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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第11章 離脱
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11-10.手管 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

「動くな!」


 “シュタインベルク”戦闘指揮所、入口のハッチが開くやマッコイ軍曹は中へと踏み込んだ。返ってきたのは意外の念を帯びた眼、眼、眼……。ライアット・ガンの銃口を軽く巡らせつつ、艦長席の傍らへ身体を流す。


「失礼」


 マッコイ軍曹は艦長の側頭部に銃口を突き付けた。沈着というより冷ややかな眼がマッコイ軍曹を睨む。


「何をやっているか判っているのか?」

「そいつァこっちの科白ですよ、艦長。手を上げてください」


 広くもない戦闘指揮所になだれ込んだ曹士たちが各所でゲリラに銃を突き付ける、その様を捉えながら艦長は言葉を返した。


「地球への跳躍ゲートは封鎖された」

 艦長の声がなお冷える。

「帰る先もなければ、周囲に味方もいないぞ。艦を取り戻して、それからどうする?」


「これから考えますよ」

 マッコイ軍曹は精一杯の不敵な笑みを突き返した。

「この通り、救けが来ましたんでね」


「救いようのない楽天家だな」

 呆れの感情を眼で投げながら、艦長は両の手を掲げた。


 ◇


〈だいたい簡単に考えすぎんのよ〉

 “キャス”のぼやきがキースの聴覚に突き刺さる。

〈相手は監査局員の端末よ? サルヴェージがどんなに手間かかるか自分でやってみりゃいいんだわ〉


 曲がりなりにも監査局員、しかも後ろ暗い任務に就いていれば携帯端末のガードも堅くて当然。“シュタインベルク”に持ち込まれた“特殊装置”の起動コードは、暴き出そうにも“キャス”が手を焼く有り様だった。


 キースは小さく舌を打ち、監査局員に向き直った。

『あんたの協力が要る』

 先刻の扱いを棚に上げて言い放つ。ただし眼の色は限りなく敵意に近い。


「どうも勘違いしてるようだが?」

 マークスは肩をすくめた。

「私はジャーナリストの確認に派遣されて来ただけだ」


『着艦デッキに持ち込んだ装置は?』

「答えられる権限がない」


 木で鼻をくくったようなマークスの返答。


『なら救命ポッドにでも載せて放り出してやる。ゲリラに拾ってもらうんだな』


「脅しかね?」

 鉄面皮に近い表情でマークスが脅しをはね返す。


『どっちみちこのままじゃジリ貧なんだ』

 救難艇の負傷者や非戦闘員を人質に取られれば、そして交渉で時間を稼がれれば、遠からず強襲揚陸艦の陸戦部隊が乗り込んでくる。『艦を奪回するのに手を貸すか、このままゲリラに捕まっているかだ。どっちか選べ』


「できんことを前提に話されても困る」

『じゃゲリラに突っ返すまでだ。連中はさぞかし喜ぶだろうな』


 突き放したキースに、さも忍耐強そうにマークスが眉をひそめる。


「そもそも何ができればいいんだね?」

『陸戦隊員が俺たちの艇に侵入した。奪回するのに連中の気を引く必要がある』

「具体的には?」

『艦が沈まない程度の爆発を起こす』

「この艦には対空ミサイルも対地ミサイルもある。自爆させればいいだろう」


「だめだこいつ、頭腐ってやがる」

 キースの背後でシンシアが忍耐を切らせた。

「相手するだけ無駄だぜ」


『単純に考えれば判る話だが、』

 キースは理性を繋ぎ止め、指鉄砲をマークスの胸元に突き付けた。

『対空ミサイルじゃ被害が軽すぎて、大した動揺は期待できない。対地ミサイルじゃ逆にこっちが沈んじまう』


 そこへロジャーが顔を覗かせた。

『何だ何だ、ゴリ押しでどうにかなるもんじゃないだろ』

 壁を蹴ってキースとマークスの間に入る。


「どっちにしろ私の頭で考えられるのはその程度だよ、協力は惜しまんがね」


 ロジャーの肩越し、マークスがキースへ返して声。言い返しかけたキースを制してロジャーが一言、


『まァまァ、このおっさんも言ってるだろ? 協力するって』

 そこでマークスに振り返る。

『だよな?』


「もちろん」


『じゃ、』

 ロジャーが気密ヘルメットのヴァイザを上げた。人懐っこい笑みを見せながらマークスの肩を抱き寄せる。

「着艦デッキに持ち込んだブツ、あいつが何か教えてくれ」


「さっきも言ったが、」

 マークスは溜め息一つ、首を振りつつ繰り返す。

「私は答える権限を持ってない」


「そうか、」

 ロジャーは頬をなお緩め、

「じゃ誰も正体は知らないってわけだ」


「……何を言っとるのかね?」

 とぼけるマークスの眼に怪訝。


 ロジャーは笑みを毫も崩さず答えてみせる。

「あんたに代わって俺達がここの連中に正体を教えてやる、ってことさ」

 ロジャーの眼に不穏な光。

「あれが爆弾で、あんたらは解放されたジャーナリストを始末する算段だったって」


 マークスの眉が曇った。

「……彼らが信じるとでも?」


「あんたの言葉よりは信じるさ」

 軽い声とは裏腹に、ロジャーの眼は笑いを一切見せない。

「なんせ俺たちゃまさかの救援だぜ?」


 マークスが表情を決め損ねた、その兆しが眼に留まった。ロジャーは見逃さず駄目を押す。


「協力してくれるんなら、ゲリラが持ち込んだブツだってことにする」

 なだめて聞かせるようなロジャーの声。

「何だったらここから連れ出してやってもいいぜ?」


「……誤解するな」

 半拍遅れた声が迷いを示して耳に届く。


「肚ァくくるんなら早くしな」

 シンシアが冷たくせっつく。

「どうせネタは割れてんだ」


「この艦は連邦の資産だ。一部といえども破壊するなど……」


「ゲリラのブツじゃしようがないよなァ?」

 猫なで声でロジャーが押す。

「艦を奪回するのにやむなく処理を手伝った。なんせ監査局員だ、起爆コードくらい割り出せたって不思議じゃない。違うか?」


 柔らかく重ねるロジャーを前に、マークスが明らかに言い淀む。そこへシンシアが追い討ちをかけた。


「御託は要らねェ。やるのかやらねェのか、どっちだ?」


 口をつぐんで半秒、マークスは眼だけで頷いた。


 ◇


 “フィッシャー”の重心部近く、ブリッジのハッチにロックはかかっていなかった。フェデラー兵長はライアット・ガンの銃口を狭いブリッジへ突き込んだ。

 中で乗組員が両手を上げる。艇長と航法士、機関士の3人。有無を言わさず縛り上げ、それから一人ひとり気密ヘルメットのヴァイザを開く。そこでフェデラー兵長は問いを投げかけた。


「艇長は?」

「私だ」


 見立てた通りの人物から答えがあった。


「姓名と所属は?」

「ヴィクター・セイガー少尉。所属は空間警備隊“ハミルトン”管区第3警備部隊」


「これはこれは少尉殿」

 フェデラー兵長が慇懃無礼に敬礼を示す。

「もう階級がどうこう言える状況じゃないのは解ってますな?」


「承知の上だ」


「なら結構。あとのお2人は?」

 フェデラー兵長が矛先を変える。


「ロナルド・ニモイ曹長、航法士だ」

「ダニエル・ラッセル伍長、機関士だ」


「結構。どちらさんも普通なら俺なんか頭の上がらない上官様ってわけだ」

 さして感慨を抱いたわけでもないように、フェデラー兵長は言葉を舌で転がした。次いでセイガー少尉に向き直り、

「が、今は違う。陸戦要員と連絡をつけてもらおうか」


「言ったろう、音信不通なんだ」


 セイガー少尉は肩をすくめた。フェデラー兵長はそれを冷めた眼で見返した。


「信じられるか」


「嘘じゃない!」

 隣からニモイ曹長が口を出した。

「ちょっと前までデータ・リンクも確保できてた! あんたらがジャムったんじゃないのか!?」


「こっちのデータ・リンクをぶった切った連中だぞ。そんな言い訳でだまされるかよ」

「これで通信してるように見えるのか?」


「見せかけるだけなら何とでもなるよな」

 鼻白んでフェデラー兵長。

「違うか?」


「だったら、わざわざ縛られに呼び出したりするか」


 鼻を一つ鳴らして、フェデラー兵長は拳銃――P45コマンドーを抜いた。セイガー少尉が歯を剥く。


「どうすりゃ信じてくれるんだ?」


「無理だな。さっさと連絡をつけろ。何だったら手伝ってやってもいいぜ?」

 フェデラー兵長が片頬を歪めてみせる。

「通路に死体の一つも放り出してやりゃ嫌でも気付くだろ。あんたの部下と怪我人と、どっちがいい?」


「やるんなら俺をやれ」


 セイガー少尉が言い切った。残りの2人が息を呑む。


「いい心がけだ」

 フェデラー兵長が銃口をセイガー少尉の額に突き付けた。撃鉄を起こす硬い音。セイガー少尉が眼を閉じた。引き鉄に力。


 撃鉄が――落ちる。




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


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