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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第11章 離脱
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11-11.計略 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

 乾いた音が、その場に響く。


 鼻を一つ鳴らして、フェデラー兵長は拳銃を引いた。遊底を引き、初弾を装填する。銃口はセイガー少尉らに向けたまま、背後へ身体を流して船内電話へ手を伸ばす。左手一本で受話器を取り、医務室の番号を叩く。


「こちらブリッジ」


『遅かったな』

 モロー伍長がフェデラー兵長の横顔を確かめて応じた。

『どうだ?』


「連絡が取れないってのはどうやら本当のようです。連中の方から通信を遮断した可能性もあります」

『くそ!』

「どうします? 1人くらい殺して放り出しますか?」


 間。船内電話の向こうから、真剣に考え出したらしい沈黙が降りてくる。セイガー少尉の背が改めて冷気を覚え始める――。

 そこへ電子音。コンソール上の通信モニタが呼び出しのシグナルを点滅させた。


『何だ!?』


 船内電話越しに問うてモロー伍長。フェデラー兵長は音源、通信モニタへ眼を飛ばした。戦闘データ・リンク経由のコール、音声通信と表示にある。

 その中に相手の名があった――ロジャー・エドワーズ。


 ◇


『この艇の陸戦要員か?』


 コールに応じたのは、見覚えのない相手。戦闘用宇宙服のヴァイザを上げ、素顔を晒す相手の襟には兵長の階級章が覗く。マークスの後に続いて着艦デッキ、視覚に投影された映像を吟味しながら、ロジャーが発して第一声。


「ちょっと違うかな」


『じゃ、誰だ?』

 相手が剣呑そのままの感情を問いに乗せる。


「相手の名前を訊く前に名乗るのが、」

 柳に風とロジャーに鉄面皮。

「礼儀ってもんじゃないのかい?」


 相手の表情が強ばる、そのさまが視覚に映った。

『顔も見せない方がよっぽど失礼だと思うがね』


 ロジャーは肚の中で舌を出した。ロジャーの顔を捉えているカメラはない。


「いいだろう。行きがかりの客――まあそんなとこかな。名前はロジャー・エドワーズ」


『つまり我々の艦を乗っ取った連中だ』

 嫌悪丸出しに相手の声。

『違うか?』


「乗っ取ったってのはちょっと違うね」

 構わずロジャーが軽く返す。

「乗員を解放しただけ……」


『同じことだ』

 相手が遮る。

『こちらは救難艇を制圧した。大人しく投降しろ』


「こっちは名乗ったぜ」

 たしなめるようにロジャー。

「あんたの名前を訊いたっていいだろう」


『時間を稼ごうったって無駄だ』


「やだね、余裕のないヤツってのは」

 ロジャーが肩をすくめる。


『もう一度言うぞ、投降しろ』


「こっちはあんたのお仲間押さえてんだぜ」

 何気なくロジャーがカマをかける。

「一方的な話し方は……」


『制圧したと言ったろう』

 相手の語気が荒くなった。

『こっちには人質がいる』


 手応えあり。ロジャーは心もち眼を細めた。

「OK、じゃ人質交換てわけだ」


『こっちの人質はデリケートでね』

 相手がロジャーの声をはねつける。

『これだけ言や判るだろう。交換どころか動かすのもホネだぞ』


「……外道め」

 ロジャーが密やかに舌を打った。これで確定――相手は負傷者を人質に取っている。


 が、見えてきたことがある――少なくとも1人は医務室に籠っている、その事実。

 同時、視覚に文字情報。ボーディング・ブリッジに向かっているキースから。


 ――ボーディング・ブリッジに敵2名を確認。あと1人の居場所を特定しろ。


 シンシアの防衛線を突破した陸戦隊員は5人。ブリッジにはいま話している1人、ボーディング・ブリッジに張り付いて2人、医務室にも最低1人――ここまでは判った。残るは1人。


『何とでも言え』

 開き直った相手の声。

『ここまで後生大事に運んできたからにゃ、見捨てるつもりはないよな?』


「こっちの連中がお仲間を八つ裂きにしたがってるぜ」


 せいぜい冷淡に聞こえるよう突き放す。相手が応じて口を開き――かけたところで、眼が逸れた。横から割り込む声があったのか、小さく頷く。


『少し待て』


 コンソールへ手を伸ばすさまが映った。と、別の顔が現れる。船内電話の受話器を片手にした、これも戦闘用宇宙服。


『“シュタインベルク”陸戦隊、モロー伍長だ』


 ロジャーは背景へ眼をやった。覗いて白のカーテン――つまり医務室。

「やっと話が通じたな」


『何を期待しとるか知らんが、』

 モロー伍長が重く言い放つ。

『こちらの要求は変わらんぞ。そちらの投降、これには“シュタインベルク”の“惑星連邦”将校および曹士を含む』


「自由になった連邦兵にもっぺん捕虜になれってか?」

 ロジャーは苦笑を隠さない。

「無茶もいいとこの話だな」


『無茶かどうかはそちら次第だ』

 モロー伍長はにべもない。

『あんたらの実力なら制圧し直すこともできるだろう』


 ロジャーは鼻を鳴らした。どう聞いても無理難題、となれば時間稼ぎに来ていると見て間違いない。

 事実、宇宙港側には強襲揚陸艦“イーストウッド”が控えている。その陸戦隊が一部なりとこちらに回ってくれば、どこまで保つか知れたものではない。

 そこへモロー伍長が畳みかけた。


『お仲間は大事なはずだな? 返事は5分待つ』

「で、答えなかったら?」


 ロジャーの問いに、モロー伍長が左手をひらつかせて答えた。


『1人ずつあの世行きだ。それから……』


 おもむろに背後へ眼配せをくれる。陸戦隊員の最後の1人が、人質を連れて視界に入った。


『本人の強い希望でな』

 モロー伍長が告げて重い声。

『彼女が最初の1人になる』


 視界、陸戦隊員にコマンドーを突き付けられて佇むマリィがいた。


 ◇


〈くそ!〉

 キースは口中に毒づいた。


 ボーディング・ブリッジは眼と鼻の先。ロジャーが救難艇のブリッジに開いた回線、これを傍受していたところへ飛び込んできた、それは光景。


〈連中、やると思うか?〉

 隣のシンシアが気密ヘルメットを触れ合わせ、声を伝えてくる。


〈マリィのことは捕まえたいはずだ〉

 思考を巡らせながらキースが返した。

〈いや、どっちにしろ賭ける気はないな〉


〈てことはだ、〉

 シンシアが声を低める。

〈勝負はさっさと着けるに越したこたねェな〉


〈ああ、これで5人目だ。あとは花火を上げるだけだが……〉

 キースが唇を噛む。

〈急げよ、ロジャー〉


 ◇


「恥を知らないどころか嘘も平気なのね」

 後ろ手に拘束されたまま、マリィからモロー伍長へ冷ややかに声。

「人質は私一人のはずでしょ?」


「言ったろ、なりふり構っちゃいられないってな」

 神経を逆撫でされたモロー伍長に憮然の声。

「心配しなくても、あんたは最初に殺してやる」


「ヘンダーソン大佐は私を“捕えろ”って言ってなかったかしら?」


 マリィが指摘する、その声にモロー伍長は眼元を小さく引きつらせた。


「そうだな、じゃ命乞いしてくれ」


「伍長殿……」

 マリィの背後、拳銃を突き付けるコーベン1等兵が頼りない声を上げた。


「お前は黙ってろ!」

 癇癪を弾けさせてモロー伍長。マリィに向き直って、

「随分と絡むじゃないか」


「命は惜しいものね」

 負けじとマリィ。


「だったらその口を閉じといたらどうだ?」

 モロー伍長の声が凄む。

「それともさっさと殺されたいのか?」


「そうね、あなたは卑怯者だったわね」

 マリィが眼を細める。

「交渉の前に私を死体にしたって平気でしょうね」


 モロー伍長が拳銃を抜いた。


「伍長殿!」「やかましい!」


 怒号が交差する。モロー伍長の掌中、正面から昏い銃口がマリィを見つめた。




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


Reproduction is prohibited.

Unauthorized reproduction prohibited.


(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


     *****




著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

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