

 “ネイ”がロジャーを突き放す。


 だがロジャーは口の端から舌先を覗かせて、

〈いや、収穫がねェわけじゃねェ〉


 艦の状況は正面モニタから窺えた。

 爆発で崩れた運動ヴェクトルを、救難艇との距離を取りながら修正中。ドッキング・アームとボーディング・ブリッジは全壊に等しい――が、他に3箇所あれば不自由はなく、艦の機能がそれほど損なわれたわけではない。ただ爆発のあった第1着艦デッキは壊滅状態、もしもジャーナリストを載せた連絡艇が入っていたら――連邦が用意していたシナリオとその帰結は予想を外していなかった。

 問題は救難艇とのデータ・リンクが途絶したこと――これで救難艇側から発信がない限り、ロジャーからは艇内の状況は掴みようがなくなった。

「さて、」外部モニタ、右舷に映る“フィッシャー”の艇影へ眼を投げながらロジャーが呟く。「うまくやれよ……」


 ◇


 ヘルメット越しに銃声が届いた。回転居住区へ降りていく低重力の非常階段、むしろ跳ぶ勢いで下っていたキースが舌を打つ。


「くそ!」


 間に合わなかった――焦りを噛み殺して回転居住区の通路へ出る。隣のエレヴェータ前、医務室のハッチ脇に飛び付く。壁の端末を操作、扉が開く間も惜しんでケルベロスの照星を中へと向けた。


 ◇


 マリィが凍り付いた。


 視界に入るなり、モロー伍長に飛び付いたその姿。その背に咲いた紅い華。なおも食らい付くその勢いに、再び弾ける銃声。2つ目の華が散った。


 マリィに絶叫。

「アンナあァッ!」


 ◇


 聴覚を衝く銃声、視界に舞う血煙――反応。誰の血か、理解する前にキースは銃口を巡らせる。敵は戦闘用宇宙服、血煙のすぐ脇にヘルメット。照星を据えて引き鉄を絞る。10ミリの銃口が咆哮を上げた――脊髄反射でもう1発。命中を確かめてその身体から射線を外す――あと1人。


「こいつ!」

 ケルベロスを声の源へ。戦闘用宇宙服を捉えて、すぐさま一撃。ヴァイザを開いた眉間に当てた。さらに一撃。


「アンナ! アンナあッ!!」

 宙でもがくマリィに悲鳴。血煙の元には女物のスーツ姿、顔は見えないがアンナと知れた。


 ハッチ枠を蹴って跳び、マリィの側に浮いている白衣の襟を引っ掴む。


「見せろ!」


 壁を蹴って、キースはドクタをアンナの元へ。左胸に血の色、しかも2つ。それが見る間にも拡がっていく。


「ドクタ!」


 言いつつも、キースの脳裏をよぎるのは手遅れの一語。何より胸が動かない――それが彼の眼にも見て取れた。


「待て――くそ!」

 キースが後ろ手の拘束を解くのももどかしく、ドクタがアンナの胸に耳を当てる。


「ドクタ……」

 マリィが息を詰める。その眼前でドクタはアンナの瞳を覗き込んだ。唇を噛む、重い沈黙――。


「……無理だ。心臓をやられとる」


「そんな……!」

 マリィが声を詰まらせた。


 黙って、キースはマリィの肩を抱いた。


「そんな……私を救けて……なのに……」


 キースは口を開きかけ――そして諦めた。かける言葉がなかった。


 慟哭がマリィの口を衝く。




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


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(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


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